CV:木村良平
映画版演:中島健人
概要
道内でも有数の進学校である新札幌中学出身。1-D組で酪農科所属。実習班はA班。
通称は「八軒」、西川からは「ハチ」と呼ばれている。
黒縁眼鏡に茶髪、制服の下はパーカーと、地味ながらそれなりにアクティブな出で立ち。
家族構成は父「数正」、母「美沙子」、兄「慎吾」の四人構成だったが、後に義姉「アレクサンドラ」、姪「麦」が増える。
少々ひねくれているが、良くも悪くも真面目でお人好し。特に真面目ぶりに関しては生真面目に全身どっぷりと漬かりきっており、物語開始当初はそれゆえのノイローゼ(後述)をも抱えていた。
農家出身の生徒たちの中では珍しく、都会育ちの一般家庭からの入学者であり、農業高校という特殊な環境において様々な事柄に煩悶としており、駒場の見立てでは「人にかまって損するタイプ」。その性格が高じて、校内でもいつの間にか「断らない男」として有名。
進学校出身とあって日々の努力は欠かさない、努力家でもあり座学においては非常に優秀。農業高校に来てからも一般進学用の学習参考書を趣味(農業実習と部活による体力仕事に対する気分転換)で読み解きしていたりする。
総合科目点数では学年トップの成績を修めているが、各科目ごとの一位は一点特化型の他の生徒たちにさらわれており、また専門の農事科目に関しても教科書で予習した内容が役に立たないことも多い(※)ため、本人曰く「釈然としない」。
その秀才ぶりからクラスメートに勉強を教えることもあり、とりわけ常盤の数学に悩まされている。
運動は苦手だが、日々の実習で体力はだいぶ付いている。
(※)農事科目の教科書に書かれている内容は、本州(特に関東)の事情や平均値を元に編纂されている事から、北海道のエゾノーでは全く役に立たないため、当日配布の独自印刷物(プリントレジュメ)によってのみ授業が進められている。なので教科書で予習しても、無意味となる。
非常に優秀な味覚をもっているらしく、食品科の三年生の稲田真一郎(スモークチキン先輩)に食品科への転属を勧められたほど。先輩は「親が食べる物に気を使ってくれたから」だと八軒に教える。
現在では起業する事を目指しており、上手い方向に誘導すれば良い仕事をする大川先輩を社長に据えた形で日々奔走している。
御影に誘われたことから軽い気持ちで馬術部に入り、馬に踏まれたり落馬したりと苦労はしているものの、徐々に魅了されていく。3年生の引退に伴って副部長を任される。
『銀の匙』の登場人物の多くは北海道の地名に由来しており、「八軒」も札幌市西区の地名。
あやめに呼び間違えられた時の「二十四軒」も同じく札幌市西区内の地名であり、しかも隣接しているという超地元民向けのネタ。
余談だが、JR八軒駅のすぐそばには競馬場がある。
入学理由
中学時代の激しい学力競争に敗れ、ノイローゼ気味になるほど自信を喪失し、夢を失っていた。また、天才型で要領も良い兄の慎吾に強いコンプレックスを持ち、成績でしか評価されていないと思い込んでいたため、家族と距離を置くようになり、エゾノーに入ったのも担任だった白石先生の勧めと「寮があるから(家に居るのが嫌)」。
高校入学当初は勉強でトップを張ることを目標としていたが、農業の荒波に揉まれていくうちに「本当にやりたいこと」を意識していくようになる。
家族との関係は相変わらず思わしくないようで(本人曰く、気持ちが通じない母と常識が通じない父と話が通じない兄)、エゾノー入学後も滅多に実家に帰省せず寮生活を続けていた。
最終的な進路
一年途中、株式会社「GINSAJI」を馬術部の大川先輩を社長にし、自らを副社長として立ち上げた。
会社運営のため、大学は行かない、と三年途中まで決めていたが……
以下、ネタバレあり
大川先輩の社長命令で、食品管理者の資格を取るため、三年にて大蝦夷畜産農業大学の畜産科学科を受験することを決意。
幸運?にもセンター試験は家庭教師をやっている兄のバイトで受けていたので、その後一般にて試験を受け、見事合格。
最終話では、駒場一郎とビジネス提携を結ぶため、ロシアのアムール地方に飛んでいった。
ご先祖様
東日本大震災の被災者支援を目的として、細野不二彦の呼びかけで発売されたチャリティーコミック「3.11を忘れないために ヒーローズ・カムバック」に「銀の匙 特別番外編」が寄稿された。
この特別番外編は明治時代を舞台としており、八軒の”ひいひいおじいさん”にあたる青年が登場した。
青年は相馬の生まれで地元小作農の子であったが「断らない男」の性質がたたり、地元の苦境に義憤耐えかね地元の実力者といさかいになった結果、世直し一揆の首謀者(=公的な施設の破壊や地元実力者の暗殺を企図・指図したテロリスト)という冤罪を着せられ北海道の監獄へと収監されるに至った男であった。
青年は、のち苦役に耐え兼ねて脱獄。逃げ延びた先で開拓民たちによる開墾村に迷い込み、明治政府によって会津から追いやられて落ち延びた八軒家の娘(ちなみに、この娘さんは八軒の父にそっくりである)にかくまわれる。青年は開拓民たちとともに理不尽と戦い生きていき、八軒家に婿入りして名を変え明治政府からの追求も逃れて生き延びた。
ちなみに、青年は相馬野馬追の名手であったという。
と、いうわけで、この番外編の登場により、八軒の「断らない男」ぶりも、馬乗りの素質も紛れもない血筋である事が確定してしまった。
この”ひいひいおじいさん”の話を聞いた小学生の八軒は「ぼくに農業は無理だと思いました」と感想を述べている……が、その結果は上述の通りとなった。
ちなみに作者である荒川弘の先祖も公害事件と戦い、北海道に逃れた人だったという。