概要
「皇帝」は君主の称号の一つで、西洋における君主号「エンペラー」(emperor)や「キング・オブ・キングス」(king of kings)などの訳語としても用いられている。
皇帝の同義語は帝王、帝爵など。皇帝の政治体制は皇帝制、帝制、帝政などという。
各国語の「皇帝」
- ラテン語:Imperator
- 英語:emperor / king of kings / the King
- ドイツ語:Kaiser
- ロシア語:император
- ギリシア語:Βασιλευς
- トルコ語:İmparator
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漢字文化圏の「皇帝」
以後、中国王朝の最高の君主号として、清の第12代宣統帝が1912年に辛亥革命に伴い退位(但し1921年までは紫禁城内で皇帝として振る舞う)するまで継続した。
以後も袁世凱らが皇帝たるを宣言したことがあるが、中国では実質的な王朝とはみなされていない。
名称の由来は中国神話の三皇五帝(さんこう・ごてい)の天帝の称号「皇」と世界の支配者「帝」を始皇帝が合体させたもの(始皇帝に即位する前は秦の王だった)。
しかも始皇帝は三皇五帝(神)よりも尊い存在だと公言した。法治国家の秦であったが、皇帝本人だけは唯一法に束縛されず好きなように行動することが許されるとみなされていた。
秦が短期間で滅亡し、代わった漢以降は「君主すら守るべき道がある」等とする儒教の勢力拡大で、むしろ皇帝の行動は厳しく儒教経典や慣習によって縛られることになった。
とはいえ皇帝の命令(勅命)は絶対で、これに逆らう者はそれだけで死刑に値した(違勅の輩)。
法律もまた皇帝の意向で自由に改変できた。実務を担当する高級官僚たちは皇帝の一存で庶民や奴隷から出世させることも、また一存でクビにするのも自由である。だが一方で皇帝である自分の権威は絶対であるため皇帝自身であっても基本的に撤回できないとされ、近代の独裁者のようにその時の気分や思いつきで命令を下した例は少ないとされる。これを一度吹き出た汗を引っ込められないことに例えて「綸言汗の如し」と言うが、酒乱の気があった呉の孫権が宴席で下した命令は無効とする取り決めを予めしていた例もある。また、王朝が動揺・衰退期に入ると皇帝の実権は衰え、有力な臣下から廃立されることや禅譲に追い込まれることも多くある。
さらに皇帝は周王朝で成立した天子概念をも引き継いでいる。天子とは天の最高神である天帝の代理人であり、地上の全てを支配する正統性を持った存在を指す。
このような経緯から世界の民は全て皇帝の臣下であり、諸国の王もまた皇帝の臣下であるという観念が漢民族に流布した。これが中華思想である。
皇帝が全世界の支配者である以上、万国は臣下として挨拶をしに来なければならず(朝貢という)、対等の外交などあり得ないとするわけだ。
当然、力を伴わなければこのような姿勢は他国から認められない。歴代のなかでも軍事的には弱小だった宋王朝の場合、異民族の遼(契丹)・金王朝と交戦し敗北した後には「兄弟」・「叔姪」の関係として実質的には対等(あるいは下)の関係を受け入れることになった(そして最終的にはモンゴル系の元に征服される)。
しかし、明王朝がモンゴルの皇帝らを北に追って以降は再度中華思想が復活し、清が滅亡するまでこの態度が変わる事はなかった(ただし、ロシアとの対等条約締結や欧米諸国や日本からの外交官の立礼を許すなど、末期にはすでに綻びが明らかにはなっていた)。
易姓革命
皇帝が上記のような絶対最高の地位であるということから、逆に全ての中心である皇帝の治世で起こったこと(天災地変、飢饉、悪政など)は全て皇帝の責任であるともされる。
「それなら皇帝に責任を取らせて退ければいいじゃない」
ということで、王朝交代の名目とされることも多い。中国の皇帝はそれぞれの姓を持つため、王朝が交代した場合は皇帝の姓が変わることになることから「易姓(=姓を変える)革命(=天の命令を改める)」と言われる。
訳語としての「皇帝」
漢字文化圏以外の君主号に対する訳語として「皇帝」を用いることが多いが、そもそもの概念の成立経緯が違う為に実態には大きな違いがある。元は東洋同様の区別をした結果、王国と帝国で外交対応に格差があることが判明し、どこぞの王国が激怒したのが理由ともされている。
加えて、1910年に日韓併合が行われた際、韓国皇族への身分保障として彼らに「王公族」の称号が与えられたことも影響している。この際、旧韓国皇帝に「王」、皇太子に「王世子」、その他の皇族に「公」と名を与えたため、いっそう海外王族との区別が不明瞭になった。彼ら王公族はあくまで日本の高位貴族の一種と見做されたため、独立していた海外君主を猶更「皇帝」として扱わざるを得なくなったのである。1973年頃の官報まではこの制度が残存していた。
現代では「emperor」号は、一神教の神(唯一神)の称号として使われたり、イスラム圏の「スルタン」や日本の「天皇」の訳語として使われたりしている。(スルタンは「sultan」、天皇は「tenno」と、音声をそのままローマ字で表記して訳すこともある。)
一神教では、「唯一の神」が世界で「唯一の皇帝」である、ということになっている。ただし、唯一神やスルタンを「emperor」と訳さない・認めない場合、”過去にイラン帝国とエチオピア帝国が消滅したので「emperor」号を有するのは日本のみとなった”、などと言われることもある。
一般的に「皇帝」と訳される称号
- ローマ皇帝(インペラートル/カエサル/プリンケプス)
- エンペラー/カイザー/ツァーリ(ツァー)
- いずれもローマ皇帝に由来する称号であり、それぞれ英語、ドイツ語、ロシア語。
- エンペラーは将軍を意味するインペラートルに由来。
- カイザーとツァーは独裁官ガイウス・ユリウス・カエサル及びその養子で初代皇帝のアウグストゥスの家名カエサルに由来。基本的に自国がローマ帝国の後継であることを誇示する意味合いがあり、特に神聖ローマ帝国でその意味合いが強かった。
- しかし後にナポレオンが皇帝に即位した以後、ヨーロッパ(およびその影響が強かった中南米)には皇帝が乱立しこの意味合いは薄れた。現時点の欧州では、これらの称号を名乗る政治家はいない。
- ロシア帝国主義の復活と共に、ウラジーミル・プーチンなどの政治家を皇帝(ツァーリ)に据えようとする運動が盛り上がりつつある。(詳細は「プーチン氏が「皇帝」に? 信奉者は王政復古を望む」など)
- キング
- ヨーロッパ諸国の称号。「王」「君主」「国王」「帝王」などの漢字に訳されることが多いが、「皇帝」と訳されることもある。
- とりわけ、頭文字の“k”を大文字の“K”にした「ザ・キング」(“the King”)は特別なニュアンスが込められており、その訳語は「唯一神」「王の中の王」「皇帝」など。「王 - Wikipedia」も参照。
- 究極的な語源は不明だが、後期古英語“cyning”によりキングの語源は「人々の指導者」(“leader of the people”)か、または「高貴な生まれの子孫」(“one who descended from noble birth”)、「神聖種族の子孫」(“the descendant of a divine race”)であると考えられている。(出典:『オンライン語源辞典』)
- キング・オブ・キングス
- ヨーロッパ諸国とアメリカの称号。「王の中の王」「唯一神」「皇帝」と訳されることが多い。「ザ・キング」(“the King”)とほぼ同様の意味。
- ただし厳密には、「キング・オブ・キングス」の語源は複数あると言語学で考えられており、例えばイスラム圏の「シャー・ハン・シャー」(王の中の王)が挙げられている。
- スルタン/サルタン
皇帝タグのつく人物・キャラクター
現代では一般的に、「皇帝」を指すカイザー(kaiser)という語には「独裁者」という意味が含まれており、スルタン(sultan)も「皇帝」と同時に「絶対君主、暴君」などの意味を持っている。また「インペリアル」(imperial)という形容詞は、「帝国の」「皇帝の」といった意味と、「植民地[属国]支配の」「傲慢(ごうまん)な,尊大な」といった意味を併せ持っている。
近代以降は架空の「皇帝」であっても、「武力で国を統一した者」または、圧政を布く暴君として描かれることがある。皇帝を悪として扱う傾向はSFで特に強いが、象徴君主を持つ日本やイギリスなどでは名君としての皇帝を描く試みもある(星界シリーズなど)。
伝承・宗教での「皇帝」
- 唯一神
- 一神教では、唯一の神が世界で唯一の皇帝であると信じられている。(英語では「唯一神」は"one God", "sole God"などで、「唯一の皇帝」は"one Emperor", "sole Emperor"など。) ほとんどはユダヤ教、キリスト教、イスラム教がその例。同義語は「唯一皇帝」、「真の皇帝」(true Emperor)、「全人類の皇帝」(Emperor of all mankind)、「王の中の王」(king of kings; lord of lords)」など。
- 「諸王の王」、「王中の王」、「王の王」、「キング・オブ・キングス」、「ロード・オブ・ローズ」という表記もされる。
- 原則的に、一神教は唯一神以外の皇帝(emperor)を認めず、認める場合でも、唯一神を人間の皇帝より上位の皇帝として位置づけている。
- 悪魔
- 一神教圏では、悪魔的な支配者や絶対権力者を「皇帝」と呼ぶことがある。これは聖書や信仰告白だけでなく、文芸作品、悪魔学、グリモワール(魔導書)等でも同様。
- 『新約聖書』の中の「ヨハネの黙示録」では、多神教皇帝(ネロ)の象徴は「666」。この数字は悪魔・異端者・偽預言者・アンチキリスト――反救世主――等を指すのに使われている[出典]。「《ヨハネの黙示録》は皇帝を象徴的に悪魔化し,帝国の滅亡が近いことを予告して信徒を激励する」、と『世界大百科事典』にある。
- ダンテ・アリギエーリ作『神曲』「地獄篇」では、サタンが「皇帝」と呼ばれている。「ルチフェロ(ルシファー)」と「ベルゼブ(ベルゼブブ)」はサタンの別名という扱い。
- 『神曲』原文のトスカーナ語では、サタンは「(ェ)ンペラドール 'mperador」と呼ばれており、英訳では「エンペラー emperor」。厳密には「悲痛な王国の皇帝」(Lo 'mperador del doloroso regno)と書かれている。
- 『大奥義書(グラン・グリモワール)』ではルシファーが皇帝で、君主ベルゼビュート(ベルゼブブ)、大公爵アスタロトと並び立つ形となっている。
- コラン・ド・プランシー著『地獄の辞典』ではベルゼビュートが皇帝で、サタンは野党の党首、ルシファーは司法部門の大判官となっている。
歴史学・現代社会での皇帝
中国
- 三国時代の皇帝
日本
ヨーロッパ
など。
他諸国
- ジョシュア・ノートン
- アメリカ帝国…ならぬアメリカ合衆国の歴史上唯一「皇帝」を称する。
架空の皇帝
アニメ・漫画・小説
田中芳樹のSF小説「銀河英雄伝説」の登場人物で銀河帝国側の主人公。旧姓ミューゼル。軍功を重ねてゴールデンバウム王朝で元帥となり、門閥貴族連合を一掃し、フェザーンを制圧し、自由惑星同盟を無力化して、自ら帝冠を頭上に頂き、宇宙暦799年、新銀河帝国皇帝となりローエングラム王朝を開いた。
『コードギアス反逆のルルーシュ』の主人公で、紆余曲折を経て神聖ブリタニア帝国99代皇帝となる。
即位時のフルネームは「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」。
『コードギアス 反逆のルルーシュ』の登場人物で神聖ブリタニア帝国皇帝。
主人公ルル-シュの実父で、彼がルルーシュとナナリーを棄てたことから物語は始まる。
『銀河戦士バルロイ』の登場人物……もとい、『宇宙戦士バルディオス』の登場人物。S-1星皇帝。放射能に汚染されたS-1星の現状を憂いたガットラーのクーデターによって、アフロディアに射殺されてしまうというチョイ役だったのだが、ふたば☆ちゃんねるの二次裏板(虹裏)に「お前達、もう寝なさい」の台詞と共に掲載され、「誰このジジイ」というレスが付き一気に知名度が上昇。以後、「陛下」として親しまれている。
ゲーム
『FINAL FANTASY Ⅱ』のラスボスで、世界征服を企むパラメキア帝国の支配者。ゲームボーイアドバンス版以降のリメイクで追加されたシナリオ「Soul of Re·birth」では、「善の皇帝」と呼ばれる隠しボスが登場する。
- バレンヌ皇帝
『ロマンシングサガ2』のバレンヌ帝国の君主で、七英雄を倒して太平の世を築くべく世界各地を駆け巡る。プレイヤーキャラでもあり作中期間が幾世代にもまたがるので、複数が該当する。(画像は最終皇帝)
『ドラゴンクエストⅨ』に登場した敵キャラクターでガナン帝国/魔帝国ガナンの皇帝。なお、ドラゴンクエストシリーズで"皇帝"の名前が登場したのはこれが初(デッドエンペラーなどエンペラー名がつく敵は他にも登場している。)。
フリーの戦略SLG「LostTechnology」に登場するキャラクター。プレイヤー勢力の一つ、独裁軍事国家「ライナルト帝国」の皇帝。
- 皇帝
イギリスのミニチュアゲーム「WARHAMMER40K」のキャラクター。
<人類の皇帝>(Emperor of mankind)とも呼ばれる。銀河全域に範図を広げる人類の<帝国(インペリウム)>の支配者。その出自や本名など謎多き人物であるが、神のごとき全能の力とカリスマによって戦乱と荒廃の中にあった地球を統一し<帝国>を創始、分断されていたかつての人類の領土を回復し人類の黄金時代を築いた。
現在は帝国を二分する内乱<ホルスの大逆>で受けた傷によって重体となり、太古の生命維持装置に繋がれ辛うじて命を保っている。生ける屍となりながらも、その精神は未だ生き続け銀河と<帝国>を見守っているという。
強大な戦士でもあり、スペースマリーンやグレイナイト、カストーディアンガードなど、皇帝の遺伝子を元に産み出された超人兵士は数多い。(ただしスペースマリーンのみ、皇帝から直接ではなく、その遺伝種子から生まれた総主長たちの遺伝種子を用い創造されている。)
特撮・映画
「海賊戦隊ゴーカイジャー」に登場する敵キャラで宇宙帝国ザンギャックの支配者。
「烈車戦隊トッキュウジャー」に登場する敵キャラでシャドーラインの支配者。闇の烈車クライナーを使って自らの勢力圏となる闇の駅を増やし、最終的に降臨させようとしている。
「超光戦士シャンゼリオン」に登場するライバルキャラでその正体はダークザイド幹部・暗黒騎士ガウザー。終盤で東京を独立させて『東京国』の皇帝となったが…。
映画「STARWARS」に登場するキャラクターでまたの名をダース・シディアス。太古の時代に滅び去ったとされていた悪の宗教シスの精神を受け継ぐシスの暗黒卿であり、プリクエル・トリロジーとオリジナル・トリロジーにおける黒幕でシークエル・トリロジーでは最終章に登場した。
他ジャンル
通称で「皇帝」と呼ばれる人物・キャラクター
一般関連
- フランツ・ベッケンバウアー
- 元サッカードイツ代表DF。選手・監督双方でワールドカップ優勝を果たした世界を代表するプレイヤーの一人。神聖ローマ帝国皇帝フランツ2世と同じファーストネームであることから、「皇帝(der Kaiser)」と呼ばれた。
- エメリヤーエンコ・ヒョードル
- ロシアの元総合格闘家でPRIDE王者時代から2010年に敗れるまで10年間無敗という記録を作り、メディアからも「総合格闘技界最強」と評価され「氷の皇帝」と呼ばれる。
創作関連
- カール・ハインツ・シュナイダー
- キャプテン翼のキャラクター。作中随一の得点能力を持つドイツ代表の絶対的エースで、「ドイツの若き皇帝」「ミスターヨーロッパ」と呼ばれている。
- 皇帝(エンペラー)
- 『ジョジョの奇妙な冒険』第三部「スターダストクルセイダーズ」の登場人物、ホル・ホースのスタンド名。拳銃の形をしたスタンド。
- シンボリルドルフ(ウマ娘)
- メディアミックスプロジェクト『ウマ娘プリティーダービー』に登場するキャラクター「ウマ娘」の一人で、トレセン学園の生徒会長。先述したシンボリルドルフ号をモチーフとしており、モチーフ元同様「皇帝」の異名を持つ。
ほか、該当する人物、キャラクターがいれば加筆をお願いします。
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