概要
辞典の形式で悪魔学・オカルトや占い・おまじない・迷信・俗信等についての情報を網羅したもの。1818年に初版が刊行された。
その後改版が重ねられ、最終版は1863年刊行の第6版である。第2版を刊行した後に著者がカトリックに改宗しており、初版と2版にはあったカトリック教会に対しての批判的な記述が3版以降は改められている。
プランシーはそれぞれの分野の専門家ではなく、記述内容には誤りがあるとされる。イギリスの美術史家フレッド・ゲティングズからは参照元の文献の内容を変えてしまっていると指摘されている。
第6版でルイス・ル・ブルトン(Louis Le Breton)による挿絵が追加された。キャッチーで印象的な筆致で捉えられたデザインは後世の創作文化にも大きな影響を与えた。
でかい蝿そのものとして描かれたベルゼブブは有名。見た目のキャラ被りが多いゴエティアのデーモンたち(ソロモン72柱)も巧みにキャラ立ちさせている。
地獄の帝国
地獄の宮廷(Cour infernale)
本書によると、サタンはもはや地獄の最高位ではないという。役職名はフランス王室の家臣からもとられている。
君主と要人(Princes et grands dignitaires)
- ベルゼビュート(ベルゼブブ):地獄の最高元首。ハエ騎士団(l’ordre de la Mouche)の創設者。「地獄の君主制」の項目では皇帝と呼ばれる。
- サタン:野党の党首。
- エウリノーム:死の君主。ハエ騎士団の指揮官(commandeur)。
- モロク:涙の国の君主。(「ハエ」が頭につかない)騎士団の指揮官。
- プルトン:火の君主。
- レオナール:サバトの大いなる主人。ハエ騎士。
- バールベリト:諸同盟の主人。
- プロセルピナ:大女悪魔(archidiablesse)、邪悪な精霊たちの主権者たる君主。
大臣たち(Ministères)
- アドラメレク:大法官(grand chancelier)、ハエ騎士団の指揮官。
- アスタロト:大主計(grand trésorier)。
- ネルガル:秘密警察の長官。
- バアル:地獄軍の総大将(général en chef)、ハエ騎士団の指揮官。
- レヴィヤタン:大提督(grand amiral)、ハエ騎士。
大使たち(Ambassadeurs)
など。
※1旧約聖書『列王記下』5章18節で言及されるシリアの異教神からとられている。
司法(Justice)関係者
君主府(Maison des princes)
- ウェルドレト:式部官(maître des cérémonies)。
- スコル=ベノト:宦官長。
- カモス(Chamos)※1:王室侍従長(Grand chambellan)。ハエ騎士。
- メルコム(Melchom)※2:支出会計官(trésorier payeur)。地獄の公務員の給与支払い係。
- ニスロク:厨房長。元々はアッシリアで信仰されていた農業の神だったと言う説がある。
- ベヘモス:大献酌官(grand échanson)。
- ダゴン:グラン・パネティエ(Grand panetier、王室でパン等の食物を振る舞う料理人)。
- ミュリン(Mullin)※3:寝室部第一扈従官(premier valet de chambre)。
※1、シャルル・ベルビギエ(Charles Berbiguier)の著作から引用された悪魔だが『地獄の辞典』の他の箇所では触れられていない。旧約聖書『民数記』21章29節、『士師記』11章24節、『列王紀』上巻11章、下巻23章13節、『エレミヤ書』48章に言及されるモアブ人の神ケモシ(Chemosh)が原型とする解釈もある。
※2、旧約聖書『列王記』の上巻11章や下巻23章13節、『エレミヤ書』49章、『ゼパニヤ書』1章で言及されるアンモン人の神ミルコム(Milcom)が原型と思われる。
※3、アイルランド系の姓に同じ綴りのマリン(Mullin)があるが、レオナールやナアマのような「人名と同じ名の悪魔」のパターンかは不明。
「小さな喜び」(Menus-Plaisirs)
フランス王室お抱えの「Menus-Plaisirs du Roi(王の小さな喜び)」という式典や行事、祭事を司り、イベントデザインや会場の設計、企画や進行を一手に担当する部門がモデルと思われる。
- コバル(Kobal)※1:諸芸能の担当部長(directeur des spectacles)。
- アスモデ:遊技場(maisons de jeu)の監督役。
- ニバス:道化師長(grand paradiste、paradisteはパレードが語源)。
- アンチキリスト(Antéchrist):手品師、降霊術師。
※1コバル(Kobal)は『地獄の辞典』の他の箇所でも触れられておらず詳細は不明である。
地獄の君主制(Monarchie infernale)
ゼパル、シトリー、ビメ、ベリト、アスタロス、ウェパル、ガックス(Ghax)※1、プリケル(Pricel)※2、ムルムル、フォカロル、ゴモリー、アムドゥシアス、アイム、オロバス、ヴァプラ、ハウロス(Hauros)※3、アロケル
- 侯爵:アーモン、ロレイ、ナベルス、フォルネウス、ロネヴェ、マルコシアス、サブナック、ガミジン、アリアス(Arias)※1、アンドラス、アンドロアルフス、キメリエス、フェニックス
- 伯爵:バルバトス、ボティス、モラクス、イペス、フールフール、レイム、ハルファス、ヴィネ、デカラビア、 ザルコス(Zalcos)※1
- 総裁:マルバス、ブエル、グラシャラボラス、フォルカス、マルファス、ガープ、カイム、ヴォラク、オゼ、アミー、ハーゲンティ
- 騎士:フルカス、ビフロンスなど
※1ザパン(Zapan)、ガックス(Ghax)、アリアス(Arias)、ザルコス(Zalcos)については『地獄の辞典』の他の所にも記述がなく詳細は不明である。前者3人については一文字違いのザガン(Zagan)、シャックス(Shax)、オリアス(Orias)が存在し爵位も一致する。ただしオリアス以外は『地獄の辞典』では用いられていない表記である。
※2クロセルの異称プロケル(Procell)の事か。本書における項目プケル(Pucel)の箇所にも記載がない。
※3フラウロスの異称(Haures、Hauras、Havres)に関連か。これらの異称は1904年刊行のアレイスター・クロウリーとマクレガー・メイザース版『ソロモンの小さな鍵』に見られるもので時代的にプランシーには確認できない。少なくとも別ルートの資料で知ったことになる。本書におけるフラウロスの項目に記述なし。
地獄の君主制は、それぞれ6666人の悪魔が所属する6666つの軍団(légion)から構成される。
つまり、君主制を構成する悪魔の総人数は4443万5556人。そのうち446万3566人が戦闘員だという。
これらの悪魔は更に、配下である集団(bande)を保有している。
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