名前
名前はヘブライ語で「楽しみ」「喜ばしい」を意味する。
悪魔ナアマは聖書に登場しないが、聖書には二人登場する(『創世記』に登場するカインの子孫でトバルカインの妹とソロモン王の妻。何かこっちのナアマさんは「レハブアムの母」で「アンモンびと」とか詳しい)。
人名と同じ名前を持つという点で西洋の伝説に登場するレオナール(レオナルド)と共通している。
地名(アラビア北部の辺)と、そこ出身と思われる「ナアマびと」も登場する。
ヘブライの伝承では、ノアの妻もこの名とされる。
ナヘマー(Nahemah)という名でも知られる。
概要
ラファエル・パタイ著『ヘブライの女神(The Hebrew Goddess)』(1967年にウェイン州立大学出版局より刊行)が引用するタルムードの記述によると、シンバルの演奏を使って男性を誘惑した女性として登場している。
彼女はシャムドン(Shamdon)あるいはシャムロン(Shomron)という天使のあいだに悪魔アスモデウスをもうけたという。
ここではナアマ自身は悪魔と明言されておらず、『創世記』のナアマとも解釈できる形になっている。
西洋でユダヤ人魔術師に仮託して書かれた『術士アブラメリンの聖なる魔術の書』ではナアマは『創世記』で兄として記されるトバルカインと近親相姦し、アスモデウスが生まれたとする。
ユダヤ教神秘主義カバラの典籍『ゾーハル』に記された伝説では明確に超常的存在(悪魔)として登場する。
本書によると、カインによる弟アベルの殺害のあと、イブのもとを離れたアダムにリリスと共に近づき、悪魔の子らをもうけた。
イスラエル国立図書館のブログ記事によると、とあるミドラーシュ(聖書注解)の記載では、人間としてのナアマは『創世記』6章に登場する「神の子ら」(後述のグリゴリ伝承の元になったが、生身の人間達とも解釈される)との間にネフィリムをもうけることになった「人の娘」の一人だという。ビザンティン時代のアラム語のお守りには「ベン・ナアマ」についての記述)がある。ここでの「ベン」が「子・息子」の意なら、リリスの子を指すリリム(リリン)に対応する語と言えるかも知れない。
リリスとナアマは人間の子供達に癇癪を引き起こさせるとされている。
『ゾーハル』の別の部分に書かれたエピソードではオウザ(グリゴリの一員セムヤザの別名)とアザゼルを堕落させている。
彼女は他の悪魔をも惹き付け、悪魔の王であるアフリラ(Afrira)とカスティモン(Qastimon)に毎晩追いかけられているという。
『ヘブライの女神』での引用では人の子らをからかい、夢を通して男性と交わるという淫魔的特徴が現れている。
彼女はこれで妊娠するといい、彼女が人間の男性とのあいだにもうけた子らは今度は人間の女性のもとに赴き、両者の間に精霊たちが生まれるという。
精を人間男性から採取し、インキュバスを介して人間女性を妊娠させる西洋のサキュバスとは異なる生殖形態と言える。
『ゾーハル』以外のカバラ文献にも言及があり、バヤ・ベン・アシェル(Bahya ben Asher)の記述では、堕天使サマエルの妻の一人とされ、他にリリス、アグラト・バト・マラト、エイシェト・ゼヌニムが挙げられている。
パタイ著『ヘブライの女神』では、アブラハムの孫エサウはこれを真似て自分も四人の妻と結婚したという話が記されている。
エサウが登場する『創世記』で言及される妻はヘト人エロンの娘アダ、ヒビ人ツィブオンの娘オホリバマ、イシュマエルの娘バセマトの三人。『ヘブライの女神』ではもうアグラトの母であるマラトもエサウの妻になったとあり、これで合計4人となる。
クリフォトでのナアマ(ナへマー)
西洋において、カバラとヘルメス主義とが融合したヘルメティック・カバラ(Hermetic Qabalah)が生まれた。
20世紀のヘルメティック・カバリストで近代西洋儀式魔術の担い手の一人ウィリアム・G・グレイ(William G. Gray)の著作『邪悪の樹(The Tree of Evil)』においてナアマは「ナへマー(Nahemah)」表記で記される。本書において、セフィロトと対なるクリフォトにおいてセフィロト側の「セフィラ」に相当する原理の一つとして設定されたキムラヌート(Qimranut、物質主義)に対応する悪魔とされた。
創作での扱い
リリスをリーダーにした悪魔集団「カディシュトゥ」の一員として登場。なお、彼女の登場によってクリフォトに対応する悪魔は全て女神転生シリーズに登場したこととなった。