メソポタミアにおいてのダガン(この節ではアッカド語名であるダガンと記述)
(画像はダガンではなく7賢人アプカルの内の1人、オアンネス)
概要
ダガンは紀元前(B.C.)3000年紀〜2000年紀前半に、ユーフラテス川中流域で信仰された神で、元はその地域での最高神、テルカやマリ等の都市に神殿があったことが知られている。
シュメルのパンテオンには初期に組み込まれ、エンリルの従者とされたり、シャラ女神の夫(異なる伝承ではイシュハラ女神)とされたりしたが、メソポタミア南部の地域ではダガンの名が現れることは稀で、ウル第3王朝時代(B.C.2112〜2004)の都市プズリシュ・ダガンの名や、イシン市関連の文書など一部に限られる。
ダガンの起源
シュメルの伝承の中にダガンを鋤の発明者とするものがあるが、現在ダガンの起源や名前の意味、属性について定まった説はない。
後にダガンを魚の神とする伝承が現れるが、これらは誤りである。
ダガン信仰
特にアッカド王朝においては重要な神で、初代王サルゴン(B.C.2334〜2279)はダガンにより「上の国(マリ、エブラ〜杉の森、銀の山)」を与えられたと述べ、4代王ナラム・シン(B.C.2155〜2119)も西方への遠征の成功をダガンの加護に帰した他に、公的な祭儀や民間信仰でも重要な神で、人名にもよく使われた。
他にはハンムラビ王(B.C.1792〜1750)がハンムラビ法典序文中でダガンを自身の生みの親として、マリ等の征服をその命令としたり、アッシリア王シャムシ・アダド1世(B.C.1813〜1781)は自らを「ダガンの信奉者」と称し、テルカに神殿「エキシガ:(葬儀の)供物の家の意」を建築。
同じくアッシリアの伝承では冥界において、ネルガルやミシャルとともに死者に裁きを下す神として描かれている。
2000年紀後半にダガン信仰はエマル市を通じてウガリットに流入、1000年紀初めにはペリシテ人の地(パレスチナ南部)ではダゴンとして信仰された。
参考文献
- 「古代オリエント事典」日本オリエント学会編:岩波書店
- 「図説 古代オリエント事典 大英博物館版」:東洋書林
- 「原典訳 ハンムラビ「法典」」中田一郎訳:LITHON
- 「Gods Demons and Symbols of Ancient Mesopotamia」 J.Black,A.Green著:University Texas Press
ウガリットにおいてのダゴン
ウガリット神話では豊穣神バアルの父で、最高神エル(イルウ)に次ぐ第二位の神とされた。
その神性は穀物神、海神であったとされ、魚の尾または頭を持つ姿で、語源はヘブライ語の『dag(魚)』と『aon(偶像)』から、もしくはウガリット語の『dgn(穀物)』に由来するとされるが、穀物神の属性は、前1500年頃までにはバアルに奪われていたようである。
広い地域で信仰されたダゴンは、「旧約聖書」においてペリシテ人の崇める異教の神として言及されている。
士師記16章では、士師サムソンを捕えた祝いとしてペリシテ人がダゴンに生贄を捧げる場面がある。そしてダゴン神殿で見せ物にされたサムソンは最後の力で神殿を崩落させ3000人のペリシテ人を殺している。
サムエル記(上)6章では、エベン・ベゼルの戦いで勝利したペリシテ人がイスラエル人から契約の箱(聖櫃)を戦利品として奪い、都市アシュドドのダゴン神殿の中に運び入れた。翌朝、ダゴン像が箱の前に倒れこんでいるのをアシュドドの人が発見した。さらに一夜が明けると、戻したはずのダゴン像が倒れ、切り離された両手と頭が神殿の敷居に転がっていた。直後にヤハウェの災いが都市を席巻して人々に腫れ物をもたらしたという。
悪魔としてのダゴン
中世の悪魔学ではダゴンを第二階級の魔神とし、地獄宮廷のパン製造と・管理を司る存在とみなしたとされ、またフランスのオーソンヌの悪魔憑き事件では、修道女の一人がダゴンの名を口にしている。
ジョン・ミルトンの「失楽園」でも堕天使の一人として登場するが、他の堕天使と同じく聖書の異教神として解説されている。
クトゥルフ神話でのダゴン
専用の記事はこちら
神性の一つとされている。巨大な手足を持つ魚のような姿とされる。
漫画版『カルドセプト』のダゴンさま
どうしてこうなった。だがそれがいい。
漫画版の舞台の世界リュエードにおいて、かつて破壊神バルテアスが創りだしたアンチクリーチャーの内、水属性の王として生まれた種族「ダゴン」達の生き残り。
クリーチャーカードでありながら自立した意思を持ち、かつては海を自由に泳ぎながら人の乗る船を襲っては魔力を補充し生き延びていたが、主人公ナジャランの師匠ホロビッツとその仲間と戦ったのち、ホロビッツ達と契約、セプター達が集うエンダネス島のセプターズギルドマスターとなる。
人前に現れる姿は人間の少女のようだが、それは化身の一部であり、本体は島ひとつを浮かべることができるほど圧倒的に巨大な水生生物である。
少女姿の化身も腕がタコのような触手だったり、ギザ歯だったり、アップの際は瞳の瞳孔が水生生物のそれだったりと、異質な姿をしている。
王と言われるだけあり、海の上ではほぼ無敵の強さを誇り、海竜リヴァイアサンの群れも一瞬で壊滅せしめ、かつて群れを組んでいたときは大陸1つを沈めたという、まさに怪物。
物語中でも最高クラスの強さを持っている。
強大な力と長く生きてきたことから性格は不遜。基本的に人間を魔力を吸い上げるための餌程度の弱い生き物としか見ていない。
但し、長年の付き合いを持つ内に愛着は湧いているようで、「楽しい存在」として契約を破棄せず付き合っている。
アンチクリーチャーとしては変わり者であるらしく、世界を一度滅ぼすために作られたはずだが、支配されることを嫌い、ただ大海を自由に泳いで生きることを望んでいる。
そんな性格のためか、不遜な態度に混じって少女らしい無邪気さが見て取れる。
漫画版のオリジナルキャラクターながら、傲岸不遜な性格のわりに可愛い少女の外見と振る舞いからか、グーグルにて「ダゴンさま」で画像検索すると本家よりもヒットしてしまうくらい人気があったりする。
ちなみにゲーム版のダゴンは前述のクトルゥフの物に近く、ただの怪物である。
……というか名前の響きからかデカいタコの姿をしている。
とはいえ四王の一角なので実力はすさまじく高い。全クリーチャー最強のHPを誇り、全ての水クリーチャーを対象としたHP強化の応援など豪勢な能力を多数保持している。
その分召喚条件も厳しく、使い勝手はあまり良くない。その高いHPから「援護に使用したクリーチャーのHPを吸収して成長する」能力を持つスライム型クリーチャー、ブラッドプリンの餌にされている姿もよく見かける(通称蛸プリン)。不埒な輩は前述の漫画版ダゴンがプリンに食われている姿を想像するとか……
『真・女神転生』のダゴン
参考資料などでは古代メソポタミア、アッカド神話における神としてのダゴンという記述があるが種族は魔王でクトゥルフの様な四本の腕を持った魚類の姿をした悪魔の姿をしている。
『Fate/GrandOrder』のダゴン
イベント『水怪クライシス〜無垢なる者たちの浮島〜』の黒幕。
詳細は歪神ダゴンの記事へ
ドラゴンクエストシリーズのダゴン
エレフローパー系のモンスター。おそらくタコのダゴンのイメージの元凶。
関連タグ
メソポタミア神話/ウガリット神話 クトゥルフ神話 クトゥルフ
※カルドセプトのダゴンさま用