アナト(Anat)はウガリット(ウガリト)神話、及びエジプト神話に登場する女神。
ウガリット神話の女神アナト
愛と戦争の女神。その容姿はウガリットの伝説的な王ケレトの物語において、女性の美しさを表す場面に引用されるほどに美しいと神話中で描写される。
主神エルの娘にあたり、また妻としてアシェラトと共に明けの明星と宵の明星を産む場面が存在する。時代が降ると、雷雨の神バアルの妹にして妻という地位につく。
バアル神話におけるアナトは、若き英雄神として混沌の勢力と王権をめぐって戦い続けるバアルを激励、擁護し、時に冷静に諌める良き補佐者として立ち回る。
アナトの特徴としては、その激しい気性が挙げられる。
顕著な例としては、
- バアルが海神ヤムを撃破したことを祝うために晩餐を催すが、強い殺意に襲われてその場にいた兵士たちを皆殺しにして腰にも届く血の海の中で歓喜に浸った。
- バアルの神殿(家)を建てさせるため、父であるエルに彼の髪や髭を血で塗りたくると脅す。
- 死神モトに殺されたバアルの亡骸を見つけると、嘆き悲しみながらも彼の肉を食べ、その血を飲んだ。
- バアルを殺したモトに夫を返してくれるように頼むが承諾の意思がないとみると、モトを捕まえて刀で真っ二つに引き裂き、火で焼いて石臼で粉々に挽き砕き、野原にばら撒いて鳥獣の餌にする。
- 王子アクハトから見事な弓を譲り受けるために甘言を用いて、成功しないと見るやアクハトの悪評をエルに告げて処罰の許可を得ようとし、これもうまくいかないことから刺客ヤトパンを差し向けて殺傷する。
などがある。愛が重い。
一方で、エルへの脅迫が功を奏さなかったことからアシェラトを使者に遣わして許可を得る等根回しや計略に長けた一面、また死したバアルを探すために旅に出て、埋葬の際に70匹の野牛、雄牛、鹿、山羊、ロバを生贄にささげる等バアルを強く愛する様子、ケレトの物語においてケレトの長男ヤッツィブに授乳する等母神としての側面を持つ。
特にバアルとの関係は強く、ラス・シャムラから出土した粘土板の中にバアルの英雄的行為を讃える一文が存在するが、その中でバアルの勝利はアナトにも帰されるという表記がある。
これらアナトの性格・機能を、ミルチア・エリアーデは地中海東部からガンジス河流域にわたる古代農耕文明における女神像に分類されるとし、実際アナトは神話中でイシュタルとほぼ同一の神性を獲得している。
アナトが殺戮を行って兵士たちの血を浴びる場面も、血が生命を表徴するという古代セム人の思想や新たな季節における生命の解放を意味するものとされ、後述の古代エジプトにおける彫刻には豊穣神ミンと戦争の神レシェフ(カナンのラシャプ)の間でライオンの上に立つ図像が表されている。
古代エジプトにも輸入され、アスタルテと共にファラオの守護女神となる。
また、同じくエジプトに入ったバアルがお飾りな扱いだったのに対し、アナトやアスタルテはエジプトの暴風神セトの妻とされ、わずかながらエジプト神話に登場している。
エルサレムの「神殿の丘」の近くで出土した紀元前5世紀のアラム語で文字が記された陶片「ピトス碑文(Ophel pithos)」ではヤハウェと共に彼女が祀られている記述がある(21世紀COEプログラムによる活動記録109ページ)。
関連イラスト
関連タグ
アナトをモチーフとしたキャラクター
- ゲーム『女神転生』シリーズに登場する悪魔 →女神アナト
- ソーシャルゲーム『ドラゴンコレクション』に登場するカード
- ソーシャルゲーム『幻獣姫』に登場するキャラクター
- ソーシャルゲーム『神撃のバハムート』、『グランブルーファンタジー』などに登場するキャラクター。→アナト(グラブル)
- ソーシャルゲーム『神姫PROJECT』に登場するキャラクター。
- ゲーム『ペルソナ5』に登場するキャラクター、新島真の超覚醒を遂げたペルソナ。→アナト(ペルソナ)
- 漫画・アニメ『BORUTO』に登場するキャラクター
作品別イラスト
女神転生シリーズのアナト
ドラコレのアナト
幻獣姫のアナト
ペルソナ5のアナト