概要
日本を含む東アジア〜東南アジアにかけて広く分布する大型のクワガタムシ。平べったい体からヒラタクワガタと呼ばれる。
学名は「Dorcus titanus」。
種小名はギリシャ神話の巨神族「タイタン」が由来。中々にかっこいいネーミングである。
南に行くほど大型化する傾向があり、九州地方〜沖縄県に分布する亜種はオオクワガタに匹敵するほど巨大になる。
25もの亜種(後述)に分類され、東南アジアに分布する亜種の大型個体は100mmを超えるものも確認されている。
- 図鑑などでは体調で勝るギラファノコギリクワガタなどを差し置いてこちらの大型亜種を「世界最大のクワガタムシ」と記載する事もある。
大顎には大きな内歯(突起)とそこから先端に向けて続く鋸歯(小さな内歯)持ち、この内歯は亜種によって大顎に付く位置が変わる。
また、大顎先端にも先端歯と呼ばれるカエシ状の内歯を持つ。
頭楯(頭部の大顎の間にある突起)は2つに分かれ、こちらも亜種によって形状が変化する。
気性が荒く、大型種は特に凶暴で指を挟まれたりメスを殺すこともあるが、その点に気をつければ飼育は比較的容易であり、クワガタ飼育の入門種の1つである。
平地などの湿度の高い森林地帯に生息し、他のドルクス属のクワガタの例に漏れず、木の洞や樹皮の裏に潜んでいる事が多い。なお、カブトムシやノコギリクワガタとは違ってあまり飛ぶ事はない。
亜種のみならず近縁種が非常に多く、その分交雑による遺伝子汚染が問題となっている。
日本に分布する亜種
日本のものは12亜種に分類される(イラストは本土のヒラタクワガタとツシマヒラタクワガタ)。
ヒラタクワガタ(ssp.pilifer)
本州の山形県以南、四国、九州とその周辺の離島に分布。ホンド(本土)ヒラタクワガタとも。
大顎は直線的で根本の1/3のところに最大内歯を持ち、先端は内側にカーブする。
大型個体は前胸背板がザラついている。
関東地方では数を減らしており、県によっては準絶滅危惧種に指定されている。
ハチジョウヒラタクワガタ(ssp.hachijoensis)
八丈島に分布。本土のものより小型。
上翅が丸みを帯び、大顎の太さは先端まで一定で、前足の脛節(人間で言う手首に当たる部分)が幅広い。
雌雄ともに前胸背板の後ろがくびれており、ヒョウタンのようなシルエットになっている。
採集場所により内歯が大顎の根本に持つタイプ(A型)、大顎の先端寄りに持つタイプ(B型)、上記2タイプの中間のタイプ(AB型)が採れることで知られている。
年々個体数が減少しており、それに合わせて市場価値も上がっている。
タカラヒラタクワガタ(ssp.takaraensis)
トカラ列島に分布。幅広く厚みのある体型をしている。
大顎は太く、先端が尖る。
トカラ列島では昆虫全般の採集が禁止されており、本亜種も該当している。
ツシマヒラタクワガタ(ssp.castanicoler)
対馬に分布。81.4mmの個体が記録されている日本最大亜種。
大顎が長く、体型も細長い。
ゴトウヒラタクワガタ、イキヒラタクワガタという非常によく似た亜種もいる(それぞれ後述)。
なおこの3亜種はそれぞれの亜種判別の基準となる個体の採れた個体が採れた地域の個体同士を比較すると違いがあるのだが、もちろんそれ以外の地域だと中間の見た目をした個体も見られる。
ゴトウヒラタクワガタ(ssp.karasuyamai)
五島列島に分布。
ツシマヒラタに似るが前胸背板横の突起がやや張り出す。
大顎もツシマヒラタより短い傾向があるが個体差がある。
前述の通りツシマヒラタとの中間の見た目をした個体も見られる。
イキヒラタクワガタ(ssp.tatsutai)
壱岐島に分布。
ツシマヒラタに似るが大顎がやや短く、本土ヒラタとの中間のような姿をしている。
前述の通りツシマヒラタとの中間の見た目をした個体も見られる。
アマミヒラタクワガタ(ssp.elegans)
奄美大島に分布。内歯は大顎の中央付近に持つ。
小型個体や雌の上翅には筋が入る。余談だがアマミノコギリクワガタの雌や後述のスジブトヒラタクワガタも羽に筋が入るため奄美大島のクワガタの特徴でもある。
トクノシマヒラタクワガタ(ssp.tokunoshimaensis)
徳之島に分布。アマミヒラタクワガタに似るが小型個体や雌の上翅には筋が入らない。
オキノエラブヒラタクワガタ(ssp.okinoerabuensis)
沖永良部島に分布。
大顎、頭部、前胸背板のザラつきが粗く、大顎の裏には微毛(細かい体毛)を持つ。
オキナワヒラタクワガタ(ssp.okinawanus)
沖縄県に分布。内歯は大顎のやや根本寄りに持つ。
ダイトウヒラタクワガタ(ssp.daitoensis)
大島諸島に分布。最大50mm程度と小型の亜種で、体色が赤みがかる。
サキシマヒラタクワガタ(ssp.sakishimanus)
八重山諸島に分布。ツシマヒラタに次いで大型の亜種で79.1mmの個体が確認されている。
体型は幅広く、大顎中央に内歯を持つ。
海外に分布する亜種
2020年現在13亜種に分類されるが、今後細分化される可能性がある。
東南アジアに分布する大型の亜種はオオヒラタクワガタと呼ばれる(イラストはファソルトヒラタクワガタ)。
原名亜種(ssp.titanus)
インドネシアのスラウェシ島北東部、ペレン島東部、バンガイ島に分布。マナドオオヒラタクワガタとも。
大顎根本より大内歯を持ち、マレーオオヒラタクワガタ(後述)に似るが先端歯がより突出する。頭部や前胸背板は艶消し状でザラついている。
同じ島に分布するスラウェシオオヒラタクワガタ(後述)との中間の個体が確認されている。
スラウェシオオヒラタクワガタ(ssp.typhon)
スラウェシ島北部〜南部、ブトン島、カバエナ島、ペレン島西部に分布。セレベスオオヒラタクワガタとも。
大顎先端寄りに内歯を持つ。フィリピンオオヒラタクワガタ(後述)の内歯先端寄りタイプに似るがより細身で頭楯が突出しない点で容易に判別できる。
原名亜種との中間の個体も確認されている。
スマトラオオヒラタクワガタ(ssp.yasuokai)
スマトラ島に分布。詳細は当該記事参照。
マレーオオヒラタクワガタ(ssp.nobuyukii)
産地によってボルネオオオヒラタクワガタ、カリマンタンヒラタクワガタと呼ばれる。
原名亜種やスマトラオオヒラタと似るが、大顎がより発達し体も太くなる。頭部や前胸背板は艶消し状。
インドヒラタクワガタ(ssp.westermanni)
ベトナムヒラタクワガタ(後述)に似るが体が太短い。
ベトナムヒラタクワガタ(ssp.fafner)
中国の海南島、ベトナム北部、ラオス北部、ミャンマー北部に分布。
インドヒラタクワガタよりも体が細く、チュウゴクヒラタクワガタよりも大顎や内歯が発達する。
個体差や地域差が大きくインド、チュウゴクとの中間個体も確認されている。
チュウゴクヒラタクワガタ(ssp.platymelus)
中国中部〜東部に分布。
個体差が激しく、本土のヒラタクワガタに近い体型の個体からツシマヒラタクワガタに近い体型の個体まで確認されている。
ファソルトヒラタクワガタ(ssp.fasolt)
朝鮮半島に分布。
ツシマヒラタクワガタに似るが細身で大顎も細長い。
ウンナンヒラタクワガタ(ssp.typhonformis)
中国(四川省東部、貴州省、広西壮族自治区北西部、雲南省北部)に分布。
ファソルトヒラタクワガタに似た体型をしているが、内歯を大顎の先端付近に持つ。
タイワンヒラタクワガタ(ssp.sika)
台湾に分布。
大顎や体型が太短く、体色は褐色がかる。
パラワンオオヒラタクワガタ(ssp.palawanicus)
フィリピンのパラワン島に分布。世界最大のヒラタクワガタ。詳細は当該記事参照。
ミンダナオオオヒラタクワガタ(ssp.mindanaoensis)
ミンダナオ島に分布。
パラワンオオヒラタクワガタに似るが、内歯を大顎根本から1/3のところに持ち、内歯先端までも幅広い。
フィリピンオオヒラタクワガタ(ssp.imperialis)
フィリピンの広域的に分布。インペリアリスオオヒラタクワガタとも。
頭楯が離れ、両端が突出する。
ルソンオオヒラタクワガタ、マリンドッケオオヒラタクワガタなど採集される島ごとに細かい特徴があり通称がつけられている。
大顎の形状、内歯の位置も島によって違うため今後細かく亜種分けされる可能性が高い。
カタンドゥアネス島のものはテイオウヒラタクワガタと呼ばれ、本亜種の個体群の中でも特に人気が高い。
同じ亜種に分類されていながら島によって形態が変わるため、交雑と思しき生体の流通や、そのような個体が雑誌のサイズコンテストに掲載されることが問題となっている。
メディアでの扱い
甲虫王者ムシキングシリーズ
3亜種が登場している。
ヒラタクワガタ
最初期より登場。 強さは120。ロケテスト版のみ140。
性格はアタックタイプ(雑誌付録でスーパーアタックも存在する)。必殺技はチョキ。
肩書きは「ステルス戦士」。超必殺技は「(スーパー)カワセミハッグ」。ロケテスト版のみ「ローリングクラッチホールド」。
グラフィックは(角度にもよるが)大顎が幅広く最大内歯が中央寄りで、南西諸島系の亜種に近いものとなっている他、アダー完結編では出身地の欄に第1弾だと奈良、第2弾だとノーマルが福岡、EXノーマルが広島である事から、前述のホンドヒラタクワガタに相当すると思われる。なお原名亜種である「マナドヒラタクワガタ」は登場していない。
新ムシキングには2015 2nd時点で雑誌付録のプロモーションカードとして参戦し、とあるカップで使用するとそのステージのボス(ライバル)に勝利後ギラファノコギリクワガタを貰える確率が上がる効果があった。
その後2016 2ndにて正式登場。
肩書きは旧作と同じ。超必殺技は「カワセミハッグ」だが若干アレンジが加えられている。
他の有名な「カブトムシ」や「ノコギリクワガタ」といったRの国産種とは違い最後まで覚醒、ゴッドフォームによるテコ入れがされなかったどころか、超神化編ではゴッドフォームとしての参戦も含めてRのチョキムシの中で唯一未収録となってしまった。
なおカードの説明では「普段はおとなしいが、追いつめられると恐ろしいほどの力を出して戦う」と書かれているが、現実では割と気性の荒い種類である。
(これは、本種が木の隙間に潜み、縄張りを侵犯されない限りは悠々と樹液を吸っていることや、危険を感じるとすぐに奥の方に身を隠す警戒心の高さを加味した説明と思われる。)
パラワンオオヒラタクワガタ
最初期より登場。詳細は当該記事参照。
スマトラオオヒラタクワガタ
新甲虫王者ムシキング激闘6弾より登場。詳細は当該記事参照。
どうぶつの森シリーズ
「おいでよ」までの作品で広葉樹や針葉樹に止まる昆虫として捕獲できたが(幹に留まっている際のグラフィックは青黒いツノの短いクワガタ)、有名な種であるにもかかわらず、それ以降のシリーズでは「おいでよ」にて一旦リストラされたミヤマクワガタと入れ替わる形でリストラを食らっている。(恐らく、見た目がオオクワガタと似ており紛らわしかったためと思われる)
しかし、「ポケットキャンプ」では期間限定イベント内ではあるものの久しく復活。
後にテイオウヒラタクワガタも期間限定イベントにてシリーズ初登場を果たした。
その他
名曲「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」のクワガタは本種である。