概要
アリスタイオスとアウトノエの息子。テーバイ王カドモスの孫。ケンタウロス族きっての賢者・ケイローンから狩りを習い、腕利きの狩人となった若者であった。しかしある運命のいたずらが、彼の人生を狂わせてしまう。
ある暑い日、狩りのただなかで喉の渇きを覚えたアクタイオンは、狩り仲間たちから離れて森の中で水場を探していた。そしてとある泉にたどり着いたのだが、そこで目にしたのは、大勢の若い娘たちが裸になって水浴びしている光景であった。
ここは実は女神アルテミスの神域であり、お供のニュンペーたちともども、この泉の水で身体を清めていたのだ。アクタイオンの名誉のために言う。決して悪趣味で覗きをしたわけでは無い。ただこの場に迷い込んでしまっただけである。とはいえ美少女たちが肌もあらわに水浴びしている光景に出くわして、見入らずにいられる男などそうはいるものではないだろう。そこまで含めて、運命のいたずらというところである。
不審者に気づいたニュンペーたちは「ヘンタイ!」と悲鳴をあげ、アルテミスの周りに集まると自分たちの身体で女神の裸を隠そうとした。彼女ら自身も一糸まとわぬ姿であったわけだから、実に女主人に忠実なものである。しかしアルテミスは頭一つ分ニュンペーたちより背が高く、彼女らの頭越しに侵入者を睨み付けた。人間の男に裸を見られた屈辱とあってブチ切れ、不吉な一言を言い放つ。
「私の裸を見たと、言いふらせるものなら言いふらしてみなさい」
とたんにアクタイオンの頭には角が生え、全身が毛皮に覆われ、手先には蹄が生じて前脚になった。思いがけぬ出来事に絶叫する彼だったが、出てくるのは人間の言葉ではなかった。彼は一匹の牡鹿に変えられていたのである。恐ろしさに逃げ出したアクタイオンだったが、自分の連れていた猟犬たちに出くわす。だが犬たちは彼をもはや主人とは認識せず、獲物とみなして襲い掛かってきたのだった。アクタイオンは必死で逃げたが結局追いつかれ、大勢の犬たちに噛みつかれて惨殺されてしまったという。繰り返すが彼は悪趣味で覗きをしたわけでは無い。しかし、乙女に恥をかかせた者には命の代償を求める。アルテミスという女神の残酷なまでの潔癖さを象徴するエピソードである。
余談
アクタイオンが水浴中のアルテミスたちに出くわす場面は、西洋絵画においては裸婦群像を描く絶好の画題を提供してきた。元の神話を考えると皮肉としか言いようがない。アクタイオンの方は鹿に変えられた後でも、変えられる前の人間の姿でも描かれるが、時には半端に変身した獣人姿で描写されることもある。
関連項目
アリスタイオス:父
こいぬ座:一説では彼をかみ殺した猟犬の一匹がこの星座になったという。
カリスト:彼女もアルテミスの残酷なまでの純潔さの犠牲者で、結果的に獣に変えられた。
アクティオンゾウカブト:この人物から種名が付いた。