概要
彼(女?)のエピソードはオウィディウス『変身物語』で語られている。
クレタ島に住むリグドス、テレトゥーサ夫妻の子として生まれる。
貧しい家庭の事情のため、父親のリグドスは苦渋ながら「もし生まれたのが女の子であれば(労働力にならない上に、将来結婚する際に持参金がかかるため)育てるのはやめにしよう」という意向だった。
だが母のテレトゥーサは出産の際、女神イシス(エジプトの女神だがイオと同一視され、古代ギリシャでも崇拝されていた)から「生まれた子が男の子でも女の子でも安心して育てなさい」という夢のお告げを受けて、生まれたのは娘だったが夫には息子と偽って育てることにした。
「イピス」というのは男女どちらにも使われる名前(現代日本でいえば「かおる」とか「あきら」のような)だったため、誤魔化すには都合が良かったという。
成長して、父の意向で幼馴染のイアンテという娘と婚約するが、イピス自身も本当は女性でありながら、同性のイアンテに激しい恋心を抱くようになる。だが当時の社会ではなおさら、それは許されぬ愛であり、苦悩する。
婚礼の日も迫り、苦悩するイピスと母のテレトゥーサだったが、ここで女神イピスが約束を果たし、イピスを(好ましい容姿はそのままに)男に変え、こうしてイピスは新郎としてイアンテと結ばれたという。
ギリシャ神話の公式性転換エピソードの一つである。