リュカオン
りゅかおん
原音に近い「リュカーオーン」と表記されることもある。アルカディアの王。数多くの女性との間に50人の息子と1人の娘(神話なので、生まれる子になぜこんなに性別が偏るのかを突っ込んではいけない)をもうけた精力絶倫の男である。そのたったひとりの娘を除けば一族皆高慢で残虐な連中ばかりで、民を圧政で苦しめる暴君であった。
その悪評を耳にした大神ゼウスは、様子を探ろうと人間の旅人に身をやつして彼の王宮を訪れた。それに対してリュカオンは、あろうことか捕虜となっていた男(一説では自分の孫)を殺して料理し、食卓に供してもてなそうとしたのであった。あまりに非道な行いに激怒したゼウスは正体を現すと雷電を放って王宮を破壊し、彼の一族を皆殺しにした。リュカオン自身は命からがら脱出したが、人里離れた森まで逃れてきたとき、すでに人間の姿ではなくなっていた。その残虐さを象徴するような、狼に変えられていたのである。
見せしめとしてか、死後も狼座としてその姿を永久に晒し続けることになったとも言われる。人狼伝説の古典的な例とされる。ただし人間としての姿はまったく残しておらず、元の姿に戻ることもできないので、一般の狼男のイメージとは異なっている。ただし、絵画では頭部のみが狼の獣人姿で描かれることもある。
上記のたったひとりの娘というのがカリストである。母親が誰かは伝わっていないが、彼女はニンフの一人ともされることから、恐らくニンフであったと思われる。カリストは父親(や兄弟たち)とは似ても似つかぬ清純で美しい乙女であった。残忍な父王のもとで王女として生きる道を嫌ったのか、純潔の女神アルテミスのもとに身を寄せている。だが彼女は何の罪もないにもかかわらず、父親と同様に野獣に変えられる運命を辿ることとなった。彼女が生んだ息子も同様であり、家系の呪いというものかもしれない。もっとも、彼女がそんな目に遭う原因を作ったのは正義の名のもとに父親を罰した当の神であり、それもとうてい擁護しがたいことをやらかしているのだから世話はない。詳細はカリスト自身の記事を参照。
彼の名は現代ではリカオンに用いられている。同じイヌ科の動物とはいえ、厳密には狼とは別種である。