概要
テッサリアーに住むラピテス族の乙女「カイニス」は非常に美しい女性で、多くの男たちに求婚されていた。その美しさは神々の間にも知れ渡るほどに秀麗だったが、貞淑を貫いていた彼女はどんな男性からの誘いも跳ね除けていた。
ある日カイニスが海岸沿いを歩いていると、彼女の美しさに目をつけていた海神ポセイドンが現れ、彼女を強姦した。ポセイドンが償いとして願いを一つ何でもかなえると言ったところ、二度とこんな苦痛がこの身に降りかからぬよう男に変えてほしいと願った。海神は願いを叶え、さらに剣でも打撃でも傷つかない不死の肉体を授けた。
男になったカイニスは「カイネウス」と名乗り、王となった彼は後にケンタウロス族と戦った。神を深く呪っていた彼は神々に対して冒涜的になった。街の広場に1本の槍を立て、その槍を新たな神として信仰させることを人々に命じた。また、神アポロンと争い敗北した。
ペイリトオスの結婚式の日に酔ったケンタウロスたちが花嫁や参列者の女に襲い掛かったため、大混乱となった。カイネウスはペイリトオスやテーセウスらとともにケンタウロス族と戦った。
しかし彼の涜神的な態度を苦々しく思っていたゼウスがケンタウロスたちをあおり、ケンタウロス全員がカイネウスに襲い掛かった。刃物では傷つかない彼だったが、穴に落とされ、その上からモミの大木で埋めて窒息死させられた。
その時大木の山の中から金色の鳥が飛び出して天に昇ったが、その場にいた予言者モプソスはそれをカイネウスの魂だと信じたとされる(これはローマ時代に書かれた「変身物語」にのみ見られる描写であるため、神話として語り継がれてきたものか、変身物語の作者・オイディウスの創作によるものかは不明)。
混乱が収まった後、カイネウスを埋葬しようと穴を掘り出すと、カイネウスは女に戻っていたとされている。
彼/彼女のエピソードはギリシャ神話を代表する神々の醜悪な側面を映したものであるため、登場する詩編はかなり限られているが、ローマ帝国時代には詩人たちに題材とされることも多く、古くからその逸話に興味を持つ者は少なからずいたと思われる。
実は中世の時代に星座が作られた事があり、奇しくも自分を死に追いやったケンタウルス座(この星座のモデルは上記のケンタウロスとは別人の賢者フォーローである。)とふうちょう座の間にあった星座で、近くにはセイレーンを模した星座もある。
しかし、あまり広まることは無かったどころか、後世に星座の総数が88となった事で人々からも忘れ去られた。
名の意味は「調教師」、もしくは「扼殺者」。
家族・血縁
一般的に父はエラトス、母はヒッペアとされる。父親をアトラクス、またはコロノスとする異説もある。
兄弟にポリュペモス(「オデュッセイア」に登場する単眼の巨人ではなく、アルゴナウタイにも数えられた勇士)、イスキュス(アスクレピオスの母コロニスを娶り、アポロンに殺された)などがいる。
息子はコロノス(アルゴナウタイの一人)、ポコスなど。「イリアス」に登場するアカイア方の戦士レオンテウスや、大アイアスの妻リュシディケは孫にあたる。
余談
Fateシリーズでアルゴナウタイの一人として描かれていることもあり、近年アルゴナウタイとして扱われることが増えているが、ほとんどの伝承では彼はアルゴー号の冒険に参加していない。
アポロドロスの「ギリシア神話」などにはアルゴナウタイとして彼の名が挙げられているが、これは古註によればカイネウス本人の孫(コロノスの子)にあたる同名の人物と混同された結果だという。
ギリシャ神話は時系列の整合性が取れないこともあり確言はできないが、そもそも彼はアルゴー号の時代より前に亡くなっていたとされる(彼本人がかなり早世したのに加え、主なアルゴナウタイは彼の息子世代)。
関連タグ
カイニス(Fate):カイネウスを題材としたキャラクター。
テイレシアス:男→女→男と性転換を繰り返した。