概要
ヘビトンボ(蛇蜻蛉)とは、脈翅上目広翅目(古くは脈翅目広翅亜目)のうちヘビトンボ科に分類される300種ほどの昆虫の総称。同時にそのうちの1種 Protohermes grandis の標準和名でもある。
名前に反してトンボではなく、ラクダムシやウスバカゲロウ、カマキリモドキなどと同様脈翅上目(広義の脈翅目/アミメカゲロウ目)の完全変態昆虫である(この類自体も名前に反してカゲロウなどではない)。近縁として同じ広翅目/ヘビトンボ目のセンブリが挙げられる。
名前は、強力な大顎で噛み付く習性が蛇を彷彿とさせることと、4枚の大きな翅がトンボを彷彿とさせることに由来する。ただし本体はトンボとは程遠い形で、触角は比較的長く、複眼は小さく、腹部は縦長い楕円形であり、翅も腹部を覆う屋根形に畳まれる。
一部の種類は性的二形を示し、オスの大顎が長大な牙のように発達する。
体長は数cmだが、翅を広げると10cm以上もあり、特に最大種では21.6cmに達し、翼開長最大の現生昆虫と認定される。
生活環
完全変態の昆虫であるが、幼虫と成虫だけでなく、通常では無防備な蛹も強力で可動な大顎を持つことが特徴的。
幼虫は綺麗な渓流に生息しており、他の水生昆虫を軒並み捕食する程凶暴な大食らいの昆虫でる。大顎は強力で、縦長い腹部両筋に脚のような鰓が並ぶ。その姿がムカデと似るため「川ムカデ」と呼ばれている。幼虫期は数年ほど長い。
幼虫は上陸して石の裏や倒木などに潜んで蛹化する。蛹の状態でもある程度動く事が出来、強力な顎で身を守ったり、近くにいる仲間を嚙み砕いて殺してしまうこともある。
成虫は夜行性で、食性は謎の所が多かった。後に実は幼虫から一転して草食であることが示唆され、飼育下で果物を与えれば食べており、日本の種類では野外で広葉樹の樹液や花粉を食べるものも知られている。
人間との関わり
成虫・幼虫とも顎は強力で、刺激して嚙まれないように注意する必要があるが、毒を持たず人間を積極的に襲うこともなく、基本的には無害である。
成虫は走光性があり、人工光源に集まってくる事もある。前述した通り基本無害であるが、その大きさや一般に知られる昆虫と似て非なる姿で(特に顎が長大なオスだと尚更)インパクトがあり、しばしばネット上で「見た目がヤバくて変な虫」として話題になる。
幼虫は日本では「孫太郎虫」(まごたろうむし)という民間薬として使われることがあり、昆虫食を行う事で有名な長野県では、食材として採用される事もある。海外では釣り餌として使われることがある。