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フェニキア文字

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ふぇにきあもじ

紀元前11世紀頃より2世紀頃まで現在のレバノンやチュニジアなどに当たる地域でフェニキア人によって用いられていた古代文字。現在世界で用いられている文字の多くがこのフェニキア文字から派生したとされている。

概要

現在のレバノン界隈に相当するフェニキア地域で用いられていた文字。同地で話されていたフェニキア語を表すために用いられたもので、その原型を遡るとヒエログリフに至るとされている。右から左に書かれ、また文字はすべて子音のみを表している。

後世への影響

東洋への伝播

後に近隣の遊牧民であるアラム人が自分達の用いるアラム語を書き表すためこのフェニキア文字を借用する形でアラム文字を作り出し、後に彼らが隊商貿易で活躍した結果アラム文字はアラム語ともども中東各地へと伝播した。現代イスラエルで用いられているヘブライ文字はこのアラム文字の亜種であり、またシリアにおいてアラム文字を繋げ書きするようにして成立したシリア文字は、後にナバテア文字を経てアラビア文字へと変化する事となった。これとは別に、現在のイエメン周辺で話されていたサイハド語を表すために使われていた古代南アラビア文字も成立しており、こちらは紅海を挟んだエチオピアエリトリア周辺に伝わりゲエズ文字へと変化している。

更に、アケメネス朝時代にアラム語を公用語としていたペルシャ帝国においてはアラム文字をベースに様々な派生文字が誕生し、特にサマルカンドを中心としたソグディアナ地方で用いられていたソグド文字は、後に東方の中世ウイグル人の間に伝わり中世ウイグル文字となった(この際に母音を表す文字が追加されたり、漢字の影響から従来の横書きに加え縦書きも行われるようになったとされる)。現在モンゴル国中国内モンゴル自治区などで使われているモンゴル文字は、このウイグル文字をモンゴル帝国が取り入れ、改良を加えたものである。

尚、現在インドで用いられているデーヴァナーガリーやベンガル文字などのアラビア語を除く多くの文字体系、および東南アジアのクメール文字、タイ文字、ビルマ文字や、ヒマラヤ以北のチベット高原で用いられているチベット文字などは、古代インドで用いられていたブラーフミー文字から派生したものとされているが、このブラーフミー文字の成立においてもアケメネス朝ペルシャで用いられていたアラム文字の影響があるのではないかという説が有力である。

西洋への伝播

一方で、フェニキア文字は西洋にも伝播し、古代ギリシャにおいてはギリシャ語に存在しない発音を示すための文字を母音の表現に転用するなどの改良が施されギリシャ文字へと変化した。

ギリシャ文字はギリシャ人の海外進出に伴いネアポリスなどの植民都市が建設されたイタリア半島南部に持ち込まれる事となり、エトルリアラティウムなどイタリア半島各地の民族語を表す様々な文字が派生することとなった。特にラティウムのローマ人が用いていたラテン語を表すために生まれたラテン文字ローマ字)は、後のローマ帝国の隆盛およびカトリックなどのキリスト教西方教会各宗派の伝道に伴い西欧各地へと広がりラテン語のみならず各地の土着言語の表記にも用いられるようになった。そして大航海時代以降ヨーロッパ諸国の世界進出に伴い、現在ラテン文字が地球規模で用いられるようになった事は言うまでもない。

一方、イタリア以外の地域においてもヘレニズム時代、また東ローマ帝国時代にかけてギリシャ語は地中海東部に大きな影響力を及ぼしており、その影響下においてエジプトのコプト文字やアルメニアのアルメニア文字などが誕生。更に正教会によるスラヴ人への布教に際してグラゴル文字、次いでキリル文字がギリシャ文字をベースに開発され、このうちキリル文字が東欧各地に定着していった。後にロシア帝国北アジア進出やソ連誕生に伴い、北アジアや中央アジアの様々な言語においてもキリル文字が使われるようになった事は、これまた言うまでもない。

現況

フェニキア文字自体は2世紀頃にカルタゴのフェニキア語方言がラテン文字で書かれるようになった辺りで使われなくなり廃れてしまった(フェニキア語自体はその後も5世紀頃まで用いられていた模様)が、上述の通りその派生文字は現在でも世界各地で用いられている。また、近現代においてもアメリカにおいてチェロキー族によってラテン文字の形だけを流用しつつ独自に発音表記体系が構築されたチェロキー文字や、カナダでインド系文字の母音表記法をヒントに誕生したカナダ先住民文字など、フェニキア文字から派生した文字体系をヒントとした新たな文字体系がいくつか生まれている。

非フェニキア文字系の文字体系について

尚、現在世界で用いられている文字体系のほとんどはここまで述べた通りフェニキア文字に起源をもつ(あるいはそう考えられている)ものであるが、それ以外の系統の文字も幾つか用いられている。その多くは少数言語に残る程度であるが、以下の3つの系統については多数の使用者が存在する。

  • 漢字およびそれから派生したひらがなカタカナ・注音符号・チュノムなどの文字体系(すなわち本記事で用いられている文字はすべて非フェニキア文字系の文字体系という事になる)
  • ブラーフミー数字(ブラーフミー文字とは独立に成立した数字専用文字)およびそれから派生したインドの諸数字やアラビア・インド数字(モロッコ周辺などを除くアラブ諸国でアラビア文字などと一緒に用いられている数字)、アラビア数字(算用数字)およびインドやアラブの数字の字形を流用したターナ文字(モルディブの公用語ディベヒ語の表記に用いられる文字)
  • ハングル

ただしこのうちターナ文字は母音表記に用いられている記号がアラビア文字から転用されていたりアラビア語をはじめとする外来語表記用の文字が別途作られているなどアラビア文字の影響が多い。

また、ハングルについてもその創成にパスパ文字(チベット文字をベースにモンゴル帝国が作った遺体系)の影響が指摘されたり、仮名文字についても五十音がインド系文字の順列をヒントに考えられたりなど、(その性質がフェニキア文字そのものの持っている性質ではないにせよ)フェニキア文字系の文字体系からの間接的な影響については少なからず指摘されている。

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