概要
元々はフォーセットコミックという出版社から発行された『ウィズ・コミックス #1』(1940年2月)にて登場した「キャプテン・マーベル」というヒーロー。
普段は少年の姿だが、「SHAZAM(シャザム)!」と叫ぶ事で成人男性の姿となる変身ヒーローである。「SHAZAM」の吹き出しの中のZに雷が落ちているという演出が特徴。
変身することでスーパーマンにも匹敵する絶大なパワーを得られるが、精神は子供のまま。この事が彼の弱点と強い個性になっており、アメコミ黎明期の一時代を築く人気作品となる。
また、スーパーマン関係で、DCコミックと裁判沙汰になった事でも有名(下記出版の歴史を参照)。
出版の歴史
1940年当時のコミック業界では、スーパーマンの亜流とも言えるデザインのヒーローが蔓延っていたが、その中でも子供の主人公が変身するキャプテン・マーベルは特に人気を誇った。
オリジナルの創造者は、ビル・パーカー(脚本)と、C・C・ベック(作画)。
ビル・パーカーが軍に徴用された後は、オットー・バインダーが脚本を担当する。
(下記も参照)
スーパーマンを流用されたと感じた当時のDCは、フォーセットコミックを著作権侵害として訴える。
1941年6月にDCは、フォーセットコミックに(キャプテン・マーベルの)出版を停止する要請の文章を送っていた。フォーセットはそれに応じず、その三ヵ月後の41年9月にDCが裁判所に提訴の届け出を申し出て、ここに裁判が開始。
だが、実際に裁判が始まったのは、1948年になる。この七年の間、フォーセットではキャプテン・マーベル関連のタイトルを出し続け、売り上げはDCのスーパーマンを追い抜いている。
裁判は長年に渡って行われ、フォーセットコミックは「示談金を支払う事で和解」という方法を採った。その結果、キャプテン・マーベルは出版を停止する。(裁判について詳しくはこちら)
下記補足も参照。
1953年にフォーセットコミックは業界から撤退、さらに20年後にDCがキャラクター版権を買い取り1972年にDCで「Shazam!」のタイトルで連載を開始した。DCから刊行された際にタイトルは「シャザム」に変更された。これはすでにライバル会社から「キャプテン・マーベル」というタイトルが出てたため(と、いうのは通説らしい)。その後、タイトルとヒーロー名を統合するためにNew52ではヒーロー名もシャザムとなった。
なお、後にMARVELのキャプテン・マーベルとは、アマルガムにて合体している(後述)。
オリジン
主人公の少年:ビリー・バットソンは家族を失い、叔父さん(父の弟)に引き取られたが、遺産目当ての叔父さんに追い出され、ホームレス同然となってしまう。ある夜、地下鉄のトンネルから謎の男が呼びかけてきた。ビリーが誘いに乗ると、そこにはルーン文字やヒエログリフ(神聖文字)が刻まれた、壮麗な魔法の地下鉄車両があった。
そして、地下鉄はある洞窟にたどり着く。洞窟の中には魔術師シャザムが待っていた。シャザムはビリーを後継者と認め、魔力の全てを与えることにした。こうしてビリーは6人の神々の力を発揮するキャプテン・マーベルへの変身能力を身につけたのだった。
DCEUの実写映画版では、概ね原作と同じ設定だが、幼い頃に母親とはぐれてしまい、その後、様々な里親の元を転々としていた(というより、ビリー本人が母親を見つけて一緒に暮らすことに拘り、悉く里親の元を脱走したので共同生活が長続きしなかった)という点が異なっている。
能力
キャプテン・マーベルに変身するための呪文である「SHAZAM」は、彼に力を授ける6つの神々と英雄の頭文字から取られており、それらを全て合わせた物である。
ソロモン王(Solomon)の知恵:様々な学術知識にアクセスしたりできる。
ヘラクレス(Hercules)の剛力:強大なパワーを有する。
アトラス(Atlus)のスタミナ:殆ど不死に近い耐久力の源。
ゼウス(Zeus)の全能:変身する時の魔法の稲妻に火をつける。
アキレス(Achilles)の勇気:戦う時の原動力。精神攻撃にも耐えられる。
マーキュリー(Mercury)のスピード:これによって空を飛べる。
主にギリシャ・ローマ神話が由来だが、ソロモン王だけはユダヤ教伝承。
ゼウスの全能で他全部間に合いそうとか言っちゃいかん。
変身時に降り注ぐ稲妻は、あえて敵に当たるように仕向ける事で攻撃に転用する事も可能(敵を頭上に抱き抱えて呪文を唱える、ゼロ距離の状態で呪文を唱えてからすぐ稲妻を回避する事で敵に誘導するなど)。呪文+稲妻で攻撃という非常に映像映えする技。
しかし間違って稲妻を回避できずに自分に当たってしまった場合は変身が解かれて無防備になってしまうため、ハイリスクハイリターンの奥の手である。(逆にそれを利用してビリーの状態で危機に陥った時に呪文を唱えるという敵に当たっても当たらなくてもおいしいローリスクハイリターンな使い方もある。)
ちなみに、こちらの単語は原作の始まりからの歴史の長さから一般名詞化しており、英語圏においては「アブラカタブラ」「オープン・セサミ(開けゴマ)」のような定番の呪文の一つとなっており、多方面で使われている(サム・ライミ版スパイダーマン一作目でも、ピーターが糸を出そうと訓練してる際に、掛け声で「シャザム!」と言ってたりする)。
同名の音声検索アプリや、椎名林檎の曲、「ちちんぷいぷい」の歌詞に登場する「SHAZAM」はこちらが発祥元である。
「ところで『ソロモンの知恵』ってのは、どこに消えたんだ?」
映画「シャザム! 神々の怒り」より
(ビリーが変身後も馬鹿っぽい事をからかった台詞)
登場キャラ
ビリー・バットソン
物語の主人公。詳しくはビリー・バットソンの記事にて。
マーベルファミリー
メアリー・マーベル
本名:メアリー・バットソン。
ビリーの生き別れた兄妹。両親がブラックアダムに殺されたショックで記憶喪失となってしまう。その後、紆余曲折を経てビリーと再会する。魔術師シャザムに出会い、記憶を取り戻した彼女はキャプテン・マーベルの正体がビリーだと悟る。「家族を守るために兄と同じパワーが欲しい」とシャザムに願うと、彼はそれを認めキャプテンと同じパワーを与えた。彼女も変身後は成人の姿となる。
考案者のオットー・バインダーは後にDCでスーパーガールを生み出す。『ファイナル・クライシス』ではメアリーとスーパーガールの激闘が描かれている。
ゴールデンエイジでは「セレナの優美さ、ヒッポリタの怪力、アリアドネの技能、ゼピュロスのスピード、オーロラの美貌、ミネルヴァの智慧」と、6柱の女神がパワーの源という設定だった(現行では、ビリーと同じになっている。ちなみにゼピュロスは男神)。
実写版では、バスケス家の元に預けられていた里子という設定であり、ビリーとは血縁関係にはない(名字はブロムフィールド)。また、大学入試に挑んでいたことから、原作とは異なり、ビリーよりも年上であるようだ。本作では特殊な力を一切持たない一般人であったが…?
キャプテン・マーベル・ジュニア
本名:フレディ・フリーマン。
ビリーの親友。変身の呪文は「キャプテン・マーベル!」。元に戻る時も同じ。
能力はキャプテンとメアリーから分け与えれた物なので、彼らがジュニアと同時に変身しているとパワーが半減してしまう。彼は変身しても子供のまま。
New52では大人に変身する様に設定された。
実写版では、メアリーと同じくバスケス家に預けられていた里子という設定。何らかの事情で足に障害を持っており、移動には杖が欠かせない。ビリーと同室になったことから、次第に打ち解けていき、衝突することもあったものの、次第に良き友人となっていく。そして、終盤の戦いで……?
魔導士シャザム
ビリーやメアリーに能力を与えた魔法使い。NEW52以降では「ウィザード」という名前に変更されている。
ビリーの両親
マリリン・バットソン
ビリーの母親。細かな時期やシリーズによって設定が微妙に異なる。映画版ではシングルマザー。
C.C.バットソン
ビリーの父親。名前の由来はシリーズ最初のアーティストのC.C.ベック。細かな時期やシリーズによって設定が微妙に異なるが、ポストクライシス、New52等においてはシャザム変身後のビリーと瓜二つの容姿。映画版では登場しないが、マリリンと過去に結婚していた。
ダッドリー叔父さん(Uncle Dudley)
ビリーたちの良き理解者。本名は「ダッドリー・H・ダッドリー」
「叔父さん」とあるが、ビリーたちとの血縁関係はない(80年代に設定変更された際には、血縁があるとされたが、現在は抹消)。
シャザムのようなパワーはない一般人ではあるが、おおらかな性格で、ビリー達の心の支えになっている。心折れそうな時のシャザム=ビリーにとっての救いであり、大切な家族の一人。ビリーがシャザムに変身する事も知っている。
時に、自作のコスチュームを着て『アンクル・マーベル』を名乗る(当然、ただのコスプレなので何の力もないが)。しかし95年以降「パワー・オブ・シャザム!」では、魔術師アイビスにより一時的に神々の加護を得て、シャザムたちをサポートし活躍している。
99年以降は姿を消してしまったが、様々な作品にカメオ出演している。
トーキー・トーニー(Tawky Tawny)
シャザムことビリーの友達である虎。時期により、それぞれ設定が異なる。
オリジナルシリーズでは、47年に登場した、二足歩行するベンガルトラ。チェック柄の上着に、ソフト帽をかぶり、ズボンを履いている。
その洒落者の姿で人語で会話し、ごく普通に日常生活を送っている。知性も人間並み。
ビリーとは友人同士で、トーニーの都市生活の悩みをビリーが聞いてたりしている。
そのオリジンは、
「人間とともに生活していた虎が、髙い知能を持ち、特殊血清で人語を喋れるようになった後、都会にやってきた」というもの。
後の変更された設定(ポスト・クライシス期)では、
「メアリーの持っていた虎のぬいぐるみに、精霊が宿り誕生した」というものに。
後に悪魔と戦うため、巨大な剣歯虎(スミロドン)に変身する力を有したりする。
「フラッシュポイント」では、「魔法の虎」で、キャプテン・サンダー(フラッシュポイント版のキャプテン・マーベル)には虎、他の人々には人に見える。変身して鎧姿に。
「NEW52」では、「フィラディルフィア動物園の虎で、ビリーの友達」という設定に改められた(当然ながら、ただの虎である)。
更にこの後、2019年5月に発刊された「シャザム!」#4では、シャザムの洞窟「ロック・オブ・エターニティ」から続く七つの「マジックランド」のうち一つ、異形の動物が住む世界「ワイルドランド」の住民という設定で登場した。こちらは二足歩行し、知性もあり服も着ている。
New52以降で登場したビリーのステップフォードブラザー達
ダーラ・ダドリー
アフリカ系のメガネ少女。
ユージーン・チョイ
中国系のゲーマー少年。
ペドロ・ペーニャ
ラテン系の人見知りな少年。
その他関係者
ご存じメトロポリス名物その人。スーパーマンが一時的にパワーを消失した際、シャザムの力を借りたショートストーリーがある。
また、スーパーマンは魔法を苦手としている(物理法則が効かないため)。なので、魔力を持つシャザムはスーパーマンに対抗し、場合によっては倒す事ができる数少ない存在でもある(「キングダム・カム」では、一時的にだが打ち倒していた)。
ヴィラン
古代エジプトの王子テス・アダムは、かつてシャザムから力を与えられたが、それを暴走させてしまいシャザムに封印された。Dr.シヴァナの手で封印を解かれ現代に蘇ったテスは、「ブラックアダム」と名乗り、キャプテンの前に立ちはだかる。
「ヒーローに似た姿、同じ能力を持った敵役」の元祖だと言われる。実写版では風貌がクリソツなロック様が演じることが決定している。
「SHAZAM」に対応する神々は以下の通り。
シュー(Shu)の体力
ホルス(Horus)の速度
アモン(Amon)の剛力
ジェフティ(Zehuti)の知識
アトン(Aton)の神力
メヘン(Mehen)の勇気
テス・アダムがエジプトの王子だったので、対応する神々もエジプトのものになっている。
実写版では後述するDr.シヴァナがブラックアダムに相当する役割を担う(また、魔術師シャザムの台詞から、かつて大罪の封印を解いて世界に混沌を齎した魔術師の存在が語られており、その魔術師こそがブラックアダムと思われる)。
Dr.シヴァナ/サデウス・シヴァナ
悪の天才。
原作一話目から登場する敵キャラであり、実写版におけるメインヴィラン。
詳細はリンク先参照。
ミスター・マインド
喋る芋虫。
実写版でもわずかながら登場する。
その名の通り、他人の意志を操る催眠能力と、天才的な頭脳を有する。
旧版では、ラジオを通じて配下に命令を下し、当人は顔を見せないというヴィランで、正体不明の存在だった(イモムシの姿を隠すための措置だった)。
キャプテン・アレクサンダー
正義と悪の立場が入れ替わった平行世界「アース3」のシャザム。
変身の掛け声は「マザース(MAZAHS:SHAZAMのアナグラム)」である。NEW52シリーズにて登場。
ちなみにその正体はビリーともテスとも違う人物。
NEW52シリーズのいわば「基本世界」であるアース0版の「彼」が「天才的な頭脳以外は何のスーパーパワーも持たない常人」であるのに対して「殺した超人の能力を奪い無限に強くなっていく、いわば超『超人』」。(つまり、「平行世界版シャザム」の能力も誰かを殺して奪い取ったものである可能性も有る)
だが、スーパーパワーに頼り過ぎていたせいで、何のスーパーパワーも無いが知性や精神性において勝る「別次元版の自分」に思わぬ形で足下を掬われる。
ヴァンダル・サベッジ
はるか古代の地球に流れ落ちた隕石を肝試しに触れた原始人であったが偶然にも不老の力を手に入れた。歴史の影で暗躍してきた闇の帝王。キャプテンマーベルことシャザム誌面より初登場したとされる?
キャプテン・ナチ
その名の通り、ナチスが作り出した改造人間。
オリジンでは、キャプテン・マーベル・ジュニアこと、フレディ・フリーマンの祖父を殺し、フレディを傷つけ、片足を不自由にさせた張本人である。そのため、仇敵として登場する。
映像作品
映画
- キャプテン・マーベルの冒険
1941年公開。
⇒第1作のタイトルでもある『シャザム!』を参照。
アニメ
ジャスティスリーグ
声はジェリー・オコンネル
声はジェフ・ベネット
声はロブ・ロウ/チャド・ロウ
スーパーマン/バットマン:パブリック・エネミー
声はコーリー・バートン
スーパーマン/シャザム!:リターン・オブ・ブラックアダム
声はジェリー・オコンネル
番外
DCとMRVELとの大規模クロスオーバー企画「DC vs MARVEL」では、DC側のキャラとしてマーベル側の雷神ソーと戦った。
「神の力を有するヒーローvs神そのもののヒーロー」という存在ゆえの対戦だったらしく、互いに戦いの前には祈りを捧げていた(普段は常人として過ごしている。変身及び戦いに雷を用いる事なども共通)。
結果は、僅差でソーの勝利。しかしシャザムの方もソーのムジョルニアの直撃を雷撃で防ぎ切り、なおかつ最後にはハンマーを別の場所に飛ばしたため、ほぼ互角の引き分けともとれる結果になっている。ソー自身も勝利したとはいえ、シャザム=ビリー少年に敬意を表していた。
その後の「アマルガム」では、MARVELのキャプテン・マーベルと合体。名前もそのまま「キャプテン・マーベル」である。ヒーローチーム「JLX(ジャスティス・リーグ+Xメン)」に在籍した。
関連タグ
シャダム中佐:一文字違いであるが、こちらは逆に己の野心のためなら血の繋がった家族をも平気で犠牲にするヴィランである。
シリーズのバリエーション
スーパーマンと同時期に生まれたため、「シャザム!」も時期によるバリエーションが存在する。
- 1:オリジナルシリーズ
1940~53年までの、フォーセットコミックによるオリジナルシリーズ。基本設定がこの時期に出そろい、後の全てのバリエーションの基本となる。
- 2:DCコミック「アースS」を舞台にしたシリーズ
1972~86年頃、フォーセット・パブリケーションズ(当時既にコミック部門は閉鎖していた)と、DCコミックがライセンス契約を結び、始動した新シリーズ。タイトルは「シャザム!」(後に、DCコミックは正式に本作の権利を買い取る)。
内容は「50年代に、ドクター・シヴァナにより停滞力場に囚われていたキャプテン・マーベルたちが、現代に復活する」というもので、オリジナルシリーズの直接の続編になっている。
しかし、DCコミックの世界観との整合性を取るため、その舞台は並行世界「アースS」になっている。
DCコミックは、当時膨大なタイトルを出しており、「シャザム!」は76年に休刊。
しかし、シャザム自身は他コミックのゲストや、アンソロジーなどの連載などで出演し続ける。
- 3:「ポスト・クライシス」のシリーズ
1986~94年、DCコミックで行われた一大イベント「クライシス(Crisis on Infinite Earthes)」によって改められた新シリーズ(いわゆる「ポスト・クライシス」)。
80年代後半に、DCコミックは世界設定の整理や再構築を行い、その結果、上記シリーズは抹消。改めて一から描かれる事に。
作中では「クライシス」にて起きた、宇宙規模災害の結果とされた。
本作もまた、87年にロイ・トーマスの脚本で、全四話のミニシリーズ「シャザム!」により、基本設定が現代的に改訂。
しかし、この後に発刊予定だったシリーズが、何度も延期した後に頓挫してしまった。
- 4:「ポスト・ゼロ・アワー」のシリーズ
1994年、DCコミックの一大イベント「ゼロ・アワー」の直後に、ジェリー・オードウェイによるグラフィック・ノベル「パワー・オブ・シャザム!」が発行された。ポスト・クライシス時の設定に囚われない新たな魅力を描いた本作は人気を博し、95年にオードウェイによる新シリーズが開始される。
タイトルも「パワー・オブ・シャザム!」に。以降、「キャプテン・マーベル」こと「シャザム!」は人気を回復させる。
- 5:「NEW52」からのシリーズ
2000年には、アレックス・ロスによるワンショット「シャザム!パワー・オブ・ホープ」が、
2006~08年には、12号のミニシリーズ「ザ・トライアル・オブ・シャザム!」が発刊。
そして、2011年にDCコミックは、改めて「シャザム!」のリブートを実行。2013年に「シャザム!」VOL1を発行する。
ダーラ、ユージーン、ペドロの三人が登場したのも本シリーズからで、ビリー、メアリー、フレディのオリジナルからの三人を加え、新たなファミリーとなる。
ビリーも自身を「キャプテン・マーベル」から「シャザム」と名乗るようになった他、ビリー以外の五人も変身時に「シャザム!」と唱えるように。
キャプテン・マーベルを創造したアーティストたち
オリジナルの創造者の一人、ビル・パーカーは本作以前に、フォーセット・パブリッシングの探偵小説誌や映画雑誌の編集者として働いていた。しかし、いきなり「ウィズ・コミック」の編集と脚本とを任され、担当するように。
当初は「キャプテン・サンダー」と言う企画案を提示。ギリシャの六つの神々の力を、それぞれに与えられた六名の少年たちが、リーダーのキャプテン・サンダーとともに戦うという「チームヒーローもの」だった(のちにこれは、当時の編集長により「六人に一個ずつ超能力を与えられるより、一人に六柱の神々の能力を持つスーパーヒーローに変身した方が派手だ」と提案され、名前も変更される。なお「キャプテン・サンダー」というヒーロー名は2011年に「フラッシュポイント」で歴史改変された世界のキャプテン・マーベルとして採用されており、ビリーと5人の兄弟達がそれぞれの神の力を担い1人のヒーローへと変身する設定になっている)。
二年間、「キャプテン・マーベル」を含む他作品を手掛けていたが、軍に徴用され、フォーセットを辞任。後に軍で少佐となったが、軍を辞めてフォーセットに戻り、再び編集者となる。が、パーカーは戻ってからは二度と、キャプテン・マーベルを手掛ける事はなかった。
パーカーの後を受けて、ライターとなったのがオットー・バインダー。
在任中に1000本近くのシナリオを書いていた。その総量は、40年代から50年代初めの時期において、全体の半数近くを占めている(総数は1700本以上)。
ちなみに、オットー・バインダーは「イアンド・バインダー」のペンネームで、「ロボット市民」などのSF小説を発表している(日本でも「ロボット市民」は翻訳が出ており、現在も読む事が可能)。
フォーセットが撤退後には、フリーライターとなってゴールドキィ、タイムリィ、クオリティといった出版社を渡り歩き、DCにて作品を手掛ける。そこでスーパーマン関係のタイトルとして「スーパーガール」を産み出した。
が、のちにDCの福利厚生運動に関わり、仕事を干されてしまった。
作画のC・C・ベックは、元はフォーセット・パブリケーションズのユーモア雑誌で挿絵を描いていた。パーカー同様にコミックの作画の経験はなかったが、キャプテン・マーベルを手掛けてからフォーセットの看板作家となる。
ベックは生前に、「キャプテン・マーベルはパーカーが作ったもので、自分は単に絵にしただけ」と主張、キャプテン・マーベル創造者のクレジットを固辞していた。
しかし、親しみやすいベックの作画あってこそ、本作の人気につながった事は疑うべくもないことである。
後にコマーシャル・アートの道に進み、一家でフロリダに引っ越す。
副業でリゾート地を経営し、後には北マイアミで広告代理店を開業したという。
また、ベックのアシスタントをしていたアーティスト、ピート・コスタンザは、後にDCに移籍。スーパーマン関連タイトル「ジミー・オルセン」などを描いた。
「キャプテン・マーベル・ジュニア」のアートを務めていたマック・ラボーイは、後で「フラッシュ・ゴードン」の新聞マンガで名をはせるように。
補足
ちなみに、上記のDCとフォーセット社との裁判が正式に終了したのは54年2月。
しかしこの一年前から、フォーセットは自社のコミックを休刊させていた。当時、5誌も発刊していたキャプテン・マーベル関連誌は、1950年代に入ってからも高い人気を保っていた。だが、裁判が長引き続けると、DCとともに負担となり、どちらが勝っても得にならない事は明らかになっていた。
加えて、50年代当時はスーパーヒーローコミックの売り上げも冷え込んでいた。さらに、裁判中にはスタッフ関係で、色々と問題も生じていた。
なので、フォーセット側が折れる形で和解の申請をDCに申し出て、それが成立。
DCとの和解に関しては「キャプテンマーベル関連のタイトルのみ、出版の停止」を確約しており、フォーセットはマーベル以外のその他コミックに関しては今まで通り出版が可能だった。
だが、一番の人気作であるマーベルを欠いてコミック部門を継続する気力は、当時のフォーセットにはなかった。かくしてすべての作品の権利を売却、フォーセットはコミック部門から完全に撤退する事に。
なお、フォーセットが当時発刊していたマーベル以外のタイトルは、
西部劇「シックスガン・ヒーローズ」
動物もの「フォーセッツ・ファニー・アニマルズ」
ジャングルもの「ニョーカ・ザ・ジャングルガール」
といった作品が存在していた。
フォーセットは、DCにマーベルの権利を売却した際、マーベル以外の各作品の権利もDCではない別会社に売却している。
売却先は、チャールトン・コミック社。当時は中堅の出版社で、コミック部門の拡張をはじめていた。
うち、「フォーセッツ・ファニー・アニマルズ」は「ファニー・アニマルズ」に改名。
さらに同誌に連載されていた動物版キャプテン・マーベルこと「ホッピー・ザ・マーベル・バニー」は、「マジック・バニー」に改称。コスチュームデザインも変更された。
しかし二年後の1956年、「ファニー・アニマルズ」ごと休刊してしまう。
※ちなみにチャールトン・コミックスも、86年に消滅。同年にコミックスから撤退している。現在は同社は作品とともにDCが買収し、独自のアースを与えられている。関連タイトルで有名なものは「ウォッチメン」。同作はチャールトン・コミックスのヒーローを基にして描かれた。
53年以降、フォーセット社はコミック部門を閉鎖。その後は雑誌やペーパーバックなど、出版業を継続。特にペーパーバックに関しては、印象的なシリーズを発行していた。
また、53年以降も一切コミックを出さなかったわけではなく、59年から79年の20年間、有名な新聞漫画、「デニス・ザ・メナス」をコミックブックの判型に再編集したもの(平たく言えば単行本)を販売していた。
1977年、フォーセット・パブリケーションの権利は、CBSに売却される。