「お前はまだ分かっていないな。お前が生まれた時から、私には愛情のかけらさえ無かった。それがゴーマだ!」(第21話)
演:西凜太朗
概要
同作における敵勢力・ゴーマ族の強硬派三幹部のリーダー格。阿古丸とコウの父親でもある。
全身にカラビナやベルトがあしらわれた、ボンデージ調の衣装に身を包んでおり、右目を覆う眼帯風のリングが特徴。いわゆる前線指揮官に相当するポジションであり、持ち前の優秀な頭脳をもって地球侵略・対ダイレンジャー等数々の作戦の立案に当たる。
また、頭脳面のみならず戦闘能力も非常に高く、「火炎地獄」という技で炎を自在に操る他、妖力や自在に伸びる鉤爪を用いてのオールレンジ戦闘を得意とする。さらに鉄仮面を着けたような戦闘形態へ変化する能力も備えており(この能力自体は三幹部共通のものである)、気力ボンバーを弾き返すだけの力を発揮できるようにもなる。後述の嘉挧との決闘に際しては、赤を基調とした鎧姿(バトルスタイル)へと変化したこともある。
物語後半で明らかにされたようにゴーマの皇位継承権の保持者でもあり、それ故にプライドや権力欲も非常に高いのだが、その反面一族・組織内における立場は決して高いものではなく、ゴーマ皇帝の側近たる元老院の大僧正リジュ(ノコギリ大僧正)が前線に赴いた際には散々に侮られ、また田豊将軍との指揮権争いにおいても、あわや失脚しかけた時もあった(この時は「6体目の気伝獣誕生の予言」という切り札を提示し、すんでのところで指揮権の保持に成功している)。
性格は極悪非道そのものであり、人間など取るに足らない存在であると見做している。とりわけ愛情というものを侮蔑しており、実の息子であるはずの阿古丸に対してでさえも、終始執拗なまでの敵意を向け反目、遂にはゴーマからの追放のみならず用済みとして死に追いやるまでに至っている。
その阿古丸の最期や、母を亡くし悲しみに打ちひしがれるコウ等、息子達の悲惨な境遇を目の当たりにしてなお、「何とも思わんな」と一切の感慨もなく平然と言い捨てるなど、物語終盤に至るまでほぼ一貫して、情愛という感情の欠如した人物として描写され続けた。
このような経緯からダイレンジャー、特にコウにとっては最終的に複雑な立場の相手になったが、上記した悪辣な性格やこれまでの悪事もあってか、ダイレンジャーからは最後まで「コウの父親」ではなく「倒すべき敵」として認識され、コウにも彼等の配慮により最後まで彼や阿古丸との血縁関係が知られることはなかった(仮に知ったところで火に油でしかなかっただろうが……)。
他方で、シシレンジャーが自身の幻を作り出した際には思わず呆気にとられたり、思わぬ形で長年疎遠となっていた妻と再会し、キバレンジャーことコウが自分の息子である事を悟って一時呆然とする等、極稀ながらも予想外の事態に弱い面も見せている。
すっげェ~真実
かねてからゴーマの支配者となる機会を虎視眈々と狙っていたシャダムであったが、物語終盤において大神龍の襲来により、ダイレンジャーとゴーマとの間で2度目の休戦協定が結ばれると、その条件の一つとして道士・嘉挧がゴーマへ復したことにより、自身と同じく皇位継承権の保持者であった嘉翔との間で、次期皇帝の座を巡る決闘に臨むこととなった。
気力・妖力の塔の力を受けた嘉翔に一度は圧倒されながらも、他の三幹部等の暗躍もあって嘉翔を下し、この決闘に勝利を収めたものの、事はそう容易には運ばなかった。
直後のゴーマ十五世との謁見において、皇位の継承を要求するシャダムであったが、十五世からは皇帝の証である「大地動転の玉」の譲渡は自分の引退後だと、その要求を拒絶されてしまう。
「だったらたった今引退していただこう」となおも迫るシャダムを、十五世は大地動転の玉の力で吹き飛ばすが、柱の下に転落したシャダムはふらつきながらも立ち上がり、呵々大笑しながら
「ゴーマぁ……まだ何もわかっていないようだな!?」
と告げ、訝しむゴーマ十五世に驚くべき事実を突きつける。
「ゴーマ十五世。元の土に還れ!!」
その瞬間、十五世の体が土と化して崩れ始め、崩壊した手から滑り落ちた大地動転の玉を飛びつくようにキャッチするシャダム。念願であったゴーマ皇帝の座をその手に収め、得意げに真実を語り始める。
シャダム「6000年前のあの時……ゴーマ族とダイ族は、死力を尽くして戦い共に滅んだ……その時貴様も本当は死んだのだ!!」
十五世「何を言っておる!? ワシは死んではおらんぞ!」
シャダム「ハッハッハッ……! 幸い俺は生き残ったが、復活したゴーマで皇帝にはなれなかった。元老院がうるさくてな! そこで俺はお前という操り人形を作り、魂を吹き込み、裏からゴーマを操り続けたのだ! この日が来るのを楽しみに待ちながらなァ……」
十五世「そ、そんな……このワシが操り人形……!?」
ゴーマ十五世、そして他の幹部の泥人形を作り、ゴーマという組織そのものを操っていた黒幕はこの男だったのである。
そして、突入してきた亮、将児、知を前に、大地動転の玉の力を取り込み変身。かくしてゴーマ十六世としてゴーマ族の頂点に立ったかに思われたが…。
それも束の間、
大五「……大神龍だ……!!」
リン「クジャクが言ってた巨大な力っていうのは、このことだったのね……」
土壇場で大神龍が三度飛来し、決戦の場となっているゴーマ宮に対して直接攻撃を開始したのだ。
もはやゴーマの崩壊はほぼ確実になってしまったが、諦めきれないシャダムは「ダイレンジャーを倒せば戦いはゴーマの勝利で終わり、大神龍は地球を去る」と自分に都合良く考え、他のゴーマ達が戦意喪失して逃げ惑う中、亮達を逃がさず執拗に襲い掛かる。
しかし、外にいた大五、リン、コウが突入し総力戦が始まると思われた直後、嘉翔の魂が現れこう告げる。
嘉翔「聞くんだ、皆。愚かな戦いをやめ、今すぐにここから逃げるんだ。気力と妖力は光と影、正義と悪……この世全てのものが二極から成り立つように、気力と妖力もまた表裏一体。元は一つなのだ」
「一つの力を二つに分け、お互いが争いながら永遠に生きていく。これ即ち人間の宿命なのだ。妖力が滅べば気力も滅び、気力が残れば妖力もまた残る。全てが虚しい戦いなのだ……」
「勝負は永久につかない……逃げろ! 逃げるんだ!」
争いを止めるよう告げると、天宝来々の玉、大地動転の玉が天に吸い込まれ消失。ダイレンジャーの転身は解除され、シャダムも力を失い元の姿に戻ってしまう。
大神龍の攻撃によってゴーマ宮の崩壊も進む中、狂気と権力欲に支配されたシャダムは妖力を失ってもなお手に入れた王国を手離したくないと玉座へと逃亡するが、亮がそれを追う。
「ゴーマは俺の物だ……俺の物だァァアアアァッハハハハハハーッ! 誰にもゴーマを渡さァァァん!!」
そこに単身で追撃してきた亮ともみ合いになり、その際自分が持ち出したナイフで殺害しようとするが、逆に腹部を刺されてしまい致命傷を負う。たたらを踏んで後退するシャダムだが、その時彼が目の当たりにしたのは、到底信じ難いものであった。
口から吐き出されたのは血ではなく、泥。
そして、
シャダム「お、俺の手が……!?」
亮「……泥だ……ッ!?」
それは自らの足が、手が、そして体が、偽のガラやザイドス、ゴーマ十五世と同じように泥と化して崩れゆく光景だった。
シャダム「馬鹿な、コレはッ……一体どうなってるんだ……!?」
亮「ああッ……シャダム……!」
シャダム「俺も……泥人形だったのか……嘘だ……助けテクレ……タスケテクレリョォォォォ!!」
それを最後に、シャダムは己の死に絶望しながら泥と化して崩れ去った。
崩れた泥の塊の中、ゴーマの破滅を示唆するかのように、怪しく光る目玉一つだけが虚しく転がっていた。
己の欲望のために6千年もかけて暗躍し、自分の子供を切り捨ててまでゴーマの支配者に君臨しようとしたシャダム。
そうまでした果てに待ち受けていたのは、「全く予期しない形で無理やり戦いの幕を下ろされ、果てには自分自身も文字通りの”傀儡”でしかなかった事実を嘆きながら、支配する民すらいなくなった空っぽの城と共に滅びる」という、まさに「因果応報」極まりない、しかしあまりにも呆気ない最期だったのである・・・。
残された謎
前述の通り「最終話でダイレンジャーに倒されたシャダム中佐」は何者かが作った泥人形であり、少なくとも最終話の彼は、阿古丸とコウの本当の父親である「本物のシャダム」ではなかったという事実が明らかになった(身内に対する情愛が感じられなかったのも、泥人形だったからと言えば言い訳はきくか?)。
しかし、だとすればいつから彼は「本物のシャダム中佐」と入れ替わったのだろうか?
そして「本物のシャダム中佐」はどうなったのだろうか?
まず、10歳になる息子達の存在から、当然ながら彼等が母親の胎内に宿るまでは「本物のシャダム中佐」が活動していたのは確実だろう。「誰かが本物のシャダムを殺害し、彼の計画を乗っ取った」あるいは「最終決戦で本物のシャダムは影武者の泥人形と入れ替わり、そのまま逃亡した」と、様々な説がファンの間で上がったが、結局真相は不明のままになっている。
一方で泥人形が崩れた後も眼球が一つだけ崩れなかった事から、あの眼だけは本物のシャダム中佐のもので、本物のシャダム中佐は既に死んでいる、という説もある。よくよく考えればいくら強い妖力を持っていようと”血の通った人間”が六千年も若い姿を保てるはずがないのだから、「寿命を伸ばすために死ぬ前に自分と同じ姿の泥人形に記憶と人格を引き継がせていた」とすれば多少なりとも辻褄が合うだろう(実際ゴーマに寿命があるのかは不明だが)。いずれにせよ、やはり最初から本物のシャダム中佐は死んでいたという説の方が、ファンの間では有力視されているようである。本物が死亡した後に泥人形の方が生を受けて、シャダム中佐と言う刷り込みを重ねることで「自分はシャダム中佐」と思い込んだとも推測が出来る。
そして、50年後に復活したゴーマとの戦いが再開されるのだが、その新たなゴーマの首領は未登場であり、またその人物が果たして本当に黒幕であるのかどうかもはっきりしていない。
漫画版
放送当時、児童誌『てれびくん』で連載された漫画版では、用済みとなったガラとザイドスを泥人形へと戻した後、嘉翔との死闘を展開。その果てに嘉翔の願いを聞き届けた大神龍の力で、嘉翔共々宇宙の彼方へと飛ばされる結末となっており、TVシリーズと違って泥と化す事なく退場していた。
備考
デザインは篠原保が担当。なんでこんなデザインになったのかはあまり覚えていないと前置きしつつ、デザイン作業に際して小林義明より提示されたボンデージファッションの写真を元にラフを起こしたところ「あ、これこれ」みたいなノリで決まったことを後に述懐している。当初はガラ・ザイドスも含めて三幹部全員がスキンヘッドとされていたが、「男優はともかく女優にスキンヘッドは流石に無理」と難色を示されたことから、逆に全員に帽子を被せる形で処理されている。
物語終盤、嘉翔との決闘の際に見せた鎧姿(バトルスタイル)は、「派手にして欲しい」という一点以外は特にオーダーはなかったことから赤を基調に、嘉翔の鎧に対抗して鎧っぽくない雰囲気が志向されている。一方で、その嘉翔の鎧姿も赤であったことは知らされていなかった(こちらのデザインはマイケル原腸が担当)ため、「(前述のオーダーがなければ)多分赤とか入れないと思う」とも語っている。
阿古丸や妻との関係が終始険悪であったのは前述の通りだが、後年演者の西がTwitterにてアップしたメイキング写真では、作中とは逆に演者達が仲睦まじい様子であった。こちらを参照。
また、泥人形に戻り崩壊するシーンでは口から泥を吐いているが、これはチョコフレークである(西曰く、撮影に際しては本当に泥を口に含んでおくつもりだったが、これは流石にストップがかかったという)。
結果的にはスーパー戦隊レストランでも再現メニューを作りやすくなったかもしれない。
関連タグ
毒親:ただし、作中の彼が最初から泥人形だったとすれば、当然ながらコウと阿古丸の本当の父親ではないため、その場合は本当の父親である本物のシャダムが、息子達の事を実際にどう思っていたのかは定かではない。他方で、コウの母である妻は彼との対面時に嫌悪感のある反応を見せており、やはり本物も家族に対して非情な人間だった可能性が高い。
キメンボーマ:『高速戦隊ターボレンジャー』に登場する敵怪人の一体。こちらも人間の女性との間にハーフの子供をもうけていたが、シャダムとは逆に家族を愛していたという点で相違している。
大魔女グランディーヌ:『救急戦隊ゴーゴーファイブ』における毒親でラスボス。
血祭ドウコク:『侍戦隊シンケンジャー』の登場人物の一人。演者やラスボスというポジションにおいてシャダムとの共通項を有する一方、策を講じず力押しを好み、最後まで堂々と戦い散り際も潔さを感じさせるなど、総大将の肩書きに相応しい人物で、同じ悪のラスボスでもシャダムとは違うタイプのキャラクターが志向されている。
ドン・アルカゲ:『ルパンレンジャーVSパトレンジャーVSキュウレンジャー』の登場人物の一人。TVシリーズにて活動していたシャダムと同様に、本物が関わった影武者の派生した存在である一方、こちらは自身の正体に自覚的で、かつ独自の自我を持っているという相違点を有する。
バラシタラ:『機界戦隊ゼンカイジャー』の登場人物の一人。こちらも悪の幹部にして毒親であり、息子からは「父を出し抜くこと」を目的にされるほどに嫌われている等、複数の共通項を有している。