コウの母
こうのはは
「あの子が10歳の誕生日を迎えるまでに、私と会えなければ、あの子はゴーマに・・・!」(第29話)
演:三輝みきこ
その名の通り、吼新星・コウの母親である中年の女性。本名、それに詳細な素性については作中ではほとんどと言っていいほど言及されていないが、作中でのやりとりから少なくともダイ族の末裔であることだけは判明している。
コウとは彼が4歳の時に生き別れ、そのまま長きに亘って行方知れずとなっており、その際彼の腕に虎の形をした焼印を押していったことが作中でも言及されている。このことは物心つく前のコウにも深いトラウマを残しており、後に阿古丸が彼の肉親に対する憎悪を煽ってゴーマに引きずり込もうとした際にも、その時の記憶が呼び起こされたこともある。
他方で、将児からの呼びかけでコウの中の母親への思慕の念が蘇った際には、まだ幼い頃のコウと楽しげに遊んでいる様子も回想されており、少なくとも息子に対する情愛は人並み、もしくはそれ以上に持ち合わせていたことが窺える。
コウにとって、生き別れの母親の所在を突き止め再会することは、ゴーマとの戦いに比肩するほどに重要な命題であったのだが、一方で彼を執拗につけ狙う阿古丸にとってもまた、コウの母は重要な存在でもあった。
というのも、行方不明になっていたはずのコウの母は、経緯こそ不明ながら阿古丸によって囚われの身となっており、阿古丸はコウをゴーマへと引きずり込むための切り札として、その身柄を拘束し続けていたのである。もっとも、母親の生存を示されてなおコウは阿古丸の軍門に下ることを拒み、結果として阿古丸の手によりコウの母は再びいずこともなく飛ばされ、直後に阿古丸が落命したこともあってその所在は永久に分からずじまいとなった・・・。
・・・かに思われていたが、物語も後半に入り、コウがキバレンジャーであることがダイレンジャーやゴーマに露見するのとほぼ時同じくして、コウやダイレンジャーの前に突如としてコウの母の幻影が現れる、という事態が発生する。
これはコウの身にまつわる秘密をダイレンジャーに伝えんとすべく、コウの母が最後の気力を振り絞ってコンタクトを図ろうとしたが故のことであり、ダイレンジャー本部に出現した彼女の幻影は、
- キバレンジャーの正体を秘匿していた理由が、コウがダイ族とゴーマ族の血を引いているという事実をゴーマに知られたくなかったためであること
- 幼いコウの腕に押した焼印が、彼の中に流れるゴーマの血を封印するためのものであったこと
- その封印の効力も、コウが10歳の誕生日を迎えるまでに再会できなければ消失してしまうこと
という重大な事実を、ダイレンジャーや道士・嘉挧に伝えたのである。もっとも、「コウの誕生日がいつなのか」という肝心な情報や、自らの居場所までは伝えきることができず、これ以降コウの母は再び音信不通の状態となってしまった。
その後物語も終盤に至り、コウの母は地獄より復活した阿古丸によって再度囚われの身となっていたのだが、偶然にもその事実がダイレンジャーに露見。イカヅチの妨害等もあって身柄を取り戻すことこそ叶わなかったものの、この時コウの母が持っていた指輪がリンの手に渡ったことで、その指輪の導きにより遂にダイレンジャーもコウの母と直接の対面を果たすこととなる。
一方で、阿古丸の独断専行が大神龍の再来という事態を招いたことにより、危機感を抱いたシャダム達三幹部も彼女の抹殺に乗り出し、コウの母を巡ってダイレンジャーと三幹部、そして阿古丸による三つ巴の戦いが展開されることとなるのだが・・・その最中、さらなる意外な事実が明らかにされる。
――そう、コウの母の産んだ子供が「2人いた」という事実が。
乱戦の末にダイレンジャーによって保護されたコウの母は、阿古丸が自身の息子であり、同時にコウとは兄弟であると打ち明けている。即ちその告白は、阿古丸の実の親であるシャダムと夫婦の関係にあったことをも意味するものであった。
そもそもこのような事態に至ったのは、ゴーマ族の「双子が生まれたらその弟を殺さねばならない」という決まりが深く関わっている。
コウの母は、決まりとはいえ双子の弟であるコウを殺すことはできず、彼を出産すると同時にコウを連れてゴーマからの逃亡を図ったのだが、その際に兄である阿古丸を連れて行けなかったことを悔やんでおり、後に彼と再会してからもその負い目から、実の母と名乗れずにいたのである。
ともあれ、ダイレンジャーとともにコウの元へ向かったコウの母は、阿古丸からの再三の妨害を受けながらも、タイムリミットであるコウの誕生日――12月24日の正午までにどうにかコウと再会することに成功。白虎真剣と共に、洞窟の中で洗礼の儀式を行い彼をゴーマの血の呪縛から解放すると、目覚めたコウと念願の対面を果たすに至る。
しかしそれも束の間、儀式や洞窟外での巨大戦の影響で落盤が発生し、コウの母は息子をかばって巨岩の下敷きとなってしまう。そして自分を助け出そうとするコウに対し、キバレンジャーとしての使命を果たさねばならないこと、そしてリン達がいることを告げ、強く生きるよう言い含めて彼に洞窟からの脱出を促したのであった。
こうしてコウを救うという最大の目的を果たし、一人死んでいくかに思われたコウの母親であったが・・・そのコウと入れ替わりに深手を負った阿古丸が洞窟に入り込み、最後の最後で「母子」として対面を果たせたことが、彼女にとってせめてもの救いであったのかもしれない。
その直後のクリスマスイブの晩、コウのためにクリスマスケーキを買った帰り道にて、リンはとある家庭の母子達に、ほんの一瞬コウと阿古丸、そしてコウの母の姿を重ね合わせていた。それは皮肉にも、「息子2人と幸せそうに出かける」というあり得たかもしれないIFの光景であった。
そしてリンはこの後さらにもう一回、コウの母の幻影を目撃している。それは物語最終盤、解散を通告されたはずのダイレンジャーが、嘉挧の立てた「妖力の塔」を守ろうと奮戦していた時のことであり、傷付き倒れかけた5人の前に魔拳士ジン達と共に現れ、5人を応援している。
前述の通り、コウの母親の人となりを語る材料は極めて少ないが、中でもシャダムとの関係に関してはほとんどと言っていいほどに描写がなく、不本意ながらも生き別れとなった二人の子を最後の瞬間まで愛おしんでいたコウの母親と、対照的に実の息子である阿古丸すら躊躇なく見殺しにし、彼や妻の最期を前にしても悼む様子すら見せなかった程に冷酷なシャダムが、どういった経緯で結婚に至ったのかについては今なお謎の残るところである。
可能性として、当初彼女にはガラ中佐や鉄面臂張遼のような、ゴーマに寝返る何らかの理由を持ち合わせていた、もしくは当時のシャダムが、張遼の語る「気力と妖力が備わって真の力が生まれる」ことに倣って気力と妖力を持つ子供が欲しかったという、戦略結婚の疑いがあったとも指摘されている。
そもそも作中でのシャダムが、冷酷な側面だけが肥大化したアレだったがゆえに、何も感じなかったのは当たり前とも言え、コウの母と結ばれた当時存命中だったであろう本物は、あくまでゴーマのルールに則って双子の片方を始末しようとしたに過ぎず、仮に張遼のような生身の人間のままであれば、家族絡みでまだ動揺していた可能性もなくはない。
コウの回想シーンにてコウの母が幼いコウに断腸の思いで焼印を押すシーンで流れていたBGM(M116T3、放送当時のサントラ盤にはトラック「涙の向こうに」の2曲目として収録)は、2014年から2015年にかけてニコニコ動画でTVシリーズ全話が公式配信された際、『焼き印のテーマ』という不謹慎そのものな呼び名のコメントがなされていた事もある。
一応、このBGM自体は亮と鉄面臂張遼との対峙など、先の回想に留まらず番組初期から様々なシーンで選曲されてきたものでもある。
シャダム中佐:夫(だが作中で登場した方は前述の理由から、コウや阿古丸とは血縁関係はない可能性がある)
小田切綾:『鳥人戦隊ジェットマン』の登場人物の一人。コウの母親とは演者を同じくするが、こちらは(結婚願望こそあるものの)作中では未だ独身である、という相違点も有する