「失せろ! 何者も、俺に命令することはできん」(第27話)
登場話数:第26・27・35・39・47・48話
演:広瀬匠
概要
物語後半より、度々天火星・亮と相まみえる事となる魔拳士。闇空手の異名を持ち、究極の殺人拳とされる「豹牙流邪心拳」の使い手である。
普段はキザで慇懃無礼な態度が目立つ一方、激昂すると言葉遣いが荒くなる面もある。またトレードマークとして、髑髏が刻まれたコインを持ち歩いており、後述の道場破り等で自らの拳を振るう際にはこれを宙に弾いてキャッチするまでに相手を殺すという、独特の流儀の持ち主でもある。
元々は的場陣(まとば じん)という闇の道場破りで、時には他者からの依頼で、またある時は自らの意思で、名うての武道家・拳法家を倒して回っていた。その途上で偶然出会った亮と、拳士としてのあり方を巡って対立関係となり、一度は亮を完膚なきまでに叩きのめしながらも再戦で予期せぬ敗北を喫する。
しかしその陣の強さと非情さに、自らの手足となる魔拳士を作り出そうと目論んでいたザイドス少佐が目をつけ、彼が集めた妖魔のエネルギーを受けて最強の魔拳士へと変貌を遂げた。
能力
普段は的場陣の姿で活動しており、魔拳士としての力を発揮する際には「魔装降臨(ましょうこうりん)」の掛け声で、任意に魔拳士ジンとしての姿を現す事ができる。
得意技として、相手に一切の隙を与えないほどの速さで拳打を叩き込む「豹牙流奥義・邪心風拳」を体得している。この技で一度は亮を倒し、ザイドスをも吐血させた。一方でこの技は、壺道人への対抗手段を編み出す必要に迫られた亮により、新技「天火星秘技・流星閃光」を編み出す上でのヒントとして、そしてそれを体得するための最大の試練として、大いに利用される事にもなった。
魔拳士となってからは、蜘蛛の糸で絡めとった相手の体に正拳突きで蜘蛛型の痣を刻み、激痛と死の恐怖の中で絶命に追いやる「魔道妖拳・蜘蛛の舞」も会得。亮との三度の戦いでこれを繰り出し、あわや死の淵にまで追い込んでいる。
この他にも、左手からは「魔道破壊波」と呼ばれるエネルギー弾を放つ事もあった。
拳士としての拘りと誇り
ジンを魔拳士へと変えるに至った、尋常ならざる非情さと拳士としての拘りは、修行時代の壮絶な体験に起因している。
修行も佳境を迎えたある時、師匠に追い詰められた陣が崖から転落しかけて助けを求めたところ、その師匠に「このままでは2人とも落ちる」と掴んでいた左手に刃物を突き立てられ、そのまま海へと落とされてしまう。この一件での師匠の行動を、陣は「非情であれ、己の事だけを考えろ」と、豹牙流最後の奥義を教えようとしたものと解釈し、それ以来人である以上に拳士である事に異常なまでの執着を示し、「拳法とは人を殺めるための技」という持論のもと、数々の殺しに手を染めてきたのである。また刃物を突き立てられた左手は、今では金属製の義手になっており、常に黒の革手袋を着けて隠している。
そんな陣にも、かつては師匠の娘である亜紀と相思相愛の仲であったりと、人並みに優しい面があったようであるが、亮との再戦での敗北を経て非情になり切れていないとザイドスに喝破されたのを受け、かつての優しい陣に戻る事を願っていた亜紀までも手に掛ける事で、過去との決別を果たしている。
誕生の経緯からも分かるように、ジンの魔拳士としての力はゴーマに由来するものであるが、そんな経緯やザイドスの思惑を他所に、他人とつるむ事を良しとしない主義のジンは「腐った臭いがする」彼の下につくのを拒絶し、事実上の第三勢力としてあくまで独力で、亮への雪辱を果たす事に執着を見せる。
しかしザイドスはなおもジンを自らの支配下に置く事を諦めてはおらず、前出の「蜘蛛の舞」に打ち勝って再起した亮とジンとの直接対決の折には大筒軍曹をけしかけてこれに介入したり、その際の攻撃から亮をかばってジンが深手を負うと、その身柄を拘束するのみならず餓狼鬼の細胞を密かに埋め込み、意のままに動く操り人形に仕立て上げようともした。
そうとも知らぬまま、脱獄の末に因縁の相手たる亮の元で看病を受ける事となったジンは、彼の愚直なまでの優しさと、一方では「同じ拳士として自分の手で相手を倒したい」というどこか相通ずる信念に触れ、微かにではあるが人間らしい心を取り戻していく事となる。
そして餓狼鬼の細胞の侵食により、自分が自分でなくなりつつある事を察したジンは、亮に対し
「亮、頼みがある。もし俺が拳士でなく、心を失くした怪物となった時……その時は、お前の手で、俺を殺してくれ!急所は、ここだ・・・!」
と、自らの胸を指し示しつつ頼み置くが、その直後にジンは苦しみながら餓狼鬼へと変貌、ジンとしての自我を失い、ザイドスの命ずるままに襲いかかってくる餓狼鬼を前に、亮は意を決してジンの示した急所を攻撃。亮の躊躇いもあって決め手とはならなかったものの、ここでジンの自我が蘇り、自ら胸に刺さったスターソードをさらに深く刺し込むに至って、このままでは餓狼鬼もろとも自滅するとザイドスは判断、ジンと餓狼鬼は分離させられる事となる。
深手を負いながらも、ザイドスに一矢報いるべく一時的に亮と共闘したジンはコットポトロを蹴散らし、ザイドスには邪心風拳を見舞うも一歩及ばず妖力で反撃されてしまう。その間、分離した餓狼鬼はダイレンジャーによって倒され、直後に亮と陣は「拳士として」改めて最後の組手に及ぶが、陣に対して優位に立ちながらも止めを刺さなかった亮に対し、陣は
「甘いな。どこまでも甘い奴だ、お前って奴は・・・。これだけは覚えておけ。拳士は、私情を乗り越える時も必要だと・・・」
と告げ、引き留めようとする亮に「俺は俺でいたい」「これ以上お前の側にいたら、俺が俺でなくなってしまう」と、どこまでも拳士としての自分である事への拘りを見せつつも、世話ばかりかける格好となった亮への感謝の言葉を残し、独りその場を後にしていった・・・。
落日とその後
亮たちの前から姿を消し、傷を負った身で落日の砂丘を独り歩く中、ジンの前にザイドス率いるコットポトロ部隊が立ちはだかる。
圧倒的不利な状況にも恐れる事なく、例によってコイントスの後、不敵な笑みを浮かべてこれに立ち向かっていったジンは、コットポトロ部隊と壮絶な死闘を展開。そして鳴り響いた銃声が止んだ後、宙を舞っていた髑髏のコインが持ち主の手の内に戻る事は、遂になかったのである――。
こうして、奇しくも自ら命を奪った亜紀と同様に人知れず、物語の表舞台より姿を消したジンであったが、後に道士・嘉挧がダイレンジャーの解散を宣言し、苦悩の真っ只中で滝壺で拳を振るっていた亮の前に、髑髏のコインと共に突如姿を現す。
ジン「情けないぞ、亮! 嘉挧がいなければ、何もできないのか!?」
亮「何っ!?」
そのまま頭に血が上った亮と殴り合いになるが、事もなく亮の拳をあしらいながら叫ぶ。
「忘れたのか!? 拳士は私情を乗り越え、平常心で臨んでこそ、真実が見えて来る!」
「嘉挧がいたからお前がいたのではない。嘉挧がいて、そしてお前もいた!」
「亮! 忘れるな!!」
そう叱咤激励し、いずこかへ跳び去り姿を消した。
この時亮の前に現れたジンが本人なのか、あるいは幻なのかまではハッキリと言及されていないが、いずれにせよこのジンの言葉が、嘉挧の存在ありきではなく自らの意志で、ダイレンジャーとしてゴーマを打倒するという決意を亮に固めさせるきっかけとなったのは、紛れもない事実である。
亮「そうか・・・! わかった・・・わかったぞ、ジン! 嘉挧がいようがいるまいが、俺の、いや! 俺達ダイレンジャーのやることはたった一つ・・・ゴーマを倒すことだァァァッ! うおおおおおーっ!!」
その後、嘉挧が立てた気力・妖力の塔を巡ってのザイドスとの戦いで、窮地に追い込まれた亮達の前にもクジャク達とともに幻影として現れ、彼らを励ましている。
余談
総集編と終盤を除き、彼にまつわる回は全て井上敏樹が脚本を勤めており、その全てが一貫して冒頭やシメのナレーションが一切入っていない特別なエピソードとして扱われている。
衣装デザインは篠原保が担当。デザインの段階で既に演者が広瀬匠である事は決まっていたようで、その事を念頭に置きつつ同時に、『ストリートファイターII』等に代表される、放送当時の格ゲーブームが下地にあった上での「道着を着ているキャラクター」的な発注が制作サイドからあった事を、後年のインタビューにて述懐している。
デザイン画では、メカニカルな印象の強い左腕も他の部分と同様の黒とされていたが、造形の段階で肘より先が銀色に改められている。