曖昧さ回避
- 1989年に公開された映画ドラえもん。本稿では解説。
- 2016年に公開された上記のリメイク版映画。⇒新・のび太の日本誕生
概要
平成最初のドラえもん映画である。ただし、原作の大長編は映画に先駆けて1988年(昭和63年)10月から連載が開始され、1989年に劇場版が放映された。
7万年前の後期更新世日本およびアジア大陸を舞台にしている。
作者の藤子・F・不二雄の生前では配給収入、観客動員数ともに最高記録を誇る(現在はどちらも『のび太の宝島』が保持。ただし、収入は興行収入での計算)。
通常エピソードとの繋がりが多いのも特徴で、冒頭では「山おく村の怪事件」で登場した山奥村が再登場するほか、「いつでもどこでもスケッチセット」(TC41巻収録)やTVスペシャルで放映された「7万年前の日本へ行こう」では本作のその後が断片的に語られている。
また、公開翌年には後日談を描いたゲーム『ギガゾンビの逆襲』が発売されている。
なお、同じ元号(平成)のうちに、オリジナル版とリメイク版が制作されたのは本作のみ。リメイクされた作品の中で、オリジナルとリメイクが共に高評価である数少ない例でもある。
あらすじ
いつものごとく家出を言い出したのび太は、今度は本気だと強気で出て行くが、どこの土地も所有者おり、住める土地が見つからなかった。悩んでるところにしずかちゃん、ジャイアン、スネ夫、さらにドラえもんも家出に加わる。そこでドラえもん達は人類が住むより遥か昔の日本へタイムスリップし、そこを僕らの土地にしようとを思いつく。
5人が辿り着いた先は7万年前、まだアジア大陸と繋がっていた(後に、最新の研究で九州は浅い海峡が維持されており、北海道で繋がっていたと判明したらしい)氷河期時代の日本列島。誰もいない日本で自由に開拓して家出を満喫。のび太はドラえもんのひみつ道具を使って空想動物も生み出した。しかしやはり5人はとりあえず家に戻ることに。ところが現代に戻ると、そこに原始人の格好をした少年が現れる。持っていた石器が本物だったことから、彼が本物の石器人だとわかる。
彼は大陸に暮らしていたヒカリ族のククルで、時空乱流に飲み込まれて現代にタイムスリップしていたが、それより前にヒカリ族は凶暴なクラヤミ族と彼らを率いる「精霊王ギガゾンビ」に襲われどこかに連れて行かれていた。
事情を知ったドラえもんたちはヒカリ族を助け出すためにククルに協力する。
主なゲストキャラクター
原始人の少年。ドラえもん達の力を借り、クラヤミ族から仲間を救うべく闘う。後に、日本最初の部族長に任ぜられた。その血統は奇跡的に現代まで繋がっており、チンプイのヒロインである春日エリは彼の遥かな末裔である。
ドラえもんのひみつ道具を使い、のび太が作ったペットたち。
それぞれ、白鳥+馬、ワシ+ライオン、ワニ+シカ+トカゲ(映画ではコウモリ)の動物の遺伝子アンプルとクローニングエッグから生まれた。本来、この二つの道具はアンプル一つで特定の動物を作り出すという効果を持っているが、のび太は掛け合わせが可能という特性を応用して彼らを生み出した。
なお、掛け合わせて生み出された動物達は体の構造や物理法則に囚われず、伝承どおりの能力を発揮できるようで、彼らは全員のび太達を乗せて飛行する事が出来た。(パーツの位置といい、ここまで緻密に再現できるひみつ道具の凄さには目を見張るものがある。いつものドラえもんのノリならばパーツの位置があべこべになっていたりしていただろう。)
ちなみに、ドラコは東洋龍がモチーフだが、映画では(コウモリのアンプルを使用しているので)背中に翼がある為、西洋のドラゴンの要素もある。(実際に幼体は西洋のドラゴンそのまま。なお、1989年版ではシカを素材に生み出された割には角がヤギのそれであり、リメイク版で角がよりシカらしいデザインになった。)
架空動物故に石器時代や現代に存在することは(歴史や生態系に影響を及ぼす可能性が有るので)許されないため、事件解決後、3匹ともタイムパトロールに引き取られ、空想動物サファリパークで育てられることになった。
クラヤミ族を率いる謎のまじない師。不死身の精霊王と噂され、雷や嵐を操る。
ギガゾンビの配下の土偶型ロボット?
家出の理由
- ドラえもん:のび助が旅行に行った上司のペット(ハムスター)を家に連れてきた
- のび太:家でも学校でも叱られてばかり(リメイク版では0点のテストがきっかけで勉強以外の活動を当面禁止)
- しずかちゃん:ピアノのお稽古が辛い
- スネ夫:全教科に家庭教師を付けられそうになった(リメイク版では強制的に3か国語を習わされたから)
- ジャイアン:家の手伝いをさせられ過ぎてうんざりした。
このシーンでの母ちゃんの「そう言う台詞は奴隷みたいに働いてから言うことだよ!!」はよくネタにされる。詳細は以下の通り。
ジャイアン「子供にも人権があるっつーの!俺、かーちゃんの奴隷じゃないっつーの!!」(涙目の訴えもむなしく母ちゃんによる盛大な張り手が炸裂)
母ちゃん「そう言うセリフは、奴隷みたいに働いてから言うことだよ!!」
原作との主な違い
- ギガゾンビの下部・ツチダマの個体数が遮光器土偶1体のみ(2016年版では原作通り複数の個体が登場するがそれぞれ形が異なっている)。
- ヒカリ族の復興場面で、宴会を主とした。原作では、ウタベと言う男性が見事な歌声を発揮したのを見たジャイアンが感激して「ボエ~」と歌おうとしたため、騒ぎになる一幕も。
- ドラゴン誕生には、トカゲのアンプルを使用せず、飛行可能のコウモリのアンプルを使用した(2016年版も同じく)。
- 原作および1989年版ではペガに乗るのはしずか、グリに乗るのがククルだが、2016年版では逆になっている。
- 時空乱流の説明にて、原作の5つの具体例のうち1つが挙げられた。
- ギガゾンビの罪名が「亜空間破壊罪」になっている。(原作および2016年版は「歴史破壊未遂罪」)
劇中に登場する主な古生物
1989年版・2016年版共通
1989年版限定
リメイク限定
余談
作中では明確には語られていないが、ククルを含めた『ヒカリ族』は人類史で新人と呼ばれることもある「現代型ホモ・サピエンス」、敵対したクラヤミ族は旧人と呼ばれることもある「ネアンデルタール人」だとすると対立構造が分かりやすくなる。なお、作中でヒカリ族とクラヤミ族が暮らしていたのは、日本列島ではなくアジア大陸であり、本作の中盤から終盤まで冒険の舞台となっているのもアジア大陸である。
映画公開後の1989年7月に漫画の単行本が発売され、最後の1頁が描き加えられた。そこには、ククルたち(新人)が移住するよりも前の日本には人間がいなかったという誤解を防ぐために、「それ以前の日本にも人間はいたようだ。だが、彼等(旧人)は、やがて絶滅したらしく、今の日本人と血のつながりはない」という文章が記載されている。
作中は7万年前が舞台だが、2023年現在の学説では、日本列島に「現代型ホモ・サピエンス」(新人)が移住したのは4万年前以降だといわれている。その前の年代の遺跡からも石器が見つかっているが、それらは旧人の石器だと考えられている(諸説あり)。
原作にて時空乱流の具体例として挙げられた5つの事例には全て元ネタが存在している。
ただし、中には現在はデマであると断定されたものもある。
いわゆる「1593年の瞬間移動した兵士の伝説」と呼ばれるもの。
一部の民族学者が流布した伝説であり、真偽不明。
恐らくイギリスの外交官であったベンジャミン・バザーストの失踪事件のことだと思われる。
ただし氏はオーストラリアではなく、在オーストリア特命全権公使であり、失踪した地点もドイツのペルレベルグである。
なお、氏の行方については現在では何者かに殺害されたことが定説となっている。
- 1913年有名な作家アンブロース・ビアスが行き止まりの洞窟に入って行ったっきり二度と出てこなかった
アンブロー「ズ」・ビアスの失踪のことを指しているのだと思われる
氏がメキシコで失踪したのは事実だが「行き止まりの洞窟に入っていった」という事実は確認されていない。アレンジか噂に尾鰭がついたものだと考えられる。
恐らく「ノーフォーク連隊集団失踪事件」を指していると思われている。ノーフォーク連隊が失踪したのは事実だが、「雲に包まれて消えた」という証言は事件から50年も経った後に初めて公表されたものであり、現在ではデマであると断定されている。
実際のノーフォーク連隊はトルコ軍の待ち伏せにあって全滅しただけであり、1919年に122名の遺体を当地の集団墓地で発見し、残る144人は捕虜にされたのだろうと結論づけている。
- 1937年12月長江の橋のたもとで作戦行動中の中国兵3000人がゆくえ不明
そういう話があるのは事実だが、事件そのものが実話なのかどうかを含めて謎が多い。