奴隷
どれい
人間としての名誉、権利・自由を認められず、他人の所有物として取り扱われ、所有者の全的支配に服し、譲渡・売買の対象とされた。奴隷を許容する社会制度を特に奴隷制という。
近代になって人権意識の向上や、社会制度の発達により、奴隷制度の廃止の機運が高まり、現在では世界人権宣言で禁止されている。
しかし、現代でも発展途上国や紛争地域を中心に、事実上の奴隷取引である人身売買は後を絶たず、奴隷同然の劣悪な環境での労働が当たり前の国は多く、法律などで「奴隷」という制度および存在は禁止または否定されても「奴隷とさして変わらない身分」の者は未だ世界中に数多くいるのが実情となっている。
また、先進国でもブラック企業で働くものを「会社(または社会)の奴隷」などと表現することが珍しくなく、それ以外でも比喩表現として「何か(あるいは誰か)に束縛・隷属・支配されて(させられて)いる者」を「〇〇の奴隷」と表現することがある(例:「金の奴隷」「スマホの奴隷」、「性欲の奴隷たち」)。
現在では奴隷は国際的な取り決めで禁止されているが、「奴隷」という言葉は廃れても、事実上の「奴隷的身分」は世界のあちこちで未だ数多く存在しているのが現状である。
注:
世界人権宣言や歴史学・社会学などの「奴隷」の定義では、現代の多くの日本人がイメージする奴隷、具体的には「南北戦争以前のアメリカ南部の一般的な黒人奴隷(主に肉体労働に従事する者)」は部分集合に過ぎないので注意が必要である。
例えば、日本で戦前まで行なわれていた年季奉公なども、専門的な文献などの「奴隷」の定義では「奴隷労働」に含まれる場合も有る。
「奴隷の歴史は人類の歴史」と言っても過言ではないぐらい古い。
「戦争で勝った側が負けた側の捕虜や民を奴隷として隷属させる」ことは太古の昔から当たり前のことであったので、人間同士の戦争と奴隷とは切っても切れない関係にあるとも言える。
少なくとも、古代ギリシャや古代中国殷王朝、日本でも弥生時代には既に奴隷(あるいは、それに類する身分)が既に存在していたとされている。
奴隷の境遇は、いつの時代も悲惨なものが大半であった・・・とは言い切れない。
というのも、奴隷の立場は国や時代によって様々であり、所によっては比較的恵まれた奴隷も少なくない。
例を挙げると、古代アテネでは奴隷の数が極めて多く、試算によれば人口の過半数が奴隷だったと言われるほどである。にもかかわらず(あるいは、それゆえに)奴隷の身分や立場は保証されており、ほとんど一般市民と変わらぬ生活を送っていた。そのおかげだろう、古代アテネでは奴隷の反乱がほとんど記録されていない。
また古代ローマでは、高等教育を修めた教師(家庭教師)や医師、会計士など、今でいうところのエリート職の奴隷が珍しくなかった。
当然、こうした「使える」奴隷は高価で取引され、こき使って早死にされては大損するため、主人の下で厚遇されたり、職によっては主人の方針に対して助言や意見を述べることが許されるなど、奴隷でありながら丁重に扱われる者も少なくなかったとされる。
また、稼いだ金で自分自身を買い上げたり、何らかの理由(主人の善意や気まぐれ、奴隷としての労働期限の満了、長く勤めた奴隷に対する感謝、主人の家が破産して奴隷を養えなくなった…など)で主人から解放されたりすることで自由な身となることもあり、そうした身分の者は「解放奴隷」と呼ばれた。
解放奴隷のその後は様々だが、主人との仲が良かったり信頼されていた奴隷の場合、解放後も元主人の下で(今度は一般市民としての)部下や徒弟として働く者も少なくなかったらしい。もっとも、こうした恵まれた奴隷ばかりではなく、無学な奴隷は悲惨な境遇のものも多かった。
イスラム教における奴隷
預言者のムハンマドも所有していたように、奴隷の売買や所有を悪行と定義していない。
ただし、奴隷の扱いや福祉その他に関しての取り決めもきちんと定められており、クルアーンにおいても「奴隷を親兄弟にするように慈しみを以って接せよ(4章36節)」と書かれている。
また、奴隷の所有はイスラム教の教えにおいて合法であり、戦争における戦利品として獲得することも認められているが、解放することはより良いこととされており、ムハンマドは可能な範囲(当時奴隷は社会を維持するのに欠かせない労働力であったことに留意されたい)で奴隷を解放することを教友たちに勧め、自身に至っては奴隷を解放し、妻に迎えてもいる。
無論、身体の自由を保障されていないため、奴隷主や社会情勢によっては過酷な人生をたどった奴隷も少なくないが、イェニチェリはじめエリート軍人の集団となることもあり、奴隷が作ったマムルーク朝やインド奴隷王朝などが存在し、ドン・キホーテの作者のように身代金払って帰れる場合もあるなど、西欧諸国の黒人や南米原住民への扱いにくらべれば遥かにマシだったというのが、脱西洋中心主義時代からの通説である。
SFやファンタジーの世界ではたびたび奴隷が登場することもある。特に、性的な意味で奴隷化された女性にスポットが当たることが多い(R-18なのでここでは詳述できない)。
かつてはこのポジションはメイドであり、奴隷というのはあまりにもアナクロな響きを持つ言葉だったが、イスラム国騒動以降、現代の作品でも違和感ないことが認識され急増している。
近年では小説家になろう・カクヨムを中心としたWEB小説サイトで閲覧できる作品ジャンルの異世界もの(異世界召喚・異世界転生・追放もの・復讐もの等)では、主人公が奴隷を物語序盤(多くは異性の亜人)で仲間に招き入れているのが定番ネタとなっている。
仲間にする理由は作品にもよるが、主に人間に故郷を襲われる、親しかったが裏切られた等の主人公との利害一致し、更に奴隷なら常人と違い裏切るリスクがゼロに近い(仮に主人を裏切ってもその後が続かず、主人という扶養者がいなくなったことで野垂れ死ぬか「主人を裏切った奴隷以下の存在」として扱われるかのどちらかなので、奴隷の側としても主人に対して忠実に振舞っていたほうがまだマシなのだ)ので、復讐としては都合が良いのである。
そもそもその奴隷当人が自分が抱える不治の病や怪我、呪い等を主人公が奔走や魔法・スキル・アイテム等手段を介して完治・解呪してくれた等の大きな恩から主である主人公を裏切る意図は毛頭もないというパターンも見られる。
ついでに言えば、その奴隷が「ごく普通の奴隷」であったことはそれほど多くなく、大抵の場合戦闘能力や魔法能力、農事や商売など特定の方面で非常に高い才能の持ち主だったり、とんでもないチート能力を秘めていたり、実は某国(または亡国)の姫君だったりと、良くも悪くも「掘り出し物」であることがお約束である。
また復讐ものの場合、序盤の終わりから中盤以降は「復讐を完遂し身も心も屈服させた元仲間(大抵は女性)を奴隷化させる」というパターンもまた多い。
追放もの等の場合は『奴隷』とは契約上のみで、実質的には『主人公に仕える従者』もしくは『主人公を支える仲間』という立ち位置になるのが定番である。
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