劇中での扱い
作者は夢野カケラで、『月刊チェヨンス』にて連載されていたファンタジーアクション漫画。
悪の化身ベルゼバブに両親をさらわれたヤマトが、四天王と戦い聖なる石を入手して魔王を倒すと共に、生き別れの妹を探すというストーリーだった。しかし(お世辞にも上手いとは言えない作画や)ストーリーや設定がありきたりでキャラの印象も薄いため元々人気が伸び悩んでおり、さらにある回で担当編集者の小島がありえない誤植を連発したせいで名シーン(※こちらもありがちな内容ではあった)が台無しになったことが致命傷となり、結局10ヶ月で打ち切りを宣告されてしまう。
しかも最終回はわずか3ページしか用意してもらえず、苦心した作者は3ページの間に全ての伏線を回収せんと、超高速展開で物語を完結させてしまった。
本編である『ギャグマンガ日和』ではその後も夢野カケラがスポーツものや恋愛ものを執筆するが同じように打ち切られるという劇中劇が何度か登場する。どれも最終話での伏線回収に定評がある。
登場人物
- ヤマト
- 主人公。全体的に地味。ベルゼバブを倒し、両親を救い、妹と再会するため戦う。新しい技「音速火炎斬」をひっさげてサイアークに挑むが・・・。
- ヤマトの仲間(?)
- 魔法使いを彷彿とさせる外見で、男と女がいる。表題のコマでヤマトと共に3人でポーズを決めているのみで台詞は一言も無い。
- ヤマトの両親
- ベルゼバブに捕まり、一日おむすび一個で重労働をさせられているが、最終話にて痩せ衰えて労働力にならないという理由ですでに(親切なことに最寄りの町で)解放されていたことが判明した。
- ヤマトの妹
- 存在をほのめかせられているが、そんな気がしただけで実際は存在しなかったということにされた。
- サイアーク
- 四天王その1。10回刺さないと死なないらしいのでついた異名は「ザ・フジミ」。しかしそれはハッタリで実際は一回刺されただけで死ぬ、という事実が本人の口から語られた。直後にヤマトの新必殺剣に刺されて死亡。
- キョウアーク、ゴクアーク、レツアーク
- 四天王の残り。ヤマトに倒されたサイアークを最弱呼ばわりして三人で嘲笑っていたが次のコマで突撃してきたヤマトに串団子の様に剣で刺され纏めて倒された。
- ベルゼバブ
- 敵のボス。魔龍城にてヤマトを待ちかまえる。「聖なる石」がないと倒せない事になっていたが、そんな事は無かった。ヤマトがベルゼバブに挑みかかる所でこの話は終わる。
ありえない誤植
『誤植編』にて、当時彼女ができて浮かれていた担当編集者の小島によってとんでもない誤植を連発された。
- あいつだけは…許さない! → パンツだけは…許さない!
- 俺の憎しみは消えないんだ! → 俺の肉しみは消えないんだ!
- お前がヤマトか… → お前はトマトか…
- 俺がヤマトだ! → 俺はポテトだ!
- 俺の新しい技を見せてやる! → 俺の新しい脇を見せてやる!
- うおおおお! → まそっぷ
これだけでなく、最後の煽り文には「彼女ができました~」という小島のどうでもいい私情が書かれていた。因みにその後、小島は初デートの前に彼女に振られてしまい、「ありえないんだぜ!」と叫びショック死したということが新担当の富田から伝えられた。
怒涛の伏線回収
『完結編』にて、突然「次回で打ち切りです」と告げられた夢野は、以下のようにあらゆる伏線を一気に消化し、1対1での最終決戦(の直前)で物語を終わらせた。
- 戦っている四天王のサイアークは無駄にタフで10回刺さないと死なない → 実は1回刺されただけで死ぬ。残りの四天王も「奴は四天王の中でも最弱…」とか笑ってる間に纏めて死ぬ。
- ベルゼバブは魔龍城にいる → 戦っていた場所が魔龍城だった。
- 聖なる石がないとベルゼバブは倒せない → そう思っているようだが別になくても倒せる。
- ろくに食料も与えられず無理やり働かされる両親 → やせてきたから最寄りの町に解放された。
- 生き別れの妹がいることをほのめかされている → いるような気がしていたが別にそんなことはなかった。
- 「ウオオオいくぞオオオ!」「さあ来いヤマト!」 → ヤマトの勇気が世界を救うと信じて…!ご愛読ありがとうございました!
誤植以前の問題点
誤植ばかりが目にいきがちだが、実のところ、他にも問題点は多々ある。
例えばサイアークの「10回刺さないと死なない」設定は「10話くらい引っ張りたい」という理由でつけられたもの。中ボスクラスのキャラにしては明らかに冗長であり、チェヨンスは月刊誌なのでそんな中ボスとの戦いに10か月もかけることになる。ただし、最終回で3ページになってしまうということは元々掲載ページがさほど多くない(じわじわ削られていった)可能性もあり、1話が短いタイプの作品であれば引き延ばしそのものはあまり関係ないと言える(ちなみに元々不人気で同時期に打ち切りで最終回になってしまった別の作品『どっこいおむすび君』は最終回も元々の連載時と同じ4ページであった。『誤植編』にて描かれている回のページ数は作品内の描写から見ても4ページ以上あるのは間違いないようだが「お前トマトか」のやりとりよりも後に少なくとも2ページあることが描写されていることや、その前に主人公が暗い過去を語って、『俺の肉しみは消えないんだ』って決意を新たにするシーンがあることからの判断)。
また『誤植編』の時点で掲載順がかなり後ろにあることから、そもそも不人気であったことが推測されるが、『どっこいおむすび君』よりも不人気になってしまった大きな原因であろうありえない数の『誤植』や『彼女ができたという自慢のあおり分』は完全に担当編集のせいなので同情できなくはないが。
それ以外では、自分の描いたシーンを「超ドキドキのシーン」などとさりげなく自画自賛している、不人気とはいえ常に4ページを確保できている程度ではあった『どっこいおむすび君』に悪態をつくなど、夢野自身も多少漫画家として自身の能力に対する認識に問題のある人物であることが示唆されている。
なお、そもそもの原作者である増田こうすけによれば、『ソードマスターヤマトシリーズは本来「誤植をされる悲しみ」をテーマに描いた作品であり、第一作目の『誤植編』がメインで『完結編』はサブ扱いである』としている。
しかし、『完結編』の方が知名度は高いと言える。
その影響
わずかなページ数で伏線を片っ端から消化し強引に物語を完結させるという手法は、劇中劇でしかないのにもかかわらず「(怒涛の伏線回収と超展開で無理矢理にでもエンディングに持ち込む)打ち切り漫画の代名詞」として大きな影響を与えた。(「数年後…」展開で詳細をすっ飛ばす方向に逃げなかった点も評価される)
パロディネタとして使用するのもあれば、商業作品で実際に(限りなく近い形で)やってしまった作品もある。
一つの例として、4年以上も連載が続いていたため、不人気というわけではなかったが急な打ち切りによりわずか数ページで今までの敵を倒して決着をつけ伏線も回収して「主人公が最大の敵に立ち向かう」シーンで終了、とまさに『ソードマスターヤマト』そのものの展開を見せた『女王騎士物語』があり、当然ながらこの最終回の展開については『リアルソードマスターヤマト』と称されることとなった。詳しくは個別記事、もしくはその関連動画↓を参照のこと。
3分でわかる『女王騎士物語』最終回
関連イラスト
投稿の殆どが本編のパロディ
機械兵団の進軍(※本編もだいたいこんな感じだった) |
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ワンシーンを描いたもの