概要
大長編ドラえもん及び映画ドラえもん第5作。映画の公開は1984年
「魔法」をテーマとしており、劇場版にドラミが初登場した作品でもある(原作者が描いた大長編への登場は本作が唯一)。
「もしもボックス」により実現した「魔法が科学の代わりに発達した世界」を舞台に、ドラえもんと野比のび太、そして5人の魔法使いたちが活躍する。
同時上映は『忍者ハットリくん+パーマン超能力ウォーズ』と、緑色のドラえもん「グリーンドラ」による短編(未ソフト化)。入場者全員プレゼントとしてこのグリーンドラが配布され、これが映画ドラえもん恒例の入場者プレゼントの元祖となった。
EDは小泉今日子の楽曲「風のマジカル」だが、契約上の関係でTVやその後のソフトには使用できず、近年のAmazon配信まで視聴不可能だった。その後のソフトでは大魔境の物が使用され、インストゥルメンタルも他の曲に差し替えられた。(アレンジバージョンはTVでもBGMとして使用されている)
CGを本格的に導入した作品でもあり、これを用いたタイトルロゴやタイムマシンの空間は同時期のTVシリーズにも使用されている。
2007年版『新魔界大冒険』では原作にあった矛盾点の解消や現実世界とのリンクなどについても描かれている。またセワシが登場している唯一のリメイク版作品でもある。
あらすじ
ドラミちゃんから秘密道具「魔法の帽子」をもらって大活躍する夢を見たのび太は、自分が魔法が使えたらという空想に取りつかれるも、ドラえもんには相手にされない。そんな中一緒に行ったゴミ捨て場でドラえもんそっくりな石像を発見する。野球では惨敗してジャイアンに怒鳴られ、しずかちゃんにも魔法は空想と否定されたのび太は出木杉に魔法の存在を訪ねるも、「魔法はかつて学問として存在したが、悪魔の学問として存在を消された」という答えが返ってきた。落胆するのび太の元に今度はのび太そっくりな石像が落ちてくる。
考えの末にもしもボックスで魔法の世界にすることを思いつき実行したのび太だったが、魔法の世界では科学の概念が魔法に置き換わっただけで、のび太は万能どころかおちこぼれのまま。落胆してもしもボックスで元に戻そうとしたが、ジャイアンとスネ夫に馬鹿にされたままではと一つだけでも魔法を覚えようとしたところに様子が気になったしずかちゃんがやってくる。箒で飛ぶ手助けをしてもらい、山奥までジャイアン達を追ったのび太だが、二人は追っかけていた猿のような生き物の反撃でけがを負わされ、のび太達は満月博士の館にたどり着く。博士は「古の話にある悪魔は他の星・魔界星から来たエイリアンで、今再び地球を狙っている」と唱えていたことからテレビはじめマスコミから異端視されており、一方で地球侵略にいち早く気付いた存在として魔界からも目をつけられていた。
博士の娘美夜子に町まで送ってもらったのび太達だったが、家に帰ると出しっぱなしにしたもしもボックスはママによって粗大ごみとして処分されてしまっており、元の世界に変えるすべを失ってしまう。仲たがいするのび太とドラえもんだったが、その夜一匹の猫がやってきた。猫は月の光の中、美夜子になり、館が悪魔達に襲われて博士は魔界にさらわれたこと、さらに悪魔と戦う選ばれた勇士として共に魔界に乗り込んでほしいと告げたのだった。
世界設定
もしもボックスにより実現した魔法世界は「魔法が科学に取って代わった世界」であり、宇宙空間でも普通に呼吸が出来、虚空から物質を取り出すことができるなど、科学に基づいた世界の法則が通用しない。また、計算上魔法の絨毯が光速を越えているような描写もあった。
魔法は学校で教わるものであり、想像と違いやっぱり落ちこぼれだったのび太でも努力すれば使えるらしく、数日で初歩魔法を使えるようになっている。
人々は箒や絨毯に乗って空を飛んでおり、箒は訓練すれば子供でも乗れる自転車のような扱い。空飛ぶ絨毯には自動車のような免許が必要。
ただし、物体浮遊術等、本作で人間界側が使う魔法の殆どは、どちらかといえば「魔法」よりも「超能力」に近い類とも言えなくも無い。逆に魔界側では何も無い所から火や水柱を出したり、相手を石にしてしまう等、「魔法らしい魔法」を使っている。
逆に科学技術が迷信の類として扱われてるが、ドラえもんが所持する科学の集合体である「ひみつ道具」はこの世界でも機能する(実際にドラえもんとのび太が「タイムマシン」で一時的に科学世界に戻った際、のび太は箒で空を飛ぶ魔法を使うことが出来ている。また、下記のメジューサもドラえもん達を追って科学世界にやって来ているが、その際も石化魔法を普通に使っている。このことから、自分が元々住んでいる世界から持ち出したアイテムや技術は、パラレルワールドでも問題無く使用出来ることが分かる)。未来科学に基づくひみつ道具はこの世界の誰もが想像さえできないものであり、使うたびに周囲から「ありないようなすごい魔法」と感嘆される。ドラえもんはそのたびに「魔法じゃなくて科学」と何度も訂正していたが、最終的には「どっちでもいいけど」とアーサー・C・クラークの法則を体現する形となった。
現代では「高度過ぎる科学は、魔法に近い」とも言える為、未来科学によって生み出されたドラえもんの道具が「すごい魔法」と認識されるのも、ある意味では当然なのかもしれない。
一方、小学校の授業科目として「理科」が存在しており(野比家の物置に教科書があった)、「魔法」と呼んでいるだけで実質的に現実世界の科学(自然科学)と同様のものが存在する可能性がある。
2007年版では現実世界の偉大なる科学者が魔法世界では大魔導師として知られているという設定がある(ニュートンは木から林檎が落ちるのを見て重力を発見し、それを左右する方程式を導き出したとか、現実世界でも行っていたとされる錬金術をパラケルスス以来の大発展に導いたとか)。
魔界
地球では悪魔は人類の発展による圧迫で絶滅した古代の存在と思われていたが、実際は魔界という他の天体からやってきた種族・エイリアンである。
魔界は魔王デマオンの支配する遊星であり、どの星系にも属さない宇宙の渡星とされている。
この星には悪魔の他にもモンスターがゾロゾロ生息しており、魑魅魍魎が跳梁跋扈するとんでもない星として「ナルニアデスの魔界歴程」に記載されている。
星の表面は黒い炎で覆われており、南極にある炎の切れ目以外に通り口がない。
はるか昔から地球の様子を窺っていたデマオンは、いよいよ本格的に地球を征服するために悪魔の軍団を送り込もうとし、満月博士一行はそれを阻止するために、デマオンの心臓に弱点の銀の矢を打ち込もうとするが…。
2007年版では、現実世界における魔界の存在も示唆されており、それは突如として現れたブラックホールの姿で顕現していた。また、2007年版によれば恐竜絶滅やムー大陸沈没、ノアの方舟で知られる大洪水の際にも魔界が地球に接近したとされている。離れていても召喚術で悪魔との交信は可能。
登場人物
地球人
- 魔法世界のジャイアン
この映画の最大の功労者。「耳バン」を貫通する人魚の歌声にも小揺るぎもしなかった偉大なる男であり、ラストシーンでは名投手としてまさかの大活躍をして地球を救った(リメイク版ではのび太がその役目を果たしているが)。
- 魔法世界のスネ夫
- 魔法世界のしずか
通称美夜子さん。15歳の美少女。本作のゲストヒロイン(たとえるならば『男はつらいよ』で言うところのマドンナ)。悪魔の魔法をかけられて猫にされてしまい、月の光を浴びている時にしか人間に戻れなくなってしまう。
2007年版では原作以上にお転婆っぽい一面を見せる。現実世界では天文学者である父満月博士の観測作業を手伝っており、ドラえもんたちとは一度も顔を合わせることのないまま物語は終わる。
恰幅が良いスキンヘッドの中年男性。美夜子の父でありテレビにも出演している魔学博士。
悪魔が他の天体から来たエイリアンで、再び地球を狙って星ごと接近して天変地異を引き起こす「魔界接近説」を発表するも、ほら吹きや頭のおかしい人扱いされていることに憤慨している。
2007年版では魔法世界では強力な魔法使いでありそれに加えて牧師として聖職についている。偉大なる天文学者…というのは語られた現実世界の満月博士も同じ。
中盤で石にされてしまったドラえもんとのび太を救い、その後も二人に同行して魔王軍と決戦を行う。
- ナルニアデス
魔法世界で唯一、魔界に侵入して帰ってきた古代の魔法使い。魔界で実際に見聞きした事を記した『魔界歴程』という書物を残している。この書物がドラえもんたちの魔界探索の手引書となった。
1984年版では具体的な人物像は描かれていないが、原作では悪魔に従うふりをして魔界に侵入したが、最終的に裏切りがばれて八つ裂きにされたとされている。
2007年版では月に自らの魔力を残し、その光によって魔族の魔法を無効化することに成功した(ちなみに月の光が悪魔の魔法を無効化するという設定自体は原作準拠)。
なので悪魔の掛けた変身呪文や石化呪文の類は月光に照らされている間だけ解けることになる。
2007年版に登場。重力操作魔法を発見した魔導師にして歴代屈指の錬金術師。
悪魔
悪魔はいわゆる宇宙人であり、かつては地球を支配していた。服のどこかに星の意匠を施しており、身分が高いほど多くの星を施す事が許されている。
魔界を統べる独裁者。本作のラスボス。
他の悪魔をはるかに凌駕する巨躯の上、不死身という特性を持つ。心臓に銀のダーツを打ち込むしか倒す手段がないが、その心臓を肉体から切り離し宇宙に隠している。
デマオンが消えれば悪魔たちも消える運命にある。そのため本作の目的は、デマオンを倒すことで悪魔の野望をくじくことにある。主な魔法は小惑星を電流に変えて放つ「星の雷」。名前は英語で魔物を表すデーモンから取られたと思われる。
デマオン直属と思われる超キモイ上級魔族。階級・信頼度は三つ星の上級悪魔たちよりも上と思われる。本作の最大のトラウマの一つでもあり、ドラえもんとのび太を石にしてしまった。その後は登場しておらず行方不明だが、デマオンが倒れた際に魔界星や他の悪魔達もろとも消滅したと思われる。主な魔法は石化魔法。
原作では外見実力ともひたすら恐ろしい(生身で時空間を逆行できる能力を持った存在は現在に至るまで原作メジューサの他に登場していない)だけの存在だったが、リメイク版では元ネタに準じてそこそこ美女っぽくなっており、オマケにトラウマブレイカーとなりうる重要な裏設定も持ち合わせていることになった。
どことなくサルに似ている悪魔兵の斥候。満月親子を監視していた。スネ夫とジャイアン程度なら倒せる実力を持つが、ドラえもんがひらりマントで弾き返したドラゴンの火炎を浴びて使役していた下級悪魔やドラゴン共々焼死。
1984年版では序盤から出番が多く、不気味な存在感からメジューサ共々にトラウマキャラだった。2007年版では「ギム」(CV:山崎バニラ)と正式な名称が与えられたが扱いがイマイチ(前日譚によれば魔界の生物ではない事が示唆されている)。
尚これ以前にギガゾンビの逆襲で「デビルモンキー」という正式名称があったが何故こちらを差し置いて「ギム」が名前として採用されたのかは謎。多分スタッフが忘れてただけ。
口元が尖がっていてどことなく怪物くんのドラキュラに似ている顔つきの者が多い。デマオンの部下達で階級は帽子の星の数で定められている。
どうやら人間は食糧と見做されており、作中では料理法を巡って諍いが起こっていたが、星で彩られた魔法ぼうしを被ったドラえもんを見ただけで三ツ星悪魔が上級悪魔と勘違いして逃げ出すなど粗忽な面も。
魔界の海に住み着く人魚。詳細は該当項目参照。
- 大海魔ツノクジラ
50mはあろうかと思われる巨大な怪獣。人魚たちの歌声に誘われて引き寄せられた旅人たちをエサにしていた。人魚たちと同じく、ジャイアンの歌声の酷さにやられて海中に沈んでいった。「魔界大冒険DS」では魔物カードとして登場。
- 魔界のハイエナ
一度入ると樹海のように出られなくなるという「帰らずの原」という地に住み着くプテラノドンのような頭にでかい目の魔獣。ここに迷った動物達を食べており、悪魔ですら犠牲になるという。劇中、悪魔の骨が野ざらしになっている。「魔界大冒険DS」では魔物カードとして登場。
- 帰らずの原の植物
ドラえもん達は大木と方位磁石を指針に移動していたが、実はここの植物は根を使って歩くことで好き勝手に移動することができ、磁石も回るばかりで役に立たず(原作では地下に磁鉄鉱があるらしいという台詞がある)迷うことに。
- 魔界のジャングルの生き物たち
早々に通り過ぎたが、動物も植物も気色悪いものがうようよしている。
後日談
1994年に発行された雑誌『ドラえもんクラブ』第4号に、魔法の世界の後日談が書かれた小説『魔界大冒険外伝 美夜子の魔法戦記(マジカルウォーズ)』が掲載された(文・笹木輦、画・芝山努)。
主人公は美夜子で、彼女の学校に転校してきたエスパー魔美そっくりな少女との交流や、デマオン復活を企む謎の少年(こちらも『21エモン』のリゲルそっくり)との対決を描く。
そこにはドラえもんやのび太等、レギュラーメンバーは一切登場しない。