概要
前作及び今作の監督は西牧秀夫が務めたが、藤子・F・不二雄は今作について、「作品の出来はいい」としたものの、「私の世界を理解していない。監督を変えてほしい」とシンエイ動画の楠部三吉郎に指示し、次作より監督が芝山努に変更された。
2014年3月には、リメイク版の『新・のび太の大魔境 ~ペコと5人の探検隊~』が公開された。
余談であるが、映像化及びてんとう虫コミックスの原作・大長編ドラえもんでもコミックス化が遅かったのが本作で、長らく1~2・4~と、4作目以降が発売されたにもかかわらず、3巻目の本作が欠番状態だった。(もっとも大長編ドラえもんの単行本化は、もともと4巻からスタートしたものなので今更ではある。詳細は該当項目を参照)
あらすじ
季節は春休み。のび太の町に現れたペコと名付けられた白い犬、そしてジャイアンの発案でアフリカの秘境「ヘビースモーカーズフォレスト」に冒険に行くことになったドラえもん一行は、猛獣に襲われたりしつつ辿り着いた犬の王国「バウワンコ王国」の王子クンタックと、王位の強奪をもくろむ悪大臣ダブランダーとの戦いに巻き込まれる。
登場人物
レギュラーキャラクター
- ドラえもん
毎度おなじみの未来のネコ型ロボット。探検ムードをぶち壊すとの理由でひみつ道具の大半を置いていくことになるが、残ったひみつ道具を使って要所要所で活躍している。
- のび太
空き地でお腹をすかせていた野良犬のペコを助けた事がきっかけで今回の冒険が始まる。序盤では大蛇をスモールライトで小さくして討伐するが、最終戦においては何故かスーパー手袋を使用(旧映画、リメイク映画では最終戦もスモールライトを装備)。
終盤では名刀「電光丸」でサベール隊長を退ける活躍を見せる。
- しずか
中盤までは目立った活躍はない(強いていうならゴリラをスーパー手袋で撃退した)が、ジャイアンが責任感から思い悩んだ末に取った行動に涙したり、終盤では先取り約束機を使って窮地を脱するきっかけを作った。
尚最終決戦では何故かのび太と武器を入れ替えられ、スモールライトで活躍していた(こちらも旧映画、リメイク映画では最後までスーパー手袋で応戦)。
- ジャイアン
今作で最もスポットが当てられたキャラクター。探検隊の隊長を称するが、今作では序盤から中盤にかけて普段の我の強さを悪い意味で大いに発揮してしまい、
・初日の探検では良い所無し。
・その腹いせに二日目以降の探検では難癖を付けて武器無しの探検を強行。
・船で移動中にスネ夫から舵を力ずくで奪った挙句、格好付けてワニの迎撃を行って舵を切り忘れて船を沈没させる。
・原住民の村で余計な事を言って村長を怒らせて村をおいだされる。
など、自身の軽はずみな行動で何度も仲間を危険な目に遭わせてしまったことで思い悩み、拗ねた態度を取って孤立してしまう。
この事には本人も内心で深く反省し、責任を感じており、中盤でペコと二人きりになった際は「俺はどうすればいいんだ?」と泣きながら思いを吐露している。
しかし、終盤ではペコの為に命を懸けて行動して皆を奮い立たせた。
最終戦では空気砲で武装。しかも二丁拳銃。
- スネ夫
バウワンコ王国にたどり着くまでの道筋で知識を披露し、さまざまな解説を担う。王国を取り戻す戦いでは当初は怖気づくも、勇気を出して決戦に挑む。
序盤のサイ戦、最終決戦時共に一貫してショックガンで戦っていた。
ゲストキャラクター
春休みのある日「アフリカで冒険をしよう」という話を皆でしていたのび太と出会い、彼にくっ付いて追い回したが玉子が無くしていたバッグを見つけたことにより動物嫌いの彼女に野比家に飼うのを認められ堂々と飼われるようになる。出会った時腹ペコだったことからのび太に「ペコ」と名付けられる。
その正体はバウワンコ王国の王族バウワンコ108世の息子。謀反を企てた国の大臣ダブランダーに父を暗殺され自身も捕まり親子揃って病死と偽装され生きたまま棺桶に入れられ埋められそうになった。しかし途中で国の外へと通じる地下水路に繋がる湖に落下し(リメイク版では暗殺は彼の贈り物の杯に塗られた毒によるもので濡れ衣を着せられ追われた末にサベールとの戦いにより湖に転落した)人間の世界の街(恐らくはコンゴ河下流の港町)に漂着、日本行きの船へ流れ着き帰国の術を求めていたところをのび太に拾われ一行のヘビースモーカーズフォレストへ向かう探検に同行し帰国。国を取り戻す戦いに挑む。
- ブルスス
バウワンコ王国の国王守備隊長。国王父子に忠誠を誓っていたためダブランダーの謀反により捕らえられていたが国奪還の協力者として救出され一行に同行する。クンタックに国で一番頼れる男と評されており木を引き抜いて振り回し十数人の兵士を食い止め取り押さえられるのを免れたほどの猛者。
クンタックの婚約者。ダブランダーに実質の軟禁状態にされ妻になるのを迫られていたが彼の独裁者としての振る舞いとクンタックの生存を信じていたため決して屈しようとしなかった。
- チッポ
両親を強制的に兵器製造の労働者として駆り出されたため路頭に迷い空腹で兵士の弁当を無断で食べてしまったため追い回されていたがクンタックに助けだされる。一行の協力者となりバウワンコ神像の麓ギリギリまで連れていった。リメイク版では更に両親達を解放しクンタックの生存を伝え民衆を立ち上がらせるのを促した。
バウワンコ王国の大臣。古代兵器を再現し外界を侵略しようという野心を抱き、それを叱責したバウワンコ108世を暗殺、国王父子の病死を公表し、新たな王として就く。古代兵器の製造で民衆を強制的に駆り出すなど横暴なため民衆からの人望はなく配下の兵士からもはっきり口に出されてしまう程。
ダブランダーの参謀である科学者。古代兵器の資料を分析・再現までの研究を行った。兵器部隊の指揮官も兼ねている。
ダブランダーに仕える現在の軍隊長。隻眼。クンタックと互角以上の剣の腕を持つとされる。回想では先王暗殺の際にクンタックを追い詰め棺桶に押し込めたのは彼とされる(リメイク版ではクンタックを湖に転落させた、という経緯に変更)。
舞台
バウワンコ王国
アフリカの奥地、コンゴ盆地の秘境の奥深く、数百万年前の火山活動が伴った地殻変動により絶壁の地帯と化して外界と切り離された深い谷に囲まれた台地に存在する。そのため、外界とは全く違う生物の進化が起き、サル類ではなくイヌ科が外界の人間のような進化を果たすことになった。それに加え遙か昔から「ヘビースモーカーズフォレスト」と外界から呼ばれる雲に常に覆われた土地であるため長らく人間界から隔絶されつつ、ひっそりと繁栄を果たしてきた。ドラえもんの雲に遮られない衛星カメラで「バウワンコ神像」を撮影されたことにより一方はその正体を探りに探検に出発した。近辺の原住民に神の地という伝承で伝わっているが前述の環境に加えライオンが多くいるサバンナが立ち塞がっており原住民には王国までの道のりで一つずつ命を落とすため三つの命が失われなければ辿り着けず生きては帰れぬ場所として語り継がれている。バウワンコの住民もほぼ外界の事を知らず(後述も参照)クンタックも迷い込むまで人間が暮らす世界を本当の話と思っていなかった。そのため、バウワンコ王国の住民はのび太達を見て「サル」と呼んでいる。
王国の風俗や文化は古代ギリシャローマ文明圏の文化によく似ていて(リメイク版では、ペルシャやイスラム帝国に似た文化に変更されている) 外界より巨大化したツチブタを外界の馬と同じ様に家畜として利用している。
本来はクンタック王子が王位継承するはずだったが、大臣のダブランダーがクーデターを起こして父王バウワンコ108世を殺害(表向きは病死)、王位を乗っ取って独裁体勢をとっている。
驚くべきことに、現代から5千年も前に戦車「火を吐く車」やヘリコプターの様な「空飛ぶ船」、そして巨大建造物「バウワンコ神像」を開発するほどの科学力を有し、これを復活させたダブランダーは人間界の支配を企んでいる(何気にドラえもんシリーズで初めて世界征服を目論んだ敵である)。
しかし5千年前に王国を築いた当時の王バウワンコ1世の「兵器を発達させ続ければ世界を破滅させる」という考えにより兵器の研究や開発が禁止されたために、それ以降一切の発展をしていない。
余談
作中では強大な兵器として描かれている火を吐く車・空飛ぶ船だが、現代の人類の兵器である戦車や戦闘ヘリコプターと比べると贔屓目に見ても非力であり、世界征服なんて不可能だったのではと語られることがある。
だが王国が真に優れているところはこれら兵器を5千年前に完成させていた点と(劇中のものはゼロから復活させたもの言わばレプリカであるため5千年前のものは更に強力だった可能性がある)、さらにそこから兵器を封印して最近まで平和を維持してきた精神性や、人間社会に紛れて言語をすぐに習得した王子のような知能の高さにある。
また、バウワンコ神像や王子の持つペンダントに「十人の外国人」の予言等、現代の人類にも無い優れた技術・文明が垣間見える。
そのため実際に世界征服に乗り出していたら、成功するかはともかくとして決して馬鹿にできない被害を双方にもたらしていたことは想像に難くない。
ちなみに物語の構成を読み解いていくと、前半でのび太が「ロボットが案内するアフリカランド」の夢を見てこれから行く場所がこんなのだったらどうしようと悩むシーンがあるが、これは逆に言えば実際の大魔境は既存の技術の延長で語れるような場所ではないという暗示ともとれる。
ペンダントの仕掛けも「ホログラムみたいなものですがちょっと違います」と王子がわざわざ注釈しており、神像が動き出すシーンに至っては未来世界の住人であるドラえもんすら驚いている等、王国の真の技術レベルは高い低いではなく不明・異質であると読み取れる。
つまり、地球にはまだまだ未知の世界・未知の文明があるというロマンを描いているからこその『大魔境』であり、その象徴が犬の王国なのである。
ただしこれは原作の描写であり、旧映画版では神像の中に歯車等の「既存の機械」が描かれてしまっている(にもかかわらずアフリカランドの夢のシーンはそのまま)。
それが神像の設定を掘り下げるものなら良いのだが特に語られるわけでもなく、「建造物の中で動く機械の中でのアクション」というのも本作の2年程前のカリオストロの城の二番煎じでしかない。
西牧秀夫が監督した前作の映画版と併せて考えると、藤子・F・不二雄の原作が未知の世界の冒険と戦いといったロマンを描いているのに対し、映画は良く言えば子供向けにわかりやすく、悪く言えば単純化している傾向にあり、苦言を呈したのもこのあたりが原因と推測される。