概要
1994年に公開のアニメ映画、及びそれの原作である大長編ドラえもんのエピソード。
『夢』の世界を舞台に夢幻三剣士に選ばれたのび太・スネ夫・ジャイアン、そして魔法使いのドラえもん、謎の男装の麗人シズカールの5人が、災いの根源たる妖霊大帝オドロームの魔手からユミルメ国、ひいては夢と現実の世界を救うべく戦う物語。
本作のモチーフとなったのは『三銃士』。竜のエピソードについては英雄ジークフリートの伝説を元にしていると思われる(ちなみに三銃士の舞台はフランスだが、ジークフリートは現在のドイツにあたる地域の英雄。ごちゃ混ぜである)。また本作に登場する地名は、多くが童話作家から名が取られている。
なお原作者である藤子・F・不二雄は、漫画が原作の映画ドラえもんとしては失敗作だと語っていた。当初は夢と現実の境界線が混ざる恐怖を描く予定だったが描き進める内にキャラクターが暴走。ドラえもんシリーズの「非日常的でも日常性の世界観は壊さない」という約束事も加わり、漫画と映画とでラストが異なる方向に動いてしまった、というのである。
また原作漫画では、ノビタニアンではなくノビタニヤンとなっている。
終盤で学校があり得ない位置に存在する、ひみつ道具「気ままに夢見る機」の起動前から暗躍するトリホーの存在など、歴代映画の中でも最も多くの謎を残している作品である。
物語の規模としては歴代最小クラス(実質的にはゲームソフトの中だけの物語である)だが、今なおそのストーリーを考察するファンは少なくない。
他にもジャイアンとスネ夫が終盤で途中退場、最終決戦に参加しない(今作ではのび太に言われてアンテナを外す場面を最後に出番が終了する)など珍しくメインキャラクターが勢揃いしてない状態でエンディングを迎える点でも異色と言える。
本作は主題歌と挿入歌で異なる2曲が使用されている点で他の作品と違い、挿入歌の『夢の人』は非常にカッコいい。
あらすじ
魔王にさらわれたしずかを救うため、正義のヒーロー「黄金ハット」になって活躍する夢を見ていたのび太。しかしクライマックスまであと一歩というところで、ママに起こされてしまう。
夢と現実の落差を嘆くのび太は、せめて夢の中では良い格好ができる道具が欲しいとドラえもんに懇願するも突き放されてしまう。しかし家出先の裏山で夜遅くまで気絶していた為にドラえもんを心配させることになってしまい、結果として入れたカセットしだいで自由に夢を見ることのできるひみつ道具『気ままに夢見る機』を出してもらうことに成功する。
さっそく夢を見るのび太だが、それにかまけて宿題をやり忘れてしまった。翌日しかたなく、裏山で大急ぎで済ませることに。
しかしそこはサボり症ののび太。一向に捗らず途方に暮れていると、突如として奇妙な老人が現れ「知恵の木の実」なるものを授けられる。勧められるまま食べてみると急に頭が冴えわたり、あっという間に宿題を終えることができてしまった。さらに帰り道、再び姿を見せた老人は気になる言葉を残して飛び去っていく。
君はもっと素晴らしい力を授かるのです。ただし、『夢幻三剣士』の世界でのことだが…
この言葉にまんまと乗せられたのび太はドラえもんに無理を言って『夢幻三剣士』のカセットを買ってもらい、夢の世界を冒険していく。
しかし、彼らはまだ気付いていなかった。これが一時の夢ではない事に…。
主要人物
ここではいつものメンバーは省き、ソフト『夢幻三剣士』内に登場するアバターとNPCのみを表記する。
夢幻三剣士陣営
- ノビタニアン:夢世界での主人公。選ばれし白銀の剣士。白銀の装備なしではダメダメな剣士だが、誰よりも優しい心を持ち合わせている。
- ジャイトス:夢幻三剣士の一人。荒っぽい性格に、馬鹿力から繰り出す力強い剣術がウリの自称:白銀の剣士。ただし、仲間を思う気持ちは人一倍。
- スネミス:夢幻三剣士の一人。子爵。自称:天下一の名剣士で身軽。最初こそノビタニアンを召使としてコキ使っていたが改心し、親友になる。
- ドラモン:夢幻三剣士に協力する化け狸、もとい魔法使い。マジックアイテムをたくさん保有している。本編の主人公・ドラえもんが、夢世界でののび太達の冒険に加入する際に変身した姿。一応、本来なら物語に登場することのないイレギュラーキャラクターである。
- シルク:源静香にそっくりな小さな精霊。ノビタニアンのナビゲーターを務めるが、かなり無責任で時にノビタニアンを振り回す。後に「あくまで物語への案内役」と開き直る。
- シズカリア:ユミルメ国の王女。白銀の剣士と政略結婚させられるのが嫌で城を抜け出す。その後色々あって夢幻三剣士と合流し、男装した彼女は旅の剣士シズカールを名乗って彼らに力を貸す。のび太の配役への要求によりシルクとの二役にされた。
妖霊
妖魔の親玉で、大きな耳と2本の触角が生えたプテラノドンのような顔をした本作の黒幕であり、ラスボス。どういうわけか自分がゲームの一キャラクターであることを自覚しており勇者に倒されるストーリーであることもわかっているなど、かなり特殊なキャラ。自身が倒されるラストを覆して現実世界へ干渉、『気ままに夢見る機』ユーザーの全夢世界(夢宇宙)を支配しようと目論んでいた。
基本的に部下に対しての思いやりはなく、敗北したスパイドル将軍をその場で容赦なく処刑する冷酷非情な性格をしている。
他にも木に幻影を纏わせて自身と錯覚させたり、分身して惑わす、髑髏を外した杖を伸ばして拘束する、星を降らせて行動を阻害するといった魔法を使う。
ドラえもんの悪役の中でもかなり残忍で、のび太としずかを一度は殺してしまった悪役である。
六本の腕を持つ蜘蛛に似た妖魔。毒の剣を用いた六刀流の剣術と口から吐く粘着性の高い糸で戦い、土の精を操っている。中の人はドラえもん映画史上もっとも知略に長けた悪役であるドラコルルと同じだが、彼と違って脳筋。
なんとか逃げ帰るも、最後はオドロームに敵前逃亡を指摘されて処刑された。
- ジャンボス将軍(CV:郷里大輔)
映画では精霊たちが全滅したため、ノビタニアンに一騎打ちを挑むも片耳を切られて墜落。あっさり敗れたが、漫画版では巨大化して彼を捻り潰そうとした。
オドロームのペットの梟。人語を操るだけでなく人間に化けたり、夢の世界と現実世界とを行き来する能力を持つ。それだけに止まらず、現実世界から未来世界に電話を掛けるなどといった芸当も見せる。ただし参謀とは名ばかりで、そこまで優秀ではない。
たとえ伝説の勇者になったとしても倒せるようなヘボい利用者を捜すために人間に化け、現実世界へ出現。のび太を言葉巧みにその気にさせ、夢幻三剣士のカセットを購入・使用させるよう仕向けた。
その他
- 竜(CV:石丸博也)
竜の谷に住む人語を解し、喋れる竜。口から吐く炎には浴びたものを石に変える力があり、その血は浴びるだけで不死身に成れるとされる。そのため今までに多くの戦士たちが血を欲して彼に挑んでは石化され、現在の竜の谷は石像だらけとなっている。
ただしもともと平穏を愛するなど良識のある性格であり、挑戦者たちを石像に変えていたのも自身の身を護るために仕方なかったが故の行いであった。
ノビタニアンに弱点の口髭を斬り落とされて一度倒されるが、「いくら竜でも人間の勝手で剣を刺して血を取るなんてヒドイことはできない」と止めを拒んだ彼の優しさに胸撃たれて和解。浸かれば1度だけは生き返ることができる竜の出し汁(竜の汗が浸み込んだ温泉)と、アンデル市への近道を提供する。
用語解説
気ままに夢見る機
枕のような形をしたひみつ道具。専用のカセットをセットすることで、ソフトの内容に応じた夢を見ることができ、マイクロアンテナを額に付ければ登場人物にもなれる。
夢の中でのパラメータ設定は使用者に依存するが、現実では泳げなくても泳げるようになったり、現実世界でダメなヤツほど活躍できるようになったりするらしい。
また秘密のスイッチ「かくしボタン」が存在しており、それを押すと夢と現実を入れ替えることができる。
しかしそれは建前で、本音は夢の世界が現実世界に影響を与えるという代物。そのため入れ替えた状態で夢ソフトの世界で死亡すると、現実世界でも死亡してしまうといったように、世界の融合が起こる危険性を孕んでいる。
夢幻三剣士(ゲームカセット)
『気ままに夢見る機』の人気ソフト。内容は中世ヨーロッパ風の国家ユミルメ国を舞台に、白銀の剣士とその仲間たちが魔王である妖霊大帝オドロームを倒すといった典型的なRPG。
商品としては限定一品限りであり、説明書によれば「パワーが強く、現実に影響を与える可能性がある」とのこと。
その言葉通り、コンピュータ上のキャラクターでしかないはずの案内人のシルクやオドロームたち一部のヒールはシステムを超えて現実世界を認知・侵出しているなど、夢幻三剣士の夢は確かに現実世界にも影響を与えている。
また誰も夢を見ていない状態でもこちらの時間は勝手に進むという明らかに「夢の世界」の一言では説明できない仕様も。
白銀の剣(しろがねのつるぎ)
ヨラバタイジュという雲にも届かんばかりの大樹、その天辺に安置された宝箱の中にある、オドロームを唯一倒すことができるという聖剣。宝箱の中には他に兜とマント、籠手、具足が収められている。
剣は凄まじい切れ味を誇るだけでなく所有者を剣の達人にし、魔法を受け止めたり本物のオドロームを見破って突進したりする力がある。
夢幻三剣士
作中ではノビタニアンに敗れたスネミスとジャイトスの三剣士が、ユミルメ王国の救済を夕日に誓ったことで結成された。
しかし終盤には入れ替わっていたスネ夫とジャイアンが離脱したため事実上解散しており、最終決戦に二人は出てこない。
関連イラスト
関連項目
ドラえもん 映画ドラえもん
ソードアート・オンライン:こちらはVRMMORPGだが、特定の機械でゲームの中での死が現実世界での死に繋がる点と、メインキャラクターのキリトとアスナが終盤でラスボスに一時的に殺された点が共通している。また、こちらでは未遂で終わったものの、現実世界では結婚できない年齢の二人が空想世界で結婚しようとしている部分も一致している。余談だが、本映画は見方によっては「仮想世界に飛び込んで冒険をする」という解釈もできるので、ある意味ではこの手の作品における先駆けともいえる映画であると言える。