概要
旧約聖書『創世記』の6章から9章にかけて登場するエピソードである。
地上に悪人が増えすぎた為、神は地上を覆いつくすほどの大水害を起こして文明を滅ぼそうと考えた。
さっそく神はノアに動物たちを救うための方舟を造らせることを命じた。ノアとその家族たちは、他の人間たちに馬鹿にされながらも船を造り続けた。多くの動物達が集まり、ノアは番を船に詰め込んでいった。
そして運命の日が訪れ、大雨が降り注ぎ地上は大洪水となった。箱船は航海を続け、40日間耐え抜いたのであった。
雨が止んだ後にノアは最初に烏を離したが、すぐに帰ってきてしまった。
続いて鳩を離すと、しばらくしてオリーブの枝を引き千切って咥え帰ってきた。
こうして陸地を見つけたノアは新たな人類の祖となり、これによってアダムとイヴの二人の子供たちの内、カインの子孫は滅んだとされている。
なお、大洪水によってネフィリムという巨人の種族も殆どが滅んだが、オグと言う名前のネフィリムだけは、ノアの方舟に乗せてもらう形で生き延びたとされている。
こぼれ話
おそらくノアはありとあらゆる動物を箱舟に乗せたであろう事は想像に難くないが、乗船拒否を食らった動物もそれなりにいたという。
まず1匹目がユニコーンであり、彼はあまりにも凶暴すぎて乗っていた動物達を手当たり次第に攻撃したものだから、箱舟から追い出されてしまった。
2匹目はペルーダと呼ばれるドラゴン。コイツはハナから作物や生物を見境無く食い荒らす狂暴な性格であった上に有毒の棘やら火炎放射まで持ち合わせた危険極まりない存在だった為に、そもそも乗せてすらもらえず(乗せたら確実に方舟の生物は全滅し、舟自体壊されるだろう)、大洪水に飲み込まれたかに思われたが、しぶとく生き残って人類を害し続けたという。
そう考えるとライオンやトラといった肉食動物は、船の中で大人しく待っていた事が窺える。
考察
洪水神話は旧約聖書以前にも存在する。
- ギリシャ神話にも旧人類がオリンポスの神々の起こした大水害で皆殺しにされて箱舟に乗ったデウカリオン夫婦だけが生き延びる話がある。(デウカリオンの箱舟伝説。アポロドートス:「ギリシア神話」I-7-2他)
- デウカリオン夫婦はお告げに従い、顔を布で多い、母(大地)の骨(石)を後方に投げる事で人類を再興したという。
- インド神話ではヴィシュヌの化身である魚(マツヤ)を助けたマヌという男は、お礼に大洪水の予言を受け取る。マヌはナーガの王ヴァースキの助けを受け、七人の賢者と全ての種子をのせた船とともにヒマラヤ山頂に避難し、大洪水後の世界を再興したといわれる。
- 台湾のアミ族民話では、ひょうたんに乗って大洪水を逃れた兄妹が夫婦となり、最初はうまくいかないものの神々の助けを受けて人間を生み出すことに成功したという話がある。
- 北欧神話にでは、霜の巨人ベルゲルミルとその妻が木の洞に飛び込みユミルの血の洪水を逃れたことで、巨人の血統は滅びずに残ったとされる。
さらに古くはメソポタミアの伝承、『エリドゥ創世記』や、『アトラ(ム)・ハシース物語』、『ギルガメシュ叙事詩』第11書板の中に、エンキ(エア)神により選ばれた男(後述)の一家が、エンリルの巻き起こした大災害から方船に乗って逃げ延びたという伝承がある。
これらメソポタミアの洪水伝説が、後の様々な洪水伝説の元になっており、ノアの伝説にもストーリーのほとんどが、若干の改変を経ただけで引き継がれている。
メソポタミア伝承において、方舟により難を逃れた男の名前
ジウスドラ :エリドゥ創世記、命を見た者の意。
アトラ(ム)・ハシース :アトラ(ム)・ハシース物語。最高賢者の意。
ウトナピシュテム :ギルガメシュ叙事詩第11書板。ジウスドラのアッカド語表記で意味は同じ。
科学的考察
科学的知見から、実際にあった大洪水が宗教や道徳に組み込まれたという考察もある。
- 狭い世界に住む古代人にとって、生活の基盤である大河の氾濫はまさに世界の滅亡だったという「地域的洪水説」
- 神話のような大洪水は実際にあったとするが、疑似科学の色が強い「地球大洪水説」
- 最終氷期の終わりごろに氷河が解けて海面が上がり、低地(沖積平野)がことごとく水没したことにちなむとする「海水準上昇説」
- 紀元前5600年ごろ、地中海から黒海にかけて破壊的大洪水が起こり、そこに住んでいた先印欧語民族の拡散と共に洪水神話も広まったとする「黒海洪水説」
関連動画
ノアの方舟(Noah's Ark)/ベルト・アッペルモント
第1部「お告げ」(The Message)
第2部「動物たちのパレード」(Parade of the Animals)
第3部「嵐」(The Storm)
第4部「希望の歌」(Song of Hope)
ノアの方舟(Noah's Ark)/樽屋雅徳
関連タグ
ユニコーン:方舟に乗せられたが傲慢で他の動物に攻撃的だったため、最終的に追い出されている。
ペルーダ:乗船拒否されたが強靭な生命力で洪水を生き延びたドラゴン。
その後ノアの子孫への復讐のためフランス北部を荒らしまわるが弱点の尾を切られ討伐された。
ネコ:アラブ伝承では、ネコは創世記のときはまだ生まれておらず、ノアの方舟の中で生まれたという。
ネズミのいたずらに悩まされたノアが神のお告げでライオンを撫で、ライオンのくしゃみと一緒にネコのつがいが鼻から飛び出したのが始まりとされる。
ドードー鳥:方舟から飛び立ち帰ってこなかった鳩の末裔という寓話がある。
オオサンショウウオ:ヨーロッパでは化石が洪水前の人類の骨だと思われていた。
通信衛星アーク:『仮面ライダーゼロワン』に登場する人工衛星。方舟を意味する「アーク」の名を冠している。その名の通り、起動する為に多数のライダモデル(動物型のプログラムのようなもの)が使われた。
ARK:Survival_Evolved:同じく方舟を意味する「アーク」の名を冠した、絶滅生物が暮らす島が舞台のゲーム。ストーリーが進むにつれ、舞台が「方舟」であることが判明していく。
オルフェノク:『仮面ライダー555』に登場する様々な動植物の特性をもつ怪人群で、王はアークオルフェノク。世界が滅びに瀕した時のために「方舟」の代わりとして生まれたものであると考察されている。
リンダキューブ:回避不可能な巨大隕石によって滅亡に瀕した惑星で、動物のつがいを集めて方舟で脱出するのが目的というロールプレイングゲーム。
女神転生:『真・女神転生Ⅱ』ではルートによっては宇宙船メギドアークで地球から脱出する。『真・女神転生Ⅲ』では新世界を創生し誘うために降臨した邪神ノアが登場する。
イデアの日:敵組織の目的はノア計画によって大陸を水没させ、世界中から攫った子供を連れ去り理想の人類の共同体を作ることだった。
のび太と雲の王国:雲の上に作られた天上連邦は人間を含めた動植物を一時避難させ、大雨により地上文明を地上洗い流し地球環境が回復させるノア計画を実行しようとしていた。
天使のたまご:謎に満ちた象徴的な世界が舞台だが、実は方舟が陸地にたどり着けなかったという仮想の世界である。
機動警察パトレイバーtheMovie:通称「方舟」と呼ばれる海上プラットホームが舞台の中心となる、主人公の名が野明(ノア)というロボットアニメ。
SPRIGGAN:アララト山の麓で発見されたオーパーツの方舟を巡り、アメリカ軍の秘密部隊との争奪戦が始まる。原作では丸太を組んだようなデザインだが、劇場版では石造りでモノリスのような板を背負った魚のようなデザイン、Netflix版では出入り口を兼ねた舩よりも大きなフィンキールを持ち板材を組んで作ったようなデザインとなっている。
ふしぎの海のナディア:M78星雲人が地球に訪れるのに使用した、3機の方舟として古代遺跡アトランティスと衛星都市レッドノアが登場。
宇宙空母ブルーノア:戦略空母ブルーノアが登場。後に『宇宙戦艦ヤマト』に同名の宇宙空母が登場している。
ノアノハコブネ:1982年生まれの競走馬。名付け親はオダギラーで知られる小田切有一氏。1985年の優駿牝馬を勝ったが、その年の暮れに行われた阪神大賞典で寛骨を骨折し、予後不良となった。
ドリトル先生物語:『ドリトル先生の郵便局』にてノアの船に一時乗り大洪水を生き延びた生き証人である亀ドロンコが登場。後に『ドリトル先生と秘密の湖』にてもう一度先生に語るという体で太古に何が起こったか物語の詳細が綴られる。
ブルーアーカイブ:舞台となっている学園都市の名に「キヴォトス(ギリシャ語で箱舟)」、首都に当たる自治区名やオーパーツに「ウトナピシュテム」、プロトコル名に「アトラ・ハシース」が使われている