曖昧さ回避
- インド神話の神。本項目で解説する。
- 「女神転生」シリーズに登場する悪魔(仲魔)→ヴィシュヌ(女神転生)
- 「ペルソナ」シリーズに登場するペルソナ→ヴィシュヌ(ペルソナ)
- アニメ『天空戦記シュラト』の登場人物→調和神ヴィシュヌ
- 小説『インフィニット・ストラトス』の登場人物→ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー
概要
ヴィシュヌは現在のヒンドゥー教において、シヴァと並ぶ最高神として崇められる存在。
トリムールティ(三神一体)の中で“維持、修復”を司る強力な神であり、助けを求める人々に救済をもたらす正義の神とされる。
ヴァイクンタを住居、ガルーダを乗騎、ラクシュミーを妻とし、神を鼓舞し魔を脅かすパンチャジャナ(法螺貝)、邪悪を弱め毒を中和するスダルシャナ(チャクラム)、不思議な力を持つカウモダーキー(棍棒、矛)、太陽の矢を放つシャールンガ(弓)、パドマナーバ(蓮華)、ナンダカ(刀)を持つ。
ヴィシュヌの語源はvis(行きわたる、遍満する)という動詞で、『リグ・ヴェーダ』の頃の太陽の光輝を神格化した神としての性格を表す名である。『リグ・ヴェーダ』におけるヴィシュヌは天・地・空を闊歩する神として描かれるが、特に重要な存在ではなく、その勢力を強めるのはブラーフマナ文献でシヴァと並んで言及されてからだという。
さらに時代が下って叙事詩やプラーナ文献が作られたことでヴィシュヌの最高神としての地位と民衆からの信仰は絶対的なものになる。
叙事詩の中でヴィシュヌはナーラーヤナ(宇宙の水の上を住居とする者)とクリシュナ(黒い神)と同一視されるが、前者からは世界の終わりの時、海に浮かぶアナンタ・シェーシャ(ナーガの王)の上で眠り、覚醒と共に世界を再構成する創造神としての性格を、後者からは実在の人物がルーツとされるクリシュナを崇めるマトゥラー地方のヴリシュニ族の強力な信仰形態を吸収したことで、ヴィシュヌ信仰がインド全土に爆発的に広がる契機となった。
『マハーバーラタ』ではヴィシュヌとガルーダの出会いが記されており、アムリタを奪ったガルーダとヴィシュヌは交戦するも決着がつかず、ヴィシュヌはガルーダに“不死と高い地位を約束する代わりに自分のヴァーハナになる”という条件を出し、ガルーダはこれを受けてヴィシュヌの乗り物になったという。また、同叙事詩の第六巻に収録された『バガヴァッド・ギーター』として扱われる戦争前のアルジュナとクリシュナの対話のくだりでは、全宇宙を内包する絢爛と強壮に満ちた姿を持ちながら両軍の将兵を食らい尽くす大いなる時間、世界の終末を体現するヴィシュヌ(ヴィシュヴァ・ルーパ)の姿をクリシュナが幻視の形でアルジュナに見せている。
アヴァターラ
アヴァターラ(化身)思想もヴィシュヌ独特の性格である。
『バガヴァッド・ギーター』には「もろもろの善を行う者たちを守る為に、アダルマ(悪・不道徳)を行うものたちを滅ぼすために、ダルマ(正義・道徳)を打ち立てるために、私はそれぞれのユガ(世界期)に出現する」というヴィシュヌの発言がある。この言葉通り、ヴィシュヌは世界がアダルマに覆われそうになった時、自身の一部を様々な存在に化身させて顕現し、苦しむ人々を救うという。アヴァターラの存在は独立しているようで、6番目の化身パラシュラーマが10番目の化身カルキを鍛えるというエピソードもある。
また化身は、各地の神々や民間信仰の英雄・動物をヴィシュヌとして取りこむことにも一役買っている。
特に第八の化身クリシュナは、バクティ(神に対する献身的愛)による輪廻からの脱却、モクシャ(解放)の達成を確立した存在として絶大な人気を博すことになる。
ダシャーヴァターラ
代表的な10種の化身は「ダシャーヴァターラ(10のアヴァターラ)」と呼ばれる。
文献や伝統によってそのリストには異動があるが、とくに以下のリストが広く知られている。
1.マツヤ(魚)
大洪水を予言し、賢者マヌを始めとする七人の聖者を救う。
2.クールマ(亀)
乳海攪拌の際に、万物をすり潰すマンダラ山の受軸を担う。
3.ヴァラーハ(猪)
大地が魔神・ヒラニヤークシャによって海底に沈められた時、大地を引き揚げて魔神を撃破する。
4.ナラシンハ(人獅子)
三界を支配した不死身の魔神・ヒラニヤカシプを八つ裂きにする。
5.ヴァーマナ(小人)
神々から三界を奪ったアスラ・バリから、宇宙を三歩で横断することで支配権を奪い、バリを地界に封じ込める。
6.パラシュラーマ(斧を持つラーマ)
増長したクシャトリヤ族の王・カールタヴィーリヤを討つ。格闘技カラリパヤットの北派(ワダッカン)の祖ともされる。
7.ラーマ
地上を席巻したラクシャーサの王・ラーヴァナを撃破した叙事詩『ラーマーヤナ』の英雄。
6番目の化身であるパラシュラーマとの混同を避ける為「ラーマチャンドラ」と呼ばれる事もある。
8.クリシュナ
叙事詩『マハーバーラタ』では強壮な勇士として登場する。戦友アルジュナに自身の神としての本性を明かして説いた部分は『バガヴァッド・ギーター』と呼ばれ、宗派を問わず尊重される。
9.ブッダ
魔神や悪人達を間違った教えで唆し、ヴェーダの教えから遠ざけ地獄に落とす。
仏教の開祖であるブッダ(仏陀)本人の事であり、当時は新興宗教だった仏教に対するネガティブキャンペーンの色が強い。また、ブッダは輪廻の輪から解脱した存在とされているが、そんな存在が神の1化身とされるのは余りにも皮肉だと言える。
後世のバクティ信仰の詩篇『ギータ・ゴーヴィンダ』では動物犠牲をやめさせるため、という好意的な見方がされている。
9番目のアヴァターラにクリシュナの兄弟バララーマが位置づけられるパターンもある。
10.カルキ
アヴァターラの中で唯一「未来に出現する事を預言されている」存在。法・道徳が荒廃したカリ・ユガに顕現し、全てのアダルマ(不法)を滅ぼしてダルマ(法)を再興する。
バリエーション
十化身のメンバーのうち、マツヤ、クールマ、ヴァラーハ、ナラシンハ、ヴァーマナ、パラシュラーマ、ラーマ、カルキの八名は固定である。
残る二枠にクリシュナ、バララーマ、ブッダ、さらに有力な地域神であるジャガンナータとヴィトーバー(Viṭhōbā)のうちの誰かが入る形となる。
クリシュナは他の化身達の本源と解釈される事で、バララーマは世界蛇アナンタ・シェーシャの化身とされる事でリストから外れる事がある。
十化身以外のアヴァターラ
『バーガヴァタ・プラーナ』では共通の8名に異同メンバーとなるクリシュナ、バララーマ、ブッダを加えた11名を化身として記し、更に他の神、人物を加えて合計22名を挙げている。
残り11名の名はチャトゥルサナ、ナーラダ、ナラ=ナーラーヤナ、カピラ、ダッタートレーヤ、ヤジュニャ、リシャバ、プリトゥ、タンヴァンタリ、モーヒニー、ヴィヤーサ。
パンチャラートラ派の文献『サットヴァタ・サンヒター』ではハヤグリーヴァ、ハンサ、ガルーダを含む46名を挙げている。
ヴィシュヌの化身がさらに他の誰かに化身する、という観念もあり、ゴウディヤ・ヴァイシュナヴァ派の宗祖である西ベンガルの聖者チョイトンノ(サンスクリット語名チャイタニヤ)はクリシュナと(神妃ラクシュミーの化身である)恋人ラーダーふたりの化身と信じられている。
関連タグ
Fate/GrandOrder:とあるサーヴァントの霊衣に混ざった神性として登場。