概要
ヴィシュヌ神の代表的な十化身「アヴァターラ」の七番目。八番目のクリシュナと並び、ヴィシュヌの化身の中では最も尊崇を集める一人である。
その名はサンスクリット語で「理想的君主」「魅力的である男性」「偉大なる神」などを意味する。
ある時、ランカー島の羅刹の魔王ラーヴァナが3界を支配していた。人々は神に祈りを送り、ヴィシュヌ神はこれに応え、ラーヴァナを打ち倒すよう心得る。
古代インドのコーサラ国のダシャダラ王は世継ぎがないことを憂い、祭式を行うことにした。その最中にヴィシュヌ神が降臨し、王に神酒アムリタを賜った。王妃に飲ませるよう指示された王は第一王妃カウサリヤーに神酒の半分を、スミトラー妃とカーケーイー妃に8分の3と8分の1飲ませた。こうしてカウサリヤー妃にラーマが生まれ、スミトラー妃がラクシュマナ、シャトルグナを、カーケーイー妃がバラタを産んだ。異母兄弟はいずれもヴィシュヌ神の神格を備えていたが、特にラーマは抜きんでて優れていた。
美貌の持ち主であり理知的で学問に敏く、また武勇に優れていた。ある時ジャナカ王は国に伝わるシヴァ神の弓を引けるものが王女シーターと結婚できると言った。誰も引くことができなかったその弓を、ラーマは軽々と引いてみせ、雷のような音を立ててへし折った。こうしてラーマはシーターと結婚した。ムエボーランの開祖であり、猿王スクリーヴァに力を見せる時は山のようなドゥンドゥビの死体を足の親指で数キロ先まで投げ飛ばした。
だが彼の最大の魅力は美しさでも賢しさでも強さでもなく、徳の高さであった。どんな時でも彼は公正で、数多くの信頼できる仲間を持っていた。ダシャダラ王はカーケーイ妃に2つの願いをかなえると約束していた。そこで王妃は息子のバラタに王位を継がせることと、ラーマを国から追放することを約束させた。王は苦悩した。ラクシュマナや母親のカウサリヤー妃は父親を不徳だと罵ったが、ラーマは「父王が約束を破ることなどあってはならない」と2人に諭し、自ら国を出て行った。インドにおいては名誉を守ることこそが何より重要であり、父親が約束を破るという不名誉を行ってはならないと思っての行動だった。ラーマを慕っていたシーターと忠節を誓うラクシュマナが同行した。バラタはラーマこそが王位を継ぐべきだと言ったが、逆にラーマに説法された。バラタはラーマの履物を貰い、それを玉座に飾ると自分に変わって崇拝するよう臣下に言いつけた。
ラーマ一行がダンダカの森に入ると、ラーヴァナの妹である羅刹女シュールパカナーがラーマに恋をし、誘惑したが断られ、怒りと嫉妬心のあまりシーターを傷つけようとしたが阻まれ、ラクシュマナに鼻と耳を切り落とされた。羅刹女はランカー島に戻り、兄ラーヴァナにラーマに復讐することとシーターをさらうことを頼んだ。ラーヴァナはラーマたちを罠にかけて油断させ、その隙にシーターをさらうことに成功した。ラーマ兄弟は嘆き、シーターを取り戻すことを誓った。
キシュキンダーで猿達の協力を得たラーマは誉れ高いハヌマーンの協力を得て、シーターがランカー島にいることを突き止めた。そして猿達の軍勢と共にランカー島へ攻め入み、羅刹の軍勢と戦った。戦況はラーマ軍の優勢だったが、ラーヴァナはクンバカルナを起こして戦わせた。クンバカルナは敵味方いっしょに飲み込み、ラーマに向かっていった。ラーマは帝釈天の剣でクンバカルナの四肢を切断し、口に向けて数万の矢を放ったのち、インドラ神の矢でもって射殺した。ラーヴァナは切り札であるインドラジットに任せたが、ラクシュマナとの激しい戦闘の後、インドラジットは打ち倒されてしまう。そしてラーマとラーヴァナの一騎打ちとなった。ラーマは弓でラーヴァナの10の頭を次々と撃って行ったが、ラーヴァナの不死身の肉体は次々と再生されていった。そこでラーマはサルンガというヴィシュヌ神の弓矢を取り出して射った。この矢は山2つほどの質量があったため、ラーヴァナは体を引き裂かれて消滅した。ラーマはランカー島の財宝を集め、仲間と共にラーヴァナの黄金戦車プシュパカで国へ戻った。
こうしてラーマはシーターを取り戻したが、ラーマは「他人の後宮に入った者を妻として迎えることはできない」と言い、彼女を遠ざけた。ラーマは彼女の純潔を疑っていなかったが、ひとえに王の妻に不貞の女がいるという不名誉を恐れてのことで、それはシーターも承知の上だった。彼女は民衆の前で純潔を証明する為に火の中へ飛び込んだ。そこに火の神アグニが彼女を無傷で返し、純潔であることを証明するとラーマは彼女を迎え入れた。全ての人、聖仙、神々が喜んだ。ラーマはバラタに迎えられ、王位に就いた。彼は王妃と共に幸福な国を長く統治した。
だがある時、国にシーターの貞節を疑う噂が広まった。ラーマはそれが真実でないことを知っていたが、国の道徳に悪影響を及ぼすことを恐れ彼女を追放した。シーターは悲しみ、2人の子を産んだのち大地に自分が貞節であると訴えた。大地が割れ、玉座に乗る大地の女神が表れてシーターを抱きしめ、姿を消した。ラーマは激しく後悔し、長く国を統治したがシーター以外の妻は持たなかった。
のちに時の神カーラが現れ、寿命の時を迎えると聞くと、ラーマは息子たちに国を任せ、サラユー川に身を投じた。彼は再びヴィシュヌ神として神の姿をとった。
仲間たち
- シーター
最愛の妻。ラーマーヤナの7割方は攫われた彼女を助けるのが目的。
- ラクシュマナ
異母弟にして忠実なる臣下。ラーマと比べると多少疑り深く、イエスマンではない。…が、最終的には結局主に従う。
- バラタ
異母弟。王宮を追放されたラーマに代わりにコーサラの政治を執り行った。ラーマを陰謀に巻き込んだのはバラタの母だが、バラタ自身は兄を深く敬愛しており、この件で母を罵倒している。
- ジャターユ
追放先の森で出会った鳥の王。ハゲワシ。神鳥アルナ、もしくはその弟ガルダの息子とされる。
ラーマたちと親交を結び、シーターが攫われた際に彼女を助けようとするが、剣で翼を切り裂かれ、ラーマにシーターを攫ったのがラーヴァナだと伝え息絶えた。
- ハヌマーン
猿族最強の戦士。猿族の王スグリーヴァの重臣であると同時にラーマの腹心。
日本では赤い通り魔のパチモン扱いだが実際は凄い神様である。
- スグリーヴァ
猿族の王。シーターがラーヴァナに攫われる場面を見ていた。ラーマと親交を結び、自ら猿族の軍勢を率いて彼に付き従う。
- ヴィビーシャナ
ラーヴァナの弟。ラクシャーサながらラーマを信仰しており、兄を諌めようとするが失敗し、追い出されたため、ラーマ軍に加わる。
所持している武器
- ブラフマーストラ
創造神ブラフマーの力が込められた矢で、ラーヴァナにトドメを刺した。
- ヴァーユアストラ
風神ヴァーユの力が込められた矢。暴風を巻き起こす。
- アグネヤアストラ
炎神アグニの力が込められた矢。
などなどこの他にも様々な武器を有する。
フィクションでは
『真・女神転生』
種族「英雄」の仲魔として『デビルサマナー』から登場(『Ⅳ』での種族は「英傑」)。アライアメントは「LIGHT-NEUTRAL」。
デザインは肩と兜から長い毛皮を生やしたり、神話ではメインの武装ではなかった刀剣を装備していたり、英雄繋がりでかベルトのデザインがモロにアレだったりとネタが満載であるものの、メガテンらしい独特のかっこよさは健在。
専用スキルとして万能属性の全体攻撃を放つ「ブラフマーストラ」を覚えており、『D×2』でも固有スキルに採用された(万能属性での3回攻撃となっている)。以後のシリーズでも万能属性が得意とされているが、『ⅣFINAL』で「大冷界」を覚えた為か、『D×2』でも同様に氷結属性を扱う悪魔と設定された。そちらでは属性貫通にも吸収が適用されてしまう「貫吸の気魄」という専用スキルを新たに習得している。
余談だが、ヴィシュヌ神の化身としては他にナラシンハ(『II』など)、クリシュナ(『ⅣFINAL』など)、シャカ(『ペルソナ2』)、カルキ(『II』など)が参戦している。
『Fate/GrandOrder』
伝承にある多種多様な武装やブラフマーストラが宝具に設定されているが、クラスはなぜか神話通りのアーチャーではなく、セイバーとなっている。理由は該当項目にて。
RRR
ラーマを元にしたラーマ・ラージュが主人公の1人であるインド映画。
余談
インドでも理想的人格者として今日まで愛されてきた人物。影響は凄まじく、タイのワット・プラケオ壁画、カンボジアのアンコール・ワット壁画、インドネシアのロロ・ジョングラン寺院壁画などに描かれている。中国の西遊記や日本の桃太郎、近代であればスター・ウォーズep.4に至るまで、この物語は影響を与えている。今でもインドでラーマーヤナを原作としたドラマが放送されれば視聴率は90%を超える。
最終的にラーマはシーターを捨てることになるが、この理由はこの話がラーマの名誉にもとるという説があるが、一番の理由は7巻の物語はヴァールミーキとは何の関係もない後年の創作という説が最もだろう。
関連タグ
十化身:マツヤ クールマ ヴァラーハ ナラシンハ ヴァーマナ パラシュラーマ クリシュナ バララーマもしくはブッダ カルキ