概要
地球上に存在する古代思想の多くは、天動説に基づいた世界観を構築している。
しかし、現在は地球は太陽の周囲を公転している一つの惑星に過ぎないという地動説がもはやゆるぎない常識とされている。
歴史
厳密には「天が動く学説」ではなく、英語の「Geocentrism(ジオセントリズム)」を直訳すれば「地球中心説」になる。つまり、我々が立っている地面そのものが宇宙の中心、不動の存在であり、太陽も月も星座も全てその周りを回転しているという発想を示す。これは聖書で記された「地面は動かない」という解釈に都合が良いいので、「完全無欠の我々こそが全宇宙の中心である」と主張する宗教関連者からの支持を強く受けていた。
2世紀頃の数学者プトレマイオスがまとめた学術書、「アルマゲスト」では天動説で暦の計算が行われていたが、科学の進歩と共におかしな所が見つかってきた。
太陽と月と星座の動きがズレるのは何故か?惑星は何故変な動き方をするのか?
「神様がそう作ったのだから文句付けるな、古くからの言い伝えを信じればいい」ではなくて、本当はどうなっているのか。
西洋では大航海時代の到来によって天体観測の重要性が高まり、天体運行の正しい数学理論を計算しなければならない必要性が出てきたのである。
16世紀頃に、コペルニクスが地動説…英語では「Heliocentrism(ヘリオセントリズム)」、つまり直訳すれば「太陽中心説」を提案。今の我々が知っているように、太陽を中心に各惑星が公転しているという太陽系モデルを書物で紹介したが、もしも自分の理論が間違っていたら大変な事態になると予想し、死の直前に刊行するようにした。
実際コペルニクスの学説は、同じ時代の天動説に比べて、予測精度で劣り、理論の複雑怪奇さでは勝る、実用性も正確性も欠いたものだった。
そうなった主な理由は、惑星の軌道は楕円であり、惑星の速度も一定では無かったのに、コペルニクスは「天体の運動は等速円運動を基本とする」と云う天動説と同じ思い込みから脱する事が出来なかったことによる。
結果観測とは明らかな誤差が出てしまい、その誤差の修正の為に、天動説で使われていた「従円・周転円」と云う考えを導入した為、結局コペルニクスの地動説は天動説に勝るものとはならなかった。
しかしながら古今東西の情報を精査し、完成度の高いモデルを制作過程も含めて公開したという点で注目は大きく、コペルニクスの理論書は知識人、数学者、天体観測家の間に広まり、「天動説・地動説」の議論が盛んになる。
その後、ガリレオが提唱した慣性の法則、ニュートンが提案した万有引力の法則の理論と、ヨハネス・ケプラーが提案したケプラーの法則によって、天動説は完全に否定された。
ケプラーは持論展開当時、既に社会的地位の高い役職であると同時に、完璧主義の数学者故に全く破綻のない数式を提示して、これにはもう誰も反論出来なかったのである。
ただし、天動説には長い歴史が有ったと云う事は言葉を変えれば、複雑怪奇だが、それでも惑星の運動をかなりの精度で予測出来る天動説を前提にした数学モデルが有り、「惑星の動きは太陽を中心とする等速円運動」と仮定していた初期の地動説は同じ時代の天動説よりも数学的には簡単だが精度においては劣っていた。
裏を返せば、ケプラーの三法則によって、ようやく、同じ時代の天動説よりも数学的に簡単なだけでなく精度でも上回る地動説が生み出されたのである。
なお、コペルニクスの説が発表されてから、ケプラーの三法則の発見まで約半世紀がかかっている。地動説が「計算は簡単だが精度がイマイチな仮説」から紆余曲折を経て「使いものになる学説」になるまで、それだけの年月を要した訳である。
しかしながら実際のところ、ニュートンの万有引力の法則は、「地球が太陽に引っ張られている」のと同時に「太陽も地球に引っ張られている」という理論である。
太陽が太陽系の中心でないことは既に示唆されており、地動説(太陽中心説)もまた勝利とほぼ同時に終焉を迎えていたのである。
しかしながら銀河系が発見され、宇宙の膨張が確認され、宇宙の中心などどこにあるやらわからんという現代に至っても、不動の太陽が地球を一方的に振り回しているという勘違いは蔓延し続けている。
結果的に「天体の運動は太陽を中心とした等速円運動」というコペルニクスの思想から始まった地動説は、最終的に「中心なんてないし、楕円運動だし、等速でもない」というコペルニクスの思想とは懸け離れた結論に至ったのである。
誤解
なお天動説=地球平面説ではない(pixivでも混同してタグ付けされているものがいくつかある)。そもそも、プトレマイオスは地球中心の太陽系モデルを提示している。
多くの文化にて天動説と地球平面説は両立して語られているのは事実だが、ギリシャ哲学では経験的見地から地球球体説と天動説を併せた宇宙論が存在したし、古代中国では地動説と地球平面説を併せた宇宙論が唱えられていた。
地動説が優勢となってもフェルディナンド・マゼランの世界一周航海による証明まで地球平面説は一定の地位を得ていたのである。
(紀元前から大航海時代まで地球球体説は途絶えることなく受け継がれ、複数の根拠が挙げられていたものの「実証」はできなかった。なお実証するまで知識人の間でも地球平面説が支配的だった、という説は歴史的に誤りである。)
アンティキティラ島の機械等は天体の運行を計算するために作られた機械だが、復元により天動説を採用されている事が分かっている。
関連項目
ランスシリーズ - 舞台は天動説・平面説を取った架空の天体にて展開されている。
ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 - 天動説を元に組まれた魔術が登場する