概要
文字通り、艦船に搭載される航空機のこと。
航空母艦(空母)や駆逐艦、フリゲート等に搭載されることを前提に設計された航空機であり、基本的には軍艦に搭載される軍用機である。
太平洋戦争で活躍した「零式艦上戦闘機」や映画『トップガン』に登場した「F-14 トムキャット」、ハリアーやSH-60シリーズ等が有名。
設備が限られる空母の上で限られた機数しか運用できない艦載機にとって稼働率の高さは死活問題であり、基本的にメンテナンス性は高い。
また、金属の腐食を招く海水の塩分も大敵であるため、陸上機に比して塩害対策は厳重に施されており、「マリナイゼーション」と呼ばれる。デジタル化が進んだ近年は艦船のレーダーなどが発する電磁波による誤作動を防ぐ対電磁対策も施される。
固定翼機の場合
地上の滑走路に比べて狭い艦船上で運用する為
・スペース節約のため主翼を折り畳める
・カタパルトによる強引な発艦(もしくは射出)や、アレスティング・フックをワイヤーにひっかけて機体を叩きつける乱暴な着艦のため、機体や脚部の強度が高い
・地上着陸よりも繊細な操作を要求される着艦のため、低速での運動性が重視される
・垂直離着陸能力
など、陸上機に比べて要求が多い。
これらの要求は重量増につながるため性能を引き上げるうえで足枷となっており、性能的にどうしても陸上機に一歩劣らざるを得ない(もっともF-4ファントムのような例外はある)。
ジェット時代に入ってからは洋上におけるエンジントラブルのリスク回避から双発機が好まれる傾向にあるが、小型機では単発で妥協している事も多い。現在はエンジンの信頼性が向上したため、双発機を選ぶ必要性も減っており、好みが分かれるところ。
空母には戦闘機や攻撃機、爆撃機だけでなく給油機や偵察機、電子戦機に輸送機や哨戒機など多種・多様な機種が搭載されている。
近年は開発・維持・運用コスト削減の為、軍用機全般で一機種で何通りもの役割がこなせるマルチロール化が進んでいるが、艦載機は限られた収容スペースという切実な問題があるため特に機種の統合が進められている。
一例として近年のアメリカ海軍ではF/A-18E/F(G)「スーパーホーネット」が戦闘・攻撃・空中給油(・電子戦)を1機種でこなす運用を取っている。(厳密にはG型グラウラーは兼任ではなく専用の別機種だが、同型機のためほとんどの部品は共通である)
「AV-8 ハリアー」等のVTOL機のように、カタパルト、もしくはスキージャンプ台を持たない軽空母でも運用できる機種もある。
但し、甲板が高熱の排気に耐えられる加工がなされている事が前提条件。実際、スペイン海軍の軽空母デダロ(元アメリカ海軍インディペンデンス級航空母艦カボット)の木製甲板上でハリアー運用の実験を行ったところ、見事に甲板が焦げてしまい交換する事になってしまった。正式な搭載の際には甲板の一部を改修している。
輸送だけが目的であれば、初代アトランティック・コンベアーのようにコンテナ船でも耐熱マットを用意することで発着艦は可能だが、整備などの都合から本格的な運用は不可能。
垂直離陸による発艦は兵装搭載量の都合や燃料の節約の為に通常は行われず、通常の艦載機同様にカタパルトもしくはスキージャンプ方式で発艦する。
かつては水上機も使われていたが、現在はヘリコプターに置き換えられている。
ヘリコプターの場合
狭い場所からでも離着陸できるヘリコプターは、艦載機としても重宝されており、現代の駆逐艦やフリゲート艦は後部にヘリポートを備え、最低でも1機のヘリコプターを運用可能になっている。
基本的にはどんなヘリコプターも艦載機にできるとはいえ、これらの小型艦は波の影響を受けやすく、激しく揺れる艦上への着艦を余儀なくされる事がある。そのため、このような状況に備えて前述したアレスティング・フックに相当する拘束装置を装備している機種も多い。アメリカではヘリコプターから吊るしたワイヤーをウインチに繋げ機体を引き下ろすベアトラップが使われているが、複雑で大がかりなため欧州ではより簡素なハープーン・グリッド・システムが使われている。こちらは甲板に埋め込まれた穴だらけの板(グリッド)にヘリコプターから伸ばした棒(ハープーン)を引っかけるというもの。
専用に設計された機体となると、固定翼機と同じく格納庫へ収納するためにメインローターなどに折り畳み機能を有している。ただしそうでない機体も、メインローターのブレードを取り外せば(手間こそかかるが)収納可能。
主な任務は対潜哨戒、対艦攻撃、救難、上陸作戦の支援、垂直補給(物資をロープでぶら下げて運ぶ事)など。
陸上期からの転勤組
ちなみに陸上運用を前提とされた機が艦載機として再設計、もしくは改造されることがあり、F/A-18は空軍のコンペ用試作機であったYF-17を再設計しており、Su-33やMiG-29K等も原形機は空軍機である。
イギリス軍のアパッチAH Mk1は陸軍機ではあるものの海軍の揚陸艦等の艦内格納庫に搭載して輸送される事からメインローターの折り畳みが可能となっており、通常であれば分解となる他の陸軍機と異なり短時間での展開等が可能となっている。
U-2偵察機の艦載型であるU-2Gは政治問題の解決のために艦載型に改造されたものの、空母運用予算やスケジュール管理の問題で数度運用したのみでお役御免となっている。
旧大日本帝国海軍では
厳密な区別はないが、「艦載機」と言えば専ら戦艦や巡洋艦等に搭載されている水上機の事を指し、空母に搭載されている航空機は「艦上機」と呼んでいた。
現在でも日本語表記にこの名残は存在し、『艦載機』と言えば護衛艦搭載ヘリから空母の搭載機まで艦に積む航空機全般を指すが、『艦上機』と言えば、空母で使うことを前提に専用設計されている機種を指すものとされる。
代表的な機種
アメリカ
第二次世界大戦
- F4Fワイルドキャット:キャット一族の始まり。「グラマン鉄工所」と呼ばれるほどに機体が頑強。
- F4Uコルセア:逆ガルウイングが特徴。着艦時の高速さ、視界の悪さ故に、一旦空母運用を中止し陸上運用に切り替えられた。1943年末に空母運用が再開、1944年末、完全な空母運用能力を獲得したF4U-1Dが空母に配備された。
- F6Fヘルキャット:F4Fの後継機。堅牢な設計に加え、零戦にも劣らない運動性能で太平洋戦争後期の日本海軍を圧倒した。前述のF4Uが空母から降りている時期を支えた機体である。
- SBDドーントレス:ミッドウェー海戦において、日本海軍の空母を撃沈した爆撃機。
冷戦期~現在
- A-1スカイレイダー:アメリカ版ソードフィッシュ。朝鮮戦争からベトナム戦争末期まで活躍した万能レシプロ攻撃機。
- F-4ファントムⅡ:5,000機以上生産された、西側戦闘機のベストセラー。
- F-14トムキャット:冷戦時代に対艦攻撃機要撃用の機体として開発された可変翼採用機。米海軍では既に退役しているが、今でも根強い人気を持つ。
- A-6イントルーダー:全天候型の攻撃機。派生型の電子戦機EA-6Bプラウラーは2019年まで現役だった。
- AV-8ハリアー:V/STOL機の代表。英国から導入した初期型のA型をベースに近代化改修を施したB型が後に開発された。
- F/A-18ホーネット:F-14とA-6を代替する戦闘攻撃機で、マルチロール艦上機の代表的存在。発展系としてF/A-18E/Fスーパーホーネットが存在し、派生型はEA-6B(電子戦機)まで代替し、さらに空中給油もこなす。
- F-35:ステルス性を有する艦上戦闘機で、アメリカの他にも数か国が共同開発に関わっている。B型はV/STOL能力をもつ艦載型、C型はカタパルト射出とアレスティングワイヤー着艦に対応した通常の空母運用型となっている。
- U-2G:高高度偵察機の艦載型。
ソ連/ロシア
冷戦期~現在
- Yak-38:V/STOL機。航続距離の短さと事故率の高さにより配備期間は短かかった。
- Yak-141:V/STOL機。冷戦終了により開発は放棄された。
- Su-25UTG:空軍の同攻撃機を艦上訓練用練習機(Uchebno-Trenirovochnyi Gakovyi)として改修したタイプ。
- Su-33:Su-27の艦載型。非公式愛称は「シーフランカー」。
- MiG-29K:MiG-29の艦載型。
イギリス
第二次世界大戦
- フェアリーソードフィッシュ:「ストリングバッグ(買い物カゴ)」の名で親しまれた、万能複葉雷撃機。
- フェアリーガネット:対潜哨戒機。「世界でもっとも醜い航空機」と称されている。
冷戦期~現在
- BAe シーハリアー:イギリス海軍の軽空母「インヴィンシブル」の艦載機としてフォークランド紛争に投入された。2006年に退役。
フランス
冷戦期~現在
日本(大日本帝国)
第二次世界大戦
※現在の自衛隊に自国開発の艦載機は存在しないが、1983年に航空自衛隊が導入したアメリカ製の警戒管制機E-2は艦載機として設計されている為、折り畳み式の主翼も格納庫のスペース確保に役立っている。