海兵隊の流儀
1975年、アメリカ海兵隊は運用中だったハリアー(AV-8A/C)を再設計し、能向上を図るマグダネル・ダグラス社の改良案を採用する。
海兵隊は貧弱な滑走路でも使える戦闘機を求めており、(上陸作戦直後に建設する簡易航空基地)イギリスのハリアーは、まさに狙いピッタリの機体だったのである。
しかし、能力が不足しているという点では本家と同じ悩みを抱えており、さらなる改良型の開発を求めたのだ。
イギリスの解決法
イギリスではこの問題を解決する代わりに自国技術でのハリアー能力向上は諦め、通常の戦闘機・攻撃機の運用向上に力を入れた。
のちにAV-8Bの性能が良好であることがわかると、自国向けにも導入している。
混血児のハリアー
マグダネル・ダグラス社ではハリアーにさらなる軽量化を施し、それによって性能向上を図る開発計画を海兵隊に提出した。
なぜ軽量化なのか。
それは搭載する『ロールスロイス・ペガサス』が特殊なエンジンなので、性能の向上が難しかったのである。
また、新たなエンジンを開発しようにも費用がかかりすぎる(予想)事も一因である。
排気口(エンジンノズル)を形状変更する等を行い効率上昇を図るにしても、やはり限度がある。
ともかく、軽量化が性能向上の切り札であり、
このために当時最新の技術が惜しみなく投入されている。
まず、主翼は新しい考えを導入したスーパークリティカル翼形を採用し、あわせて素材をカーボンとして軽量化した。また、前部ノズルの形状も変更されて効率がよくなった。
これ以外でも新しい考えが導入され、軽量化にはよく配慮されている。
軽量化に加えてエンジン噴流を効率よく受けるために機銃が内蔵されたガンパック自体にもストレーキが追加される等、様々な改良が施されており、VTOL時の能力向上がされている。
機銃もアメリカ仕様に
なお、ガンパック内の機銃はADEN30mm機関砲2連装からGAU-12U「イコライザー」25mm機関砲1門に変更されている。
機体下部にポッドを左右1つずつ取り付けているが、実際に機銃が内蔵されているのは左側だけで、もう片方は弾倉となっている。
もちろんこちらも着脱式で、飛行性能を重視する時や装備が重くなりすぎる時はガンパックを胴体揚力増強装置と呼ばれる整流フィンに付け替えて作戦を行う。
整流フィンに付け替えた場合、兵装ステーションが一つ開くため、爆弾等は積めないもののターゲッティングポッドを取り付けることもある。
なお、英軍使用のBAeハリアーⅡには、機関砲を搭載できない。ガンパック自体は用意されていたのだが、肝心の中に入れる機関砲の開発に失敗したためである。
ハリアーⅡと実戦
こうして完成したのが「AV-8BハリアーⅡ」で、最大速度よりも搭載量を大きく増している。
もちろん海兵隊の要求には応えていたのだが、それでも湾岸戦争での損害は大きかった。
それは『披撃墜5機、戦死2名』というデータに象徴されており、多国籍軍の軍用機の中では最も多い部類である。
低空での作戦が多かった事が、最も大きな要因とされている。(実際、中高度からレーザー誘導爆弾を使うようになってからは損害が少なくなっている)
索敵・攻撃能力が大幅に低下することが明らかになった悪天候時・夜間の戦闘能力を向上すべく、フレアディスペンサーやFLIR(赤外線画像監視装置)を追加して、暗視ゴーグルにも対応した「ナイトアタック」型と呼ばれる改良型も登場している。
また、レーダーを搭載しない事による索敵能力の低さも問題となった。この対策が『APG-65火器管制装置』を搭載した改良型AV-8B+『ハリアーⅡプラス』で、APG-65はF/A-18と同じレーダーFCSである。これでAIM-120などのミサイルを運用できるようになり、攻撃能力は大幅に向上している。
練習機として複座型も製造されている。
イギリスではGR.5から始まり、GR.7、GR.9とアップデートされ、GR.7A、GR.9Aでは改良されたエンジンが搭載されている。
現在のAV-8B
現在は製造が終了。機体が老朽化していることから、後継機としてF-35Bの配備が進んでいる。
性能向上が続けられているとは言っても重量が増え続けるAV-8Bでは性能向上の限界が見えており、(もともと軽量化で性能を向上させていたので)F-35の実戦化まで現役に留まり続けることになった。
F-35の開発が遅れたが、本機の後継であるF-35Bの不具合を解決できないというものがあった。
それでも2027年の全機退役が決まっており、その日までAV-8Bの現役生活は続きそうである。ちなみにイギリスのハリアーⅡは全機退役済みである。
スペイン海軍とイタリア海軍では現役であり、イタリア海軍の空母ではF-35Bと共に艦載機として運用されている。