概要
輸送機とは、輸送のための軍用機である。輸送するものは貨物だけでなく人員の場合もある。
民間の貨物輸送用航空機は貨物機と呼ばれて輸送機とは区別されている。貨物機は旅客機を転用した機体がほとんどであるのに対し、輸送機は専用に開発された機体が多い。昔は民間旅客機や貨物機を転用した機体が多かったが、航空貨物が発達した現代では民間貨物機は航空会社からチャーターすればよいため、軍が保有する輸送機は軍用に特化した設計になる。
基本的に固定翼機を指し、ヘリコプターは含まない。ヘリコプターは確かに滑走路がなくても離着陸できるが速度は遅く航続距離も短く運航効率も悪いという難点があり、別のカテゴリーとして使い分けられている。
特徴
機体構造が軍用輸送に特化したものになっており、大型機となると巨大な貨物室を持ち、大型の荷物も搭載できるほか、人員の搭載を想定して与圧機能も設けられている。重量物の積載、固定、与圧の応力に耐えるほか、貨物機と違って乱暴な離着陸も想定しなければならないため、機体構造は貨物機より頑丈で、その分重量も増す。
タラップ車、ハイリフトローダーといった専用機材に依存はできないため、特殊な機材無しでも積み下ろしができるよう貨物室は極力低床に作られ、大きく開く後部のハッチはスロープにもなる。
低床のため降着装置も短め。
床が低くなると主翼の桁を機体下に通せなくなるので、多くの輸送機はかなり極端な高翼配置になっている。これは異物吸入に強いというメリットにも繋がる。
しかしながら高翼の場合安定性が高すぎて動きが鈍くなってしまうため、主翼に下反角をつけて安定性を相殺することも。
尾翼も同様に、貨物室確保のためかなり高い位置につくことが多い。
エンジンがジェットかプロペラかは、用途によって使い分けられる。基本的には長距離・重輸送はジェット、短距離・軽輸送はプロペラとなるが、近年は航空技術の発達により、当てはまらない機種もそれなりにある。
航続距離は機種によってさまざまだが、旅客機と違って飛ぶ距離と搭載量は必ずしも比例しない。戦闘車両のような重量物を短距離で運ぶようなケースがあるためである。
分類
戦略輸送機
『本国の空港から、戦場手前の大型空港までを結ぶ補給線』の役割を果たす輸送機。
基本的に結ぶのは大型空港同士であり、長大かつ整備された滑走路を期待できるため、離着陸性能は追及されないことが多い。
重視されるのは輸送力と航続距離で、大量の荷物を積んで長距離を飛行できなければならない。
例えるなら「配送センターと結ぶ大型トラックの定期便」というところである。
代表的な機種はアメリカ合衆国のC-5や、ロシア連邦のAn-225など。
ただし、後述する戦術輸送機の要素も強いC-17のような機体もある。
戦術輸送機
こちらに求められるのは『どんな空港でも着陸できる性能』である。
主に『大型空港から前線の補給基地までの輸送』に使われる。
前線基地は敵の攻撃によって損傷していたり、突貫工事で建築されたりと、滑走路の状態が完璧でないことが多い。
そのため短い滑走路でも運用できるように離着陸性能が重視され、未舗装の滑走路に対応した機体もある。敵の攻撃圏内を飛行しなければならないことも多いので運動性も軽視できない。
離着陸への要求が厳しいため、低空低速での飛行性能が重要となり、現代でもターボプロップエンジンが現役のカテゴリ。
例えるなら「配送センターから小売店や各家庭までを担当する小型トラック」となる。
C-130や川崎C-1、An-8などが代表的な機種として挙げられる。
しかしながら、こちらにも先述した戦略輸送機の要素を持つC-2のような機体があったりする。
人員輸送機
上記2種類には入らないが、主に連絡輸送のようなちょっとした輸送に使われるもの。例えるなら「空飛ぶタクシー」。
汎用機とも呼ばれ、アメリカではUC-12など、接頭記号に「U」がつく。
高官や政府首脳など要人を輸送する機体は主に旅客機を転用して利用しており、アメリカではVC-25など、接頭記号に「V」がつく。豪華な内装を追加しており、中でもVC-25やVC-137などは、執務室や手術室、警備兵の詰所に予備部品の貯蔵庫まで追加しているという。
(犯罪対策のため、詳細は機密事項となっている)
多くの国ではそのような機は空軍が運用している。日本は総理府の購入した機体を委託されて航空自衛隊が運用している。搭乗員や支援要員も日本航空で訓練を受けた航空自衛隊の隊員である。元々はバブル期の円高解消の一手だったのだが、公用にのみ使用されているので「あまり傷んでいない」という。
日本では正式な戦略輸送機を持たないため、海外での国民保護のために派遣される機である。
空中給油機
名前の通り本来の任務は空中給油であるが、機体丸ごと燃料タンクにすると重すぎて飛べないので、燃料タンクは主翼にのみ内蔵され胴体は輸送任務に充てられることが多い。
KC-130のように軍用輸送機ベースであれば、そのまま輸送機として遜色ない運用が可能だが、KC-767のように民間機ベースの場合は胴体まで貨物を持ち上げるリフトが必要になり、戦略輸送機的な運用が主となる。
空中投下
ろくな空港設備がない、強襲といった目的のために離着陸しての荷下ろしが出来ない場合、空中から荷物を投下することがある。貨物の積み下ろしをする後部ランプを開いて投下することもあれば、窓やドアを開けて放り出すと言った昔ながらの方法も行なわれている。
多くの場合、パラシュートがあってもそのままでは荷物は衝撃で壊れてしまうため、投下用のパレットに載せて落下後の地面との摩擦・着地の衝撃から保護する必要がある。
また、貨物だけではなくBLU-82/B「デイジーカッター」やGBU-43/B「MOAB」など、爆撃機の爆弾倉には搭載出来ない大型爆弾の投下にも使用されている。貨物積載用パレットを利用して積み込まれ、またこれも投下後に爆弾から外れる事で、バランスが狂って軌道がずれることを防いでいる。また、輸送機自身も巻き込まれてしまうため、低高度投下は行なわれていない。
以下の投下方式は後部ランプからの投下の為、後部ランプを備えていなかったり、飛行中に後部ランプを開くことの出来ない輸送機では行うことができない。
CDS
Container Delivery System=大型投下容器投下システム。
機首を上げて機体を傾かせ、搭載物の自重で後部ランプからすべり落として投下する方式。
ちなみに貨物の投下だけでなくALBM(空中発射型弾道ミサイル)の発射への利用も研究され、その技術は衛星打上げ用ロケットへの転用が研究されている。
PDS
Platform Delivery System=プラットホーム投下システム。
水平飛行したまま後部ランプからパラシュートにより機体内から引き出して地表へと投下する方式。
高高度から投下するという性質上、風に流されてしまい、狙った場所へと投下することは難しい。
その為、GPSを搭載した操作装置によりパラシュートをコントロールし、狙った場所へと投下するシステムが開発されている。
LAPES
Low-Altitude Parachute Extraction System=低高度パラシュート抽出システム。
地表近くに輸送機を飛ばし、PDS同様に後部カーゴからパラシュートにより機体内から引き出して地表へと投下する方式。
低高度で投下することから衝撃が少く、高高度からの投下が難しい車両や空挺戦車などの重量物を投下させることが可能で、狙った位置へと投下する事が可能だが、輸送機が飛べるだけの広い場所が必要な事に加えて、投下後に地表で横転したり、投下時に接触して輸送機が事故を起こすなどで損失が生じてしまう可能性がある。
現在は改善が行われ、損失率は低下している。
国別
日本
YS-11(海上自衛隊)
アメリカ
ロシア(ソビエト)
ウクライナ
欧州共同
イギリス
ドイツ
ブラジル
C-390(KC-390)