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A400M

えーよんひゃくえむ

1980年代、将来的にはC-130やC-160も旧式化するとの展望のもとに開発の始まった、欧州共同開発の戦術輸送機である。ソビエト崩壊に伴う冷戦終結、開発参加国の増加とともに開発要件は変遷しつづけ、おかげで開発作業も難航して、21世紀にようやく初飛行を迎えた労作。公式には「アトラス」、制定以前には「グリズリー」とも呼ばれていた。ちなみに、型番最後の「M」は、軍用を表す符号である。
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名作の後継者を

アメリカ、ロッキード社のC-130輸送機の傑作であった。
はじめて制定された四軍共通規格の貨物コンテナに対応して設計され、野原をならしただけの不整地でも離着陸が可能で、しかもそこそこのSTOL性能も備えている。それでいて貨物室は広く取られており、地上高も低いので積み下ろしもラクラクこなせる。おまけに貨物室は全体にわたって与圧できるので、人員輸送でも大活躍まちがいなし。

実際に西側世界ではC-130は大ヒットし、性能にほれ込んで正規に買った国から、戦争で南の残置品を分捕ったベトナムまで、幅広い国々で運用された。

しかし、初飛行から30年も経つと徐々に痛みがかさんできた。改修を重ねているものの能力にやや不足も感じる。
とりあえずは新造機で代用するとしても、将来的には新型の後継機が必要になるだろう。
そこで、1982年にはフランス(エアロスパシアル)・イギリス(BAe)・ドイツ(MBB)・アメリカ(ロッキード)による共同開発事業FIMA(Future International Military Airlifter:将来国際軍用輸送機)が発足。翌年には関係各社の間で合意がかわされ、ここに開発作業が具体化することになった。

ベトナム空軍のC-130

正式に運用していた訳ではないが、ベトナム戦争終結後に元南ベトナム空軍の機を接収し、しばらく運用していたようだ。

もちろんメーカーからの支援は得られず、もと南ベトナム空軍の整備士の協力のもとで在庫部品を大事に使い、最後には「共食い」で稼働を維持していた模様。F-5A-37などと共にカンボジア侵攻に参加したといわれている。

もちろんこのような方法では長く維持できず、ほどなくAn-26のようなソ連製輸送機が配備されて一線を退いた。タンソンニュット空港の一角にはかつて、こうして飛行不能になった元南ベトナム機がまとめて残置されていた場所がある。

つのる期待

総じて1980年代は順調な計画進行であった。

1984年には機体規模や設計案といった、大まかな完成形が決定。
主翼は構造材が邪魔にならない高翼配置に、高速化するとともに後退翼を採用して空力を改善、エンジンはターボファン4発(搭載力:30t)とターボプロップ4発(搭載力:20~25t)の2案からターボプロップエンジン案が採用された。このターボプロップエンジンには、SNECMAが低公害・低騒音・低燃費の新型エンジンを開発する。

これら総合すると、基本的にはC-130をそのまま引き継ぎ、さらに上行く性能を目指していると言えるだろう。またロッキードが関わったせいか、A400MはどことなくC-141のような雰囲気も漂わせる。まあ輸送機として合理的な形態はそう多くある訳ではないので、何かに似るのは当然なのだが。

80年代後半には新たなイタリア(アエリタリア)・スペイン(CASA)が参加し、期待も資金もいっそう集めて、開発機構も「FIMAインターナショナル」へと変わった。

つのる不安

EuroFrag

1989年、計画はEC(現在はEU)諸国向けの統合型輸送機とすることに代わり、開発組織は「EuroFlag:ユーロフラッグ」、開発名称も「FLA:Future Large Aircraft(将来大型航空機)」へと移り変わった。

今にして考えれば、このあたりから何やら暗雲が立ち込め始めていた。
また、当初並行して開発される予定だった新エンジンは、すでに実用化の目途が立たなくなっていた。そこでエンジンだけ改めて選定が行われ、旅客機などに使われている出来合いのターボファンエンジン搭載に替わっている。

この頃、EuroFrag内部でも主に資金の問題をめぐって利害が対立。結局は関係5社が等分に負担することになったものの、さらに1992年にベルギー(FLABEL)・ポルトガル(OGMA)・トルコ(TAI)の3か国が横入りして、事態はいっそう複雑化した。1994年には事業拡大とともに効率化のため、開発計画全体をエアバスが担当することなった。

エアバス・ミリタリー

1995年にはエアバス・ミリタリー部門を設立して計画を引き継いだ。1999年にはミリタリー部門もエアバス・ミリタリー社として分社化。この分社化の資金は当初、エアバス63%の他ベルギー・ポルトガル・トルコが残りを負担する予定だったが、結局はこれも紆余曲折の末に100%エアバスの完全子会社となった。

開発計画も「A400M計画」と名称が変わり、冷戦終結後あらたに要求された「国際平和維持」と「人道支援」が要求仕様に加わった。機体は最大積載重量37tを求められ、要求航続距離はさらに大きくなり、エンジンは燃費を気にして再びターボプロップエンジンに戻った。

こうして設計前の調整にやたら手間取ったせいで、実際の設計が始まったのは1996年。FIMA発足から14年が過ぎていたのだった。本当に大丈夫か?

国際共同心臓

当初はSNECMAが新設計する予定だったのだが、遅れに遅れて頓挫し、一度は旅客機用エンジン(おそらくA300シリーズと同様のもの)を搭載することになっていた。この最初のエンジンに替わって開発が進められていたのが、ユーロプロップ・インターナショナル社製TP400エンジンである。

ユーロプロップは、EU各国のエンジン開発企業からなる合弁企業であり、MTU(ドイツ)・ロールスロイス(イギリス)・SNECMA(フランス)の3社を中心に、インダストリア・デ・ターボ・プロパルゾレス (スペイン)が残りを出資。開発作業もこれら企業間で分担される。そして今のところA400M用のTP400エンジンだけを扱っており、つまりA400M専用エンジン企業となっている。

このエンジンは旧ソ連製ターボプロップエンジンに迫る出力を持っており、A400Mの性能を支える要だったのだが、2005年に初運転の後に問題が発覚し、実際にテスト機搭載で初飛行を遂げたのは2008年となった。そしてこの遅れが、A400M開発遅れの主因となっていくのだった。

重「問題」輸送機

最初の機は2008年に完成したが、エンジン制御コンピュータのプログラムに問題があり、初飛行は翌年にずれ込んだ。実際には(大方のトラブルを解決した上で)この年に配備が始まるはずだったのだが。
そして、いざ飛ばしてみるとまた問題が、しかも複数見つかった。

まずは2015年にスペインで起きた事故。
乗員6名中、4名死亡2名重傷を負ったこの事故は、エンジン制御コンピュータのプログラムにまつわるものだった。そうでなくとも、一度はエンジンが原因で納期に遅れまくっており、ここに問題が再び噴出して、めでたく飛行停止・原因の徹底究明となったのだった。

また、さらには重量過多。
どうも途中で要求仕様が何度も変わり、その度に必要な装備が増していったのが原因のようだった。
もちろんこの皺寄せは性能にいく。このせいで搭載力は計画の37tを大きく下回ってしまった。

そのうえ機体にヒビが入る問題もあった。
この問題は生産にまつわる問題であり、このせいで生産過程をだいぶ見直さなければならなかったようだ。ユーロファイターといい、ドイツ(中央~後部胴体担当)は何やってるんだか。

極め付けにはまたもやエンジン、それもギアボックスだった。
ターボプロップエンジンのギアボックスは、自動車用とは比べ物にならない大出力が常に掛かっているため、特別な設計ノウハウが要求される。やはりTu-95(約11000kw)は凄かったのだ。
(参考までにTP-400の出力は約8200kw・インプレッサWRX-STIは約300kw)

他にも「このエンジンは20時間でオーバーホールが必要」だの何だのと、いろいろと散々な有様である。(メーカーによれば「そこまで酷くない」「新しいギアボックスは手配した」等とは主張しているようだが)
このあたりの問題については、ニコニコ大百科(A400M)のほうが端的なので、詳細はそちらに譲ることとしたい。

A400Mに明日はあるのか

(結果的に)初飛行が近くなってしまったため、日本ではC-2と何かと比較される機ではある。
また、戦術輸送機として標準的な比較対象としてC-130Jも併記する。

・大きさ
A400Mに比べ、C-2は微妙に小さい程度でほぼ同じ。
両者とも全長45m・全幅43m(程度)なのに対し、C-130Jは全長約30m。

・重量
空虚重量ではA400M:76.5tにC-2:68.2t。C-2のほうが8t軽い。
C-130Jは35t程度。

・離着陸性能
A400Mは胴体の強度不足が祟ったのか、不整地での離着陸は無理であることが判明している。
C-2は始めから想定していない。国内に「離着陸に使える」不整地がまず無いのも一因と思われる。
C-130Jは多くの実績があり、MC-130は東北大震災に伴って発生した津波で、荒れ果てた空港に(事前に手作業で復旧作業が行われていたとはいえ)強行着陸して道路整備機材を輸送した実績もある。

・速度
A400Mの巡航速度はマッハ0.68~0.72(高度約9400m)となっている。
C-2はマッハ0.8(高度約12000m)で、民間機用航路で巡航可能。
C-130Jはマッハ0.59(高度6700m)に留まり、現在では時代遅れとされる。一応、それでもH型よちも50km/h程度速い。

・搭載重量
A400Mはどうやら30tに満たない。
C-2は無理すれば36tも可能(防衛装備庁データ)。
C-130Jは20t程度で、これは以前の派生型と変わりない。

・総合
A400Mに比べ、C-2は(アレよりはまだ順調に)配備にまでこぎ着けた訳だが、その違いはエンジンを専用に開発しなかった事だろう。「エンジン開発にコケた場合、航空機開発そのものが失敗しかねない」というのは、今まで脈々と連ねてきた失敗の系譜でも明らかである。

C-2のエンジンはボーイング767と同じエンジンで、この点では何も冒険していない。
しかしA400Mは、不整地での離着陸性能を求められたせいでターボプロップエンジンとなった訳だが、そのせいで問題が続出して計画そのものが頓挫寸前になってしまった。

C-2はおそらく買い手の条件さえ合えば、いくらでも売れる「見込み」はあるものと思われる。
C-130はJ型になって速度性能が上がったが、それ以外は従来と同程度に留まり、ついでにそう安くもない(6200万USドル)為、純粋にH型から入れ替えたいのでなければエンブラエルC-390(5000万USドル)を買ったほうがいいだろう。


A400Mは色々と問題続きで、第一級の輸送機に大成する見込みもはっきりしない。
(・・・というか、もうダメくさい)
搭載力はドイツが要求する水準に満たず、とくに新型の「プーマ」歩兵戦闘車(最低装甲状態:31t)やボクサー装輪装甲車(戦闘装備状態:32t)を搭載できない事に至っては、どうやら将来を絶望視するのに十分なようである。おまけにターボプロップ駆動では、特に現在求められている速度性能において要求を満たせる見込みは無く、ここでも将来は暗いと見込んだほうがいいだろう。

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