概要
各国で採用していたC-130の老朽化や輸送需要に対する陳腐化により、エアバス社の軍用機部門による欧州の複数の国家協同で開発された、中型の輸送機である。
新技術を多数盛り込んだ上に、多国籍開発のご多分に漏れない計画遅延とコスト増加に見舞われたものの、色んな国を巻き込んだ以上潰すわけにもいかないということで計画は断行され、2013年にどうにはどうにか運用にこぎつけた。
搭載量37tと、C-130の2倍近い搭載量を持ち、航続距離も長いので戦術輸送・戦略輸送のどちらにも使用可能。空中給油も最初から受けられる上に、自らも空中給油機となって戦闘機やヘリコプターへの給油を行える。コックピットはA380のものをベースにしている。
欧州以外でもマレーシアで運用されている他、カザフスタンやインドネシアも採用を決定しているが、何分高価なので輸出販売は低調気味。
開発が炎上気味ということに加え、大きな不具合の発生、運用の問題が発生といったA400M自体の問題もあるが、C-2と類似した規模の機体であるためか、(加えて日本製は貶されるのが常である反動からか)勝手にライバル意識を燃やした国内のミリオタによってA400M貶しが盛んに行われており、根拠不明の過小な数値を流布したり難癖を付けて回る活動が熱心に行われている。
某イギリスの小銃同様、貶しが半ばミーム化しつつある状況であり、当分この機体に関してまともな日本語の解説は行われないと見るべきだろう。
開発経緯
計画発足
アメリカ、ロッキード社のC-130は輸送機の傑作であった。
はじめて制定された四軍共通規格の貨物コンテナに対応して設計され、野原をならしただけの不整地でも離着陸が可能で、しかもそこそこのSTOL性能も備えている。それでいて貨物室は広く取られており、地上高も低いので積み下ろしもラクラクこなせる。おまけに貨物室は全体にわたって与圧できるので、人員輸送でも大活躍まちがいなし。
実際に西側世界ではC-130は大ヒットし、性能にほれ込んで正規に買った国から、戦争で南の残置品を分捕ったベトナムまで、幅広い国々で運用された。
しかし、初飛行から30年も経つと徐々に痛みがかさんできた。改修を重ねているものの能力にやや不足も感じる。
とりあえずは新造機で代用するとしても、将来的には新型の後継機が必要になるだろう。
そこで、1982年にはフランス(エアロスパシアル)・イギリス(BAe)・ドイツ(MBB)・アメリカ(ロッキード)による共同開発事業FIMA(Future International Military Airlifter:将来国際軍用輸送機)が発足。翌年には関係各社の間で合意がかわされ、ここに開発作業が具体化することになった。
総じて1980年代は順調な計画進行であった。
1984年には機体規模や設計案といった、大まかな完成形が決定。
主翼は構造材が邪魔にならない高翼配置に、高速化するとともに後退翼を採用して空力を改善、エンジンはターボファン4発(搭載力:30t)とターボプロップ4発(搭載力:20~25t)の2案からターボプロップエンジン案が採用された。このターボプロップエンジンには、SNECMAが低公害・低騒音・低燃費の新型エンジンを開発する。
これら総合すると、基本的にはC-130をそのまま引き継ぎ、さらに上行く性能を目指していると言えるだろう。またロッキードが関わったせいか、A400MはどことなくC-141のような雰囲気も漂わせる。まあ輸送機として合理的な形態はそう多くある訳ではないので、何かに似るのは当然なのだが。
80年代後半には新たなイタリア(アエリタリア)・スペイン(CASA)が参加し、期待も資金もいっそう集めて、開発機構も「FIMAインターナショナル」へと変わった。
調整の難航
1989年、計画はEC(現在はEU)諸国向けの統合型輸送機とすることに代わり、開発組織は「EuroFlag:ユーロフラッグ」、開発名称も「FLA:Future Large Aircraft(将来大型航空機)」へと移り変わった。
当初並行して開発される予定だった新エンジンは、すでに実用化の目途が立たなくなっていた。そこでエンジンだけ改めて選定が行われ、旅客機などに使われている出来合いのターボファンエンジン搭載に替わっている。
この頃、EuroFrag内部でも主に資金の問題をめぐって利害が対立。結局は関係5社が等分に負担することになったものの、さらに1992年にベルギー(FLABEL)・ポルトガル(OGMA)・トルコ(TAI)の3か国が横入りして、事態はいっそう複雑化した。1994年には事業拡大とともに効率化のため、開発計画全体をエアバスが担当することなった。
1995年にはエアバス・ミリタリー部門を設立して計画を引き継いだ。1999年にはミリタリー部門もエアバス・ミリタリー社として分社化。この分社化の資金は当初、エアバス63%の他ベルギー・ポルトガル・トルコが残りを負担する予定だったが、結局はこれも紆余曲折の末に100%エアバスの完全子会社となった。
開発計画も「A400M計画」と名称が変わり、冷戦終結後あらたに要求された「国際平和維持」と「人道支援」が要求仕様に加わった。機体は最大積載重量37tを求められ、要求航続距離はさらに大きくなり、エンジンは燃費を気にして再びターボプロップエンジンに戻った。
こうして設計前の調整にやたら手間取ったせいで、実際の設計が始まったのは1996年。FIMA発足から14年が過ぎていたのだった。
エンジン開発
当初はSNECMAが新設計する予定だったのだが、遅れに遅れて頓挫し、一度は旅客機用エンジン(おそらくA300シリーズと同様のもの)を搭載することになっていた。この最初のエンジンに替わって開発が進められていたのが、ユーロプロップ・インターナショナル社製TP400エンジンである。
ユーロプロップは、EU各国のエンジン開発企業からなる合弁企業であり、MTU(ドイツ)・ロールスロイス(イギリス)・SNECMA(フランス)の3社を中心に、インダストリア・デ・ターボ・プロパルゾレス (スペイン)が残りを出資。開発作業もこれら企業間で分担される。そして今のところA400M用のTP400エンジンだけを扱っており、つまりA400M専用エンジン企業となっている。
このエンジンは旧ソ連製ターボプロップエンジンに迫る出力を持っており、A400Mの性能を支える要だったのだが、2005年に初運転の後に問題が発覚し、実際にテスト機搭載で初飛行を遂げたのは2008年となった。そしてこの遅れが、A400M開発遅れの主因となってしまった。
運用
2013年末、フランスの対テロ作戦支援に出撃したのが初の実戦となる。
ちょうどISILの活動が活発化したこともあって実戦の機械は多く、開発中の目論見通り中東各地の輸送任務に飛び回ることとなる。
2018年には装甲キットを追加されて戦闘状況下に投入されている。
2021年のアフガンからの米軍撤退、2023年のスーダンでの戦闘では民間人を回収するために出撃した。
自衛隊も邦人救出に向かったため日本のカメラが向けられることとなり、日本のニュース映像に姿が映ることも多かった。
近年は欧州の空軍と航空自衛隊との合同演習の機会が増えた事もあり、日本に飛来する事もある。
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