C-130とは
アメリカのロッキード社(現ロッキード・マーティン社)が製造しているベストセラー輸送機。
ハーキュリーズの名はギリシア神話のヘラクレス(Hercules)の英語読み。
アメリカ軍のみならず、世界各国の軍で使用されているベストセラー機。
数は少ないが民間でも使用されており、民間機型は「L-100」と呼ばれる。
初飛行はなんと1954年。太い胴体に高翼式主翼、主輪を収納するバルジ、スロープも兼ねる後部大型カーゴベイといった、現代の軍用輸送機の基本的なスタイルを確立し、現代にいたるまでその基本設計にほぼ手を加えられないまま改良が続けられて現役を保っており、「世界最高の輸送機」との呼び声も高い。
搭載量は約19トンで、兵員なら最大92名を輸送可能。
さらに、空中給油機、電子戦機、救難機など、バリエーション機も非常に多い。
離着陸性能
不整地での着陸にも対応した低圧タイヤを採用し、高い短距離離着陸能力を持つ。
整地されていない場所を滑走路にすることも想定されており、
砂漠や南極など、多くの輸送機では運用が難しい環境でも運用されている。
砂地や雪原等、とくに接地圧を低くする必要がある地形では着陸脚にスキッド(そり)を装着することもある。
また、これを装着すると着陸脚を収納できないため、専用の派生型が開発されている。
(C-130Aを改修したC-130D、LC-130A)
フォレスタル級航空母艦で、カタパルトや着艦制動索を使わずに(と言うより元々が艦上機ではないので対応できない)離着艦を成功させるという、
元々が空母に乗ることを前提とした艦上機でもできないことさえやってのけたが、
大型機なので艦内格納はできず、実際の運用は不可能と思われる。
実際に海軍は大き過ぎて運用に不便との理由で艦上輸送機としての制式採用を見送っている。
ジェット推進補助離陸(Jet-fuel Assisted Take Off)
離陸補助ロケット(JATO)の使用でさらに短距離での離陸も可能。
ジェットとは言うが、ロケットブースターを使うので、厳密には別物である。
しかしこの用語ではジェット推進もロケット推進も同様に扱っており、
実際にはどちらも「JATO」で良い事になっている。
C-130では後部ランプ(斜路)の少し前に取り付けラックがあり、左右各4本を搭載できる。
ただし、
・JATOは使い捨て
・JATOを投棄した際、機体に接触する事がある
(そして、接触するとしたら尾翼)
のような問題があって一般的ではない。
そのため、H型では装着機能自体が外されてしまい、
ブルーエンジェルズの「C-130T ファットアルバート」によるデモか南極観測支援機のLC-130位でしか見る機会がなかった。
補助ロケットは既に製造終了済みのため、ブルーエンジェルズでは在庫切れのために2009年に終了している。
着陸の方でもロケットによる性能向上は試され、格納式ロケットによる進行方向への噴射による減速と、下向きに装着したロケットによる着陸時の衝撃軽減も試されたが、失敗し事故を起した(改修機は焼失)ことで廃案となった。
ちなみに、1986年公開の映画『デルタ・フォース』(主演:チャック・ノリス)の冒頭では、
実際にJATOを使用しているシーンが使われている。
(つけ加えると、この場面こそが『イーグルクロー作戦』(後述)を基にしていたりする)
ブースター付きC-130
1979年、イランのアメリカ大使館占拠事件が起こり、
それに対する救出作戦として『イーグルクロー作戦』が立案された。
作戦はC-130等の支援を受けたRH-53D掃海ヘリで行う事になったが、
砂嵐で編隊がバラバラand故障で脱落。
作戦は中止される事になったのだが、撤収作業中に事故が発生。
残骸や遺体、残ったRH-53Dをやむなく残し、
隊員は全員C-130に分乗して撤収する事となった。
そこで、
「C-130の特別改修機で近くのサッカー場に強行着陸、救出作戦を行ってそのまま離陸する」
というクレディブル・スポーツ作戦が考えられた。
このために3機のC-130Hが改造され、多くのロケットブースターを増設した。具体的に言うと、離陸時の加速だけでなく、着陸時の逆噴射にもロケットブースターを使用するという、あまりにも強引すぎる手法でこれを実現しようとしたのである。
それが祟ったのか作戦に向けた訓練中に事故を起こし、
(着陸用減速ブースターの作動が早すぎ、接地寸前に失速して大破)
改造C-130による作戦は取りやめになってしまった。
その後事件は長期化し、
引き渡しを要求していたパーレビ国王の死去をきっかけにして、事件は解決に向かい始める。
また、この事件に対するアメリカの対応にも、まずい点が明らかになった。
イーグル・クロー作戦は陸軍・海軍・空軍・海兵隊の4軍が参加した作戦だった。
救出部隊は陸軍のレンジャー部隊・デルタフォースが主力となり、
空軍が上空制圧・給油支援を行い、
海兵隊のパイロットがヘリコプター(RH-53D)を操縦するという、
非常に雑多な大所帯になってしまったのだ。
当然、普段は一緒に仕事しているわけでは無いので混乱し、
(さすがに指揮権は作戦指揮官に統合されてはいたが)
この足並みの違いが浮き彫りとなった。
結局は4軍の手柄争いという側面まで露わになってしまっていた。
これを契機に、このような特殊作戦を総括して担当する、
『U.S.SOCOM(アメリカ特殊作戦群)』が編成される事になるのである。
置いてけぼりのRH-53D
ちなみに、砂漠に残されたRH-53Dはその後、
イランが自国のRH-53Dの為に部品取りを行った後、空爆により完全に破壊している。
これは機体奪還のためのさらなる軍事作戦を恐れた為だったが、
その後アメリカとイランは「非常に疎遠な関係」となって現在に続いている。
現在活躍中の派生型(代表例)
C-130H
シリーズのひとつの完成形といえるモデルで、現状最も生産されたモデルでもある。
航空自衛隊が使用しているのもこれ。
胴体を延長し、離着陸性能を多少犠牲にした代わりに積載能力が向上した「C-130H-30」もある。
当時、自衛隊(日本政府)はジェットエンジンを有するC-1戦術輸送機を川崎に生産させていたのだが、C-1以前にC-130を導入するのはどうかという話が何度かあった。しかし、実際にはYS-11Aが配備されたり航空自衛隊が持つ基地の滑走路もC-130の運用に適していないとしてC-1が配備された。これは自衛隊機の国産化を担う代表的な機体であった。
が、当時の国内は終戦直後の間違った教育で脳味噌を壊された人たちが政治家や官僚に就任して〝他国への侵略の足がかりになるので航続距離を短くしろ〟というアホみたいな愚挙を展開。こうしてC-1は航続距離が短く増槽を積むと積載量が減るという残念な仕様になった(ただし、その結果生まれた機動性と短距離離着陸性能はアメリカから一時期注目された)。
運用開始直後は些細な問題としか見なされていなかったが、沖縄と小笠原諸島が本土に復帰するとC-1では航続距離が足りないのでそこまで行けないし、増槽を積めば積載量が減るので何度も往復しないといけないという問題が出た。ここで川崎によってC-1の胴体延長型が提案されていたのだが(所謂C-1B)、最終的に欧州のC-160やアメリカのボーイング767、そしてロッキードのC-130の中から選ぶ形になった。こうして、最終的にC-130のH型が採用されて16機が配備された。ちなみに、この中で3機はKC-130H空中給油機に改造されている。加えて、海上自衛隊でもC-130Rが採用されており6機配備されている。
一見すると搭載量が増加したため戦力が強化されたように思えるが、どう考えてもジェットエンジンのC-1に比べたらターボプロップのC-130は明らかに速度で見劣りしている。C-130の時速602kmに比べたらC-1の830km(マッハ0.76)の方が明らかに速い。せめてC-141にすれば積載量も航続距離も確保できて一石二鳥だったのに悲しいものである。しかも、配備された16機全てには補助ジェットエンジンすらつけられていない。これは海自のP2V-7やアメリカ空軍のC-119やC-123で主翼のプロペラの脇についているタイプを指す。
故に、いざ最大速度で目的地へ向かえとなれば、機体を急上昇して1万メートル以上に到達し、そこから急降下をすることでC-1さながらのスピードで飛ぶしか他はなかった。
C-130J
エンジン換装、グラスコックピット化等の大改造を施された新世代型。プロペラが6枚になったのが外見上の大きな特徴。
愛称は「スーパーハーキュリーズ」。胴体を延長した「C-130J-30」もある。
民間型の名称は「LM-100J」となる。
メーカーによる公式動画
AC-130 ガンシップ
機体左側面に銃火器を搭載した対地攻撃機。
現在唯一現役のガンシップ。
航空優勢の確保が必要なため、運用しているのはアメリカのみ。
初期はミニガンやバルカン程度(AC-130A試作機)だったが、携帯地対空ミサイルの射程外から攻撃する必要性・更なる火力を求める声に応え、
・ボフォース L60 40mm機関砲(AC-130A生産機)
・M102 105mm榴弾砲(AC-130H)
等の長射程兵装が搭載された。
・25mmガトリングガンと40mm機関砲⇒30mmチェーンガンに、
・105mm榴弾砲⇒120mm迫撃砲に換装、
さらにAGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルとハイドラ70の運用能力を付与する計画もあったが、キャンセルされた。(AC-130U)
KC-130F
海兵隊の空中給油機。改良型にKC-130Rがあり、海上自衛隊が中古で導入したのもこれ(空中給油装置は外してC-130Rとなっている)。
現在は後述のKC-130Jにも更新されている。
また、海軍の曲技飛行隊『ブルーエンジェルス』の給油支援機も本機である。
KC-130J『ハーベストホーク』
海兵隊が運用する空中給油機(KC-130J)に「Harvest HAWK(Hercules Airborne Weapons Kit)」を追加し、軽ガンシップとした機体。
AC-130の支援優先順位が低い海兵隊が、自分たちが自由に使える航空支援機を求めた結果である。
(AC-130は空軍の空軍特殊作戦コマンド所属であり、空軍特殊作戦コマンドは陸軍を含む特殊作戦の支援を主任務としている)
すぐ元に戻せることもあり、空中給油任務が少ない機をその都度改修している。
攻撃ヘリに搭載されているものと同型のセンサーユニットであるAN/AAQ-30 TSSを左側外部燃料タンク下面に装備している。
左側空中給油ポッド部にはヘルファイア用4連装ランチャーを搭載し、後部ランプにはグリフィン用10連装ガンスリンガーランチャーを搭載し、側面ドアを交換する事で砲身を機外に出せるようにする。
・AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイル
・グリフィン小型対地ミサイル
・30mm機関砲(Mk44ブッシュマスターIIまたはM230チェーンガン)
装備の追加、交換によりこれらを運用可能であり、AC-130ではキャンセルされたスタンドオフ精密誘導兵器の運用が可能となる。
また、後部ランプのグリフィンは機内からの再装填も可能。
兵装コンソールは標準貨物パレットに載せられており、素早い交換が可能。
もちろん、普段は空中給油機として活躍している。
(『あくまで必要とあればそういう使い方もできる』程度と思われる)
なお、イタリア空軍のC-27Jにも同様の軽ガンシップ計画が存在している。
ハーベストホーク同様にGAU-23(MK44ブッシュマスターII)30mm機関砲をパレット上に搭載する。
砲身を機外へ出すために機体に穴を開ける事はせず、側面ドアを専用のものに取り替えるため、兵装パレットを取り外す際にドアを交換することで通常の輸送機(特殊作戦機)同様に戻す事も容易となっている。
MC-130 コンバットタロン
特殊作戦機。
・HSLLADS(高速低空空中投下装置)、
・各種電子戦機器、
・赤外線暗視装置(FLIR)、
・地形追随レーダー等
の装備を搭載することで特殊作戦向けに改装を施した機体。
C-130E・C-130Hから発展しており、フルトン回収システムはMC-130Eのみの装備である。
MC-130P コンバットシャドウ
捜索救難支援機。
救難ヘリに対する空中給油能力とフルトン回収システムを搭載していた。
死亡事故もあり、のちにフルトン回収システムは撤去された。
さらなる派生型(過去のもの含む)
他に数多くの派生型がある。
・無人偵察機の発射・管制を行う機:DC-130
・電子偵察(ELINT)機:EC-130
・移動式野戦指揮所の輸送機:EC-130EⅡ
・空軍・州空軍・沿岸警備隊の救難機、救難ヘリ給油機:HC-130
・実験・試験用機(一時的な移籍扱い):JC-130
・空中給油機(前述):KC-130
・極地観察隊用の寒冷地仕様(前述):LC-130
・特殊戦闘用支援機(前述):MC-130
・実験・試験用機(恒久的な実験改造機):NC-130
・シリーズ初期のELINT偵察機:RC-130
(AC-130の為のサーチライト照射機もRC-130。暗視装置の発達で不要になる)
・要人輸送機:VC-130
・ハリケーン観測用機:WC-130
などなど。
冷戦中は電子偵察(ELINT)のため、『通常の輸送機にしか見えない偵察機』が用いられた。
これが初期のEC-130やC-130BⅡで、通常の輸送機にアンテナが増えた程度しかわからない。
ポストC-130は?
半世紀以上に渡って活躍を続けているC-130は確かに名機ではあるが、弱点もある。
- 元々戦術輸送機(戦場付近から直接戦場へ輸送を行う短距離輸送機。旅客機で例えればボーイング737やエアバスA320に相当)であるため、長距離を飛んで輸送する事を想定した設計になっていない。よってトイレは簡素なものしか設置されていない。
- 大型化・重量増加が進んだ装甲車やヘリコプターの輸送に対応できなくなった(C-130で輸送できることが求められたUH-60やストライカー装甲車ですら「一応運べる」レベルのものでしかない)
これらの弱点は、冷戦終結後国際貢献任務が増えていくにつれて浮き彫りとなっていった。
アメリカではより大型のC-17があるためうまく使い分けているが、大きな輸送機を複数機種保有できる余力がない各国では独自に後継機を開発し始めた。
2010年代に登場した欧州共同のA400Mや日本のC-2は搭載量30トンクラスに大型化したが、その分お高くついてしまい広く普及するには至っておらず、ほぼ別クラスの機体になっている。一方、少し遅れて登場したブラジルのC-390はC-130と規模はほぼ同じだがジェット化した機種であり、堅実な設計とC-130Jより安い価格・運航コストから2020年代に入って人気を集め始めている。他には、韓国や欧州共同でもC-130クラスの次期輸送機を開発する動きがある。
とはいえ、C-130が完成度の高い輸送機である事に変わりはない。
各国から多数放出された中古機は懐事情が厳しい国から根強い需要があるし、中には大規模な近代化改修を施して大事に運用し続ける国もある(例えばニュージーランドはC-130Hを何と半世紀以上も使い続けた)。
このため、現行モデルのC-130Jは以前のシリーズほど多くの機数は売れていない。
お古を使い続けるか、最新モデルを買うか、新型機に置き換えるか。
ポストC-130がどうなるにせよ、C-130が今すぐ世界の空からいなくなることはないだろう。
余談だが
わざと失点を作ることで窓際となり、気兼ねなく軍を辞めるために無茶な要求を出したのがこの航空機が開発された原因だとか。
実際に出来てしまったので窓際に行けるはずがないのだが、事実であれば面白い話である。
世界的に採用されたC-130だが、その中にイギリスも存在する。しかし、イギリスに関してはお世辞にも良くない話がある。当初のイギリスはアームストロング・ホイットワースAW.681戦略輸送機を導入する計画を立てていた。これは現在のC-17の様な機体でありながらエンジンを換装することで垂直離着陸機能を得られるという夢のような機体であった。
しかし、当時政権を握った労働党によってTSR-2攻撃機やP.1154超音速型ハリアー共々に開発中止を宣言されてしまう。更にショートベルファストという戦術輸送機(これがC-130に相当する)もたった10機で生産終了という異常事態に。後に残ったのは固定脚のビバリーC.1や寸胴のアーゴシーとアンドーバーだけ。いずれもレシプロエンジン駆動でありジェット化は早急に望まれていた。
が、労働党がアメリカ寄りの提案を示した結果ブリティッシュファントムに加えてC-130が導入。前者は垂直離着陸仕様じゃない代わりに国産のスペイエンジンに換装し小型空母から運用可能というのが売りだったのだが、肝心のC-130のイギリス向けであるハーキュリーズC.1は退役までズーッとターボプロップ駆動であった。全機がイギリス製の部品を一部使用し、空中給油プローブ装備のC.1KからC.3、給油機能装備のC.3Pと進化したのだが肝心の飛行性能は一切変わらなかった。そのほか、C.1Kという空中給油機にも改造されたが結果はお察しである。
一応イギリス政府はVC.10を輸送機として運用するとしたものの、機数は少なく荷物の積み卸しが迅速に出来ないという欠点を抱えていた。結局、イギリス軍はこんな輸送機で満足に任務にいけるはずがなく、少しでもスピードを出すために急降下をすることを義務づけた。そんな使い方をしていたのとアームストロング・ホイットワース社から仕事を奪ったとして毛嫌いされ、さんざん乱暴に使いまくられた後に博物館に、展示中の1機を除いて全機が失われた。その後もロッキードトライスターやA400Mアトラスを導入するも現場からの意見は悲惨だった。
というか、AW.681を再開しても誰も文句は言わないはずなんですがね・・・・。
関連動画
C-130の歴史がわかる公式動画