概要
M61とは、アメリカ合衆国のゼネラル・エレクトリック社(GE社)が開発したガトリング式機関砲。6砲身の20mm口径機関砲であり、戦闘機や艦艇等に搭載されて運用される。愛称は「バルカン」「バルカン砲」。
F-15やF-16といった現代の数多くの戦闘機に搭載されている傑作機関砲であり、対空ミサイルが高性能化した現代でも、その高い信頼性や近接戦闘での有用性から使われ続けている。開発国のアメリカをはじめ、日本やヨーロッパ各国などの西側諸国の空軍戦闘機や、海軍艦艇でもCIWSの砲身として広く普及した。
派生型として、攻撃ヘリコプター用に砲身を3本に減らして軽量化したM197や、地上での対空機関砲としての運用を前提に調整を施したM168、使用弾を小口径化し、大幅に小型軽量化したM134ミニガンなども開発されている。
開発経緯とその後
第二次世界大戦後、軍用機はジェットエンジンの普及によって速度が向上し、音速で飛行する機体も誕生しつつあった。アメリカ軍では高速化した敵機を撃墜するため、機関砲の発射速度の向上が急務となっており、その手段として多銃身機関砲(ガトリングガン)に注目。とっくの昔に旧式化していた手回し式のガトリング砲を博物館の倉庫から引っ張り出し、電動モーター化して実験したところ、期待以上の発射速度と集弾性を発揮。有効性が認められ、開発されたのがこのM61である。
しばらくして対空ミサイルが普及すると、「これからはミサイルの時代!射程の短い機関砲は不要!」とでも言うべきミサイル万能論時代が到来したことで一時その鳴りを潜め、機関砲を搭載しない戦闘機すら誕生した。だがベトナム戦争にてミサイルの信頼性の低さなど問題が明らかになり、当初は機関砲を未装備だったF-4戦闘機に外付け式ガンポッド(SUU-16やSUU-23)として搭載されるなどして復活を果たす。
フォークランド紛争以降は西側の代表的なCIWS(艦載近接防空システム)である「ファランクス」システムにも採用され、各種艦艇にも装備されるようになる。
- ファランクスCIWS
現在でも数多くのアメリカ軍戦闘機に搭載され続けているが、最新のF-35戦闘機では搭載されず、対地攻撃用として威力を重視した25mm口径4砲身のGAU-22/Aが採用されている。これは退役するAV-8Bと同じ弾薬を使用していることや、近い将来A-10攻撃機等を代替する予定もあったため。
また、艦艇用のファランクスCIWSでは、年々高速化しつつある対艦ミサイル迎撃に対する不確実性が大きくなったことや、機関砲に一時追いやられた対空ミサイルが技術発展によって格段に性能が向上したことで、より遠距離での交戦が可能なRAM近接防御ミサイルが誕生。ファランクスCIWSのM61を11連装のRAM発射機に取り替えたSeaRAMというものも登場し、M61搭載型のCIWSも次第にその影を薄めつつある。
しかし、他CIWS(ゴールキーパーCIWSなど)と比較してかなり軽量であり、単体完結で独立しているシステムなので設置場所を選ばない、という点は見直されている。つまり別に照準用のレーダーを据え付けたり弾薬供給用の穴を船体に開けずにボルト留めするだけで使用可能ということであり、設置・運用に適したスペースさえあればどんな艦船にも後からポン付けできるという特徴を持つ。
バリエーション・派生型
- M61:空軍向けに採用された最初の型で電動式。エンジン出力を上げないと発射できない欠点があった。
- M61A1:動力を油圧式に改めた改良型。信頼性が高まったこともあって、多くの戦闘機に採用。日本でもJM61A1としてライセンス生産された。
- M61A2:耐久性の低下と引き換えに軽量化や発射速度の向上を図った改良型。最新モデルで、F-22以降採用されつつある。日本でもF-2に採用されている。
- M168:地対空射撃用に改良された対空機関砲型。わざと砲身を楕円配置にする事で命中精度を下げ、弾を広範囲にばら撒いて弾幕を敷けるように調整してある。M163対空自走砲やVADS対空機関砲システムにて採用された。
- JM61-M:日本でライセンス生産されているJM61A1を巡視船や補助艦艇用に改良したタイプ。人力操砲式となっており、発射速度を8%の500発/分弱に落としている代わりに反動を大幅に軽減している。後にこれを遠隔の無人砲塔化したJM61-RFSとJM61R-MSが開発されたことで、こちらへの更新が進んでいる。
- シーバルカン:韓国が艦艇用に開発した有人砲塔型。韓国軍でもM61は陸海空問わず広く普及しているが、この有人砲塔は韓国海軍向け。敵である北朝鮮海軍では小型艦艇が中心ということもあり、小型艦艇に確実に致命傷を与えてくる20mm弾で弾幕張ってくるコイツを死ぬほど恐れている。
名称について
「バルカン」の名称はあくまでもこのM61単体のみを指す商標名にすぎず、「バルカン砲」は機関砲の分類を示すものではない(機関砲としての分類名は前述の通り「ガトリング砲」である)。いわゆる商標の普通名称化が起きた単語なのである。類似例としてホッチキス、キャタピラ、タバスコなどもこれに該当する。
- 「銃身がグルグル回転する機関銃」=「バルカン」✕
- 〃 =「ガトリング」〇
同じガトリング砲でもA-10などに搭載される30mm口径7砲身のGAU-8機関砲はアヴェンジャー、AV-8B等に搭載される25mm口径5砲身のGAU-12にはイコライザーといった名称があるのだが、 軍事知識があまり必要とされない娯楽作品ではこれらを含めて 「バルカン」が航空機や艦載の小口径機関砲の代名詞と見なされる場合がある。
また、欧州やソ連・ロシアの航空機には米国式のバルカン砲を採用していないのは当然として、そもそもガトリング形式の機関砲が使われること自体が稀であった。
フィクションにおいて
- ガンダムの頭部に付いているバルカン砲にはカバーが取り付けられていて中はちゃんとガトリング砲の体を成している。(これらをバルカン砲と呼ぶのは厳密には誤りではあるが) 更にロボット系創作やシューティングゲームなどでは主にビーム兵器が使われており、実体弾を発射するバルカン砲は「貧弱な初期固定武装」「最弱の火器」という扱いを受ける事が多いが、対人・対軟目標攻撃に使用した場合は対象をバラバラに吹き飛ばすだけの威力を持っている。
- とある特殊部隊所属の大男は、こいつをM134のように人が持ち運べるように改造したものを使う(もっとも、M134からして常人が携行・発射できる代物ではないのだが...)。
- 現代に召喚されたある英雄は、自衛隊のF-15Jを自分の能力を利用して支配下に置き、装備されていた日本ライセンス版の『JM61A1』を敵対者のヒロイン目がけてぶっ放すというとんでもない攻撃を繰り出した。のちにスマホアプリゲームに進出した際、この攻撃は超必殺技に採用されることに……
関連動画
【1秒で100発!脅威の発射速度・M61バルカン】F-22やF-15戦闘機に搭載されているガトリング砲とは? - USA Military Channel2
関連イラスト
Pixivでは、上述したようなとある特殊部隊所属の大男のようにかなり強引に持ち運ばれたM61を描いた作品に本タグがタグ付けされていることが多い。