概要
米国ゼネラル・エレクトリック社が開発した、戦闘機や艦艇等に搭載される近接戦闘用のガトリング方式機関砲。
20mm口径、6砲身。
愛称はバルカン。
ジェット化によって航空機の速度が上がり、それを撃墜するために機関砲の発射速度の増大が必要となった。
そのための手段として多銃身機関砲が注目され、とっくの昔に旧式化していた手回し式のガトリング砲を博物館の倉庫から引っ張りだし、電動化して実験が行なったところ、期待以上の発射速度と集弾性を発揮。
有効性が認められ、このM61が開発された。
ミサイルの開発によって一時期はその鳴りを潜めていたが、ベトナム戦争においてミサイルの信頼性の低さや搭載量の問題が明らかになり、当初は機関砲を装備していなかったF-4に 外付け式ガンポッドとして搭載されるなどして復活。(SUU-16、SUU-23)
また、フォークランド紛争以降はファランクスシステムにも採用され、西側の代表的なCIWS(艦載近接防空システム)として各種艦艇にも装備されるようになる。
他にも砲身を6本から3本に減らして軽量化を図り、攻撃ヘリコプターAH-1用に開発されたM197や、地上での運用を前提に調整を施したM168、使用弾を変更し大幅に小型化したM134(通称:ミニガン)などの派生型がある。
ミサイルが高性能化した現代でも、その高い信頼性や近接戦闘での有用性から使われ続けた。
F-22では耐久性の低下と引き換えに軽量化や発射速度の向上を図った改良型のM61A2が搭載されているものの、近い将来A-10攻撃機等を代替する予定のF-35では対地攻撃用として威力を重視したGAU-22/A(25mm口径、4砲身)が採用されている。
また、射程が短くミサイル迎撃に対する不確実性のあるCIWSに代わって遠距離での交戦が可能なRAM(Rolling-Airframe-Missile:回転弾体誘導弾)が開発された事で、艦艇の甲板からも次第にその影を薄めつつある。
ファランクスCIWSのM61を11連装のRAM発射機に取り替えたSeaRAMというものも登場している。
しかし、ゴールキーパーCIWS等と比較してかなり軽量であり、単体完結で独立しているシステムなので船内からの弾薬の供給が不要なため設置場所を比較的選ばない、という点は見直されている。つまり別に照準用のレーダーを据え付けたり弾薬供給用の穴を船体に開けずにボルト留めするだけで使用可能ということであり、艦船の建造段階で設置を考慮していなくても、設置・運用に適したスペースさえあればどんな艦船にも後からいつでもポン付けできるという特徴を持つ。
派生型
- M61:空軍向けに採用された最初の型で電動式。エンジン出力を上げないと発射できない欠点があった。
- M61A1:動力を油圧式に改めた改良型。信頼性が高まったこともあって、多くの戦闘機に採用。
- M61A2:軽量化された最新モデルで、F-22以降採用されつつある。
- M168:地対空射撃用の改良型。態と砲身を楕円配置にする事で命中精度を下げ、弾幕を広範囲にばら撒くように調整してある。
- JM61-M:日本でライセンス生産されているM61A1を巡視船や補助艦艇用に改良したタイプ。発射速度を8%の500発/分弱に落としている代わりに反動を大幅に軽減しており、人力操砲が容易になっている。
名称について
バルカンの名称はあくまでもこのM61単体のみを指す商標名にすぎず、機関砲の分類を示すものではない。(機関砲としての分類名は前述の通り「ガトリング砲」である)
A-10や艦載防空システムゴールキーパーに搭載されるGAU-8(30mm口径、7砲身)にはアヴェンジャー、
AV-8BやAC-130等に搭載されるGAU-12(25mm口径、5砲身)にはイコライザーといった名称があるのだが、
「バルカン=航空機や艦載の小口径機関砲の代名詞」と見なされる場合がある。 (固有名詞の一般名詞化、類似例はホッチキス、キャタピラ、タバスコなど)
また、欧州やソ連・ロシアの航空機には米国式のバルカン砲を採用していないのは当然として、そもそもガトリング形式の機関砲が使われること自体が稀であった。
その為、多くはオートマチックキャノンやリボルバーキャノンなどが航空機用の機関砲として採用されている。
ただ、一応ロシアでもガトリング方式の機関砲系火器はヘリ用や車載用として採用されているものの25mmだったり4砲身式が多いなど西側とは異なる体系になっている。
フィクションにおいて
- ガンダムの頭部に付いているバルカン砲にはカバーが取り付けられていて中はちゃんとガトリング砲の体を成している。(これらをバルカン砲と呼ぶのは厳密には誤りではあるが) 更にロボット系創作やシューティングゲームなどでは主にビーム兵器が使われており、実体弾を発射するバルカン砲は「貧弱な初期固定武装」「最弱の火器」という扱いを受ける事が多いが、対人・対軟目標攻撃に使用した場合は対象をバラバラに吹き飛ばすだけの威力を持っている。
- とある特殊部隊所属の大男は、こいつをM134のように人が持ち運べるように改造したものを使う(もっとも、M134からして常人が携行・発射できる代物ではないのだが...)。
- 現代に召喚されたある英雄は、自衛隊のF-15Jを自分の能力を利用して支配下に置き、装備されていた日本ライセンス版の『JM61A1』を敵対者のヒロイン目がけてぶっ放すというとんでもない攻撃を繰り出した。のちにスマホアプリゲームに進出した際、この攻撃は超必殺技に採用されることに……