F-2
えふに
航空自衛隊が保有する戦闘機の一種。米国製F-16戦闘機をベースに、日本の運用思想や地理的特性に合わせて日米共同で改造開発した機体であり、2000年に制式採用された。戦闘機だが空中戦だけでなく、侵攻してくる洋上の敵艦船や地上の敵への迎撃も任務としているマルチロール機である。
単座と複座の二種類があり、単座型は「F-2A」、複座型は「F-2B」と区別され、この名称でタグが付けられている例も少なからず存在する。総生産数は計98機で、試作型4機、A型62機、B型32機が生産された。
外見としては洋上迷彩という青い塗装が特徴で、海面に視覚的に溶け込むような色彩になっており、対艦攻撃などの海上低空での運用に特化したものとなっている。航空自衛隊以外ではロシア軍のSu-27等の機体か、ロシア機を真似たアグレッサー機にしか採用されていない。
航空自衛隊においては1970年代以降、航空機に正式な愛称をつける習慣がなく、F-2は単に「エフに」や「エフツー」と呼ばれるが、2000年に制式採用されたことからかつて三菱が開発し皇紀2600年 (1940年) に制式採用された零式艦上戦闘機と、設計のベースとなったF-16の非公式愛称ヴァイパーを掛け合わせた「ヴァイパー・ゼロ」という非公式愛称も存在し、「平成の零戦」とも呼ばれることがある。対艦戦能力の高さから「対艦番長」との愛称もある。
空自の対艦番長
F-16戦闘機を原型としており、一見同機に似た姿をしているが、主翼がF-16から拡張され、複合素材の多用により機体強度を増加し、軽量化にも成功。武装をたくさん積めるようになっている。電波吸収材を適用しステルス性を向上させ、ドラッグシュート採用により着陸滑走距離を短縮した。さらにT-2 CCVで蓄積した技術を発展させた、日本独自のデジタル・フライ・バイ・ワイヤとCCV (運動能力向上技術) の採用もあって、機首を持ち上げたまま水平飛行、機体姿勢を変えずに上昇・下降等の変態機動を可能とする。
対艦フル装備となれば、
- 空対艦ミサイル×4 (ASM-2、ASM-1等)
- 短射程空対空ミサイル×2 (AAM-5、AAM-3、AIM-9Lサイドワインダー等)
- 600ガロン増槽×2
という重武装。
この状態ならHi-Lo-Hi飛行で作戦行動半径450海里 (約833km) が可能で、おまけに先述した機体強度に物を言わせて高G旋回が可能。他の機体が真似すると翼がへし折れる危険すらある。
これほどの武装、航続距離、運動性を同時に発揮できる機体はほかにない。例えば米海軍のF/A-18C/Dが同様に空対艦ミサイル (AGM-84ハープーン) を4発ぶら下げた場合、戦闘行動半径は290海里 (約537Km) 程となってしまう。C/Dでは対艦ミサイルと増槽を積む兵装ステーションが同じため、対艦ミサイルを4発積むと増槽を積める兵装ステーションは胴体中央の1箇所のみとなり、使える増槽も330ガロンタンクだけで、機動にも制限がかかる。
兵装ステーションが増えているF/A-18E/Fでも対艦ミサイルを4発抱える場合、同様に胴体中央に330ガロンタンクしか積めず、燃費は悪化しているのでC/D以下となる。
対艦戦闘において文句なしに世界最強の機体であるが、酔狂でこの性能を目指したわけではない。軍事兵器であるからにはその性能にも理由がある。
日本は四方を海に囲まれ、中国、ロシアという、国力で日本に大きく差をつける仮想敵国を二つも抱えている。となれば防衛戦略における最重要課題は、敵の艦対地攻撃や艦対艦攻撃を防ぐため、可能な限り遠くで、数で勝る敵艦を撃破しなければならない。
専守防衛の思想、予算の都合で空母が持てない日本がこれを成し遂げるためには、長大な航続距離と少数で多数を撃破するための搭載量が必要となる。そうして生まれたのがF-2というわけだ。
ただし、後に開発されたASM-3超音速空対艦ミサイルは既存の対艦ミサイルよりも大型なので2発までの搭載となる。正確には理論上4発搭載可能だが、そうすると機動性が著しく低下するので通常しないとのこと。それでも西側諸国ほぼ唯一の超音速空対艦ミサイルの運用能力により、実質的な対艦攻撃力は向上したと評してよい。
対艦番長の副業
対艦攻撃機としての性能を突き詰めたF-2だが、戦闘機としても結構、いやかなり強い。F-2には制空、要撃戦闘機としても高い水準の性能を持っており任務も求められており、実際にアラート任務に就いている機体もある。
対空フル装備となれば、以下の武装を施す。
- 中射程空対空ミサイル×4 (AAM-4、AIM-7スパロー等)
- 短射程空対空ミサイル×4 (AAM-5、AAM-3、AIM-9Lサイドワインダー等)
- 300ガロン増槽×1
その運動性は先述した通りであり、さらに量産戦闘機としては世界初の採用となるアクティブ・フェーズドアレイ・レーダーのJ/APG-1を搭載したことで対空性能も非常に高く、後に出力を3倍に増強しつつ小型化したJ/APG-2へのアップデートもしている。ついでに機関砲もF-22で採用された当時最新モデルのM61A2バルカン20mmガトリング砲を搭載していた。空戦能力でF/A-18E/Fを上回るともされるが、防衛機密により詳細不明(ただしF-2にはJHMCSが無いので格闘戦では分が悪い)。
このように当初から対艦と対地に加え「対空」も担う「マルチロールファイター」として設計された本機であるが、周りの国々の新型軍用機配備、離島防衛問題の浮上などが重なって副業も重要性が増すと、能力向上の必要性が出てきた。と言うわけで機体の定期修理と併せ、機体の改修が随時行われている。
改修内容としては、外装式の赤外線前方監視装置(FLIR)の搭載、空中戦能力向上を図った国産空対空ミサイルの99式空対空誘導弾(AAM-4)と04式空対空誘導弾(AAM-5)の搭載能力追加、それらに伴うソフトウェアのアップデート、ついでにGPS誘導爆弾JDAMの運用能力を持たせる等。また、エンジンもアメリカでの部品製造停止に伴い、最新のデジタル電子制御装置が新たに調達され、換装が行われている。
さらにLJDAMとレーザー・ターゲティング・ポッド(スナイパーXR照準ポッド)への対応も検討されている。LJDAMの導入はF-35への搭載用も含めて進んでいるが、それを空中から誘導するスナイパーXR照準ポッドはF-2用に1基が導入されて以降、調達されていない。これはF-35の方が最初からLJDAMを誘導する機能を有しており、わざわざ照準ポッドを導入してまでF-2に搭載する必要性が薄いのもある。
上でも述べたが、元々F-16をベースに日米共同開発という形を取ったため。F-1支援戦闘機の後継機として1980年代に開発が始まり、当時は次期支援戦闘機(FS-X)と呼ばれていた。当初、日本はエンジンのみをアメリカから導入し、機体は独自に開発することを目指した(下記のイラストがその際の機体案)。
カナード翼による機動性向上はT-2CCVによる実験の結果、プログラミングだけで補える事が可能と判明し、後の改造要項から消えた。
- 独自開発の場合の機体案 (↑)。やや外側に傾いた双垂直尾翼、双発機であるなど後部はどことなくF/A-18っぽいが、水平尾翼がなく、カナード翼とデルタ翼を組み合わせたクロースカップルドデルタ翼を採用するなど、かなり独自性が強い機体となっている。
しかし日米間の不均衡貿易が問題視されていた当時、エンジンだけを日本へ売ることにアメリカ航空業界が納得しなかったこと、日本単独では充分な予算を投入する事が出来ず、独自開発では計画が頓挫する可能性があったことなどにより、日米共同開発に落ち着いた。F-4EJやF-15J同様、ライセンス生産でそのまま配備させると、防衛の都合から自衛隊の組織自体を弄らなけばならなかったという面もある。
海上での活動が中心となる日本にとって、単発機はエンジントラブルが起きた場合、最悪墜落、どれだけあがいても不時着という問題があって不向きだが、エンジンそのものの信頼性が高い事に加え、F-16より拡大され、非常に重い対艦ミサイルを4発積めるほど強化された主翼によってもたらされる大きな揚力により、エンジントラブルの際も、近隣の飛行場まで滑空することで着陸できる、という考えから問題無しとされた。そもそも原型のF-16もインドネシアや台湾のような島国でも採用実績がある。
F-16からの改修は航空自衛隊の「空対艦ミサイル4発搭載して戦闘行動半径450ノーティカルマイル」という無茶な要求を満たすために魔改造と一部で評されるほど多岐にわたり、「パッと見た形状以外、すべてが違う」などとも言われることがある。実際、垂直尾翼以外に形状が同じ所がない。
全体構成はF-16と似ているものの、主翼が大幅に拡張されていて、見慣れてくるとF-16との形状の違いもよく分かる。その他分かりやすい外見的違いとしては、洋上迷彩とキャノピーに追加されたフレーム。洋上迷彩は上で述べた通りだが、キャノピーのフレームは海上低空での運用の際、大型の海鳥との衝突を想定してのもの、というのが有力。副次効果として、水平線の目安にフレームを持ってくることで空間識失調防止の効果も生まれている。
F-2の欠点として、F-15Jとほとんど変わらないほどの高価さ、主翼拡大による空気抵抗と重量増加が挙げられる事が多い。 とはいえ、高価さの要因の1つだった主翼の炭素系複合素材(CFRP)は、開発当時は大量生産技術が不確立で生産コストが嵩んだこともあり、現在はそれが解消されている。そもそも同世代期の戦闘機は軒並み130億円超えでありむしろ安いと言える方だったりする。
原型機のF-16も当初は低価格の軽量戦闘機だったが、度重なる改修で装備の追加を重ねた結果、重量 (と価格が) もりもり増加している。改修内容にはF-2がしていたような主翼面積の拡大などがないため、旋回能力等は落ちつつある。参考までに、
機種 | 重量 |
---|---|
F-2A | 9,527kg |
F-16C Block 50 | 8,270kg |
F-16E | 9,979kg |
UAE仕様のF-16E/Fに至っては価格がF-2と大して変わらない成金仕様となってしまった。多目的戦闘機として高性能なものを作ると、どうしても価格が高くなってしまうのである。F-16Vに至っては220億円と倍近い。
F-2の場合、空気抵抗、重量の増加については、翼面荷重低下による運動性向上や、炭素系複合素材による軽量化、エアインテークとエンジンの変更による出力強化……その他微調整によって十分補えているようで、双方を操縦した経験のある自衛官によると、飛行性能についてF-16に劣る部分はないとのこと。実際にアメリカ空軍のDACT (異機種間空戦訓練) では当初F-16Cに圧倒的に優位、高性能な中距離空対空ミサイルであるAMRAAMを装備し対抗戦術を編み出されても互角を維持している。
小型のF-16が素体であるため、内部空間が小さく能力向上の余地が小さいと評されることもあるが、元になったF-16もA型からV型まで基本構造が同じため改修することで能力の大幅な向上が可能であり、F-2の拡張性が低いは誤りである。さらに国産機故に法的な縛りがほとんど無いため、F-15Jを上回る頻度で機能拡張と改修が行われており、実際には意外と余地だらけだった感じである。
しかし何もかも上手くいくという訳ではなかったようで、元々調達計画数は141機だったのだが、石破茂防衛大臣(当時)によりコストパフォーマンスで米軍機に劣ると難癖付けられ、141機より少ない98機で調達が打ち切られてしまった (F-2を代替出来る戦闘機はFA-18E/Fくらいしか無く、実質代替不可能) 。削減された機数の中にはブルーインパルス向けのものもあったのだが、こちらは当時T-4に更新したばかりで後継機に困らない状況だったのでまだよかった。
だが、東日本大震災により訓練用の18機を喪失し (詳細は後述) 、無思慮に機体数削った為、高等訓練機が全く足りなくなり米軍にF-16で訓練をレンタルする始末。F-35の完成も遅れに遅れ、繋ぎとして追加調達も検討されたが、こちらも実現せず。さらに中露の領空侵犯は頻度を上げており完全に戦闘機不足が深刻化してしまい、あまりに短慮で視野狭窄な軽挙妄動だったと言わざる得ない。
F-2 SUPER-KAI
2004年の国際航空宇宙展ジャパンエアロスペース2004でロッキード・マーティンが提案したF-2Bをベースとした能力向上案。現在の「攻撃機寄りのマルチロール」から「純粋なマルチロールファイター」へと改修するものである。
改修点はコンフォーマルフューエルタンクの増設、FLIRの追加やレーダーの換装、AIM-9X及びJHMCS (ヘルメット照準装置) への対応によるオフボアサイト照準能力の追加等、多岐にわたる。
防衛省はこの案を採用することは無く、ロッキードもとりあえず発表してみたという程度で、この案が実現することは無かったが、一部は前述の能力向上改修によって相当する能力を得ている。
対艦攻撃をメインとするような機動性の高い軍用機は、一般的に「攻撃機」のカテゴリに入るが、「攻撃」というアグレッシブな単語が専守防衛を旨とする自衛隊にそぐわないという理由で、以前は「支援戦闘機」という独自の分類で呼ばれていた。現在は改修による空戦能力の向上や、支援戦闘機の分類が廃止されたこともあり、「戦闘機」に再分類されている。
基地祭でF-2と同じ洋上迷彩塗装がされたホンダのCanopyがF-2Cとして展示されたこともある。またF-2ジュニアという改造バイクの展示走行が三沢基地で行われている。F-2戦闘機がスクーターサイズに見事にデフォルメされており一見の価値あり。
2011年3月に発生した東日本大震災により、松島基地第21飛行隊(訓練飛行隊)に所属していた複座型18機が津波により水没。複座型全体の実に半分以上を損失し、F-2パイロットの育成に支障をきたす事態になってしまったが、使用不可となった5機を除いて小牧工場で修理を受け、再び未来のパイロットを育成する任務へと復帰している。
防衛大臣直轄
航空総隊
映画
- ゴジラ×メカゴジラ
- 制空迷彩を施したコールサイン「イエロー」隊の機体として登場。ゴジラを空対艦ミサイルで攻撃するが返り討ちにされてしまった。
- シン・ゴジラ
- 亡国のイージス
- TheNextGeneration-パトレイバー-首都決戦
- コールサイン「プリースト」2機が登場。東京を襲撃したAH-88J2改グレイゴーストの迎撃に出撃し、特車二課を支援する。
アニメ・漫画
- ゼロの使い魔F
- 第12話に登場。平賀才人が自衛隊基地から持ち出してエンシェントドラゴンとの対決に使用する。才人はなんと酸素マスクも耐Gスーツも装着せずに本機を操縦した。
- ひそねとまそたん
- 築城基地所属のF-2Aに擬態したOTF「ノーマ」が登場する。
- うちのメイドがウザすぎる!
- 元空自隊員だった鴨居つばめのパイロット時代の回想シーンに登場する。
- 終末トレインどこへいく?
- 稲荷山公園駅付近の基地所属機として登場。駅周辺に起きた異変によって街や基地、人員ともども異常に小さくなってしまっている。基地を襲撃した玲実を迎撃し、機関砲とASM-2空対艦ミサイルで攻撃するが、街の外から来た玲実には攻撃が小さすぎて効かなかった上、発射したミサイルを投げ返され、片翼を失い墜落する。搭乗員はベイルアウトした。
- ガーリー・エアフォース
- 那覇基地に配属されたアニマを伴うドーターに改修された機体「バイパーゼロ」が登場。恐らくフィクション史上最強のF-2とも評され、劇中でもその高性能から変態呼ばわりされている。
ゲーム
- エースコンバットシリーズ
- 『エースコンバット04』以降自機および敵機としてA型が登場する。これ以前の『エースコンバット2』でも敵専用の「JF-2」という機体が登場している。
- F-16の攻撃機タイプといった扱いが多く、『アサルトホライゾン』のように純然たる攻撃機として登場したこともあった。『エースコンバット3D』でも攻撃機扱いであり、あるステージではスカーフェイス隊を迎撃しようと本機で出撃したクーデター軍パイロットが司令部から《お前たち、攻撃機じゃないか!?》と困惑される場面がある。
- 作品によっては幻のブルーインパルス仕様を意識したカラーも収録されている。
- 『エースコンバット7』ではDLCとしてF-2 SUPER-KAIも登場。A型をベースにしておりゲーム中での機体名も「F-2A SUPER-KAI」となっている。
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