アグレッサー部隊(Aggressor squadron)は、軍隊における演習や訓練で「敵役」を演じる部隊、兵士のこと。
アメリカ海軍等ではアドバーサリー(Adversary)、日本語では「仮想敵部隊」「対抗部隊」等と呼ばれる。
アグレッサー部隊と言えば、戦闘訓練や演習を行う部隊の構成員を敵役として抽出して臨時に編成する、所謂「紅白戦」的な訓練で敵を演ずる部隊を指す事も有れば、専ら「敵役専門」の専門家集団まで色々。
Pixivで「アグレッサー部隊」と言えば後者を指すことが殆ど。
概要
敵役を演じる部隊は敵国や仮想敵国の軍隊に似せた格好・装備・機体を用いて、実戦部隊の「切られ役」を演じる……のだが、状況によっては返り討ちにしてしまう事が往々にして有る。
特に、先に述べた「臨時の敵部隊としてのアグレッサー」では無く、敵役の専門家集団たるアグレッサー部隊の場合は実戦さながらの訓練において、アグレッサー部隊は「手強い敵」を演じきり、その「手強い敵」を倒す為の戦術を、自軍部隊に研究および教導習熟させる事に特化した部隊だからだ。
逆を言えば、弱いアグレッサー部隊では訓練に成らないし、本物の戦場における本物の敵は情け容赦も手加減もしてはくれないので、敵の強さや怖さを訓練段階でその身をもって叩き込む事が出来るアグレッサー部隊の存在は、強い軍隊を育成する上で極めて重要で在る。
この為、アグレッサー部隊の人員には選りすぐりの超エリート(単に経験や能力が優れているだけで無く、自国のものとは勝手が違う敵国側の装備や機体を十分に扱えるだけの知識や技量も持ち合わせた最精鋭の人材)が選抜される。
つまり、アグレッサー部隊に配属される人員は戦闘の技能や作戦の立案・遂行能力に秀でるだけで無く、敵や味方の作戦や戦術を熟知し、常に新しい兵器や装備、戦術に対する研究を続ける事が出来る研究職としての能力や、その敵の戦術や戦い方を理解するだけで無く訓練において高いレベルで再現してのける技量も求められるのである。
装備
アメリカ陸軍等では古く為って戦闘部隊から退役した戦車を「砂漠の国のT-72」や「T-80」風に改造して使用したり、空軍や海軍ではF-15やF/A-18を「何処かのSu-27」と瓜二つに塗装したりとかなり念を入れた、ある意味過激な方策を取っている。
時には、仮想敵国が使用している本物の装備品を鹵獲するなり取引で購入するなりして、そのまま使用する事も有るという。
加えて、装備や機体に関しては「手強い敵」を演じ切る為に、極めて強力だったり、最新鋭のものが与えられる事も珍しくない。
自衛隊の場合
自衛隊の場合は、基本的に現用の装備を工夫して使用する。
航空自衛隊のアグレッサー部隊「飛行教導群」のF-15は、実戦部隊とは異なる迷彩が施されている。
これは特定の敵を想定したものでは無く航空自衛隊の全くのオリジナル迷彩で、純粋に技量の向上を目的として訓練を効率的かつ効果的に行える様にとのこと。
視認性の高い塗装を施す事で「敵機が見え無かった」という言い訳を封じ敵機への動きを理論的に考えさせる意図が在る。
冷戦期にはMiG-21にシルエットが似たT-2練習機にソ連風の塗装を施して訓練に充てていた。
陸上自衛隊では「部隊訓練評価隊」がこれに当たる。車両や迷彩服には隊独自の迷彩パターンが使用されている。
また、海上自衛隊や航空自衛隊の陸戦訓練では、近隣の陸上自衛隊の部隊に「敵役」を依頼する事があるとか。
イスラエル航空宇宙軍の場合
イスラエル航空宇宙軍オブダ空軍基地の第115飛行隊がアグレッサー部隊に相当する。
フライングドラゴン或いはレッド・スコードロンという愛称を持ち、訓練では主にヨルダンやエジプトを除くアラブ諸国やイランのパイロットを演じる。装備としてF-16C/Dを用いており、垂直尾翼に描かれたドラゴンの絵が特徴的である。
韓国陸軍の場合
韓国陸軍は90年代に入手したT-80戦車一個大隊を一時アグレッサー部隊として運用していた。これは当時経済混乱が起きていたロシアが対外債務を現物払いしたものを用いたもので、現在では通常の戦車大隊に配備されている。
その他
民間軍事会社では、アグレッサー部隊として訓練業務を提供する会社が有る。
これは敵が使用している(或いは使用が想定される)装備と同じ装備や、性能や外見がよく似た装備を使用して、軍隊が訓練をより低コストかつ効率的に行える様に為っている。
関連タグ
エースコンバット5:作中に登場する8492飛行隊がオーシア空軍のアグレッサー部隊。正式に存在しない影の部隊で、実態はベルカ公国空軍第229戦闘飛行隊ことグラーバク飛行隊。ユークトバニア側にも同様のベルカのアグレッサー部隊があり、作中に登場したオヴニル戦闘機隊がそれ。