T-72とは
(ロシア語:Т-72 テー・スィェーミヂェスャド・ドヴァー)は、1971年にソ連で開発され、旧共産主義圏にて、1970年代からソ連崩壊の1991年までもっとも多く使われた主力戦車である。
ロシア連邦地上軍機甲部隊の主力で、その保有数は約9000輌とされる。
輸出
ワルシャワ条約機構加盟国以外にもフィンランド・イラン・イラク・シリアなどにも輸出され、インドやユーゴスラビアなど他の多くの国でもライセンス生産やコピー品が作られた。当時ワルシャワ条約機構に所属していたポーランドとチェコスロバキアでもライセンス生産されたが、オリジナルより性能が低下した代物だった。
ソ連でも1990年までに自国製の輸出用モデルが開発され、アラブ諸国を中心に大量に輸出したが、これらもさらに大幅なスペックダウンを施した、所謂「モンキーモデル」であった。
1980年代にはイラクに対しチェコスロバキアやポーランド、ソ連がT-72の完成品を輸出した。後には、半完成部品をイラクで組上げるノックダウン生産も行われた。こちらではイラン・イラク戦争で使用した直輸入品のT-72の砲身寿命が短く、ソ連からの交換部品の供給も滞ったことから、イラク国内に砲身工場を作ることになった事がライセンス生産化の始まりであったという。
冷戦終結後はベラルーシやウクライナも軍縮で余剰となった車両を数多く輸出している。
特徴
生産当初のT-72は41tと西側諸国の主力戦車と比べて非常に軽量で、わずか780hpの馬力にもかかわらず、110km/hの路上最大速度を記録したと言われる。
そして、当時の最新技術をつぎ込んだT-64に対し堅実な設計とした事で安価で信頼性の高い戦車に仕上がった。
装備する125mm滑腔砲は、西側の120mm滑腔砲とは比較にならない威力とされ、理論的にはM1エイブラムスの装甲を1km先から貫通できるとされる。戦車砲弾以外にも対戦車ミサイルの発射機能を持たせたタイプもある。
回転装填式自動装填装置を搭載しているが、T-64のものとは仕組みが大きく異なり発射速度は劣るが、よりシンプルかつ省スペース化が図られている。当初は装填不良など信頼性に問題があったものの、改修型のT-90においては13秒間に3発もの砲弾を発射できるまでに改善されている。
エンジンは、T-64では水平対向ピストンエンジンが採用されていたが、T-72では信頼性の高いV型エンジンが採用された。
シュノーケルをつければ渡河などの潜水移動も可能だが、その際搭乗員は潜水装備をつけなければならない。
NBC対策として空気浄化システムや加圧機能を搭載している。
弱点
これは、平原での運用を想定し「被発見率と被弾率を低くするためできるだけ全高を低くする」というソ連戦車の伝統に倣い、さらに砲塔の小型化や低車高化を進めた結果であり、同時期の他のソ連戦車にもほぼ共通する特性である。
車内の居住性が悪い
小型化を進めた結果、とにかく狭い。
よってロシアの戦車兵は身長160cm未満でなければダメなんてジョークも。程度は不明ながらも体格制限は実際にあるらしい。
また、狭いという事は容積に余裕がない=拡張性が低く後から装備を追加しにくいという事でもある(もっとも、現代は精密機器の小型化が進んだため必ずしもそうとは限らない)。
誘爆したら砲塔が吹き飛ぶ
砲塔の床下に弾がターンテーブル式に並ぶ弾薬庫の配置のため、ここに誘爆すると爆風が戦闘室を直撃し、砲塔が吹き飛ぶなど車体が激しく損傷しやすい(湾岸戦争時のアメリカ兵達はその様を「びっくり箱」と呼んでいた)。
…ただし西側の戦車もほとんどが車体に大量の砲弾を搭載しており(正確に言うと、あくまでも「砲塔にある弾薬庫が誘爆しにくい構造になってる」だけで、車体にも予備の砲弾を多数積んでいる)、引火すれば当然砲塔が吹っ飛ぶことになるので、実際のところはどっこいどっこい。
むしろT-72は砲塔に砲弾を搭載しておらず、車体弾薬庫も車体底面に装甲化されて置かれている形なので、西側戦車よりも弾薬庫に被弾しにくい構造になっている。砲弾を円形に並べる弾薬庫のレイアウトは上部から見た場合面積が大きく、装甲が薄い上部から狙われると誘爆しやすい…とも言われているが、元より戦車は上部の装甲が薄く上からの攻撃に弱いのが普通なので、やはりこちらもどっこいどっこいだったりする。
砲の仰俯角が狭い
戦車砲は車外に見えている部分だけではなく、車内側にも相当な大きさの砲尾が存在する。そのため戦車砲を上下に動かすと砲尾も車内で動くため、砲塔内にはその分のクリアランスが必要になる。
T-72はソ連戦車でも際立って砲に対して砲塔が小型なため、砲の上下の可動範囲が狭くなり、地形によっては隠れながら砲撃ができなかったり、市街地戦や山岳戦ではビルや山の上に構築された陣地や、肉薄する歩兵に対する砲撃ができないという状況も多く見られた。
このため、歩兵への支援任務が圧倒的に多くなる途上国の紛争では、T-72よりも仰角俯角の大きく取れるT-54/55の方が好まれるという。
改修
ソ連はT-72の採用後も数多くの改修を実施し、1979年にはT-64でも採用していた複合素材の装甲を車体前部を中心に取り付ける事により防御力強化を実施、1980年代にはリアクティブ・アーマー(爆発反応装甲)が追加された。
1978年にレーザー測遠器を装備し始めるも高価だったため、1985年までは指揮戦車型のT-72Kを中心にしか普及しなかったが、それ以降に生産されたタイプではエンジンの馬力も780hpから840hpに強化、リアクティブアーマーやレーザー測遠器も生産当初から標準装備となり、主砲から対戦車ミサイルも発射可能となった。
これによりT-64の後継であるT-80に、機能的に近くなるアップデートが施されたといえる。
以降も細かい改修が施されるも、1980年代末のワルシャワ条約機構下諸国の経済悪化や、ソ連自身の1991年の崩壊などにより、一時その発展は停滞期を迎える。
ソ連崩壊以降は独立した諸国がそれぞれのT-72の生産技術を元に数多くのバリエーションを開発し、自国で生産したオリジナルタイプの輸出から既にT-72を購入した国への改修パッケージキットの販売など、その販売形態も広がっている。T-72自体が長期に渡り多くの国々に供給されたこともあり、ロシアと友好関係にある諸国にとっては今でも魅力的な軍事マーケットとなっている。
ロシアでも未だ多数現存するT-72の有効活用とコストパフォーマンスの良さから、21世紀に入ると発展型T-90の調達と並行してT-72にT-90の技術をフィードバックした改修を行っている。
実戦投入
T-72は、ソ連においてはNATOとの最前線であるヨーロッパ方面へ優先的に配備されていたため長く実戦投入の機会がなく、海外の使用国を中心に戦闘経験を重ねていった。
1980年代のイラン・イラク戦争では、イラク軍のT-72がイラン軍の西側製戦車と初めて交戦。
T-72はAPFSDSを使用し、重装甲を誇る英国製のチーフテンを正面から易々と貫徹し多数撃破するなど善戦した。
同じ頃のイスラエル軍によるレバノン侵攻(ガリラヤの平和作戦)の際は、シリア軍のT-72がイスラエル軍と交戦。ショット(センチュリオンのイスラエル軍仕様)やM60パットン相手に少なくない損害を与え、イスラエル側はこれに対抗するべく当時最新鋭のメルカバを投入。結果としてメルカバには一方的な敗北を喫したが、裏を返せば新型の投入を決意させるほどの脅威を与えたという事である。
しかし問題なのは、1991年の湾岸戦争の時である。
イラク軍が配備していたT-72などのソ連(一部中国)戦車は、米軍のM1エイブラムスや英軍のチャレンジャー1といった西側諸国の新型主力戦車に一方的に、それこそ殺戮と言っても過言ではないほど容易く撃破されてしまった。
実は輸出版のT-72は、火器管制装置どころか砲弾さえも粗悪品で、しばしば決定的な初弾を外しまくり、命中したとしても容易く弾かれるというポンコツ同然の代物だったのである(前述の通り、イラクに輸出されていたT-72はオリジナルよりも性能の劣るモンキーモデルではあったのだが、イラク側の技量の問題もあって、仮にオリジナルのT-72だとしても結果は変わらなかったろうという意見が根強い)
更には2両のM2ブラッドレー歩兵戦闘車相手に10台近いT-72が撃破された事もあった。この戦闘でTOWミサイルだけでなく25mm機関砲によりT-72は撃破されている。さすがに正面から撃破されたのでなく連合軍の戦車を向かい撃つべく塹壕に隠れていたT-72へ、トップアタックの形で25mm機関砲弾を撃ち込まれた事で撃破されたのだが、それでも問題であった。
(ちなみに同戦争ではユーゴスラビア型のM-84がクウェートで使用されており、敵味方双方がT-72を使用する状況になった。誤射の恐れがあった事からクウェートのM-84は大々的に投入される事がなかったようだが、それでも旧世代のT-55などに対しては有効だったようである)
その後もチェチェン紛争では、市街地戦で上からRPGを撃たれて多数が撃破されるという醜態をさらす事に。
この所為で兵器市場でのソ連(中国)戦車の評価はガタ落ち、輸出需要が大きく落ち込む結果になってしまった。さすがにやりすぎたと反省したのか次期のT-90ではこの失墜したブランドイメージの回復を目指し純正と褐色ない性能になったと言われる。
しかし21世紀に入ると西側戦車もゲリラ戦で苦戦が増えた事に加え、ロシアはT-72を投入した南オセチア紛争やクリミア紛争を短期で終結させ政治目的を達した事から、結局のところ物は使いようだったと考えられるようになり、今日では改良により重量(と価格)が天井知らずに増していく西側戦車より軽量(かつ安価)な事も相まって再評価されつつある。
イラク戦争後に結成されたイラク治安部隊では、アメリカからM1エイブラムスが供与されたものの西側製戦車の運用に慣れていないためにろくに運用できなくなるほど持て余してしまったことから、現在も慣れ親しんだT-72やその改良型T-90を運用し続けている。
とはいえロシアのウクライナ侵攻では、ロシア側のT-72が対戦車ミサイルで多数の損害を被り、運用の悪さが再び露呈している。
ウクライナでもT-72は使用されているのだが、元々ウクライナは冷戦終結後自国に工場が存在するT-80やT-64を主力にするつもりだったためT-72のほとんどは保管状態で一部は上述の通り輸出されていたところを、クリミア紛争によるロシアとの関係悪化で急遽現役復帰させていた経緯がある。元ワルシャワ条約機構の東欧諸国がT-72をウクライナへ供与する動きも見られ、結果として東欧諸国の戦車戦力更新を加速させる形にもなっている。
上述したような弱点はありつつも安価で扱いやすく、現在でも途上国の紛争にしばしば現れる戦車であり、今後も当分は戦場から消える事はないだろう。
戦車バイアスロン
そんなT-72に、2010年代になって年に一度の晴れ舞台ができた。
それが、ロシアで2013年から開催されている「戦車バイアスロン」である。
この世界競技大会では基本的にあらかじめロシアが用意したT-72を使用する事になっており(現在は自軍の戦車を持ち込む事も可能)、チームごとに赤青黄緑と色とりどりに塗装されたT-72が、縦横無尽に駆け抜ける様を見る事ができる。
このような事情と開催国が開催国な事もあって、参加国はT-72シリーズを運用している国がほとんどだが、南アフリカやカタールといったT-72とほとんど縁がない国が参加した事もある。
バリエーション
以下はあくまでも基本的なもので、運用国の事情に合わせた独自改修型は多数存在する。
- T-72「ウラール」
初期タイプ。ステレオ式測遠機を装備。
- T-72A
サイドスカート装備・追加装甲・レーザー測遠機・射撃統制装置・夜間暗視装置・発煙弾を装備。
- T-72B
装甲の強化・前面部に追加複合装甲・レーザー誘導型対戦車ミサイル発射機能を搭載。
- T-72AV・T-72BV
爆発反応装甲を追加したT-72AおよびT-72B。1985年から生産された。当初227基のコンタークト1を装備、のち新型のコンタークト5に換装。
- T-72S
輸出向けの派生型。155基のコンタークト1を装備。
- T-72BK
T-72Bの指揮官用車両。偵察機能、通信アンテナの増設。
- T-72B(M)
T-72Bの強化型。改修版の爆発反応装甲・砲塔部に複合装甲を搭載。1988年から生産された。コンタークト5を装備。T-72BMとも書かれる。
- T-72B1
レーザー誘導式対戦車ミサイルの発射機能を無くしたモデル。2012年以降近代化改修が行われ、T-72B1MSと呼ばれる。電子機器やソフト面での改良がメイン。
- T-72B2 ロガートカ
主砲とエンジンをT-90と同じものに換装したモデル。新型爆発反応装甲を装備しT-90Aに迫る性能を実現したが、改修費用が高額となり少数の改造に留まる。なお名称は「投石器」の意味。
- T-72B3
2013年以降、ロシア軍向けに近代化改修が行われたモデル。射撃管制装置を新型に換装し、主砲、エンジン、APUはT-90Aと同一。一部車両には車長用サイトと設けられている(T-72B3MもしくはB4と表記されることがあるが、ロシア軍では区別していない)。全ての改修を一度に行っているわけではないようで、エンジンがそのままの車両もいる。攻撃性能や機動力はT-90に迫るが、防御力では劣る。なおウクライナ軍が鹵獲したT-72B3の不調に対して開発元にクレームを入れたというエピソードが伝わっている。
- T-72M
ソ連、ポーランドとチェコスロヴァキアで生産された輸出モデル。T-72Aのモンキーモデル。
- T-72M1
ソ連、ポーランドとチェコスロヴァキアで生産された輸出モデル。装甲を厚くしたモデル。
- M-84
ユーゴスラビアがT-72Mをライセンス生産したもの。その後改良型のM-84A1や旧ユーゴ諸国独自の改良型が誕生している。
- PT-91「トファルディ」
ポーランドが自国製のT-72M1を改良したもの。射撃制御装置や爆発反応装甲・パッシブ型夜間映像装置を装備。
- T-72BU→T-90
T-72の車体とT-80の砲塔を組み合わせたロシアの最新式第三世代MBT。
T-72の車体を流用した戦車支援戦闘車。なお、本車は歩兵戦闘車(BMP)では無いためPとTの間にハイフンを入れるのは間違いである。
性能諸元
全長 | 9.53 m |
車体長 | 6.86 m |
全幅 | 3.59 m |
全高 | 2.19 m(T-72A) |
2.23 m(T-72M1とT-72B) | |
2.22 m(T-72S) | |
重量 | 41.5 t |
懸架方式 | トーションバー方式 |
速度 | 60 km/h(整地) |
45 km/h(不整地) | |
行動距離 | 450 km |
600 km(外部タンク搭載時) | |
主砲 | 125 mm滑腔砲 2A46M |
副武装 | PKT7.62mm機関銃(同軸) |
NSVT12.7mm機関銃(対空) | |
装甲 | 複合装甲 |
- 車体前面200mm 砲塔前面280mm(T-72A) | |
- 車体前面236mm 砲塔前面296mm(T-72B) | |
正味の厚さで、均質圧延鋼板換算では400-600mmと推定 | |
エンジン | V型12気筒ディーゼルエンジン |
780 hp | |
乗員 | 3 名 |
主な登場作品
旧東側諸国の主力戦車として運用され、さらに多くの国に輸出されたことから多くの作品で主に敵対勢力が運用する戦車として登場する。
- 戦火の勇気
アル・バスラの戦いで交戦するイラク軍の戦車として登場。
米軍の戦車とは異なり撮影に使用されたのは完全なハリボテである模様。
主人公がウクライナの兵器庫にあった同車を海外に売りさばく。
撮影に使用されたのは実際にウクライナ軍で運用されていた車両で、撮影終了後はリベリアに売却されている。
ソ連軍の戦車として登場。
撮影に使用されたのはM8トラクターを改造した車両で、その後『スリー・キングス』、『若き勇者たち』などでも使用された。
ソ連の戦車としてT-72A、T-72B、T-72B3、T-72AVが登場。
- Call of Dutyシリーズ
『CoD4:MW』、『CoD:MW2』、『CoD:MW3』でロシア軍の戦車として登場。『CoD:BO2』でも一部のフィールドに設置されている。
- BattleFieldシリーズ
『BF3』でPLRの戦車として登場。『VIETNAM』では北ベトナム軍の戦車として登場するが、実際にはベトナム戦争時の北ベトナムでは運用されていなかった。
ボスキャラとして登場。
- コンバットチョロQシリーズ
初代PS「コンバットチョロQ」とPS2「新コンバットチョロQ」に登場。
「コンバットチョロQ」では作戦29「誓いの駆逐戦法」から登場。「T-72」表記。
耐久力に優れた強力な戦車で、特に作戦30「死の谷の攻防」では6両が登場。同ステージは落下の危険がある谷の上に立つアンテナを敵タンクの攻撃から防衛するというステージであり、マウスの次に難しいとも称された。
「新コンバットチョロQ」では最終ステージ「Qシュタイン帝国」でQシュタイン帝国首都を防衛する精鋭部隊として登場。プレイヤーは「炸裂!フレイルの恐怖」をクリアすると使用可能になる。「T-72M1」表記で、「輸出用のタイプで安く世界各国に売られているが装甲が弱くなっている」と解説されている。
同軸機関銃タイプ「T」カテゴリーの武装を装備できる。
敵対勢力が使用する戦車として登場。初期のいわゆる「歌モノ」回では破壊された同車から飛んできた何かがやわらか戦車に直撃するタイトルバックになっていた。第14話以降はタイトルバックの変更に伴い登場しなくなったが、第22話では久々に敵戦車として登場している。
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