ナチス・ドイツの最終兵器
マウス(Maus)は、第二次世界大戦後期のドイツで試作された6人乗りの超重戦車。
ポルシェ・タイプ205に相当し、VIII号戦車としても知られる。
ドイツ総統の発案を受け、ポルシェ創設者のフェルディナント・ポルシェ博士らによって設計・開発された。
ドイツ語でネズミを意味する呼称が付けられているが、これは計画の規模を敵に誤認させるための偽装工作の可能性がある。
マウスの実際の性能は、
- WW2最強格のティーガーII重戦車すら無力化し得るほどの砲火力と重装甲
- 全長9m、車高3.68m、幅3.6mに達する巨体
- 砲塔だけで55トン、車体で133トン、これらを併せて戦車史上で最大の188トンにも及ぶ車重
...という風に、ナチス・ドイツの最終兵器と呼ぶに相応しい規格外のものだった。
火力
- 55口径12.8cm砲
弾名 | 弾種 | 砲口初速 | 射貫装甲厚/射距離(傾斜付与角0°の場合) |
---|---|---|---|
Pzgr.43 | 低抵抗被帽付徹甲弾(APCBC) | 920m/s | 200mm/1,000m,178mm/2,000m |
砲塔正面の中央から長く伸びた主砲。
大戦末期に実戦投入されたヤークトティーガーの搭載砲と同等のもので、当時の実用戦車砲としては最大級でかつ、その威力もまた最強格。
あらゆる連合軍戦車砲の射程外から、一方的に致命打を放つことが可能だった。
ただし、砲弾は2つに分割された分離装薬式となっており、一度の砲撃に2回の装填作業を要すことから発射速度は遅かった。
- 36.5口径7.5cm砲
弾名 | 弾種 | 砲口初速 | 射貫装甲厚/射距離(傾斜付与角0°の場合) |
---|---|---|---|
Gr.38 HL/C | 対戦車榴弾(HEAT) | 450m/s | 100mm/全距離 |
主砲の右隣に位置する比較的短い副砲。IV号戦車前期型の24口径7.5cm砲と弾薬の規格が共通となっている。
歩兵や対戦車砲相手に主用しつつ戦車戦にも対応できるよう、双方に対して有効な成形炸薬弾(対戦車榴弾)を主な弾薬とした。
ただ、砲弾の飛翔速度が遅いことから射程は短く照準も容易では無かったと推察され、戦車戦向きの武装ではなかった。
防御力
連合軍最強の英国製17ポンド砲やソ連製122mm砲、さらにマウス自身の12.8cm砲を以てしてさえ射貫が困難なほどの、最低200mm厚以上にもなる圧倒的な正面防御を有した。
また、側背面に関してもWW2最強格たるティーガーII重戦車の正面装甲150~180mm厚と同等で、全周囲に渡って驚異的な重防御で守られていたといえる。
機動力
エンジン出力こそ現用主力戦車のそれにも匹敵する1,000~1,200馬力に達したが、188トンにも達する車重の前には力不足も甚だしかった。
燃費はリッターあたり300mにも満たず、航続距離は整地186km、不整地68km、追加燃料タンク無しで42kmと短く、少しでも軟弱な地面で走行すると自重で埋没してしまうという弱点もあり、実用的な機動力が確保されていたかについては疑問が残る。
それでも、整地での最高速度は人間の全速力と同等の22km/hが発揮可能だったという。
なお、これまでのポルシェ製戦車と同様、ガソリンエンジンで発電し電動モーターで駆動するハイブリッド方式が採用されているが、これはポルシェ博士が従来の機械式駆動系で戦車の車重を支えるのは困難と判断したため。
実際、第二次世界大戦期に運用された重量級の戦車は駆動系破損による故障を発生しやすく、この考え方は決して間違ったものでは無かった。
終戦までの経過
1942年、100トン級戦車のVK100.01として開発開始。
当初はマンモスを意味する「マムート」(Mammut)と呼ばれていたが、1942年12月には「モイスヒェン」(Mäuschen)、1943年2月には「マウス」(Maus)に改名された。
1943年11月、戦況の悪化に伴い既存戦車の生産・改良が優先されたことから、マウスの開発計画は中止に。
ただ、既に生産過程に入っていた試作車2輌については完成させることが認められ、12月には模擬砲塔搭載で非武装の試作1号車が、翌年6月には武装した試作2号車が完成した。
1944年からはベーブリンゲン駐屯地にて試験運用が実施され、3月には泥濘にハマって擱座するという事案もあったが、その操縦性は意外にも良好で試験結果も総合的には好評に終わったという。
1944年8月、マウスの開発計画は全面的に終了することとなった。
...そのはずが、なぜか試作車は1944年後期にクンマースドルフ試験場へ移管され、試験も続行。
1945年3月には2号車のエンジンが1,200馬力の新型に換装された。
敗戦が半ば確実となった4月、ソ連による鹵獲を防ぐべく武装した2号車は爆破処理され、非武装の1号車はそのままの状態で終戦を迎えた。
夢想の顛末
ドイツの降伏後、ソ連はマウスを接収。
爆破済みの2号車から砲塔のみを取り外し、無傷の1号車車体へ搭載した状態で自国のクビンカ試験場へ輸送、そこで調査が行われた。
結果、既存のあらゆるソ連戦車はもちろん、全てのドイツ戦車を圧倒すべく開発中だった新型ヨシフ・スターリン重戦車を以てしても、マウスとの正面戦闘は極めて困難と判明。
更なる次世代型重戦車の構想も、マウスの脅威を受けて大幅な改変を余儀なくされたという。
単なる幸運か、あるいはソ連の兵器技術者が敬意を示したゆえか、このマウスは砲撃試験の標的とされることなく保管され続け、現在はロシアのクビンカ戦車博物館で往時の姿のままに展示されている。
登場作品
ゲーム
- メタルマックスシリーズ
- コンバットチョロQシリーズ
- PS「コンバットチョロQ」:バトルアリーナの2戦目および中盤の難ボスとして登場。作戦24「悪魔の発明」で登場する巨大戦車。榴弾の炸裂や衝撃波、建物破壊と突進のコンボで多くのプレイヤーを恐怖のどん底へ叩き込んだ。ラスボスのT-35を霞ませるほどの強敵として立ちはだかる。
- PS2「新コンバットチョロQ」:プレイヤー操作が可能なタンクとして登場。「激戦の果てに」クリア後に解禁。本来固定砲専用の高火力装備を装備可能で、シリーズ最重量クラスの戦車。
- GBA「コンバットチョロQアドバンス大作戦」:Lタイプ車体と128ミリカノンで再現可能。比較的序盤から登場する敵タンクは命中補正パーツ「照準器」を装備し、火力とクリティカル率で襲いかかる。
- World of Tanks・World of Tanks Blitz
- ドイツTiar10重戦車として登場。ゲーム内最高クラスのHPと重装甲を有し、昼飯・豚飯が非常に有効。砲火力はもちろん、体当たりも凶悪な威力を発揮する。ただし鈍足で、同格戦車比では時間あたりのダメージ投射量が劣悪ということもあり、決して扱いやすくは無い。
- War Thunder
- ドイツRankV重戦車として登場。実装当初は通常車輌の扱いだったが、2019年以降はイベント時のみ開発可能な限定車輌となった。
- 史実通りの大火力・重装甲・鈍足だが、ゲームバランスの関係で相対する同格車輌が軒並み戦後兵器となっており、下手に前線を張れば300~500mmの装甲射貫が可能な装弾筒付徹甲弾や対戦車ミサイルで容易くタコ殴りにされる。
- ただ、乗員人数が多いことから一回の被弾で全滅・撃破されることは少なく、砲火力は戦後戦車相手にも不足しないので、うまく扱えば大きな戦果が狙える。
漫画
- 宮崎駿の漫画作品「宮崎駿の雑想ノート」の一編
- 『豚の虎』の最終コマに小さく登場。開発者フェルディナント・ポルシェ博士と共に主人公ハンス曹長とドランシ大尉の前に現れ、ドランシ大尉に「てめえ死ね」と悪態を吐かれていた(開発者の同じポルシェティーガーの運用で苦労したため)。
- 続編の『ハンスの帰還」では、冒頭で行動不能になりハンス曹長によって爆破処理された。ハンス曰く「爆薬が足りなかった」らしく自爆にしては原型を留めており、耐久性の高さが遠回しに描かれている。
- シェイファー・ハウンド
小説
- 大逆転・第二次世界大戦史3(ストラテジック・オフィス/編)の一編
- シミュレーション戦記の短編集である本作に所収の『最後の戦い』に1輌が登場。
- 試作2輌の他に量産1号車がかろうじて完成していた設定で、ベルリン攻防戦を戦う。
- 超戦車イカヅチ前進せよ!/鋼鉄の雷鳴
- 本作では日本陸軍が先行して開発したオイ車(史実のそれとは多砲塔戦車であること以外はほぼ別物)のノウハウを活かして開発されたという設定で「ポルシェ205マウス」と呼称される。
- 大戦末期に1輌がソ連軍に鹵獲され満洲に進出、対オイ車用の最終兵器として立ちはだかる。
- 凶鳥フッケバイン(鏖殺の凶鳥)
- クンメルスドルフ陸軍兵器試験場にて極秘裏に配備されていたという形で試作車両が1両登場。終戦直前、南ドイツに墜落したUFOの回収作戦のため武装親衛隊ティーゲル戦闘団に配備され、派遣される。
- 作中では同じく回収作戦に向かったE-100試作重戦車の方が活躍するためか、ほとんど活躍は描写されない。
アニメ
関連タグ
ゴリアテ(兵器):命名のコンセプトがマウスと同一。
E-100:E計画に基づき開発途上にあった、マウスと同じ超重戦車。