解説
IV号戦車(Panzerkampfwagen IV)は、第二次世界大戦期のドイツ製中戦車。
戦前の1937年に榴弾で自軍歩兵の脅威を排除する戦車として実用化したが、大戦中期からは旧式化したIII号戦車・生産が遅延する新型のパンターを補うべく戦車戦にも対応し、事実上のドイツ戦車隊主力を担った。
総生産数はドイツ製戦車として最多の約8,500輌。(※1)
大戦中の全期間に渡って最前線で運用されたほか、戦後に輸出車輌を入手したシリアでは1960年代まで現役にあった。
特徴
- 火力
短砲身のKwK 37 | 長砲身のKwK 40 |
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IV号戦車の主武装は、生産時期と型式によって2種に大別される。
● KwK 37 L/24(A型~F型)
短砲身・低初速で榴弾の威力を重視した砲。(※2)
性質としては榴弾砲に近いものの、戦車との交戦も想定して徹甲弾や対戦車榴弾も用意されていた。ただ、砲弾の飛翔速度が遅いことから正確な照準をすることは難しく、戦車戦向きの武装ではなかった。
● KwK 40 L/43(F2型~G型初期)・KwK 40 L/48(G型後期~J型)
長砲身・高初速で徹甲弾の威力を重視した砲。原型は対戦車砲のPaK40。
ドイツ戦車の搭載砲としては初めてソ連赤軍のT-34やKV-1が有する80~100mm級の正面装甲を射貫可能とした。
- 防御力
IV号戦車の装甲配置は垂直主体となっており、T-34が傾斜装甲で発揮したような砲弾を逸らす効果は期待できなかった。
装甲厚と防御力は型式によって異なるが、ここでは3つの型式を挙げる。
● D型(フランス侵攻時の主要型)
砲塔・車体ともに30mmで、当時のフランス軍で最も普及していた25mm対戦車砲であればほぼ無力化できた。
ただ、最新型のフランス戦車が搭載した47mm砲は射距離500mで50mm程度の装甲射貫を可能としており、これに対抗することは困難だった。
● F2型(最初の長砲身型)
砲塔・車体ともに50mm。
当時相対したM3・M4シャーマンの75mm砲は射距離500mで90mm程度、T-34/76の76mm砲は同80mm程度の装甲射貫を可能としたため、命中弾を受ければ被害発生は避け得なかった。
● H型(最多量産型)
砲塔50mm、車体80mm。
東部戦線の赤軍主力たるT-34/85の85mm砲は射距離500mで100mm程度、IS-2の122mm砲は同120mm程度の装甲射貫が可能で、被弾すれば致命的な打撃を受ける可能性が高かった。
理想 | 現実 |
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...という風に、IV号戦車の防御力はどの型式・時期においても信頼のおけない程度のもの。
なお、連合軍で主力を務めたM4シャーマンやT-34はIV号戦車よりも後発ということもあり、より優秀な防御力を有する。
- その他
キューポラと車長 | シュルツェン取り付け中 |
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IV号戦車には、
● 戦車長が危険な車外に出ることなく車外の状況を確認できる砲塔後部上面のキューポラ
● マイクとヘッドセットを装填手以外の全乗員が装着、通話可能とし、エンジンや砲撃の騒音下でも安定したコミュニケーションを実現
...といった、以降の戦中・戦後戦車で一般的となる先進的な要素が先んじて実装されていた。
また、G型後期以降の型式では、対戦車ライフル対策の増加装甲として砲塔の側背面・車体の両側面にシュルツェンが装備された。
派生型
IV号戦車の車体に15cm榴弾砲を搭載、重装甲化した戦闘室を載せた突撃戦車。
詳細は該当記事を参照。
III号突撃砲の代用として、IV号戦車の車体にⅢ号突撃砲の戦闘室を搭載した突撃砲。
詳細は該当記事を参照。
IV号戦車の車体に48口径7.5cm砲、もしくは70口径7.5cm砲を搭載した駆逐戦車。
詳細は該当記事を参照。
IV号戦車の車体に71口径8.8cm砲を搭載した対戦車自走砲。
当初の呼称はホルニッセ(ドイツ語でスズメバチ)だったが、総統閣下のナースホルン(ドイツ語でサイ)に改名された。
詳細は該当記事を参照。
IV号戦車の車体に15cm榴弾砲を搭載した自走砲。
詳細は該当記事を参照。
(イラストはメーベルワーゲン)
IV号戦車の車体に対空機関砲を搭載した対空戦車。
他にも英本土侵攻作戦のための潜水戦車型や戦車回収車型、架橋戦車型も開発された。
性能諸元
D型 | |
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全長 | 5.92 m |
車体長 | 5.92 m |
全幅 | 2.83 m |
全高 | 2.68 m |
重量 | 20 t |
エンジン | HL 120 TRM マイバッハ製水冷V型12気筒ガソリンエンジン 出力300馬力 |
速度 | 最大42 km/h、不整地25 km/h |
装甲厚 | 正面30mm・側面20mm・背面10mm |
武装 | 7.5cm KwK 37 L/24×1門・7.92mm MG 34機関銃×2挺 |
H型 | |
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全長 | 7.02 m |
全幅 | 2.84 m、シュルツェン込みで3.33 m |
重量 | 25 t |
速度 | 最大38 km/h、不整地25 km/h |
砲塔装甲厚 | 正面50mm・側背面30mm |
車体装甲厚 | 正面80mm・側面30mm・背面20mm |
武装 | 7.5cm KwK 40 L/48×1門・7.92mm MG 34機関銃×2挺(車体前方機銃・主砲同軸機銃) |
備考 | キューポラ上部の環にMG 34を追加装備可能、不記載項目はD型と同等 |
登場作品
主人公のクルツ・ウェーバーおよびエルンスト・フォン・バウアーが物語前半でH型に搭乗。
エピソード4で描かれた1943年の戦闘にて喪失し、以降はパンターに乗り換えている。
また、バウアーの指揮する戦車第8中隊、通称"黒騎士中隊"の主要装備として、1942年から1944年まで配備されている。
「ハンスの帰還」にて、主人公のハンス曹長とドランシ大尉が、戦場に遺棄されたJ型に搭乗。ベルリン陥落後、ソ連軍の追撃を逃れ米軍に降伏すべく、道中で民間人をデサントさせながら西部戦線を目指す。
オープニングで防衛軍の戦車として登場。機械獣に砲塔を吹っ飛ばされる。
地球防衛軍の無人戦車として登場。
昭和期の特撮テレビドラマではドイツ戦車が防衛軍の戦車として登場することが多いが、これは既存のラジコンを改造したものが多く使用されたためである。
初代PS「コンバットチョロQ」とPS2「新コンバットチョロQ」に登場。
「コンバットチョロQ」にはD型とJ型が登場。D型は作戦7「鷲よ舞い上がれ!」以降序盤の敵タンクとして頻繁に登場するが、J型は作戦12「戦慄!頭上の敵機」のみ登場。いずれも中堅クラスの能力のタンクである。
また8.8cm高射砲を搭載した試作自走対空砲が「高射砲車台」として登場。耐久力以外はポルシェティーガーに匹敵する高性能タンク。敵タンクとしては登場しない。
「新コンバットチョロQ」にはD型、E型、F1型、G型、J型が登場。E型は「砂に舞う狙撃手」、F1型とG型は「潜入!バチェリット」クリアで使用可能となり、D型はバトルアリーナ「フォレスト」、J型は「ウォーター」で対戦し、勝利すると使用可能となる。
D型とE型は「砂に舞う狙撃手」でゴルヒチン大尉指揮下の精鋭部隊の隊員として登場。D型は火炎放射とフライングシェル、E型は拡散ミサイル弾とミサイルの重武装を有する。
F1型・G型・J型は「潜入!バチェリット」でQシュタイン軍の警備兵として登場。前方にセンサーらしき光弾を放っており、見つからないように城内まで進まなければならない。
いずれも同軸機関銃タイプ「T」カテゴリーと車体機関銃タイプ「B」カテゴリーの武装を装備できる。
のちにF2型相当→H型相当の仕様に改修されていき、物語全編を通して活躍する。
2024年1月には、あんこうチームのIV号戦車(H型仕様)がアシェットの『週刊ガールズ&パンツァー』としてまさかのリリース。スケールサイズは1/12である。
エイルシュタットの敵であるゲルマニア帝国の戦車。III号戦車と共に運用されている。
脚注
(※1):戦車戦での運用が可能な車輌というくくりではIII号突撃砲(約10,000輌)の方が多い。
(※2):短砲身・低初速となった理由は、威力増大に際して内部の炸薬を増やすと弾の殻が薄くなり、高速で発射すると破損する可能性が高まるため。