第二次世界大戦最強の戦車
第二次世界大戦後期の1944年に実用化したドイツ軍の重戦車。
非常に強力な戦車で、当時最高クラスの砲火力・防御力であらゆる連合軍戦車を圧倒したが、約70トンもの車重のため機動力は劣悪だった。
また、既に連合軍が陸空で圧倒的な優勢を確立していた大戦末期、その高性能が万全に発揮される機会は限られた。
制式呼称は「VI号戦車ティーガーB型」(Pz.kpfw.Tiger Ausf.B)だが、一般には「ティーガーII」(Tiger II)の呼称が用いられる。
特殊車輌番号は「Sd.kfz.182」(指揮戦車型: Sd.kfz.267/268)。
(Pz.kpfw=Panzerkampfwagen、Ausf=Ausführung、Sd.kfz=Sonderkraftfahrzeug)
開発
VK45.01(H)・ティーガーI | ポルシェ案のVK45.02(P) |
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ヘンシェル社によってティーガーIが実用化するよりも前の1941年、ポルシェ社は既に新型ティーガーとして長砲身8.8cm砲搭載型45トン級戦車の開発計画「VK45.02(P)」を進行させていた。
一方、ヘンシェル社は1942年にティーガーIの開発を完了。新型ティーガー「VK45.02(H)」の開発に取り掛かった。
既存のティーガーI生産ラインを流用できるように設計されたVK45.02(H)だったが、このころにドイツの次期主力となる新型戦車パンターと新型ティーガーとの部品共通化計画が浮上。
ヘンシェル社の新型ティーガー計画はこれを考慮し、次段階の「VK45.03(H)」へと移行した。
1943年末、VK45.03(H)試作車が完成し「ティーガーII」として制式化。
量産車は1944年1月からドイツ軍に順次引き渡されていった。
特徴
火力
ティーガーIIに搭載された71口径8.8cm砲「KwK 43」は、ティーガーIの56口径8.8cm砲「KwK 36」と比べて倍以上に増大した砲弾装薬量(約3kg→約7kg)と、それに伴う長砲身化により驚異的な高初速を獲得。同時期の戦車砲として頭一つ抜けた射貫能力を発揮した。
弾名 | 弾種 | 初速 | 射貫装甲厚/射距離(装甲傾斜角60度の場合) |
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PzGr 39/43 | APCBC | 1,000m/s | 202mm/100m,165mm/1,000m,132mm/2,000m |
PzGr 40/43 | APCR | 1,130m/s | 237mm/100m,193mm/1,000m,152mm/2,000m |
(傾斜角=水平+x度) (Pzgr 40/43は芯材に貴重資源のタングステンを使用するため少数生産)
参考までに、連合軍の数的主力を担った中戦車のT-34/85やM4シャーマンの実質装甲厚は最大120mm程度。
また、重戦車のIS-2、M26パーシングでは最大200mm程度となっている。
防御力
装甲配置がほとんど垂直だったティーガーIと異なり、各部に傾斜装甲が取り入れられたことで、全体的に実際の装甲厚以上の防御力を示した。
しかし、大戦末期のドイツでは装甲材質が悪化していたため、複数回の被弾や大口径砲弾によって装甲が叩き割られる・ひび割れるといった致命的な欠陥を示すことがあった。
- ポルシェ砲塔
最初期に生産された50輌のみの砲塔で、VK45.02(P)向けにクルップ社が設計した。
設計は曲面を主体としたもので、装甲厚は最も厚い正面の曲面部で100mm。
これは当時の戦車の正面装甲としては薄めだが、最も突出した部位以外なら曲面部の傾斜で砲弾を弾きやすいため、防御力は決して低くなかった。
ただし、前方に突き出した形の湾曲が災いし、ごく稀に正面下部曲面で下方へ跳弾した砲弾が車体天板装甲を貫通する現象、通称「ショットトラップ」を発生することがあった。
- ヘンシェル砲塔
最初の50輌以降が搭載した砲塔で、やはりクルップ社で設計された。
戦車砲の付け根を覆う円錐形の防盾が特徴的。
正面装甲厚は180mmと極めて厚く、M4シャーマンやT-34の搭載砲であれば至近距離からでも防げる程に強固だった。
- 車体
正面装甲は最大で150mm厚+傾斜角50度、実質装甲厚にして200mm厚程度。
ティーガーIIの最も強固な装甲であり、これを当時の戦車砲によって貫通することはほぼ不可能だった。
機動力
搭載エンジンは700馬力を発揮するマイバッハ社製「HL 230 P30」。
これは40トン級のパンター中戦車と同型のエンジンであり、車重69.8トンに達するティーガーIIにはあまりにも力不足だった。
また、その大重量ゆえ駆動系が破損しやすく故障を多発。
一度でも沼地や泥地などの緩い地面にはまると戦車回収車を使っても脱出は難しく、燃費も1リットルでたったの162メートルと劣悪に過ぎたため、長時間機動を続けると移動不能となって放棄される車輌が多かった。
その他
ティーガーIIの最も致命的な問題が脅威の大コスト。
IV号戦車で100,000RM、パンターが125,000RM、そして前任のティーガーIが300,000RMのところ、ティーガーIIは単純計算でIV号戦車8輌分の800,000RMだった。(RM=ライヒスマルク、当時のドイツ通貨)
これに加え、米英による戦略爆撃で工場が被害を受けたこともあり、終戦までの総生産数は500輌以下に終わった。
戦史
西部戦線の主敵M4シャーマン | ヤーボ仕様のP-47 |
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1944年6月、ノルマンディー上陸作戦で西部戦線が形成された直後、第130装甲教導師団や第503重戦車大隊に配備されていた数十輌のティーガーIIで反撃が試みられたが、特に戦果を挙げることなく陸戦やヤーボ(戦闘爆撃機)による撃破、故障・燃料切れによる放棄でひと月の間に壊滅した。
東部戦線の主敵T-34/85 | 脅威の122mm砲搭載重戦車IS-2 |
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また、同年8月には東部戦線のポーランドで第501重戦車大隊所属の45輌が投入されるも、ソ連赤軍最精鋭の第6親衛戦車軍団と接敵。
最初の戦闘でたった1輌のT-34/85(アレクサンダー・オスキン中尉車)の待ち伏せ攻撃を受けて即座に3輌を喪失したことから始まり、以降の3日間で13輌が一方的に撃破されるという失態を演じた。
とはいえ、ティーガーIIのこれらの敗北は、両戦域がボカージュや森林に覆われた重戦車の運用に適していない風土だったことと、練度が充分でなかったことが原因と考えらえる。
実際に、ハンガリーの平原地帯における1944年10月以降の166日間の戦いで、第503重戦車大隊はティーガーII 25輌の損失と引き換えに121輌の赤軍戦車、244門の野砲を撃破したという。
パイパー戦闘団 | 結末 |
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また、12月の西部戦線におけるアルデンヌ攻勢、通称バルジの戦いでは、第501SS重戦車大隊、第506重戦車大隊などから、総生産数の3分の1に匹敵する150輌以上のティーガーIIが投入された。
ただ、森が広がり起伏に富む地形のアルデンヌは鈍重な重戦車には不向きであり、ヨアヒム・パイパーSS中佐率いる精鋭の「パイパー戦闘団」ではティーガーIIが進軍の邪魔にならないよう、軍勢の最後尾に配置されたという。
ベルリン1945、最後のティーガーII
—絶滅戦争の終局、王虎の咆哮
1945年4月23日、ソ連赤軍はベルリン正面のオーデル川防衛線を突破。25日にベルリン包囲網を完成させた。
この時、ベルリンに残されていたドイツ機甲戦力はSS第503重戦車大隊のティーガーII・314号車を含むたったの数十輌だけ、という絶望的な状況だった。
しかし、ベルリン陥落までの数日間にライヒスターク周辺の防衛を担った314号車は、歩兵や高射砲・高射砲塔と協働しつつ60輌もの赤軍戦車を撃破。
戦闘の趨勢が決した5月1日、314号車は友軍とベルリン市民のため西方への脱出路を切り開くも、対戦車地雷により行動不能となり、鹵獲を防ぐため搭乗員によって爆破処置。
最強戦車は滅びゆく第三帝国と共に、永遠の眠りについた—
314号車の搭乗員は以下の通り。
車長 | Georg Diers |
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砲手 | Wolf-Dieter Kothe |
装填手 | Alex Sommer |
運転手 | Willi Kenkel |
無線手 | Bodo Harms |
派生型
ヤークトティーガー
ティーガーIIの車体を原型に128mm砲を搭載した重駆逐戦車。
E-75
大戦後期、E計画に基づいて開発されていた75トン級戦車。ティーガーIIの後継となるはずだったが、試作段階にすら至らず終戦を迎えた。
詳細な設計図や計画案は存在しておらず、不明点が多い。
余談
非公式呼称
ティーガーIIの非公式呼称として有名なものに「ケーニヒスティーガー」(Königstiger:直訳では王虎だが、ドイツ語の単語としてはベンガルトラの意)があるが、これは1944年4月頃のドイツ戦車兵の間で生まれたものと考えられている。
また、似た意味の英語呼称として米軍の「キングタイガー」や英軍の「ロイヤルタイガー」も存在し、特に前者は英語圏におけるティーガーIIの呼称として広く浸透している。
なお、日本では上記3種のほかに漢字表記の「王虎」「虎王」や、独英混合の「キングティーガー」「ロイヤルティーガー」といった呼称が用いられることもある。
ノヴァヤ・パンテラ
ティーガーIIのシルエット | パンター(下)とティーガーI(上) |
ソ連赤軍はティーガーIIをパンターの発展型と解釈、「新型豹戦車」という名前で呼んだとされる。
実際、ティーガーIIの外見はパンターに似ており、逆にティーガーIとは車体後部を除いて全く似ていない。
登場作品
戦場まんがシリーズ
「ラインの虎」で登場。
戦場ロマン・シリーズ
「王者(ファラオ)の砂丘」で登場。北アフリカ戦線に試作重戦車として投入されるが、主人公たちのもとには車体のみが送られ、砲塔を載せた輸送機が不時着してしまう。主人公たちは不時着した輸送機を捜索することになる。
黒騎士物語
主人公の所属部隊に配備される。
あゝ我らがミャオ将軍
コルドナ共和国軍の戦車として登場。外貨獲得のため売却される。
凶鳥〈フッケバイン〉 ヒトラー最終指令
国籍不明機の回収任務に送られたティーゲル戦闘団の戦車として4両登場。
同志少女よ、敵を撃て
ソ連軍から新型パンターと解釈された逸話を引用してか、主人公から「パンター二型だかティーガーII」と呼称されている。
恐竜大戦争アイゼンボーグ
防衛隊の戦車として配備されている。
ガールズ&パンツァー
WarThunder
ドイツ軍重戦車としてヘンシェル砲塔型・ポルシェ砲塔型ともに登場。
ディーゼルエンジン搭載型や10.5cm砲を搭載したタイプも登場している。
World_of_Tanks
ドイツの重戦車として登場。
Call of Dutyシリーズ
「FH」、「3」、「WaW」、「BO3」にドイツ軍の戦車として登場。
コンバットチョロQ
シリーズ皆勤の戦車。
初代PS「コンバットチョロQ」では「キングタイガー」表記。初登場の作戦15「激走50キロの慟哭」はレースステージながらも開始直後に急停車してこちらを攻撃してくる不可解な行動を取る。その後も頻繁に敵タンクとして登場している。
PS2「新コンバットチョロQ」では「ティーガーII型」として登場。ヘンシェル砲塔型とポルシェ砲塔型が登場し、ポルシェ砲塔型は「ティーガーII(P)」表記。
ヘンシェル砲塔型は「爆撃の閃光都市」で登場、クリアするとプレイヤーも使用可能になる。
ポルシェ砲塔型は「砂に舞う狙撃手」でQシュタイン軍のスナイパーゴルヒチン大尉として登場。周囲に副武装を備えた精鋭部隊を展開し、彼らで足止めをしている隙に高威力の超ロングライフルで狙撃してくる。こちらも同ステージをクリアするとプレイヤーも使用可能になる。
いずれも車体機関銃タイプ「B」カテゴリーの武装を装備できる。
GBA「コンバットチョロQ アドバンス大作戦」では「ティガーII」表記。ミッション01で仲間になるシュタイナーの初期装備として登場。「ティガーカノン」と「ティガータンク」で再現できる。
重戦車らしく火力が高いが、移動力が低いため森林の戦闘に不向き。