祖国の守護者
従来のBT系快速戦車の発展型として開発され、1940年の実用化からソ連赤軍の主力として活躍。中途に85mm砲搭載型への改良も経つつ、勝利の日まで最前線で戦い続けた。
その総生産数は戦中で53,000輌あまり、戦後生産のものも含めれば60,000輌にも達する。
なお、本記事では1940年6月から1944年9月までに35,000輌あまりが量産された76mm砲搭載型・T-34/76(T-34-76)を主な解説対象とする。
1944年1月以降の85mm砲搭載型についてはT-34/85を参照。
T-34/76 | T-34/85 |
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火力
T-34/76の主武装はF-34型76.2mm砲。(最初期型を除く)
発射される徹甲弾はドイツ主力のIII号戦車・IV号戦車が有する50mm厚の正面装甲を容易く貫き、1941年当時の戦車砲としては最強格の対装甲火力を発揮した。
- F-34型42.5口径76.2mm砲の射貫装甲厚(傾斜角+30°の装甲に対して)
弾名 | 弾種 | 初速(m/s) | 100m | 500m | 1000m |
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БР-350А | 低抵抗徹甲榴弾(APHEBC) | 662 | 69-86 | 59-70 | 50-63 |
БР-350Б | 低抵抗徹甲榴弾(APHEBC) | 655 | 74-89 | 62-76 | 55-71 |
БР-354П | 硬芯徹甲弾(APCR) | 950 | 92 | 77 | 不明 |
防御力
全面に渡る傾斜装甲は防御力増大の効果を示し、特に正面装甲厚は45mmながら実質的に80-90mm相当の防御力を発揮。また、生半可な威力の砲弾はことごとく弾かれた。
ただし、傾斜装甲の採用により車内はとても狭く、乗員にとっては窮屈で居住性に劣るものとなってしまった。
また、初期型では戦時下急造が悪影響し装甲板にニッケル不足や焼入れのバラつきがあったため、被弾したその裏面に剥離が生じて乗員を負傷させたり、被弾しすぎれば装甲板がかち割れることもあったという。
機動力
出力500馬力のV-2-34型ディーゼルエンジンと車重30トン程度との組み合わせで発揮される良好な出力重量比に準じて機動力も優秀なもので、最高速度は整地で54km/hに到達。
そこに幅広の履帯とクリスティー式サスペンションとが加わることで、普通の戦車が容易に擱座してしまうような泥濘まみれの悪路も快速で走破していくことが出来た。
ただし操縦性は良好とは言えず、特に初期型では左右履帯の差動を担うレバーがあまりにも固く動きづらかったことから、操縦手は時にハンマーを用意していたとか。
運用・戦史
無敵の戦車 | 直視 |
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1941年6月、ドイツ主力の枢軸国軍はバルバロッサ作戦を発動しソ連領内へ一挙に侵攻。
これに対する防衛戦で投入された赤軍戦車の総数は約10,000輌だが、その大半を占めたのは旧式化の著しいT-26型軽戦車で、一方のT-34は1,000輌程度と少なかった。
緒戦において、T-34の傾斜装甲は当時のドイツ主力たるPaK36型3.7cm対戦車砲・III号戦車の5cm砲をほぼ無力化。ドイツ軍は『T-34ショック』とも呼ぶべき大きな衝撃を受けることとなる。
ただし、初期のT-34は無線機器が充実しておらず連携能力に難があり、車外の状況を確認する方法も限られたため、ドイツ戦車隊が上手く連携して側背面などの弱点を攻撃するとあっけなく撃破されることもあったという。
冬季戦線 | 砲撃の中 |
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それまで月産100~200輌のペースで生産されていたT-34は、開戦に伴い急激に増産。9月には過去最多の生産数を達成したが、T-34の主要な生産拠点・ハリコフにはドイツ軍が着々と迫りつつある...。
- 1941年後半のT-34生産状況
1941年 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
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生産数 | 256輌 | 302輌 | 421輌 | 185輌 | 253輌 | 327輌 |
そこでソ連がとったのが、戦車工場をドイツの攻撃が及ばないウラル山脈付近に移設する大事業、いわゆる工場疎開だった。
10月、ハリコフが陥落し生産数が急激に低下するも、年末には疎開した工場を本格稼働させることで持ち直しに成功。
以降はほぼ右肩上がりで増産し、6月に月産998輌を記録して以降はおおむね月産1,000~1,500輌が維持され続けた。
1942年8月、またもやドイツの攻勢によりT-34の主要な生産拠点・スターリングラードが戦場と化すも、疎開工場の全力稼働により生産数低下は抑制される。
よく言及されるソ連の数の暴力は、こと兵器に関しては上記のような供給維持の試みが功を奏したことに拠るものだった。
ティーガー | パンター |
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1943年、ドイツ軍は東部戦線へ新型のVI号戦車ティーガー重戦車を本格配備し、同年6月のクルスクの戦いでは新たにV号戦車パンター中戦車も投入。
これらの戦車はT-34/76の対装甲火力を無力化するほどの重装甲を有し、それと同時にT-34の攻撃範囲外から一方的にT-34の装甲を貫ける強力な火砲を搭載していた。端的に言えば勝ち目がないのだ。
SU-85 | T-34/85 |
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赤軍はティーガー・パンターに対抗すべく新型のD-5T 85mm砲を開発したが、これはT-34/76の砲塔に載せるには大きすぎたため、暫定的にT-34の車台を流用した砲塔の無い駆逐戦車としてSU-85を開発。これは1943年8月から量産された。
そして1944年1月、新型砲塔への変更を以て85mm砲を搭載する新型T-34・T-34/85が量産開始。赤軍最大の攻勢たるバグラチオン作戦時点では未だにT-34/76が主力だったが、それもやがてT-34/85へ更新されていき、同年10月までにT-34/76の生産ラインはT-34/85へと完全移行された。
以降、欧州大戦・第二次世界大戦の終結と戦後までに関してはT-34/85を参照。
なお、生産終了以降もT-34/76の運用は継続されており、最終的には第二次世界大戦最後の大規模戦闘となる満州侵攻にも投入されたという。
Т-34 «Боевая подруга»: 復讐の女戦車兵
マリヤ・オクチャブリスカヤ(Мария Октя́брьская)は、史上最も有名な女性戦車兵。
夫が対独戦で戦死したことから、私財全てを売り払い戦車の生産費に充てるべく寄付するほどの熱意を見せるようになった彼女はスターリンへ『戦いたい』という趣の手紙を送るなどして注目され、赤軍の助けを得て1943年5月に戦車学校に入学、9月に卒業した。
自ら名付けたT-34「戦うガールフレンド」号(БОЕВАЯ ПОДРУГА)の操縦士として10月から実戦部隊へ配属されたオクチャブリスカヤは、履帯が破損して走行不能になった際、戦闘中にもかかわらず車外に飛び出て履帯修理を行うといった英雄的行為により他の戦車兵から大きな尊敬を受けたという。
しかし、1944年1月の戦闘中、履帯修理中に砲撃の至近弾を受けて頭部重傷。病院で治療が試みられたものの回復することは無く、そのまま3月15日に亡くなった。
一方、「戦うガールフレンド」号は撃破される度に次の戦車へと襲名され、最終的にはその名を受け継いだIS-2型重戦車がベルリンに佇む写真が残されている。
主要な型式
T-34は194X年型という区分で大まかに5種に分けられる。
生産工場やそれぞれの生産時期で分ければさらに数十種類へ細分化されるが、ここでは主要なもののみ挙げる。
- 1940年型
L-11型30.5口径76.2mm砲を搭載。これはF-34より砲身が短いため、初速・対装甲火力に劣る。
- 1941年型
搭載砲をF-34型42.5口径76.2mm砲に変更。
- 1942年型
曲面主体の六角砲塔に変更。上面左右に並ぶ2枚のハッチを開いた際の形状を指してドイツ兵に『ミッキーマウス』と呼ばれた。
- 1943年型
1942年5月以降の生産型だが、便宜的に1943年型と呼ばれる。六角砲塔にキューポラ増設。
- 1944年型
85mm砲搭載の新砲塔に変更された1944年1月以降の量産型、T-34/85。
派生型
T-34の車台を原型にM-30型122mm榴弾砲を搭載する自走榴弾砲。
T-34の車台を原型にD-5T型85mm砲を搭載する駆逐戦車。
SU-85の主武装をD-10T型100mm砲に換装した駆逐戦車。
- その他
火炎放射戦車のOT-34、戦車回収車のT-34Tなどといった支援車輌が多数存在する。
登場作品
マンガ
- 『宮崎駿の雑想ノート』シリーズ
「豚の虎」「泥まみれの虎」「ハンスの帰還」等で頻繁に登場。ただし、いずれも主人公がドイツ軍側であるためか、やられ役が多い。
- 『それいけ!ロシア女子戦車小隊』
主人公たちが所属する第4649戦車小隊はT-34/85×3輌でもって戦場を戦い抜く。
アニメ
- 『ガールズ&パンツァー』シリーズ
第8~10話、劇場版、最終章第2話にてプラウダ高校所属のT-34/76(1942年型)とT-34/85が登場。
全国大会準決勝では主人公らの大洗女子学園を苦しめたが、劇場版では大洗連合チームの参戦戦車となった。
最終章第4話では継続高校保有のT-34/76が登場。アリが運用する1輌のみ3色迷彩が施されている。
映画
- 『戦争と人間』
第3部「完結編」に登場。ソ連モスフィルムとの提携によりソ連軍に配備された実車が登場する。
ただし、劇中の時間軸はT-34が配備される前のノモンハン事件である。
- 『ゴジラvsモスラ』
なぜか自衛隊の戦車として登場。名古屋市内でバトラと交戦している。どうやら61式戦車の模型の数が足りず既存の模型が駆り出されたらしい。
- 『ヨーロッパの解放』
T-34/76とT-34/85が登場。なぜかクルスク戦のシーンにもT-34/85が多数投入されている。
本作のほかにも東側諸国が制作した多くの戦争映画に登場しており、中にはティーガーI風に改造された車輌も多い。
主人公のイヴシュキンらが搭乗する。序盤はT-34/76、中後半ではT-34/85。
書籍
- 『紺碧の艦隊』シリーズ
ソ連軍の戦車として登場するが、コミック版ではなぜかイギリス軍にも配備されている。
タンクデサントごとドイツ軍に撃破されるなどやられ役が多い。
- 『超戦車イカヅチ前進せよ/鋼鉄の雷鳴』
ソ連軍の主力戦車として登場。T-34/85は作中で一貫して「ヴォルガ」という愛称がつけられているが、これはフジミ模型のT-34/85に付けられていた商品名である。
ゲーム
- 『コンバットチョロQ』シリーズ
- コンバットチョロQ:ではオープニングでティーガーⅠに撃破され盛大に爆発する場面が印象深い。敵タンクとしても序盤の作戦5「強襲!敵艦隊」からT-34/76が要所要所で登場する。T-34/85は直接敵タンクとしては登場せず、作戦20「秘密基地潜入」で宝箱から入手できる。火力と射程が強化されている。
- 新コンバットチョロQ:T-34/76のバリエーションとしてT-34/Aキーロフ(1940年型)とT-34/Eウラル(1943年型)が登場。この「A」や「E」はT-34を鹵獲したドイツ軍が製造時期ごとに分類したもので、このほかに1941年型が「B」、1941年簡易生産型が「C」、1942年型が「D」に相当する。T-34/AキーロフとT-34/76は初期選択可能。T-34/AキーロフとT-34/Eウラルは「首都奪回!!」、T-34/76は「崩せ鉄壁の砦」をクリアすると使用可能となる。T-34/85はバトルアリーナ「アスレチック」で対戦し、勝利すると使用可能となる。T-34/76は初期選択可能なラインナップの戦車では最後に入手する戦車となる。いずれも同軸機関銃タイプ「T」カテゴリーと車体機関銃タイプ「B」カテゴリーの武装を装備できる。
- 『World of Tanks』・『World of Tanks Blitz』
- T-34/76:Tier5ソ連中戦車。良好な機動性と傾斜装甲のある名戦車。
- T-34/85:Tier6ソ連中戦車。砲火力が強化され、走攻守においてさらに扱いやすくなった。プレミアム戦車も多い。
T-34/76とT-34/85の双方が登場。
T-34をモデルとしたキャラクターが登場。詳細はT-34(アッシュアームズ)を参照。