信頼のアメリカ製
M4シャーマン(M4 Sherman)は、第二次世界大戦期のアメリカ製中戦車。
愛称は南北戦争期の北軍将軍ウィリアム・シャーマンに由来する。
ドイツ軍のIV号戦車や日本陸軍の九七式中戦車を上回る性能を有する一方、ティーガーやパンターといった強力なドイツ戦車を相手取った場合には、半ば一方的に撃破されることもあった。
しかし、優秀な生産性・信頼性により敵戦車に対しての数的優位を維持しやすかったほか、戦車を有さない敵歩兵・対戦車砲部隊との交戦では圧倒的な突破力を発揮。
連合軍の歩兵にとって心強い味方となった。
M4シャーマンの生産数はアメリカ製戦車として最多の49,234輌。
アメリカはもちろん、イギリスやその傘下にあるコモンウェルス各国、ソ連、中国、フランスなど連合国に属する各国の軍隊で運用され、大戦中のほぼすべての戦域で活躍した。
搭載砲
手前:76mm砲、奥:75mm砲 | 105mm砲 |
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大戦中、M4シャーマンに搭載された砲は4種ある。
- M3 75mm砲
戦車戦向けの徹甲弾と、対歩兵・対戦車砲向けの炸裂弾(=榴弾)の双方が扱える砲。
IV号戦車やIII号突撃砲相手には十分な威力を発揮したが、ティーガーIやパンターに対して性能不足で、対策となるはずの高速徹甲弾も貴重資源のタングステン使用のため数が揃わなかった。
搭載車輌の型番には(75)が付与される。(例:M4(75))
- M1 76mm砲
徹甲弾の威力増大と引き換えに、榴弾の威力が減ぜられた砲。
生産車輌のうち少数がこれを搭載し、ティーガーIやパンターに対しても十分な威力を発揮したが、ティーガーII相手には性能不足だった。
搭載車輌の型番には(76)が付与される。(例:M4(76))
- M4 105mm榴弾砲
高威力の榴弾のみ扱える砲。
当初は75㎜砲と並行生産する予定だったが、開発が遅延してしまい、配備されたのは大戦後半になってからである。
戦車戦には対戦車榴弾での対応を想定していたものの、弾速が遅く実用的では無かった。
搭載車輌の型番には(105)が付与される。(例:M4(105))
- QF17ポンド 76.2mm砲
シャーマン・ファイアフライを参照。
主要な型式
- M4
従来のM2、M3中戦車と同様、航空機向けの空冷星型9気筒エンジン(コンチネンタルR-975)を搭載する型。
初期型は車体前部に圧延装甲が溶接され、操縦手および機銃手席部が前面装甲から突出した形状となっていたが、耐弾性に劣ると判断され、後期型では前部のみをM4A1に似た溶接部品に換えた形状に変更されている。
- M4A1
車体が曲面状の鋳造成形版となった型。搭載エンジンはM4と同様。
現代では便宜上、上記のM4と合わせて「前期型(車体)」とすることがある。
- M4A2
空冷星形エンジンの不足を想定し、GM社製の液冷ディーゼルエンジン2基を搭載した型。出力に余裕があり、各型で最も高速。
アメリカ陸軍は使用燃料をガソリンに統一していたためM4A2を配備せず、主に海兵隊で運用されたほか、イギリスやソ連に供給された。
ソ連赤軍では信頼性と操縦性、車内の広さで好評となり、親衛戦車部隊へ優先して配備されている。
- M4A3
フォード社製液冷V型8気筒ガソリンエンジンを搭載する型。現代では便宜上、「後期型(車体)」と呼ばれることもある。
大戦後期の主力を務めた。
突撃戦車型。通称『ジャンボ』。
当時存在したほとんどの戦車砲・対戦車砲を無力化できる重防御を有した。
M4A3の後期型。通称『イージーエイト』。
大戦末期に登場、朝鮮戦争で活躍したほか、自衛隊にも配備されゴジラやモスラと戦った。
詳細は該当記事を参照。
- M4A4
空冷星形エンジンの不足を想定し、クライスラー社製の直列6気筒ガソリンエンジンを5基合体させた「A-57」を搭載した型。
主要な派生型
- M32戦車回収車
主砲を除去して回収用クレーンを装備した車輌。
多連装ロケット弾発射機を搭載した仕様。
詳細は該当記事を参照。
英国製のQF17ポンド砲を搭載した仕様。
詳細は該当記事を参照。
- シャーマンDD
イギリス軍がノルマンディー上陸作戦に備えて水陸両用戦車に改造した仕様。
車体周囲に展開する防水スクリーンと、誘導輪で駆動する推進用プロペラ2基を備えて水上航行を可能にしたが、いざ使ってみると高波を被って水没する車両が続出した。
カナダの戦車だが、アメリカによってM4A5の型式番号が付与されている。
詳細は該当記事を参照。
M4A2の車体を原型に開発された戦車駆逐車。
詳細は該当記事を参照。
戦後にイスラエルが運用した型。
1960年代に強力な105mm砲を搭載する改装がなされ、戦後第2世代主力戦車と同等の火力を得た。
詳細は該当記事を参照。
防御面
装甲配置
型式によって装甲配置が微妙に異なる。以下は前期型車体の例である。
車体正面は前期型で約50㎜の厚みがあり、上側は垂直に対し56度の傾斜が取られ、
下側は蒲鉾状の曲面形状となっていた。
砲塔は防盾(砲身付け根周辺部)で外側の約89㎜装甲板と内側の約38㎜装甲板の二重構造となっているが、
いずれも曲面形状であり、砲身の動きに合わせて外側の部分が可動する構造になっていた。
防盾を除いた砲塔正面部分は、76-64㎜の厚みを持つが、やや複雑な形状で正面に近い部位は傾斜が取られている。
側面は砲塔で約50㎜の、車体では約38㎜の厚みを持つ装甲板となっており、砲塔車体ともに垂直平面で構成されていた。
実際の防御力
M4シャーマンの装甲は小口径対戦車砲に対する防御を主眼としており、正面は完封に近い防御性を、側面は500ヤード以遠で撃ち抜かれにくいように設計されていた。しかし、M4シャーマンが実戦に投入された段階で、想定していた小口径対戦車砲の多くが一線を退いており、75‐88㎜クラスの大口径対戦車砲が出回っていた。
被弾するとよく炎上を起こしたため、味方陣営からは「ライター(意訳)」、ドイツ軍からは「固形燃料缶(意訳)」などという不名誉な渾名を与えられることがあった。
ならばM4シャーマンの装甲がイマイチだったかというと、必ずしもそうではなく、敵軍であるドイツ軍は、車体下部や砲塔の一部は1000m以上の距離からでも有効だが、正面の広い部位を占める、防盾や車体正面の傾斜部分は75mm対戦車砲はおろか88mm高射砲でもかなり近づくかなければ撃ち抜けないとしており、巷のイメージほど悪かったというわけでもない。
(側後面は垂直が多く、正面と比べて防御力は低かったが、正面よりも被弾率の低い側面後面が弱いのは全ての戦車に共通することで、扱いやすさなどの面から妥協せざるを得ないので、限度はあるものの、これはしょうがない)
炎上率の高さも、装甲の弱さというよりも砲弾の積み込み場所が悪かったことや砲弾の過積載が原因である。当然これらの問題点は、後に改善策が採られ、火災のリスクを低減させている。
登場作品
連合軍の主力だったことと、その生産数の多さから、戦争映画でもおなじみの戦車。
主人公たちの援軍として大活躍する作品もある一方、強力なドイツ戦車を前にあっけなく撃破されてしまう作品もある。
オッドボールらの搭乗するM4A3E6が主に登場。砲塔側面にスピーカーを搭載しておりハワイアンミュージックや「線路は続くよどこまでも」を流しながらドイツ軍補給基地を襲撃。終盤にはクレアモントの町でティーガーⅠと激闘を繰り広げた。
劇中では「75mm砲に鉄パイプを被せて90mm砲に擬装している」という設定。
イギリス軍の戦車として登場。ファイアフライも登場している。
冒頭のノルマンディー上陸作戦のシーンに登場。ミラー大尉が「戦車は沖で沈んだ」と語る場面で上陸に成功したと思われる車両が映り込んでいる。
M4A2が登場。硫黄島で海兵隊員の盾になりながら前進するが九八式臼砲の砲撃を受け撃破される。
いずれも米軍の戦車として登場。撮影に使用されたのはカナダ軍のグリズリー巡航戦車。
主役のM4A3E8「フューリー」号(実車はM4A2E8)、M4A2「ルーシー・スー」号、M4A4「マーダーInc」号などが登場する。
- 東宝特撮映画
主に1957年公開『地球防衛軍』から1962年公開『キングコング対ゴジラ』までの作品にM4A3E8が登場。
自衛隊の戦車として登場するが、ゴジラやモスラにはかなわずあっけなく破壊されてしまう。
撮影用模型はそれまで登場していたM24軽戦車の車体のみを改造したものであるため足回りは再現されていない。
ただし『キングコング対ゴジラ』には既存のブリキ製玩具を改造したものと思われるM4A1に似た車両が登場しており、こちらは比較的実車に近い足回りの形態をしている。
『キングコング対ゴジラ』では赤い星の徽章を付けた某国の戦車としても登場している。
米軍の戦車として登場。
撮影には自衛隊に配備されていたM4A3E8のほか特撮映画でも使用された実物大セットが使用されている。
米軍の戦車として登場。
日本軍が主役の場合は強敵として立ちはだかる一方、ドイツ軍が主役の場合はあっけなく撃破されてしまう場合がほとんど。
TVシリーズの第5話と第6話でサンダース大学付属高校が保有する戦車として登場。
試合では75mm砲搭載の無印、76mm砲搭載のA1、ファイアフライが登場する。
試合には未出場ながら、A6も保有している。ドラマCDでは105mm榴弾砲搭載型も保有しているらしい描写がある。
TVシリーズに引き続きサンダース大学付属高校の戦車として登場する。
TVシリーズと劇場版から引き続きサンダース大学付属高校の戦車として登場する。
- 凶鳥〈フッケバイン〉ヒトラー最終指令
ソ連にレンドリースされた戦車として登場。ベルリン近郊でドイツ軍と交戦するが全滅する。
アメリカ、イギリス、ソ連、ドイツ、日本、フランス、イタリア、中国(中華民国)の戦車として登場。
ドイツは大戦中の鹵獲車、日本は自衛隊のM4A3E8、イタリアは戦後供与されたファイアフライ、中国は国民党軍のM4A4がそれぞれ実装されている。
アメリカの戦車としてM4とM4A3E2、M4A3E8が登場。『Fury』仕様のM4A3E8も実装されている。
イギリスの戦車としてもシャーマンIIIとファイアフライが、フランスの戦車としてもM4A1 Revaloriséが登場している。
一部の艦娘が装備できる対地攻撃用装備としてM4A1DDが登場。
- コンバットチョロQシリーズ
シリーズ皆勤の戦車。
初代PS「コンバットチョロQ」にはM4A3が「シャーマン」表記、M4A3E2が「ジャンボ」表記、ファイアフライが「ファイアフライ」表記で登場。
M4A3は作戦1「国境線に進路を取れ」から登場するが、最初のステージの敵タンクとしては頑丈で序盤の強敵として立ちはだかる。
M3A3E2は作戦41「上陸作戦命令」に登場。シャーマンの強化型という触れ込みで実際に火力は強化されているものの、プレイヤー側の火力も強化されているのに対し耐久力は据え置きなのであまり強い印象は残らない。
ファイアフライに至ってはステージ中に敵タンクとして登場せずバトルアリーナで交戦するのみ。
PS2「新コンバットチョロQ」にはM4A1、M4A3、M4A3E2、M4A3E8、ファイアフライが登場。M4A3は「シャーマン」、M4A3E2は「シャーマンジャンボ」表記。
本作ではアメリカ戦車はもっぱら味方側のタンクとして登場しており、M4A3とM4A3E8は「首都奪回!」、M4A3E2は「ザンブニール攻防戦」でそれぞれ友軍タンクとして登場。
そしてファイアフライは友好国ニビリア共和国の国王として登場する。
GBA「コンバットチョロQアドバンス大作戦」では「シャーマンM4」表記で登場。
主人公Qタローの初期装備として登場。本作に登場する唯一のアメリカ戦車である。
1979年放送の「戦車編」では武田鉄矢がM4シャーマンに追い回されながら「戦車が怖くて赤いきつねが食えるか!」と叫ぶ。撮影はカリフォルニア州で行われた。