量産型戦車の最終型番
M4A3E8は、第二次世界大戦期のアメリカ製M4中戦車、通称M4シャーマンの内、フォード製のGAAエンジンを搭載するM4A3の最末期型番。M4A3(76)W HVSSとも呼ばれる。
1944年3月から1945年4月までに約4,500輌が生産された。
なお、本来「M4A3E8」の型番はM4A3系列車における8番目の試験的な改良型(※1)に与えられた固有名だったが、前線の将兵が同等の仕様を持つ量産車を指して用いたために一般化した。
また、有名な愛称の「イージーエイト」(Easy Eight)は型番末尾のE8をアメリカ軍のWW2版フォネティックコードで置き換えたもの。
(※1:「E8」のEは実験や試験を意味するExperimentalの頭文字。)
特徴
M4A3には生産途中に何度かの改良があったが、その改良がアメリカ各地の工場で反映されるまでに時期的なズレが生じたり、もしくは反映されなかったりしたために、本来は同一型番のはずが各工場によって仕様が異なるということが多かった。
そのような中で試作されることとなったM4A3E8は、それまでの改良で個々に追加されていた仕様を『全部盛り』したような試作車で、その特徴は以下のようなものだった。
- 新型サスペンション・幅広履帯
従来のVVSS(垂直巻きスプリングサスペンション)よりも優れた緩衝能力が期待できるHVSS(水平渦巻スプリングサスペンション)を備え、履帯も従来のものより接地圧が低減できる幅広の新型(42cm→58cm)に変更されたことで、不整地走破性や乗り心地が向上した。
before | M4A3E8 |
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- 新型砲塔・76mm戦車砲
M4A1で先行導入されていたM1 76mm戦車砲を装備する新型砲塔を搭載した。
なお、M1 76mm戦車砲は従来の75mm砲よりも高初速で、ティーガーIやパンターといった100mm級の重装甲を備えるドイツ戦車を正面から撃破可能な程度に強力だったが、非装甲の歩兵や対戦車砲を排除する際に用いる榴弾の威力が低いという欠点もあった。
- 湿式弾薬庫
砲弾を満載する弾薬庫が不凍液(グリセリン溶液)浸けのものとなったことで、誘爆により大破・乗員全員が失われる危険性が大幅に低下した。
朝鮮戦争の「虎」
朝鮮戦争中、M4A3E8には「タイガーフェイス」が描かれることがあった。
これは、米兵の間で信じられていた「朝鮮人と中国人は虎を恐れる」という噂に基づくもので、M4A3E8のみならず、同時期に運用されていたM46パットンにも同様の塗装例が見られる。
自衛隊における運用
戦後の1954年、それまでの保安隊が陸上自衛隊に改組されたことに伴い、アメリカから新たに供与されたのがM4A3E8だった。
それまでのM24軽戦車と異なり、仮想敵たるソ連軍の主力と考えられていたT-34/85にも十分対抗可能なM4A3E8は、自衛隊の黎明期における本格的な機甲戦訓練で活躍。
1960年代から61式戦車の量産・配備が進められたことに伴い退役が進められ、1970年代に完全に現役を退いた。
現在は茨城県阿見町の陸上自衛隊武器学校で1輌が展示されている。
関連タグ
ガンダムEz8:型式名がイージーエイトの愛称に由来する。