シャーマンの末裔
スーパーシャーマン(סופר שרמן)は、イスラエルがかつて運用していた戦車。
第二次世界大戦中のアメリカ製M4シャーマン中戦車を原型に、フランスの協力のもとで魔改造した特殊な兵器だった。
なお、スーパーシャーマンの呼称はイスラエル国防軍の公式なものではない。
開発の経緯
第二次世界大戦の頃、シオニズムに基づき中東の地にユダヤの楽園を築こうとしていたシオニスト系ユダヤ人らは独立戦争に備え、あの手この手で武器・兵器を調達。
第一次中東戦争後にイスラエルの建国に成功して以降も、周りをアラブ国家に囲まれた四面楚歌状態に対応すべく軍備増強を継続し、その中途でイスラエルが多数獲得した戦車がアメリカ製のM4シャーマン中戦車だった。
しかし、時代は既に冷戦の真っ只中。シャーマンは性能的に旧式化しつつあったほか、米英ソは1960年代ごろから中東の友好国に便宜を図るべく、多数の兵器を売り渡していった。
シャーマン並みの戦車を多数有するエジプトやシリアといった敵対国が多いことからも、イスラエル国防軍が戦車戦において不利を強いられることは明白...。
そこで既存のシャーマンを改良し、不足気味の火力を向上させる試みが開始された。
M50
最初に開発されたのが、フランスの協力のもとでフランス製のSA 50型61口径75mm砲へ搭載砲を換装した『M50』。
SA 50は戦中にナチスドイツのパンター中戦車が搭載したKwK 42型70口径75mm砲を原型とする長砲身砲で、同じ口径75mmでも従来のシャーマンに搭載されてきたM3型37.5口径75mm砲とは段違いの対装甲火力を発揮した。
1956年の第二次中東戦争/スエズ危機では、エジプト占領下ガザ地区のラファやシナイ北岸の要衝エル・アリシュにおける最初の激戦で、M50をはじめとするイスラエル軍戦車がエジプト軍の『フランス製軽戦車の砲塔をつけたシャーマン』などとの戦車戦を繰り広げたという。
なお、これ以外のエジプト軍兵器に関してもフランス製のものは多く、一方のイスラエル軍もスーパーシャーマンをはじめフランスの兵器の供給を受けており、総じて紛争当事国の両陣営にそれぞれ兵器を売るというフランスの死の商人ぶりがよく分かる。
M51
1960年代、アラブ諸国へソ連製第一世代MBT・T-54の供与が始まり、イスラエル軍はこれらに対してはM50の火力でも不足すると判断。
最新鋭のフランス製主力戦車AMX-30が搭載するCN-105-F1型56口径105mm砲の砲身短縮型(44口径砲)を多数購入、シャーマンの主武装をこれに換装することで更なる火力増強を図り、ここに『M51』が誕生した。
なお、砲身を短く切り詰めたがために発射時の初速は落ちてしまったものの、それが威力にほぼ影響しない成形炸薬弾を主用する砲だったため、これによる火力の低下は無かったらしい。
1967年、第三次中東戦争で実戦投入されたM51は、仮想敵のT-54といったアラブ側主力戦車を撃破する活躍を記録しつつ、その後も1973年の第四次中東戦争の頃まで運用継続。
後にイスラエル国産の第三世代MBT・メルカバの配備が進むにつれて退役、ないし派生型(後述)への改装が行われた。
派生型
- M50 155mm自走榴弾砲
フランス製M50 155mm榴弾砲を搭載した自走砲。
- ソルタムL33 155mm自走榴弾砲
国産のソルタム社製M68 155mm榴弾砲を搭載した自走砲。M50との違いは、射程の延伸と密閉式の戦闘室化。
- マクマト 160mm自走迫撃砲
ソルタム社製M66 160mm迫撃砲を搭載した自走砲。
- MAR-240
エジプト軍などから鹵獲したソ連製BM-24 240mm36連装ロケットランチャーを搭載した自走ロケット砲。
- MAR-290
国産の290mm4連装ロケットランチャーを搭載した自走ロケット砲。
- キルション
アメリカ製のAGM-45シュライク対レーダーミサイルを搭載した自走対空ミサイル車。
M-60
イタリアのオートメラーラ製60mm高初速砲を搭載したスーパーシャーマン系列の最終型。M60パットンではない。
南米のチリは従来からシャーマンを運用していたものの、旧式化に不満を持ち、1980年代ごろにより強力な砲を搭載する型をイスラエルへ発注。これがM-60として65輌供給された。
口径60mmというのは一見弱そうと感じるかもしれないが、発射可能な対装甲弾はあの装弾筒付翼安定徹甲弾・APFSDS。
1,620m/sにも達する圧倒的高初速により、ソ連製第二世代MBTのT-62が有する正面装甲(実質250mm級)すら余裕で貫けるという。
M-60は1999年に導入開始されたレオパルト1へと置き換えられ、2000年代には全車退役している。
余談
- M1スーパーシャーマン
大戦中、ナチスドイツのティーガーIやパンターに対抗すべく少数配備されていたM1型76mm砲を搭載したシャーマンは、イスラエルにも配備されていた。
これらは一応、初期の中東戦争では砲火力的に最強格だったためスーパーシャーマンに該当するらしいが、上記の魔改造型のせいで存在感が薄くなっている。