英名の「High-explosive anti-tank」の略語である「HEAT」や訳語である「対戦車榴弾」と呼ばれることがあるが、その用途は対戦車兵器としてのみではない。
原理・装甲貫徹の仕組み
爆薬にくぼみを作ることで起爆時のエネルギーを一転へ集中させる事が出来るモンロー効果、
くぼみに合わせて金属のライナーを取り付けたうえで対象と爆薬の間に空間を設けて起爆させることで高い圧力により金属のライナーが塑性流動を起こしメタルジェット化(液体のような性質を示すようになるが個体のままなので融解ではない)、超音速でライナーが衝突したその圧力で装甲に塑性流動を起こして侵徹するノイマン効果
の二つの効果を組み合わせて装甲貫徹能力を発揮する。
爆発成形侵徹体の形成に使われるエネルギーは7割程度。
砲弾そのものは化学エネルギー弾であるが、侵徹原理はAPFSDSのような運動エネルギー弾と同じとなっている。
砲弾が旋動していると遠心力によりメタルジェットが拡散してしまい侵徹効率が大きく低下してしまう為、ライフル砲との相性は悪く、砲弾の径を小さくしてスリップリングを付ける等の砲弾を回転しすぎない構造が必要となるが、安定翼や阻害しない程度の旋動があっても弾道が安定しなくなり長距離での命中精度が劣ってしまう。
生成されたメタルジェット自体に回転モーメントを付与できるように設計し、砲弾が姿勢安定できる最低限の旋動状態で最大に効果を発揮するように設計することでスリップリングを用いることなくライフル砲に対応し、弾道を安定させて長距離での命中精度を向上させている。一方でこのような構造を持った砲弾は遠心力のない静爆状態では逆に威力が落ちてしまう。
なお、HEAT(ヒート)の名前はあくまでも英名中の単語の頭文字の羅列であり、熱を意味しない。また、装甲貫徹の原理に熱はほぼ関係ない。
用途は砲弾、対戦車ミサイルやロケット弾、対戦車手榴弾、魚雷、不発弾処理機材、金属切断用爆破線など。
利点・欠点
- 徹甲弾とは違い装甲貫徹の原理に発射時の運動エネルギーがほぼ関わらないため、着弾時の飛翔速度や着弾までの飛翔距離に関係なく貫徹力を発揮可能。
- 起爆時のエネルギーは着弾点から大きく広がるため、限定的ながら榴弾の効果も示す。榴弾としても効果を発揮するようにした多目的榴弾もある(HEAT-MP)。ただし、炸薬量が劣ることからその威力は純粋な榴弾には劣る。
- 原理上、起爆時の装甲との距離が侵徹に大きな影響を及ぼすため、着弾の状況によっては大きく威力を減ずる。
対策・対策の対策
対策として
- 金網やチェーンのカーテン、シュルツェン、土嚢やコンクリートブロックなどの障害物を設置して最適な着弾状況を阻害する。
- 装甲にセラミックを鋳込む、ユゴニオ弾性限界の高い劣化ウラン等の重金属を用いる、拘束セラミックやガラス繊維等を用いた複合積層装甲にするなどにより装甲側の塑性流動を阻害、侵徹を防ぐ。
- 爆発反応装甲で高い圧力を発生させる事でメタルジェットの侵徹効果を減ずる、または砲弾を破壊する。
- 着弾時に高い圧力を発生させる材質を装甲に用い、メタルジェットの侵徹効果を減ずる。
- 金網や金属繊維製ネット等により砲弾自身の運動エネルギーを用いて砲弾や信管を破壊、無力化する。
- アクティブ防護システムにより砲弾を迎撃、破壊する。
などがあり、実際に講じられている。
しかし、成形炸薬弾側にもこれらの対策の対策として
- 最適な貫徹力を発揮する距離が異なる弾頭を2段もしくは3段備え、反応装甲や障害物等の効果を減じ、複数侵徹することで複合装甲の特性を弱めるタンデム弾頭。
- デコイロケットを用いたアクティブ防護システムの対応能力への負荷。
- 性能向上による着弾状況によらない貫徹力発揮
などの工夫がなされたものが開発・実用化されている。