概要
詳細
戦車や装甲車など、硬質な防御を持つ標的の装甲に穴をあけるための弾丸。
榴弾(HE)や成形炸薬弾(HEAT)などの弾自体に充填された炸薬を利用する弾種も「目標に穴をあけて攻撃する」という点は共通するが、それらとは違って装薬で発射された自身の持つ運動エネルギーで目標を貫くものを徹甲弾という。また、両者の特徴を併せ持つ「徹甲榴弾」(APHE)というものも存在し、これは装薬での発射による運動エネルギーで目標を貫いた後、信管によって炸薬が起爆し、目標の内部から火炎や爆風、破片などで更に攻撃するものである。
純粋な徹甲弾は内部に信管や炸薬を持たないただの金属の塊であるため、発射前でも発射後でも、停止していれば弾頭そのものだけなら殺傷性は無い。
徹甲弾そのものを表す略称はAPで、「Armor-piercing shot and shell」の略である。
成り立ち
19世紀以前の戦争では、戦場で砲弾を防ぐ事ができる装甲化されたものが基本的に存在せず、被害の大小はあっても命中=その部分の確実な破壊であり、装甲を貫くという概念は薄かった。
だが19世紀後半、産業革命を経て軍艦が汽走し鋼鉄製の装甲をまとうようになったことから、敵艦の装甲を貫く弾丸が必要となった。初期の大砲の弾は球形のいわゆる「砲丸」であったため、装甲を貫く威力を増すためには砲弾を重くし、初速を上げる以外に方法が無かったが、同じく19世紀後半から一般的になった後装式のライフリング砲では砲弾が尖頭形となって砲弾の前面を敵艦にぶつけることが可能となり、これが徹甲弾に進化していく。
以後、軍艦、戦闘車両、果ては歩兵の持つ小火器とボディアーマーに至るまで、徹甲弾と装甲はかつての矛と盾と同様に「貫くか防ぐか」の果てしない競争を繰り広げるのである。
仕組みについて
運動エネルギーが威力に直結する単純な砲弾である。このため基本的な考え方は物理の授業で習う
運動エネルギー = 質量 × 速度の2乗
である。
速い話が同じ弾速で弾頭の重量を2倍にすれば威力は2倍、同じ弾頭重量を2倍の速度で命中させれば威力は4倍になるのである。
ただし撃たれる側の装甲も容易に抜かれないために進化する。より硬い金属を用いて弾頭を破砕して止める、角度をつけて弾きやすくする、単純に分厚くする、などの対策を講じていったため、徹甲弾もそれに応じて進化していった。
金属は一般に硬ければ硬いほど、粘性が少なくなり脆くなる。このため装甲の表面を硬化するという手法が開発されると、命中と同時に弾頭側が粉々に砕かれてしまい、貫通が難しくなった。それに対抗するために弾頭を軟鉄のキャップでカバーし、表面で砕けずに貫通しやすくする手段が開発された。この軟鉄製の弾頭キャップは多少の角度のついた装甲にも食いつきを良くし、弾かれ難くする効果もあった。
分厚くなった装甲には砲弾側も威力を上げる他ないため、より大きな重量の弾頭をより高速でぶつけるため、大砲はどんどん大きくなっていった。軍艦の大艦巨砲主義、戦車の恐竜的進化はすべて徹甲弾で敵をブチ抜きつつ自らは貫かれないように進化していった結果である。
歩兵の小火器が大口径化しないのは、銃側の重量もさることながら、そもそもライフル銃を防ぐボディアーマーを人が着て動ける重さに長年できていなかったことによる。また、大口径化しても交戦距離の関係で効果が発揮せずに貫通してしまいかえって効果が低くなっている事もあった。そのため一時期は逆に小口径化することすらあった。
現代では(戦車砲程度以上の大口径の)徹甲弾の多くは「弾体」と「装弾筒(サボット)」の二重構造として弾体を装弾筒をカバーして(装弾筒は砲口付近で外れ弾体のみが飛んでいく)高速の弾体で装甲を貫く構造(APDS)となっているか、重金属の弾芯を軽金属の弾体で包み高初速を得る(HVAP)構造となっている。
これは昨今の装甲の技術が向上し、かつてのような単純に硬い弾頭か軟鉄キャップ付きの硬い弾頭を(現代の徹甲弾の弾速と比べて)低速でぶつけただけでは装甲を破ることが困難になったことに由来する。
装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS弾)は従来の徹甲弾と異なる思想で設計されている。
構造は軽金属の風防と内部に貫徹体(弾芯)を持つ矢状の弾体と弾体に巻き付くように取り付けられた装弾筒で構成されている。
発射後に空気抵抗により装弾筒を固定していた部品が破壊されて装弾筒は分離し、運動エネルギーは弾体へと集中する。
超高速で飛翔した弾体は着弾と同時に風防は潰れて侵徹体と装甲の両方が着弾時に高圧に圧縮される事により塑性流動を起こして相互侵食し、侵徹体は変形しつつ装甲へと侵入していく。
風防が装甲への食い付きをよくして跳弾を防ぐ役割を持っており、更に原理上跳弾させる為には装甲とほぼ水平に近い角度で着弾しなければならず、弾くことはほぼ不可能となっている。
これより戦車等の避弾経始は意味を成さなくなってしまった。
そのため、拘束セラミックや劣化ウランのような塑性流動を起こしにくい装甲材を採用する事で装甲そのものを進歩させるだけでなく、ERAで弾体を破壊したり、アクティブプロテクションシステムで弾体後部にある安定翼部に横から爆風を当てる事で安定性を失わせて横弾にして侵徹力を落とす、といった防御方法が研究されている。
ライフル砲では回転の為に砲口初速が落ちてしまう事に加え、安定翼との相性が悪く、滑腔砲を使用するか、スリップリング等を付けた装弾筒を用いて可能な限り弾体に回転を与えないようにする必要がある。
分離した装弾筒がまき散らされるため、他の徹甲弾よりも加害範囲が広くなっている。
グレネードランチャー等の低速の砲弾では運動エネルギーによる貫徹は目標によっては難しく、HEAT等の化学エネルギー弾が用いられることがあるが、その場合でも徹甲弾と扱われる事もある。
主に砲(戦車/戦艦)に用いられる。特に上記のタイプの徹甲弾は戦車砲に用いられる。
弾芯には重金属や鋼鉄などの重く硬い金属を使用しており、中には劣化ウランを使用したものも存在する。
劣化ウランは侵徹時に先端部分が先鋭化しながら侵攻するセルフシャープニング現象を起こす、侵徹時に溶解・飛散して酸化(燃焼)して焼夷効果を発揮する、ウラン濃縮時に出る廃棄物の再利用なので原料コストがかからない、産出国が限られるレアメタルであるタングステンを使用していない、といった利点から使用されている。
しかし、生産コストが非常に高いため(大気中で弾芯に加工すると上記の焼夷効果により燃えてしまうので窒素など不燃性の気体中で加工しなければならない)砲弾のコストはタングステン弾芯とほとんど変わらないとされる。
このことから、戦後処理問題の一つとして、劣化ウラン(及び酸化ウラン)を使用した徹甲弾による放射性物質や重金属による土壌汚染が浮上することとなった。
(湾岸戦争後のイラクでの放射性物質に関しては核施設での略奪により高濃度のウランが廃棄され土壌汚染されている地域もあるので劣化ウラン及び酸化ウランの飛散による放射性物質としての土壌汚染に関してはデータは不足気味である)
類似品に、対人用の「スチール・コア弾」という弾頭の芯に鋼鉄を使用したもの、軽装甲目標向けにタングステンカーバイト等を使用したものなどがある。
ガンアクションもので人間が使用している徹甲弾は、おそらくこちらと思われる。
過去に使用された徹甲弾には現在は廃れた構造に対応するために一府変わった作りとなっているものある。
口径漸減砲であるゲルリッヒ砲の徹甲弾は弾芯はタングステン合金を用いて周囲を柔らかい金属で覆うというHVAPに近い構造であったが、砲口に近づくほどに口径が狭まる砲身に対応するために変形しやすい形状となっているという違いがあった。
関連タグ
アルセルタス(徹甲繋がり)