概要
装甲を施した車両のうち、積極的に戦闘に参加せず、人員、物資の輸送に従事するものを指しやすく、自衛用や火力支援として機関銃や機関砲といった武装を備えたものや、兵員輸送室のスペースを改造して各種派生型が作られる場合も多い。
軍用車両としては兵員輸送車や装甲トラックなどが該当し装甲兵員輸送車はAPCとも呼ばれる。
装甲があり強力な火力により戦闘を行う戦車や自走砲などは文脈的に含まれないか、装甲戦闘車両(AFV)や広義に装甲車両として扱われる場合もある。戦車と装甲車の特性をほぼ兼ね備えた歩兵戦闘車(IFVまたはICV)などもある。
MRAPのような対地雷性能を高めたものもあるが、車体の大型化など欠点も多い。
特性
大きく分けて装軌装甲車と装輪装甲車からなる。詳細はそれぞれの記事を参照。
特性に絞ってまとめると、装軌装甲車(いわゆるキャタピラ式)は不整地での運動性能に優れ、同じく装軌の車体である戦車に随伴するのに最適である。一方で路上での運動性能では装輪装甲車に劣り、燃費も悪く長距離の連続移動は苦手である。こうして、戦車への随伴が求められない用途を中心に、装輪装甲車が低コストや長距離移動能力などを生かして活躍している。
装輪であれ装軌であれ特性として重要なのは、戦車には劣るとはいえ重厚なその装甲である。充分な防御力があれば危険な環境の中で人員の死傷率を大幅に下げる効果が期待できる。たとえ軽装甲であっても対戦車兵器や大口径の機関銃以上がなければ撃破は難しいため、敵側からすれば装備や心理的な負担を強いることもできる。
しかし、想定環境に対して防御力が中途半端だと退避を妨げるだけの拘束具と化し、密閉空間で榴弾や焼夷弾の威力を大幅に向上させる殺人装置と化してしまう場合もある。
また防御力が十分な場合でも、居住性や使い勝手とのトレードオフになりがちで、快適さのために窓を開けたりベルトを外していたため車体は無事なのに乗員が死傷してしまうという事例もある。
もちろん装甲があるとはいえ、重装甲の戦車と正面から撃ち合うのは自殺行為。
心理効果
一方で重装甲車両には警戒任務に於いての心理効果も無視しがたい。
見た目に明らかなほど強固な装甲車は威圧感があり、特に戦車に似たフォルムを持つ装軌装甲車は見る者に対して強い威圧感を与えるため、戦場では戦車と誤認・錯覚させることで敵の(特に歩兵の)士気を挫く効果もある。
対して軽装甲車両は示威降下は減るものの、地域住人たちに威圧的・敵対的な印象を抱かせて警戒させにくく、加えて市街地では高速で移動できるため渋滞の原因になりにくいため、無用な摩擦や武力衝突を回避しやすくなるというメリットが実証されている。
用途
装甲車は一般に陸軍における戦闘以外の用途に幅広く用いられている。基本は兵員輸送車であるが、その用途は極めて広い。しばしば兵員輸送車を基本形として開発した上で、改造して各種任務に割り当てる。また、それぞれの任務に最適化した特殊な装甲車を開発する事例もある。
兵員輸送任務(APC)
歩兵部隊を装甲によって消耗から防護しながら、可能な限り前線の近くまで輸送する。装甲車の一番多い用途の一つである、詳しくは兵員輸送車を参照。
中には輸送と同時に降車した歩兵部隊の火力支援を行う戦車と装甲車との中間的な用途の車種もある。これらは歩兵戦闘車を参照。
AAV7やBTR-60・BMP-2といった浮航能力を持ったものも存在し、上陸作戦や渡河にも用いられるが浮航能力と引き換えに防御性能の低下などメリットばかりではない。
指揮通信任務
多数の戦車隊や陸軍部隊を動かすには、同時に移動できる車に指揮官が乗っているに越したことはない。また、現状を速やかに把握し命令を行き届かせるには通信機能も充実している必要がある。こういった用途から、装甲車には指揮通信任務が求められ、専用の車両も開発されている。
偵察任務
敵に可能な限り見つからない隠密偵察を主目的とする場合、必要に応じて敵を攻撃排除する威力偵察の場合が考えられる。隠密偵察ならば偵察用オートバイでも可能であり、重装甲で火力も積載可能な装甲車を用いるのはどちらかと言えば威力偵察ということになる。
NBC偵察任務
偵察任務の一種ではあるが、いわゆるNBC兵器の使用が疑われるもしくは使用された地域を調査し、かつ乗員をそれら兵器による被害からの安全を確保する車両。任務上特に高度な車内の密閉を要し、汎用装甲車からの改造もしくは専用装甲車の開発で実現する。
救急任務
ほぼ兵員輸送の一種であるが、負傷した兵員を、軍医が待機する後方拠点に搬送するいわば装甲のある「救急車」である。国際法上は医療スタッフは攻撃されない建前ではあるが、無視して攻撃される事例も少なくなく、最低限の装甲や場合によっては自衛用の武装すら必要となるのが現実である。
工兵任務
最前線の戦闘工兵作業であれば戦車に地雷除去装置などを装備した最高の重装甲の機材が適しているのであるが、それ以外の様々な任務にはむしろ装甲車を改造して工兵任務に用いることが適していることも多くなっている。
非軍用の装甲車
この記事では軍用車両について主に解説したが、民間の防弾車、現金輸送車なども装甲を施した車両ではある。民間防弾車の基準としては、欧州標準化協議会の制定したレベルが有名。最小レベルの拳銃弾がギリのB1から軍用のフルサイズ小銃弾まで耐えられるB7までの7段階となっている。
関連タグ
兵員輸送車 歩兵戦闘車(IFVまたはICV) 戦車 MRAP(対地雷伏撃防護車両)