亡き従者の為のセプテット
なきじゅうしゃのためのせぷてっと
東方Projectには複数の種族が登場する。
種族ごとにそれぞれの生命時間が異なり、その中でも人間は一部の例外を除き他の存在に比べて比較的身体面でも弱く、短命である。種族によってはその生態の違いから、たとえ同時期に生きていたとしても、自身に比べて短命な生態である人間を「見送る」こととなり得るのである。
そしてそのような登場キャラクター達の中で本タグが用いられている作品に関わる主軸は、人間である十六夜咲夜と吸血鬼であるレミリア・スカーレットの二名である。
主と従者
咲夜はレミリアに仕え、レミリアが主である紅魔館でメイド長(従者)として勤務している。
原作においては『東方紅魔郷』でレミリアのもとで紅霧異変の実行に尽力し、その後は『東方妖々夢』等でレミリアの意向もあって幻想郷で起きる異変に積極的に関与し、『東方永夜抄』における異変ではレミリアとともに解決に向けて挑んだ。
これ以後も様々な形で幻想郷とそこでの出来事に関わっている。
咲夜はレミリアに忠誠と信頼を寄せ、その生活や行動を細やかにフォローしている。
またレミリアの子どもっぽいわがままにも対応し、各書籍作品ではその唐突な思い付き(『東方三月精』他)や無謀な要請(『東方儚月抄』他)にも応えている。
レミリアもまた咲夜を信頼し、随所で大任を任せている。
同時に、咲夜には屈託のない笑顔を見せたりその膝枕で心地よさそうに眠ったりするレミリアや、あるいはレミリアのきつい言葉にも間髪入れずあっさりと笑顔で返してみせる咲夜の様子には、主と従者という単純な業務的なものではない二人の間の深い信頼関係が見て取れる。
二次創作などでは二人の信頼関係はより深く描かれることもあり、それらの作品においてにそれは「愛」であることも少なくない。
種族や立場に関係なく、互いにかけがえのない存在なのである。
時間
しかしながら、強靭で長命な存在であるところの吸血鬼と人間ではその生きられる時間が異なるのが幻想郷においても自然なことである。
その意味において、レミリアと咲夜にも「いつか訪れる結末」としての永遠の別れがあり、さらにその時「見送る側」にならなければならないのがレミリアなのである。
そして咲夜なき後もレミリアは長い時間を生きることになるのである。
もしも原作で見られたような信頼関係または二次創作に描かれるような「愛」が二人の間に深まっているならば、その別れにはどれほどの悲しみがあることだろうか。
二次創作では、そんな二人の命の時間の違いからくる様々な物語が想像されている。
元となったのは『紅魔郷』におけるレミリアのテーマ曲・「亡き王女の為のセプテット」である。
『紅魔郷』での出来事は、レミリアが咲夜らとともに紅魔館の一つのまとまりとして幻想郷に異変を起こして紅魔館の名を知らしめた時のものであり、そして結果として破れこそすれ、これ以後、異変を起こした者たちでさえおおらかに受け入れていく東方Projectの世界観らしく先述のような幻想郷及び関連する世界とのかかわりが増え、彼女たちが紅魔館以外の幻想郷全体で様々な交流を始めることのできる契機ともなった、いわば記念碑的な一件の時のものでもある。
そして同時にこれ以後、先述のような紅魔館やそれ以外の様々な場所でのレミリアと咲夜の二人の活動・冒険なども始まったのである。
そんな冒険の一つである『東方儚月抄』において、レミリアと咲夜は次のような会話をしている。
レミリア:「 永く生きていると必要なものばかりになって困るのよ 」
咲夜 :「 私はその逆に必要なものが減っていくと思ってましたわ 」
レミリア:「 日常のどうでもいいことが重要になってくるの 」
(『東方儚月抄』漫画版中巻より)
原作におけるレミリアが思い出というものについてどのように捉えていくのかは不明であるが、もしもレミリアがその「日常」から去っていった咲夜を見送る時、かつてを懐かしんで音楽を手向けるとするならば、己に良く仕え、あるいは深く愛した者への贈り物として、この「亡き従者の為のセプテット」を送るのかもしれない。
その時にはもうセプテットではなくなった、欠けたセプテットをそれでも敢えて彼女に贈るのには、たとえ空席となったとしてもそこには咲夜がいつもいて、自分と共にあるのだということを示すものなのかもしれない。
このような二次創作の想像が込められたものが、この「亡き従者の為のセプテット」なのである。
pixivではタグとしてレミリアと咲夜の寿命差を描いた作品の代名詞の一つとしても用いられている。
タイトルの通り咲夜をレミリア(または咲夜以外のレミリアを含めた紅魔館メンバー)が見送り、かつての姿を想っている様子を描いた作品に用いられている。
東方Projectには二次創作において他にもいくつか寿命差がテーマとなる関係があるが、本タグはその元(亡き王女のためのセプテット)と「従者」というワードから、レミリアと咲夜に限定された、一種のカップリングにも似た二人専用タグであるともいえるだろう。
なお、本タグが用いられている作品はその都合上シリアスなものが多く、笑顔の溢れる作品でも背景には上記のようなテーマがあるため、このような種類の創作が苦手な方は閲覧には注意が必要である。
ただしそのぶん心を打つ作品ばかりであるとも換言できるものである。