もしかして→ロケット団
概要
外見はミサイルに似ているが、「誘導されない」(まっすぐ飛ぶだけ)という点が大きく異なる。
火砲よりいささか歴史は古く、1000年ごろの中国では既にロケット花火に似たものが軍事利用されていた形跡がある他、ヨーロッパでも火砲導入以前から運用されている。
利点・欠点
火砲・ミサイルと比較したメリットは
- 加速が緩やかなので弾体に強度が要求されず、頑丈な砲身も必要ない。
- そのため冶金技術が低い時代であっても実用可能であった。
- ミサイルと比較すると電子機器を含む複雑な誘導装置や可動翼が必要なく、安価。
- 安価であるぶん多く配備することができ、実射訓練も比較的実施しやすい。
一方のデメリットとしては
- 初速が低く、弾体も軽く大型のため、横風に煽られやすい
- 工作精度による弾道のブレがでかい(丸めた紙くずの弾道はほぼ投手依存だが、紙飛行機の弾道は飛行機自体の形状に大きく左右されてしまう)
- 仮に無風であっても重力の影響は受けるため距離に応じた角度の調整が必要。
- 悪く言えば「追尾しない」ため、移動目標に対しては偏差射撃が必要で命中が難しい。
- 命中の有無に関わらず、ド派手な発射炎と噴射炎が目立つ。薄暮時や遠距離からでも射撃位置が露呈しやすく集中砲火を受けやすい。
- 室内や閉所からの発射、後方に壁のある環境で発射すると後方爆風で自爆するため、安全距離の確保が必要。後方確認を怠ると真後ろの味方を巻き添えにする危険性もある。(この点はミサイルも同様)
…つまり命中精度がよろしくなく、確実な命中のためには目標に接近する、射撃後は即座に退避する必要がある。
弾薬が肥大化するのも問題。砲身がないせいで火薬のエネルギーの大部分は大気中に逃げてしまい、非常にエネルギー効率が悪く、これを補うために大量の燃料が必要となってサイズが大きくなる。そのため多数の砲弾を発射する場合、発射機も含めた重量は火砲の方が小さくなる。
運用の歴史
このため火砲が開発されると西欧では廃れたが、インドではロケット弾が生き残り、のちにインドを植民地化したイギリスもコングリーヴ・ロケットとして取り入れている。19世紀の火砲の発達で再び廃れたが、第二次世界大戦で復活し、重量や反動を支えきれない航空機、歩兵用の携行火器として、もしくは火砲での実現が容易ではない長射程兵器として、幅広く運用されることになる。
今日配備されている歩兵用携行式ロケット弾(RPG-7など)の他にも、第二次世界大戦時に旧ソビエト連邦が使用した対地ロケットランチャー(カチューシャ)や、同じくドイツが対空攻撃用に使用した各種ロケット弾等が有名である。
空対地用としての運用もアリ、アメリカではHVAR、イギリスでもRP-3が猛威をふるった。HVARは朝鮮戦争でも投入されている。
他にもアメリカでは11.75インチにもなる対艦ロケット「ティニー・ティム」が大戦末期に導入されたが、いまいち使いどころに恵まれなかった。
爆雷を遠くへ投射する手段である対潜ロケットも第二次世界大戦の産物。
カチューシャ
通称「スターリンのオルガン」。
低い命中率を数で補うことになっており、発射台トラックにして十数台や数十台がまとめて発射する。
ただでさえ多い発射数が更に増え、着弾点付近はものすごいことになる。
旧ソ連は空軍の代わりに砲兵部隊が進化しており、カチューシャはその象徴的存在でもある。
空軍か砲兵か
支援される側にとってはどちらも同じである。
空軍と砲兵にはそれぞれ強みがあり、
砲兵:陣地さえ据えればいつでも支援できる事
空軍:射程(距離)に関係なく支援できる事
どちらを重視するかは各国軍の重点にもよるが、旧ソ連では軍隊の規模を生かして砲兵の整備に力を注いでいる。
大戦の反省
1950年代におけるアメリカの防空戦闘機の主武装は無誘導の空対空ロケット弾だった。これは先の大戦におけるドイツ上空で爆撃機部隊が同様の攻撃による大損害を被った反省による。ロケット弾は1発あたりの破壊力が大きく、至近弾(惜しいハズレ弾)の爆発でも撃墜されてしまったのだ。
この戦訓をもとに、アメリカ空軍は防空戦闘機の主武装をロケット弾にした。飛来するソ連の爆撃機に対する一撃必殺を期してである。AIR-2「ジーニ」という核弾頭を搭載したものも開発されたが、想定されていた第三次世界大戦は起こらず、結局そのような危惧は必要なくなってしまった。
現在のロケット弾
ミサイル技術の発展により、現在ではロケット弾を対空用兵器として使用するような事は殆ど無い。
ただし、対戦車用・空対地用・地対地用・対潜水艦用はバリバリの現役である。
アメリカの場合
先に述べた通り、より命中精度の高いミサイルが登場した為、空対空兵器としては既に使われなくなって久しい。
対地攻撃用としてヘリコプター用のロケット弾ポッドがあり、目視距離での近接航空支援でベトナム戦争以来使用され続けている。ミサイルが発達しても、安価で強力な火力を提供できる事から、多くの軍用ヘリコプターに搭載されている。ミサイルとはハイローミックスの関係にあり、戦況次第ではミサイルのみ/ロケット弾のみを搭載して出撃する事もあり得る。
そもそもヘリコプターは低空を低速で飛行する為、攻撃を受ける確率が非常に高い。また、悪天候にも弱く、荒天時には飛行性能が落ちてしまう。
被弾によって飛行不能になることを避ける為、「近接航空支援(CAS)」は比較的低空から行う場合は通常の攻撃機の方が多く用いられており、高空(高度数千)から行う場合は攻撃機に加えてマルチロール機、爆撃機などが用いられている。(正確さ・陸上部隊との連携は攻撃ヘリコプターの方が上なのだが)
なお、高空からのCASは主に誘導爆弾や対レーダーミサイル等の誘導性のあるものが用いられている。
地対地用としてはMLRSが有名。
ロケット弾とベトナム戦争
ロケット弾は「一定の範囲内を掃討する」目的では有効だが、戦闘機(攻撃機)による実戦投入はベトナム戦争が最後である。ロケット噴流が相互に干渉しあって精度に欠ける為、クラスター爆弾を投下する方が好まれたのだ。(曰く「どこに飛んでいくか判らない」とか)
一応1発ずつ発射する事も可能だが、その為には何度も目標の上空を通過せねばならず、対空砲火に身を晒す事になって危険なのだ。
FAC目的以外の実戦投入こそ無いものの、現在でもロケット弾は戦闘機/攻撃機に搭載可能な兵装のひとつとなっている。これは爆弾と共通規格で搭載できる為である。
(F-16やA-10等、アメリカ以外の国ではJAS-39、F-1、F-2、F-15CJ・DJ等)
FAC(Forward Air Control)
日本では『前線航空管制』と訳されている。
これは攻撃機を精確に誘導し、味方の地上部隊を的確に支援する為の誘導員である。
アメリカ空軍ではベトナム戦争の頃に設立され、ジャングルの密林の中で戦う味方を援護する為に活躍した。
上空からは地上の様子がジャングルに隠されて、「どこに爆弾を落とせばいいのか」がわからずに味方を誤爆してしまうケースがあったのだ。
そこで、地域の様子に慣れたパイロットが敵の位置を突き止め、別途攻撃機に敵の位置を発煙弾で知らせる役が求められた。
これが前線航空管制官である。
(現在では誘導兵器用のレーザー照準も行なう)
この目的に使われているのがロケット弾であり、弾頭には発煙弾を仕込んでいる。
これを目標付近に撃ちこみ、発煙弾の煙を基準に攻撃を行うのである。
(例:「煙から西に100m地点」など)
当初は民間の軽飛行機を転用した「セスナO-1」「セスナO-2」が配備された。
しかし、低速で脆弱なO-1やO-2では損害が大きく、専用に開発されたOV-10が投入されている。
後にA-10がこの目的に使われ、転用された機体は「OA-10」と名称が変更された。
(用途が変わっただけで、機体自体には特に改造は施されていない)
ロシアの場合
時代が進むにつれて使用頻度は下がったものの、現在でも依然として使われ続けているようで、攻撃機や攻撃ヘリコプターが多数ポッドを搭載し、一斉発射する事で地上を制圧する運用を前提としている。
大部隊が相互にぶつかり合う戦いをイメージしていたらしく、(⇒クルスクの戦い)その際の成功体験もあるようだ。
しかしながら、実戦では精度が必要とされる状況も多かったらしく、MiG-27やSu-25等の機体はそれまでの攻撃機よりも攻撃精度が改善されている。
現在では精密誘導兵器も盛んに導入されており、向上が目覚ましい。
非正規軍の場合
物資の限られるゲリラ達は対空・対地共に使用している。
多くは車両用ロケット弾発射機を使用するが、中には航空機用ロケット弾ポッドをピックアップトラック等の荷台に無理やり搭載し、テクニカル化した車両も多く見受けられる。
誘導ロケット弾
ややこしいのだが、近年では誘導装置を取り付けて精密攻撃が可能なロケット弾が登場している。
こうなるとミサイルとの区別が曖昧になるが、近年の戦闘では人に対しても対戦車ミサイルを撃たなければならず、結果無用な破壊と効率の悪さを招いてしまったという、「精密攻撃したいけどミサイルじゃ威力が過剰すぎるしコスパも悪い」場面が多々発生。そこで、威力が小さく価格も安いロケット弾を改造して誘導装置を取り付けた誘導ロケット弾が誕生したのである。
よって、最初からミサイルとして作られたのがミサイル、元がロケット弾なら誘導ロケット弾と思っていい。