概要
冷戦下において、榴弾砲よりも広範囲を面制圧できることを目的として、アメリカ陸軍がイギリス、イタリア、旧西ドイツ、フランスとの協力のもと開発した。
短時間で広範囲に圧倒的な火力を叩き込む「面制圧」を目的としており、本兵器から発射される12発の227mmロケット弾(M26ロケット弾)には弾頭に小型のクラスター爆弾を搭載している。これにより約200m×100mの範囲をまとめて制圧する。ロケット弾の発射間隔は約4.5秒で、全段発射後はコンテナを入れ替えて再び使用可能。
車両部分はM2ブラッドレー歩兵戦闘車をベースとし、車長・砲手・操縦手の3名で運用される。背面のグラスファイバー製のコンテナは強固なアルミフレームで支えられており、ロケットとミサイルを含むMFOM(MLRS Family Of Munition rockets and artillery missiles)と呼ばれる兵器群を発射できるようになっている。
多連装ロケットシステムとなっているが、MFOMの一種として一つのコンテナに一発だけ収められる大型地対地ミサイルMGM-140 ATACMSもある。
運用の結果色々と問題があることもわかってきており…
- 高い。
- デカくて重い。C-130に載せられない。
- 至近距離の目標への砲撃は不発弾が出やすくなる。
- コンテナ載せ替えに時間がかかる。
- 派手な音と煙を出すので位置がバレる。
- ロケット弾が風の影響を受けやすい。
後者3つはロケット弾を大量に発射して攻撃する以上どうしてもつきまとう問題なので仕方がないのだが、高い上にデカくて重いという問題は迅速な展開が必要な海兵隊や空挺部隊にとっては看過できない問題のため、M2ブラッドレーから軍用トラックをベース車に変えて安く軽くしたHIMARSが新たに開発され、配備されている。
なお、HIMARSでも上記のATACMSは使用可能。
日本での運用
1992年から陸上自衛隊にも配備されており、2012年時点で99両が保有する。
島国である日本がこの兵器を配備した理由について防衛省は「敵侵攻部隊による日本本土への上陸を阻止するため」と言っており、万が一上陸された場合にその上陸地点を山間部などから迎撃することを目的に配備している。
情報処理装置部は東芝が、車両部分はIHIエアロスペースでライセンス製造されており、価格は1両につき約19億円。
しかしその後、日本がクラスター弾禁止条約に署名したことで、戦力価値が低下。その後も単弾頭GPS誘導型のM31誘導ロケット弾を使用する形でしばらくは運用を続けたものの、自衛隊はMLRSの廃止を決定。MLRS配備部隊には島嶼防衛用高速滑空弾が代わりに配備される予定。
……だったのだが、令和7年度の防衛予算にて74式戦車や90式戦車ともどもモスボール保管(長期保管)の予算が要求されており、退役した一部のMLRSを長期保管状態としつつも、いざという時に戦力化できるように保管できないか考えられている。
余談
- ガンダム試作2号機の派生機にはこの兵装を背面に装備し、中距離からの面制圧を行うと言うMLRS仕様が存在する。