概要
HIMARSとは、"M142 High Mobility Artillery Rocket System"(M142 高機動ロケット砲システム)の頭文字を取った略称。アメリカ軍が運用している多連装ロケット砲システムであり、装輪式で自走できる。
技術的な基礎となったのは、M270 MLRSという12連装の自走ロケット砲である。MLRSは湾岸戦争で実績が証明された高性能車両であるものの、25トンもの車両重量があるためにC-5やC-17といった大型輸送機を用意しないと長距離輸送できない弱点があった。HIMARSは重量を14トン未満に抑えてC-130に搭載できるようにし、迅速な海外展開を可能とした新システムである。その性格上、迅速な展開が求められる海兵隊や空挺部隊、軽歩兵師団に配備されている。
HIMARSの主武装は227mmロケット弾6連装発射機である。システム面はMLRSに準じているため各種のロケット弾を発射可能であり、6連装ロケット弾発射機を対地ミサイル(ATACMS)一発や対艦ミサイルに換装して運用する事もできる。MLRSと比べると搭載弾数は半減したものの、その分軽量になった事で自走速度は84kmに向上し、生産維持費用もMLRSより安価に抑えられている。
攻撃力を維持しつつも無人化でさらに軽量化された「AML」という車両が現在開発されており、各種試験が行われている。
運用
運用実績としてはアフガニスタン戦争や対ISIL戦で活躍したほか、ウクライナ侵攻ではウクライナ政府にMLRSとともに供与されて注目を集めた。この戦場では、ロシア軍の弾薬集積所などの重要目標を攻撃し、素早く移動することで戦果を重ねている。また、より長射程のATACMSの本格的な供与が開始され、長距離攻撃が可能となった。
遠距離から射撃可能なこと、発射準備から撤収までが短時間で済み、即時移動に移ることで高い生存性を誇るなどの利点を活かしており、2024年初頭現在までに映像証拠つきで確実に撃破されたのは1ユニットのみである。
ただし、今後の再調査や時間経過により数は変動することを理解してほしい。
ロシア軍のGPSなどに対する電子妨害により、一部の誘導兵器の命中率が下がっていたが、ATACMSはGPS補正慣性誘導であるためか余り影響を受けておらず、さらにクラスター弾頭(多少の誤差は問題にならない)も使用しており、ロシアの防空システムや艦艇(船舶)などに大きな打撃を与えている。
そもそも、一応対弾道ミサイル迎撃能力を持つはずのS-300やS-400といったロシア軍防空システムが、ATACMSをあまり迎撃できておらず、巡航ミサイル(ウクライナが開発した、ネプチューンの対地型)への対応能力も疑問視されるなど、兵器の性能差も関係していると思われる。
関連動画
これがHIMARSだ - ロッキード・マーティン社 公式チャンネル(2024年7月)